データの統合・活用で新たな価値を生む、データドリブンマーケティングとは

膨大なデータが日々発生している現在、企業が収集できるデータは多様化しています。企業が顧客との関係性をより深化させるためには、業務データを含めた多様なデータを統合・分析し、有効活用することが必要不可欠です。また、データを活用したマーケティング施策の実行はますます高度化しており、AI(人工知能)の活用も視野に入れる必要があります。このような状況で、どのようにデータドリブンなデジタルマーケティングを進めて行けばいいのでしょうか――。富士通では、2019年12月に「企業のデータ統合が新たな価値を生む これからのデジタルマーケティングについて 理想のCX実現!AIを活用したデータドリブンマーケティング」セミナーを開催。同講演における、JTB様、オプテージ様と富士通の3社の実践事例からそのヒントをご紹介します。
【宣伝会議セミナーレポート】

デジタルマーケティングにおけるパーソナルデータの重要性

「データは21世紀のオイル」――、2011年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で公表されたこの言葉は、21世紀の産業をけん引するのが「データ」であることを明示しています。また、2019年1月に開催された同会議では、安部首相が談話の中で「Data Free Flow with Trust.」について言及し、信頼に基づく自由なデータ流通の実現を目指すことを掲げました。さらに同年6月のG20(20か国・地域首脳会議)大阪サミットでは、データ主導型の経済がさらに進展・拡大する中にあって、国境を越えたデータ流通や電子商取引における国際的なルール作りを宣言する「大阪トラック」が採択されました。

データが社会や産業を変革するという「データドリブン(駆動型)社会」が到来しつつある現在、データは企業における競争力の源泉となります。ただ、そのデータをただ保有しているだけでは価値を生み出すことはありません。富士通 シニアエバンジェリストの西本 伸一は、「今後、データの囲い込みが本格化し、その結果、価値のあるデータは分散し、新たな連携、融合が進展していくと考えられます」との認識を示しました。

特にパーソナルデータは、デジタルマーケティングで必要不可欠な要素となり、顧客との関係性をより深化させるためには、これまでのWebマーケティングで活用してきたデータに加え、CRM(顧客関係管理)システムなどのデータを統合して分析し、活用することも求められるようになります。

その一方で、部署や施策、ツールごとに顧客データが分散してしまうケースも散見され、「デジタルマーケティングというが、どこから、何から始めればいいのかが分からない」という企業の担当者も多くいます。今後、多様化する顧客データを収集、蓄積して統合的に管理、活用できる基盤をいかに構築できるかがカギを握ることになります。

富士通
シニアエバンジェリスト
西本 伸一

JTB様が挑戦する「データドリブン戦略」とは?

国内大手の旅行会社JTB様は、データドリブン戦略を掲げ、CX(Customer Experience:顧客体験)向上に取り組んでいます。同社は2018年4月、データドリブン戦略の要となる社内横断的な組織「データサイエンスセントラル」を立ち上げました。

同組織を指揮する、Web販売部 戦略担当部長 データサイエンスセントラル統括 福田 晃仁氏は「コミュニケーション改善による売り上げ寄与と、顧客構造を明らかにすること」が重要だと強調し、その取り組みを語りました。

データサイエンスセントラルは、データの統合基盤となるプライベートDMP(Data Management Platform)チームと、顧客分析チーム、マーケティングアクションチームで構成されています。顧客分析チームでは、顧客データをIDで集約して統合的に管理し、顧客分析につなげ、分析から得た知見をもとにマーケティング施策を実施。そのフィードバックを再び、データ基盤に反映させています。このサイクルを回し続けることで真価が発揮されるのです。

データサイエンスセントラルの組織概念図

その中でも顧客分析を重視し、統計解析による「量」的分析に加えて、お客様の行動特性を捉えたコンテクストの洞察による「質」的分析を行っています。
量的分析では、アルゴリズムを用いてノード(決定木)分析やリピート分析などを実施し、マーケティングアクションのパフォーマンス向上につなげています。

一方、質的分析では、お客様の行動データを踏まえた行動特性に基づき、お客様が旅行へ出かける理由や動機などの文脈(コンテクスト)をひもとき、その特徴を捉えた新たなセグメントを切ることで特徴別のコミュニケーションを実践しています。こういった新たなセグメントを発見することで、その対象に合わせたコミュニケーションプランを行い、最適なマーケティング施策を実現することを目指しています。

顧客データの分析の基盤となるのが、プライベートDMPです。一部店舗での販売データやグループ全体のデータ、外部データ、Web上での顧客行動のログデータを蓄積しており、統合したデータを基に顧客の購買動機や旅行目的の分析に活用しています。また、単なるツールではなく、バックアップ基盤や統計解析アプリケーション、MAツールとも連携するエコシステムを形成している点が特徴です。

今後は、顧客データを得るチャネルを拡大し、収集するデータ量をさらに増やして量的解析とあわせて質的解析を実施し、顧客構造とコンテクストをより詳細に解明していきます。

JTB Web販売部
戦略担当部長
データサイエンスセントラル統括
福田 晃仁氏

顧客起点マーケティングのためのデータ基盤の構築と活用法

関西地域を中心としたFTTHやエネルギーサービス、全国規模のモバイル事業やソリューション事業を展開するオプテージ様は、光回線インターネット接続サービス「eo」のデジタルマーケティング戦略を強化するため、データ基盤を構築し、各種施策を展開しています。

同社のコンシューマ事業推進本部 コンシューマ事業戦略部 マーケティング推進チーム チームマネージャー梅本 潤氏は「市場環境の変化に対応するため、通信速度や価格以外での新たな価値づくりが求められています」と語り、そのための取り組みを説明しました。

eoが「お客様にとって、どのような存在になりたいか」について社内で共通認識を持ち、行動していくには、eoサービスのブランドビジョンやガイドラインの策定が必要でした。そして、ブランドビジョンの実現に向け、CX向上を図る各種プロジェクトを立ち上げ、それらの施策を支える、顧客理解のためのデータ基盤を構築しました。

しかし、データ基盤の構築にはいくつかの課題がありました。例えば、契約から利用開始までの顧客接点が濃い反面、サービス継続利用時の接点が薄いことです。そのため、データ基盤構築で価値を生み出せるか確信が持ちにくい状況でした。

オプテージ
コンシューマ事業推進本部
コンシューマ事業戦略部
マーケティング推進チーム
チームマネージャー
梅本 潤氏

eo(FTTH事業)におけるお客さまとの接点の特徴とは

そこで、プロジェクトの進め方やポイントを整理。プロジェクトでよく起きる問題を洗い出し、その背景や要因を探り、具体的な解決策を策定し、まずはスモールスタートで実践することにしました。具体的には、PoC(概念実証)の実施により、活用イメージや効果を検証しながらアジャイル手法でデータ基盤を構築しました。

データ基盤構築への課題とは

その過程で、顧客一人ひとりを深く理解し、最良な体験を提供できる施策に深化させるために「カスタマーXDP(Customer eXperience Design Platform)」の構築にも取り組みました。顧客の家族一人ひとりの実像を分析・類推した情報が管理されています。このカスタマーXDPによって、事業収益の向上というビジネス目的を達成する顧客起点のマーケティング施策実施の実現を目指したのです。

さらに、カスタマーXDPで蓄積したマーケティングデータを活用するためにMAを、マーケティング施策の効果を把握するためにBIツールなどを拡充しました。また、基盤構築と併せて、カスタマーXDP導入の目的・意義を社内に向けて分かりやすく説明する機会を設け、社内で共有するための浸透活動も実施しました。

データ基盤の構築後は、行動属性や購入の検討段階に応じたタイムリーなアップセル活動となるシナリオマーケティングを実施。例えば、顧客ごとにバナーを出し分け、その後の反応によってメールや架電をするといったアクションをとりました。また、サービスの料金割引や機器の無料交換などが可能な特典チケットの未利用者に対し、MAを活用したメールを起点とするプッシュ型のシナリオマーケティングも実施しました。その結果、特典チケット利用者が倍増するという成果が得られました。

また、カスタマーXDPで蓄積してきたマーケティングデータはBIツールを使ってサービスの運用部門でも活用。運用部門とともにカスタマーXDPデータを基にしたプロトタイプを作成し、マイページログインやメール開封率など顧客属性に応じた絞込みを可能にすることで施策実施対象の可視化を図りました。加えて、煩雑であった解約率の改善状況を可視化することなどで、施策の予実を把握して容易なPDCAサイクルを実施できるようにもしました。

現在、顧客一人ひとりに寄り添ったサポートを実現するため、コンタクトセンターにオペレーター支援システムを導入しています。オペレーターに対してCX向上に寄与する情報を自動表示することなどで、ブランドビジョンである“感動品質”の体現に役立てているのです。

富士通との共創により顧客起点マーケティングの実現へ

理想のCXを実現する取り組みにおいて、「顧客起点」を行動のベースとする社内の意識浸透を先行させることができ、データ基盤構築と活用もスムーズに進めることができました。また、データ基盤導入ありきという考えではなく、アジャイル的に効果と活用方法を検証しながら進めることで、自社に合った“使える”データ基盤を構築できました。今後、AIを活用したさらなるCX向上にも前向きに取り組んでいく考えです。

富士通が実践するAI活用型マーケティング最新事情

新規顧客の獲得手段として、重要な役割を担うのがインターネット広告(Web広告)ですが、「運用コストが割高」「コンバージョン数が伸びない」「売り上げに直結する成果が出ない」という声も上がっています。上手く活用して成果を出せている企業は多くないのが実情です。

富士通も同様の悩みを抱えていました。そうした中で、富士通は、自社のマーケティング施策において、インターネット広告のターゲティング精度向上や予算配分の最適化、配信デバイスの最適化など様々な改善施策を実施しています。

社内実践でわかったことは、同じような改善施策を続けていては改善が頭打ちになってしまうということです。また、データ収集から広告配信までに想定以上の工数と時間がかかってしまう場合もあります。

顧客情報獲得の具体例

例えば、顧客獲得施策では、当初、富士通が持つ基幹データと分析対象として用意した100万人分のビックデータを基にデータサイエンティストが分析基盤を使ってスコアを算出し、広告を配信すべきユーザーを抽出し、実行しました。

そこに、マーケティングに特化したAI分析基盤を、膨大な数の特徴データから類似スコアを算出する見込み顧客推定に活用。3カ月間、AI分析のPDCAサイクルを回し続けた結果、急速にその精度が向上し、従来の広告運用手法と比べて約2.5倍の見込顧客情報を獲得するという成果を出しています。

また、DMPからのデータ抽出やAI連携、分析結果をDSPへ連携する個所など自動化できる範囲を洗い出し、データ収集から広告配信までを自動化する取り組みを進めました。それにより、担当者の工数を削減し、企画や施策の立案など本来業務へ工数を割くことができました。

富士通は、企業の基幹システムに蓄積された顧客データとWebサイト上のサイト訪問者の行動データを統合し、それらのデータをAI技術である「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」で機械学習させます。そこで抽出したコンバージョン率の高い顧客の行動データに類似するサイト訪問者に対して、効果的に広告を配信します。

また、マーケティングに特化したAIコンテナ分析基盤を保有しています。この分析基盤は、富士通のデータサイエンティストが継続的に強化したもので、200を超える分析プロジェクトから分析ノウハウや知識、手法を体系化しています。

富士通は「お客様とともに」伴走型でプロジェクトを支援する

企業がデータドリブンなデジタルマーケティングを成功させるには、マーケティング部門と情報システム部門の両部門の連携が不可欠です。ところが、マーケティング部門と情報システム部門との間で、うまく連携がとれているケースはそれほど多くないのが実情です。

その点、富士通は、基幹システムの開発・運用を得意分野とし、グローバル規模で企業のICT活用を長年支援してきた実績・ノウハウがあります。また、ビッグデータ分析や業務コンサルティングなどを手掛ける部隊も社内やグループ企業にそろっています。さらに、デジタルマーケティングの社内実践を踏まえ、AIを活用したインターネット広告配信などもご提供できます。

単純にツールを提供するのではなく、上流のコンサルティングから実行することで、部署間の橋渡しをすることができます。カスタマージャーニーを一緒に作り上げ、それを実現するツールの選定やシステムの構築に至るまですべての工程を支援可能です。既存のICT企業や広告代理店では提供できないソリューションを、一気通貫でご提供でき、お客様と一緒に伴走型でプロジェクトをご支援いたします。

今後、データドリブンなデジタルマーケティングはさらに活性化することが予想されます。富士通では、様々な経験やノウハウをお客様のプロジェクトに生かすことができます。第一歩を踏み出すことにためらっているお客様は、ぜひ富士通にご相談ください。

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