協業事例インタビュー
ソナス株式会社
富士通アクセラレータプログラムでの共創の取り組みを、座談会形式でご紹介します。今回は、「省電力、高速、時刻同期、多数接続」といった特徴を同時に実現した、無線通信技術を提供・開発している、「ソナス株式会社」さんです。
来る、5G時代。あらゆるモノがインターネットに接続するIoT(Internet of Things)はますます存在感が大きくなると想定されます。その時代に鍵となるのが無線通信技術です。
FUJITSU ACCELERATOR第6期ピッチコンテストで優秀賞を獲得したソナス株式会社(以下、ソナス)は、東京大学で省電力無線センサネットワークを研究してきたメンバーが中心となって立ち上げたスタートアップ。
ソナスが開発する無線通信技術 「UNISONet」は、「同時送信フラッディング」という独自技術によって、これまでの無線通信では難しかった「省電力、高速、時刻同期、多数接続」といった特徴を同時に実現しています。同社の技術は損傷が激しい軍艦島の建設物での振動モニタリングなど、多くの場所で利用されてきた実績があります。
ソナスはFUJITSU ACCELERATORを経て、現在、富士通との協業プロジェクトを進めています。なぜ、ソナスはFUJITSU ACCELERATORに参加することを決めたのか。参加してみての感想、そしてスタートアップと大企業が提携する際のリアルとは?
今回、ソナス株式会社代表取締役の大原壮太郎氏と、ソナスとの協業を進める富士通株式会社ネットワークサービス事業本部の黒瀬義敏氏(現職:株式会社トランストロン情報サービス開発部 )に当時のことを振り返ってもらいました。
本当に「協業」できるオープンイノベーションプログラムは、多くない
なぜ、ソナスさんはFUJITSU ACCELERATORに応募されたのでしょうか?
大原
実は、これまで事業会社のオープンイノベーションプログラムを受けたことはありませんでした。その中でFUJITSU ACCELERATORにエントリーしたのは、実際に富士通さんとスタートアップが協業を行っている実績があったからです。
近年はオープンイノベーションを前提にしたピッチコンテストがたくさん開催されていますが、ピッチコンテストをやって終わり、という例も少なくありません。
黒瀬
実は、ソナスさんには私からもエントリーのお声がけをしました。私はスタジアムのソリューションを手がけており、観客の多くがスマートフォンを扱うスタジアムでは電波の混線が課題の一つでした。顧客体験を高めるためにより良い無線通信技術を探していた中で、「尖った会社がある」と紹介いただいたのがソナスさんでした。
大原
ありがたいお話です。結果、私たちはピッチコンテストで優秀賞を獲得することができました。その後、富士通内の5つの部署からお声かけいただき、最終的にはFUJITSU ACCELERATOR事務局のコーディネートのもと、協業する部署を選びました。
本業でも、「富士通に評価された企業」として注目されることも増えましたね。そして何より、メンバーの自信にも大きくつながっています。
黒瀬
ソナスさんは技術力に強みがある会社なので、まずは一緒にソナスさんの通信モジュールを使った新しいインフラを設計するところから始めています。土台を構築したうえで、様々シーンでのソリューションを検討していくつもりです。
協業前提のプログラムだから実現できた、徹底した技術検証
FUJITSU ACCELERATORの中で、最も意義深かったのはどのような点でしょうか。
大原
アクセラレータプログラム期間中に行なった、技術検証ですね。きちんとした検証は、大きく勝負する前には必要不可欠。いまのソナスにとって大切な作業です。無線に関する高い技術力を持っている富士通さんは、見方によっては競合企業にもなりえます。そんな方々にハイレベルな検証を行ってもらえる機会は、滅多にありません。
黒瀬
そもそもソナスさんの技術をきちんと把握しなければ、どのような形で協業できるのかすらわかりません。具体的なソリューションの内容を考えるのは、その次だと判断しました。
技術検証では、全社に数個しかない検査機械をほかの部署から借りました。重要なファーストステップだったため、社内を駆け回り、あらゆる社内アセットを活用しました。
大原
検討を重ねる中でいただいた質問は、とてもハイレベルでした。途中、僕ひとりだけでは正確な受け答えができず、CTOなどの技術メンバーに助けてもらう機会がありました。打合せの場で、自分が答えられない質問をもらったのは初めての経験です。
黒瀬
協業検討の中で、専門的な技術についての議論が交わされるのは珍しいですね。弊社の事業部がここまで協力的だったのは、ソナスさんの技術力が素晴らしかったから。ソナスさんのプロダクトのご説明を聞いた富士通社員は、みんな目を輝かせながら今後の構想を語り合っています。
技術検証のコストは、富士通が負担したのでしょうか。
黒瀬
はい。内部で予算を確保し、ソナスさんと取引契約を結んで、専用の銀行口座をつくりました。モジュールのカスタマイズ費用などを富士通で負担することで、ソナスさんに負担をかけないことを意識しました。
不測の事態への備えという意味でも、銀行口座は必要です。厳しい言い方ですが、オープンイノベーションとして協力関係を結んだ以上、頼んだ仕事はやり遂げてもらわなければなりません。そのために富士通がそれなりの費用を負担するのは、当たり前です。
スピード感の違いは、長期的なビジョンの共有でカバー
逆に、協業検討期間中に一緒に活動する中で不便だった点はありましたか?
大原
口座開設の手続きに少し時間がかかってしまい、スケジュールに遅れが出ることもありました。
黒瀬
富士通ではまず予算の審議会で資金用途の説明を行い、承認が降りることで初めて口座を開設できます。大企業の処理の都合上、対応が遅いこともあり、お待たせしてしまったのは申し訳なかったですね。
大原
プログラムの一部として、協業が決まった時点ですぐに口座を開設することを取り決めておくといいかもしれませんね。少額でもすぐに使えるお金があれば、とてもありがたいです。
黒瀬さんは反省点などありますか?
黒瀬
事務処理など小さなすれ違いは多かったかもしれないですね。今から振り返れば、協業検討期間の4カ月間での議論が少し足りなかったかもしれません。とはいえ、ビジョンの共有はしっかりできていたので、あまり心配していませんでした。
変化が激しい業界で、規模も大きく異なる大企業とスタートアップが目線を揃えるのは簡単ではありません。だからこそ、早いうちから長期的なビジョンを共有すべきだと思います。確かな信頼関係さえ築けていれば、多少のすれ違いは乗り越えることができるはずです。
短期的な成功に目を奪われず、未来のことを考える
今後はどのような事業戦略をとるのでしょうか?
大原
UNISONetをグローバル展開して、多くの方々に使っていただくのが最大の目標です。直近ではパートナー会の開催や、冬頃にはアメリカと中国でのトライアルのマーケティングを予定しています。
市場拡大のためにも、大きなモジュールメーカーや商社と提携して早いうちに生産コストを削減したいです。モジュールメーカーや商社を内部に抱えている富士通さんと提携できれば、無線モジュールの品質はそのままで価格を1/3にすることも夢ではありません。
黒瀬
私個人としては、富士通ブランドで新製品を出させてもらいたいくらいです(笑)。それが叶わなくても、認定されたパートナー様の製品として使わせていただき、富士通のソリューションの中に組み込んでいきたいですね。
最後に、オープンイノベーションに大事な要素とは何なのでしょうか。
大原
繰り返しになりますが、協業が上手くいっているのは地道な技術検証を大事にしたからだと思います。昨今のオープンイノベーションは、直近の小さな成功事例ばかりに気を取られてしまうことも少なくありません。短期的な成功ばかりを目指してしまうと、一つの成果を実現しただけで満足して、協業関係が終わってしまう恐れがあります。
黒瀬
FUJITSU ACCELERATORの真髄は、未来に向けて長期的なタッグを組むことです。利益を上げていない段階から、将来のために何をすべきか考えることこそが重要ではないでしょうか。
とはいえ、私たちも道半ば。お金を払ってくれるユーザーを創出してお互いに利益をあげなければ、協業に成功したとは言えないですからね。
ありがとうございました。
(執筆:新國 翔大 撮影:齋藤 顕)
ソナス株式会社
ソナスという社名は「礎を成す」という言葉に由来しています。ソナス株式会社は、ユーザーを魅了するテクノロジーを時代を超えて提供し続け、人々の生活を支える「未来の当たり前」を創ることを目指しています。
〒113-0033 東京都文京区本郷5-24-2 グレースイマスビル6F
URL:https://www.sonas.co.jp/
代表取締役 大原 壮太郎 氏
東京大学大学院工学系研究科修了後、ソニー株式会社にて5年半、半導体開発に従事。東京大学先端科学技術研究センター勤務を経てソナス株式会社共同創業、代表取締役就任。
協業担当者
株式会社トランストロン 情報サービス開発部 黒瀬 義敏
トラックなど移動体へのIoT/M2Mサービスに従事。既存ビジネス拡充および新領域ビジネス創出を担当。オープンイノベーションとして社会課題解決につながる事業化を複数のスタートアップ企業と推進中。
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