研究者の夢 Researcher's Dream

原動力は人助けと子どもたちの未来への思い

森脇 康貴Moriwaki Yasutakaコンバージングテクノロジー研究所

Article|2025-04-14

人を助ける仕事に就きたい

研究開発の仕事に携わる理由は二つあります。一つ目は、私の思考や行動が研究開発に向いていると思うからです。幼い頃から、自分のペースで考えたり、想像したり、何かを作ることを楽しんでいました。絵を描くのが好きで、いつも枕元に小さな自由帳とボールペンを置いて、寝る前に想像を膨らませながら自作のマンガを描いていました。ピアノで自由に作曲することも好きでした。じっくりと時間をかけて新しいものを生み出す研究開発という仕事は、こうした自分の性格に合っていると感じています。

子どもの頃に描いたマンガ。主人公が強大な敵ボスを倒し、ステージクリアを目指す物語でした。

二つ目は、学んだ知識を活用して人を助けたいという強い思いです。医療に関わるのは医師や医療従事者だけだと思っていましたが、工学的な視点から医学に貢献できることを知り、基礎工学部に進学しました。大学では、ヒトの心拍変動時系列データを対象に信号処理や統計解析を行い、自律神経機能を推定・評価して、臨床応用に役立てる研究に取り組みました。心拍変動時系列データの分析によって、健康状態や心房細動・うっ血性心不全などの病気の兆候を検出することが目的です。私が考案した分析方法を実際の実験データに適用し、臨床的に有用な結果が得られました。これまで講義で学んできた知識やITスキルを活かして、臨床応用を通じて社会貢献できる可能性を実感し、研究者として働くことへの強い思いを抱くようになりました。

研究開発初期の壁:医師の求める技術との認識のズレ

私は入社後間もなく、3次元類似症例画像検索技術の研究開発を担当することになりました。病院などの医療機関で行う画像診断では、病変(病気による生体の変化)の広がり方によって複数の病名が考えられる場合があります。このような場合、医師はまず、過去の画像が蓄積されたデータベースから、病変の立体的な広がり方が類似する症例(以下、類似症例)を探します。類似症例の病名が判断の参考になるからです。しかし、類似症例を探すには豊富な知識や経験が必要で、かつ人手による作業のため時間がかかり、医師の大きな負担になっていました。そこで、私は類似症例を検索する技術を開発するために、まず病変の立体的な広がり方を定量化する方法について検討し始めました。

しかし、当初は臓器(主に肺)や病変に関する医学的な知識や、画像処理技術の知識もなく、書籍や文献を読み漁って知識を習得したり、画像処理のコードを書いてみたりと勉強の毎日でした。病変の立体的な広がり方を定量化する方法について、アイデアを考え、習得した知見・技術を活かしてなんとか実装を行うことができました。ところが、結果を共同研究先の医師に見せたところ、私の考えたアイデアと医師の求める方法との間にズレがあることが分かりました。医師は類似症例を探す際に、臓器内を複数の領域に分けて各領域の病変の広がり方を詳細に観察します。しかし、私のアイデアは医学的知見を無視したもので、医師の見方とは全く異なるやり方でした。そのため、一から考え直さなければなりませんでした。

現場の声を反映した技術の開発

この経験から、書籍や文献から得た一般的な知識や自分の考えだけで進めるのではなく、まずは現場への理解を深めた上でアイデアを考えることの重要性を痛感しました。その後、医師へ何度もヒアリングを行い、研究リーダーとも毎日のように議論を行いながらアイデアを洗練させていきました。その結果、臓器内の解剖学的な構造に基づく独自の画像解析手法により、臓器内の領域を自動分割し、各領域内の病変をAIで自動認識する技術を開発しました。この技術は、医師の見方と画像解析を融合した独創的なアプローチであり、最大で50分程度要していた類似症例の検索作業を数秒で行うことができる技術です。

広島大学と連携して数百症例の実画像で有用性を実証し、国際会議で発表、英文医学ジャーナル論文誌にも掲載されました。医師同席の記者会見を行い、NHKや新聞等に多数掲載され、複数の賞(電気科学技術奨励賞技術振興賞 進歩開発賞)を受賞しました。当社の画像診断支援製品にも搭載され、大規模病院等での活用を通じて今後の日本の医療現場を支えてくことが期待されます。この経験から、研究者として現場の声に耳を傾け、共に課題解決に取り組むことの重要性を確信しました。そして、実際に現場と共に技術を開発し、大きな自信にも繋がりました。

予測精度向上の研究で社会課題解決に貢献

研究においては、知的好奇心を満たすことを何よりも大切にしています。「面白い」と思えることが、努力を継続させる一番の力になるからです。画像検索技術のプロジェクトを終えた現在、私は富士通が提供しているODMA需要予測ソリューションの時系列予測技術の高精度化に関する研究を行っています。このソリューションは、スーパーなど食品販売の分野を対象に、POSデータに基づいて店舗ごとの日別、時間帯別の客数や販売数を予測するものです。これにより、店舗の運営業務効率化、食品ロス削減、エネルギーマネジメントなどを実現します。また、この時系列予測技術は食品販売の需要予測だけでなく様々な分野での応用が期待できます。今後、医療、農業、防犯、製造など、あらゆる分野での課題解決に挑戦していきたと考えています。

家族との時間を大切に

以前は、卓球やアカペラなどの活動に積極的に参加していました。中学・高校では卓球部に所属し、富士通の卓球部に所属していました。また、大学時代にはアカペラサークルに入り、何度も全国大会に出場しました。今でも時々知り合いからライブ出演のお誘いがあり、北海道や広島などで行われたライブに出演したこともあります。しかし、子どもが生まれてからは家族中心の生活になりました。休日は家族で出かけることが多く、特に子どもたちの成長を見るのがとても楽しいです。妻も子どもたちもディズニーが好きなので、2024年の大晦日にはディズニーランドに行き、素敵な休日を過ごすことができました。

休日に家族でショッピングモール。子どもたちも大満足しました!

受け継がれる思い

私が小学生のころ、ハワイに家族旅行に行った時、とてもひどい船酔いをしました。その時、父が流暢な英語でスタッフに事情を話し、酔い止め薬をもらってくれたおかげで、なんとか体調を戻すことができました。英語というスキルで私を救ってくれた父の頼もしさを今でも鮮明に覚えています。今、私自身も二児の父となり、子を持つ親として、子どもたちがこれから大きくなっても、毎日安全に、楽しく、そして希望を持ちながら生きていってほしいと願っています。そして、子どもたちがそのような人生を送れるような、より良い世の中であってほしいと思っています。あの時、父が私を救ってくれたように、私も研究者として、分野を問わず独創的なアイデアで革新的な技術を生み出し、子どもたちが生きていく未来をより豊かにしたいと考えています。

関係者からのメッセージ

森脇さんは、入社当初からメディア処理の専門家として、医療機関と連携し、医師の画像診断を支援する技術開発で素晴らしい成果を上げています。現在は、その知識と経験を活かし、企業向けの将来動向予測という、より幅広い分野の最先端技術開発に挑戦しており、今後の活躍が非常に楽しみです。(コンバージングテクノロジー研究所 馬場孝之リサーチディレクター)

森脇 康貴
Moriwaki Yasutaka
コンバージングテクノロジー研究所
大学院 基礎工学研究科卒
2016年入社
私のパーパス
独創的なアイデアで世の中を豊かにする

本稿中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は取材当時のものです

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