インハウスデザイナーの仕事って?美術大学の学生がデザインセンターのデザイナーにインタビュー

インハウスデザイナーの仕事って?美術大学の学生が
デザインセンターのデザイナーにインタビュー

掲載日 2023年1月30日


約185人*が在籍する富士通デザインセンター。それぞれの社員が様々な業務に携わっていますが、どんなことを意識してどんなやりがいを感じているのでしょうか。また、学生時代に学んだことは仕事に役立っているのでしょうか。今回は、武蔵野美術大学の学生お2人にデザインセンターの社員にインタビューを行ってもらい、学生のフレッシュな視点で、富士通のデザイナーの仕事について掘り下げた話を聞きました。今回インタビューを受けた小池は、偶然にも同じ武蔵野美術大学出身の先輩で、終始和やかな雰囲気でインタビューは進行しました。同じ「デザイン」でも、学生時代の学ぶ対象としてのデザインと仕事としてのデザインの違いなど、学生のお二人には興味深かったようです。(*2023年1月現在)

インタビュイープロフィール

  • 中村 龍太郎さん
    武蔵野美術大学 造形学部基礎デザイン学科 3年
  • パク・ソヨンさん
    武蔵野美術大学 造形学部工芸工業デザイン学科 3年
  • 小池 峻
    富士通デザインセンター エクスペリエンスデザイン部所属。
    武蔵野美術大学を卒業後、2010年に富士通株式会社入社。以降プロダクトデザインのスキルをコアに、クリエイティブの視点で戦略開発からインターフェースの制作まで一気通貫したサポートを行う。2020年からは、デザインの外販プロジェクトをリードデザイナーとして推進。

在籍大学・学年、部署名・肩書は取材当時のものになります。


スマホのユーザーインタフェースは、見た目だけでなく使うときの五感も意識してデザイン

小池: 今日はお越しいただきありがとうございます。おふたりは大学では何を専攻しているんですか?

中村さん(以下、敬称略): 基礎デザイン学科に在籍しています。基礎デザイン学科は、広い分野を学ぶ点では楽しいのですが、逆に何も深く学べていないのではという焦りもあります。

パクさん(以下、敬称略): とにかく絵が好きで、絵が描きたいと美術大学を目指しました。また科学や物理も好きなので、そういった美しさを伝えたいと工芸工業デザイン学科に入学しました。今日はよろしくお願いします。最初に、富士通デザインセンターについて教えてください。

左:パク・ソヨンさん 右:中村龍太郎さん

小池: デザインセンターには大きく分けて4つの部門があります。社内の各事業部門の変革を実践するビジネスデザイン部、お客様との共創・共感を生むDX提案などを行うフロントデザイン部、社内のデザイン経営を加速させる経営デザイン部、私が所属するエクスペリエンスデザイン部です。エクスペリエンスデザイン部では、パソコンやスマートフォン、ATMなどのハードウェアデザインや、ユーザーインターフェース(UI)デザインを行っています。また2020年からお客様向けのデザインサービスを行っており、古河電気工業様積水化学工業様の事例があります。

中村: 小池さんはシニア向けのスマートフォンのプロジェクトに携わったそうですが、デザインするうえで心掛けたことはありますか?

小池: 使い勝手の工夫がたくさんあります。例えばハードウェアでは、サイドキーは指の届きやすい位置にレイアウトされています。またアウトカメラは筐体のセンターにあることで、直感的に撮影しやすくなっています。

パク: 指の届きやすさは、実際にいろんな人に触ってもらって確認するのですか。

小池: そうです。手の大きさもそれぞれなので、多くのシニアユーザーの方に触っていただき、使いや
すい本体形状やキーレイアウトを決めていきました。また、高齢者向けの色補正も行っています。その
ほか押したときの触感、音など、ユーザーが使うときの五感を意識してデザインしています。



デザイナーには、ユーザーの代弁者としての役割も

パク: 小池さんはどのような学生時代をお過ごしになったのでしょうか。

小池: 私は立体づくりに興味があり、インダストリアルデザインを専攻していました。大学ではデザインだけでなくアートや工芸の領域も選択し、実習しました。今思うと貴重な経験でしたね。デザインセンターには、理工系の学部でデザインを学んだ人が多いです。理工系には理工系の強みがあると思いますが、美大では何百枚もデッサンを描いたり、生きているヤギをモチーフに彫刻を作ったり、陶芸や金属工芸をする経験ができました。これは、大きな強みだと思います。様々な素材を扱ったり、粘り強くディテールを整えたりした経験は、実際の仕事にも役立っています。

富士通 デザインセンタ― 小池

パク: 学校の課題ではペルソナを自分で設定しますが、仕事の場合は設定されたペルソナに従ってデザインするのですか?

小池: 両方のパターンがあります。私が以前担当したAndroidタブレットのように、企画の部署から「40~50代の男女向けの製品」と商品戦略が提示されるあることもありますし、数年後の未来を見据えて「ペルソナから造形まで、デザイナーが考える理想形」をデザインすることもあります。

中村: 私の在籍する基礎デザイン学科では、「ユーザー視点・思考」よりも先にある「人の視点・思考」を多く学んでいます。小池さんは、ユーザー視点についてどんなマインドでデザインされるのですか?

小池: 例えばこれが先ほどお話したAndroidタブレットです。約10万台販売されました。

約10万台販売されたAndroidタブレット

小池: 特徴は持ち運ぶことに加え、立て掛けて「置く機能」をつけた点です。家でフルセグのテレビを視聴したり、台所でレシピを見たりするシーンを想定しています。 ディテールとしては、グリップエッジ(ゴム足)を付与し、立てかけやすい断面形状を吟味しました。このように、ターゲット層にどう使われるかを想像しながら開発していきます。もちろん製品ですから、美観や使い勝手だけでなくコストや納期も重要です。デザイナーはユーザーの代弁者として、「多少コストが上がっても、こちらの方が品質が高い」などと進言する立場でもあります。

パク: ユーザーの代弁者として進言するとおっしゃいましたが、デザインにあまり関心のない方に説明するときは、何に気を付けていますか?

小池: そういう機会はとても増えており、受け手の物差しで測れるように示すことが大切です。大学までは、デザインは「見て理解する」ものでしたが、社会人になってからは、とにかく丁寧に説明することを心掛けています。「なぜこのデザインなのか」と聞かれる機会も多く、デザインを言語化するようにしています。例えば、丸いデザインであれば「安心感を与えるため」といった具合です。

中村: 確かに学校の課題と違って、デザインに興味があり言葉で説明しなくても意図を読み取ってくれるハイコンテクストな人だけがデザインを評価するわけではありませんよね。

小池: デザイナーはハイコンテクスト、言い換えるとマニアックな人間とも言えるかもしれません。ですからこだわりは持ちつつ、適度な落としどころを見つけることが大事だと思います。味覚に例えると、デザイナーは「味が薄いけれど、とても出汁が効いてる味」をおいしいと薦めがちですが、人によっては味がしないと感じます。ソースやマヨネーズは万人が理解できる味ですが大味になりがちなので、その間の良い塩梅を見つける感じでしょうか。

パク: 学生時代とはプロジェクトの進め方も違うのでしょうか?

小池: デザインプロセスは、リサーチ、コンセプトメイク、具体化の順序で進め、学生時代と変わりません。大きく違うのは、チームワークで進める点です。学生時代はクラスメートとだけチームを組みますが、例えるなら立場の違う教授や後輩とチームを組むように、お客様、上司、後輩ともチームを組んで作業を行います。またメンバーの足並みをそろえるため、時間にシビアに進行する点は違うと思います。

中村: チーム作りで留意されている点はありますか?

小池: 私は「ぶっちゃけ」で会話できる関係が理想だと思っています。プロジェクトメンバーにはそれぞれの立場があり、時にはネガティブな意見が出ることもあります。しかし、それらを否定せずに一旦受け止めることで、本音を言える関係を作ることを意識しています。

小池がデザインしたプロダクトを実際に手に取りながら説明


インハウスデザイナーにはコンサバティブな感覚も必要

パク: アイディアの着想を得るために日常的に何か意識していますか?

小池: 日々感じる違和感は大切にしています。違和感を覚えたら、「なぜだろう」「こうだと面白いのに」と考えてみると良いかもしれません。また、先ほどのタブレットなどでは、多くのお客様に受け入れられるデザインが求められるため、それを実現するコンサバティブな感覚も重要です。自分がそれに染まる必要はありませんが、平均的な価値観に感覚をチューニングできることが重要でしょう。

パク: やはり多くのお客様が手に取る製品をデザインすることは、仕事のやりがいにつながりますか?

小池: 最近、企業のインハウスデザイナーの醍醐味は、仕事のスケールの大きさだと実感しています。例えば自分のデザインした業務端末が全国のコンビニや空港で使われていたり、携帯ショップに自分が携わったスマホのポスターが大きく貼られていたりするのを見ると、やはり嬉しいですしやりがいを感じます。

中村: スケールの大きさは製品デザインならではで、芸術としての立体造形とは違いますね。

小池: そうですね。アートや工芸は、基本的には手作りですし多くの人の手に渡るものではありません。企業でデザインすると、何万台も生産され全国、さらには世界にまでユーザーの裾野が広がる可能性があるのが醍醐味です。また最近は、デザイナーのいない企業にデザインの提案をするサービスを行っていますが、これまでデザインにあまり触れてこなかったお客様から、「デザインの力はすごい」と言っていただけるのも嬉しいですね。

中村: デザイン提案をされている事例を拝読しましたが、デザインコンサルティングのような仕事でしょうか?

小池: そうですね。富士通内で培ったデザインのノウハウをお客様へ提供しています。電子部品など製造業の川上のメーカーでは、エンジニアの方が「100を101、102にする」ような改良をコツコツと続けて来られているケースも多いと聞きますが、例えば積水化学様との共創プロジェクトでは、デザイン思考で「0から1を生み出す」体験をしていただきました。これまで経験してこなかったアプローチで、「新鮮だった」「メンバーの発想が豊かになった」と評価していただきました。



進路に悩んだら、自分について他人に聞いてみるのも一考

パク: 私たちのようにデザインを学んでいる学生に対して、アドバイスをいただけますか?

小池: 自分の「得意」や「好き」を見つけられると良いですね。迷うときは色々なことにチャレンジしたり、友達や家族に「私は何に向いていると思う?」と聞いたりするのもおすすめです。また、デザイン業界はとても狭いので、社会に出てから大学や就活で知り合った人とまた出会うことがよくあります。今の人間関係を大切にしてください。 最後に、富士通デザインセンターは、一つのことを深く極めるだけでなく、ハードウェアデザイン、UX、UIなど様々な分野に興味のある人が向いていると思います。「IT」と「デザイン」、どちらも移り変わりが激しい領域であるため、若い人の感覚を活かして活躍しやすい職場です。夏と冬に短期インターンシップを実施していますのでぜひ検討してみてください 。

中村: 将来の進路は、広告系かメーカー系を考えていましたが、今日、小池さんのお話を伺って改めてインハウスデザイナーの仕事の魅力を知ることができました。さらに勉強を続けながら、進路について考えていきます。

パク: 研究者、エンジニアと近い距離でものを作ってみたいという希望があるので、インハウスデザイナーの生のお話が聞けてとても参考になりました。今日はありがとうございました。

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