小池: 特徴は持ち運ぶことに加え、立て掛けて「置く機能」をつけた点です。家でフルセグのテレビを視聴したり、台所でレシピを見たりするシーンを想定しています。 ディテールとしては、グリップエッジ(ゴム足)を付与し、立てかけやすい断面形状を吟味しました。このように、ターゲット層にどう使われるかを想像しながら開発していきます。もちろん製品ですから、美観や使い勝手だけでなくコストや納期も重要です。デザイナーはユーザーの代弁者として、「多少コストが上がっても、こちらの方が品質が高い」などと進言する立場でもあります。
パク: ユーザーの代弁者として進言するとおっしゃいましたが、デザインにあまり関心のない方に説明するときは、何に気を付けていますか?
小池: そういう機会はとても増えており、受け手の物差しで測れるように示すことが大切です。大学までは、デザインは「見て理解する」ものでしたが、社会人になってからは、とにかく丁寧に説明することを心掛けています。「なぜこのデザインなのか」と聞かれる機会も多く、デザインを言語化するようにしています。例えば、丸いデザインであれば「安心感を与えるため」といった具合です。
中村: 確かに学校の課題と違って、デザインに興味があり言葉で説明しなくても意図を読み取ってくれるハイコンテクストな人だけがデザインを評価するわけではありませんよね。
小池: デザイナーはハイコンテクスト、言い換えるとマニアックな人間とも言えるかもしれません。ですからこだわりは持ちつつ、適度な落としどころを見つけることが大事だと思います。味覚に例えると、デザイナーは「味が薄いけれど、とても出汁が効いてる味」をおいしいと薦めがちですが、人によっては味がしないと感じます。ソースやマヨネーズは万人が理解できる味ですが大味になりがちなので、その間の良い塩梅を見つける感じでしょうか。
パク: 学生時代とはプロジェクトの進め方も違うのでしょうか?
小池: デザインプロセスは、リサーチ、コンセプトメイク、具体化の順序で進め、学生時代と変わりません。大きく違うのは、チームワークで進める点です。学生時代はクラスメートとだけチームを組みますが、例えるなら立場の違う教授や後輩とチームを組むように、お客様、上司、後輩ともチームを組んで作業を行います。またメンバーの足並みをそろえるため、時間にシビアに進行する点は違うと思います。
中村: チーム作りで留意されている点はありますか?
小池: 私は「ぶっちゃけ」で会話できる関係が理想だと思っています。プロジェクトメンバーにはそれぞれの立場があり、時にはネガティブな意見が出ることもあります。しかし、それらを否定せずに一旦受け止めることで、本音を言える関係を作ることを意識しています。