未来を「リ・デザイン」し、ありたい姿を実装し続ける 新型コロナウイルスに挑む「つくれるコンサル」チームの強みとは【後編】

未来を「リ・デザイン」し、ありたい姿を実装し続ける
新型コロナウイルスに挑む「つくれるコンサル」チームの強みとは【後編】



掲載日 2022年1月31日

「私たちは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていきます。」
2021年に富士通が発表したこのパーパスでは、私たち富士通の企業活動は経済的な成功に加え、社会の幸福の増大に貢献すべきだと述べられています。
ともすれば相反する概念として語られる「ビジネス」と「社会の幸福」。しかし、富士通のソーシャルデザイン事業本部デジタルタッチポイント事業部の生川 慎二氏は10年以上前から「ビジネスと社会課題の両立」に取り組んできました。

その生川が2020年3月に立ち上げた「新型コロナウイルス感染症対策チーム」では、健康観察チャット「N-CHAT」をはじめ国や自治体に新型コロナ対策のソリューションを提案し、現場の課題解決に大きく貢献してきました。「N-CHAT」は、2020年初頭の長崎クルーズ船内クラスター対応において、状況把握の的確さと疾病災害の抱える複合的な課題への対策が評価され、2021年グッドデザイン賞を受賞しました。また、各種メディアでの露出、多数の自治体での採用など、大きな実績を残しています。

後編では、「N-CHAT」の開発・運用のスピード感はどこから生まれるのか、そしてプロジェクトにおいてデザイナーが果たした役割についてご紹介します。

後編のポイント

  • 初動の早さと「つくれるコンサル」ならではの対応力で迅速にサービスをリリース。
  • デザイナーとの連携が、プロジェクトの突破力を高めた。
  • 未知のモデルを生み出すには、「デザイン思考」に基づき「実践」を重ねることが大切。


インタビュイープロフィール

  • 生川 慎二:ソーシャルデザイン事業本部 デジタルタッチポイント事業部 第2ソリューション部
  • 「つくれるコンサル」チームメンバー
    ソーシャルデザイン事業本部 デジタルタッチポイント事業部 第2ソリューション部:黒瀬 雄三、松山 博至、菱田 貴史、高木 朝加
    デザインセンター ビジネスデザイン部:小黒 興太郎、小田 彩花


アジャイルで駆け抜けた「新型コロナウイルス感染症対策チーム」

国内感染者数がまだ100人未満だった頃、2020年3月5日、生川をリーダーとした「新型コロナウイルス感染症対策チーム」が正式に発足しました。
しかし実は、2月の時点で積極的疫学調査のモックアップを厚生労働省に提示し、大臣および同省の感染症対策本部クラスター対策班の専門家から有用性を評価されていました。そしてこのモックアップの提示は、専門家からのリクエストを受けてから、わずか21時間後のこと。驚くべき早さです。

この初動の早さは、2009年の新型インフルエンザ流行時の経験に基づくものです。当時の知見を基に、2020年1月、新たな感染症である国内初の新型コロナウイルス感染例が確認された後すぐに、パンデミックになったケースのシミュレーションを実施しています。そして、2月に感染症専門家からのリクエストを受けるとすぐにモックアップを制作しました。

3月に正式に対策チームを立ち上げてからは、刻々と変化する感染状況や、それに対応する国や自治体の方針をキャッチアップし続け、汎用性と強靭性を併せ持つシステムの構築に注力。システムに現場の課題を反映し続け、リリース後2週間で25回のバージョンアップを行いました。

システムの構築の様子バージョンアップを繰り返しおこなったシステム構築の様子

「つくれるコンサル」チームメンバーのひとりである松山 博至氏は、当時をこう振り返ります。「コンセプトの一つが、ノンプログラマーでも組めるシステムにすること。この挑戦に最初はたじろぎましたが、ノンプログラマーが簡単に扱え、他の重要なタスクに注力できるこのシステムは非常に良かったと思っています。また、いい成果物を作り上げるには、ユーザーからフィードバックを受けながら高速で回していく以外に道はないと再認識しました」(松山)。

つくれるコンサルチームが手掛けた様々な健康観察プロジェクト
プロジェクトポイントバージョンアップの回数
長崎クルーズ共同生活25回/2週間
N-CHAT共同生活・介護・アスリート40回/4か月
検疫所軽症者外国人対応15回/2か月
病床モニタリング20回/1か月
濃厚接触者管理30回/3か月
新型コロナに対応した各種ソリューション 変わりゆく状況に対応するため、多頻度&高速で機能強化が繰り返された

4月に長崎県に停泊中のクルーズ船における集団感染が発生し、厚労省クラスター班の専門医からの要請からわずか7時間で英語版のサービスを提供、36ケ国623人の健康観察を迅速に行い集団感染抑止及び収束に向けた健康観察に貢献しました。現場での柔軟な運用に対応するため1週間で20回のバージョンアップを行っています。

このように、国や自治体からのSOSに素早く対応して期待に応えるのは、「社会課題解決」だけではなく「ビジネス」上でも意義があるからです。
「緊急時こそ、新しいモデルが創造される瞬間であり、デジタルイノベーションに躊躇や効果に不安を感じている慎重派に対しても一気に認知と受益効果をアピールできる機会です。」(生川)
予想もしなかった事態こそ、従来業務プロセスや仕組みが破壊される瞬間であり、先行実践例を横展開できる絶好の機会だと生川は考えています。



初見で心を掴むデザインの力

「新型コロナウイルス感染症対策チーム」には、富士通デザインセンターの小田と小黒の2人が参加しています。
「年次や立場に関係なく、それぞれのスキルを活かしながら全力投球できるフラットなチームなので、とてもやりやすかったですし、一体感がありました。何より、デザイン思考において大切な高速のトライ&エラーを皆が実践していて、素敵な部隊だと感じました」(小田)。

「生川さんのストーリー作りの上手さに感服しました。サービスの将来性を相手に感じてもらったり、この人と一緒にやっていきたいと思わせたりすることができる。想いを言葉にできる力がなせる業なのかなと思います。また、生川さん語録では『give, give, giveの後にtakeする』という言葉が特に好きです。ビジネスとしての展開を見通す戦略的な部分と、社会課題解決へのパッションの両方が表れたフレーズだと思います」(小黒)。

健康観察チャットと、ワクチン接種予約サービスVーチャットのデザイン

また、デザイナーの手腕を、生川はこう評します。

「サービスの利用者と稟議を書く人の両方の視点を持って、しかるべきUI/UXをアウトプットできる能力はかけがえのないもの。私も多少絵は描きますが、デザイナーが手がけたものは、目にした瞬間のトキメキ度合いが違います。スピードの源泉ですね」(生川)。

デザイナーが持つ高い表現力に加え、目の前の社会課題に対するアプローチや戦略がチームで共有できているからこそ、突破力を生むアウトプットに結実しているのです。



「あるべき姿」を目指して、社会をリ・デザインし続ける

ソーシャルデザイン事業本部 生川

目下、つくれるコンサルチームは、新型コロナワクチン接種普及後の社会デザインに取り組んでいます。地域の段階的行動制限解除に合わせて、地域振興や日常生活を取り戻すため、新型コロナワクチンの接種証明を活用した地域振興の新しいモデルを、自治体や感染症専門医と一緒に国内最速で実践しています。新型コロナの影響を受けた商工会や観光協会は多く、既に多方面から多くの関心が寄せられています。また、行政窓口や日常生活でもニーズが高まる「非対面でのサービスや接客」のモデル開発にも取り組んでいます。

「ソリューションだけでなく、新しい社会や、新たな職種、新たな経済循環のモデルを実現する上で、デザイン思考のアプローチが不可欠だと確信しています。
少し先の未来を見ながらありたい姿を発想する、いきなり完成品にはたどり着けないからこそ、デザイン思考を活用してバージョンアップを図っていく。そういったやり方でないと、未知のモデルの前に立ちはだかる障壁を突破するのは不可能です。実践あるのみ。理論は後からついてきます」(生川)。

常に3か月先を考える。生川の残してきた結果と評価が「あるべき姿」をスタートに「つくっていく」ことの正しさを証明しています。「ビジネスで社会課題解決」に挑む生川は、今日も「どうしたらできるか」を問い続けています。

  • 生川への取材は、2021年6月に実施したものです。取材関係者に関しては、取材前14日間における新型コロナウイルス感染症発生国への渡航歴、また、咳、くしゃみ、鼻水、発熱などの症状がないことを確認した上で、消毒や換気など新型コロナウイルス感染症の拡大防止に最大限配慮して行いました。また、チームメンバーへの取材はオンラインで行いました。


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