富士通の「光ネットワーク技術」と「3次元類似症例画像検索技術」の2件が、令和5年度「第71回電気科学技術奨励賞」を受賞
2023年12月15日
富士通の「光ネットワーク技術」と「3次元類似症例画像検索技術」が、このたび、公益財団法人 電気科学技術奨励会主催の第71回電気科学技術奨励賞を受賞しました。また、「光ネットワーク技術」においては、全受賞者の中から特選1件に選定され、文部科学大臣賞を受賞しました。
贈呈式は、11月30日(木)に学士会館(東京都千代田区)にて行われました。
電気科学技術奨励賞について
公益財団法人 電気科学技術奨励会が主催し、昭和27(1952)年から、日本の電気科学技術に貢献した功労者をたたえ顕彰し、電気科学技術奨励賞を贈呈しています。
受賞内容
① 〔文部科学大臣賞〕
世界最高クラスの大容量長距離伝送を世界最小の消費電力で実現することで社会のカーボンニュートラル化を促進する光ネットワーク技術の開発
・受賞者
小牧 浩輔 (富士通 フォトニクスシステム事業本部 統括部長代理)
倉光 浩一 (富士通 フォトニクスシステム事業本部 シニアプロフェッショナルエンジニア)
小田 祥一朗 (富士通 フォトニクスシステム事業本部 マネージャー)
・技術概要
AI、ビックデータ処理、次世代通信規格5Gなどの普及が加速しています。そのため、無線基地局と大容量の通信回線網であるコアネットワークの間や、データセンター同士を結ぶ光通信の領域では、さらなる伝送量の大容量化や通信距離の長距離化が必要です。また、通信インフラの拡大に伴い、脱炭素化への取り組みが通信事業者やデータセンター事業者へ求められています。
開発した技術は、世界最高となる1波あたり1.2Tbpsの大容量光伝送システムです。世界初の140Gbaudの高速信号を伝送可能とするデジタル信号処理LSI(DSP:デジタルシグナルプロセッサ)、送受信デバイス、光信号の歪を高精度に補償する独自技術により開発しました。さらに、世界初の水冷方式の光伝送システムの適用に向けてクローズドループ水冷技術*を開発し、伝送容量(Gbps)あたりの消費電力が世界最小の毎秒120mWとなる低消費電力化を実現しました。また、機械学習を用いたネットワークモニタ技術で、光ネットワーク構成要素の状況を高精度にとらえ、伝送容量を最大化することで光ネットワーク全体の消費電力を最適化します。
これらの技術により、システム全体のCO2排出量を最大70%削減することが可能となりました。ネットワークインフラの拡張性の向上に寄与しつつ、消費電力を削減し、光ネットワーク全体の脱炭素化に貢献します。
- *クローズドループ水冷技術:冷却機構を全て装置内に収めることで既存施設を更新する必要がなく、長期間にわたり使用される光伝送装置において不可欠な高信頼性やメンテナンス性を保ちながら、冷却効率を向上させる水冷技術
・受賞者コメント
左から、倉光 浩一、小牧 浩輔、小田 祥一朗
この度、このような名誉ある賞をいただきこの上ない喜びを感じております。私たちは、光ネットワークの大容量化と、ネットワーク全体での低消費電力化に取り組んで参りました。本受賞は、ともに開発を進めた関係者の尽力がなければなしえなかった栄誉です。今回開発した技術は、すでに販売、出荷を開始している富士通の大容量光伝送ブレード、1FINITY T900シリーズに採用されています。今後、さらに一層の改良を加えながら広く世界のネットワークに採用いただき、社会のカーボンニュートラル化にも貢献していく所存です。
関連情報
・世界最大容量の伝送を実現する光伝送技術を開発(2022年9月14日プレスリリース)
本件に関するお問い合わせ
② 多忙な医師の診断を支援する AI を活用した3次元類似症例画像検索技術の開発と新型コロナウィルス診断での実用化
・受賞者
森脇 康貴 (富士通 コンバージングテクノロジー研究所 研究員)
宮崎 信浩 (富士通 コンバージングテクノロジー研究所 研究員)
武部 浩明 (富士通 コンバージングテクノロジー研究所 研究員)
・技術概要
国内の医療分野における画像診断では、数少ない医師が大量の医用画像をチェックする必要があり、医師の業務負担が大きいことが深刻な課題となっています。中でも、診断数のかなりの割合を占める肺炎などを含む、びまん性肺疾患*と呼ばれる疾患群は異常陰影が臓器全体に広がり、その異常陰影の広がり方によって複数の病名が考えられます。そのため、病名判断の参考となる異常陰影の立体的な広がり方が類似する病名付きの過去症例(以下、類似症例)を医師が探すためには、豊富な専門知識や経験が必要となり、人手による作業に多大な時間を要していました。
我々は、本課題を解決するために、臓器内の解剖学的な構造に着目した独自の画像解析手法を考案し、類似症例を医師と同様の見方で瞬時に検索できる3次元類似症例画像検索技術を開発しました。
本技術により、びまん性肺疾患などの判断が難しい症例では、最大で50分程度要していた医師による類似症例の検索作業を数秒程度に短縮しました。類似症例の病名などを判断する際の参考としても活用できます。また、膨大な画像を見る医師の負荷軽減だけでなく、検査当日に患者に結果を伝えることが可能になり、結果を聞くために日を改めて再来院する患者の負担軽減にも寄与できます。
- *びまん性肺疾患:左右両側の肺全体に病変が広がっている疾患の総称で、多様な疾患が含まれる
・受賞者コメント
左から、森脇 康貴、宮崎 信浩、武部 浩明
この度、このような名誉ある賞をいただくことができ大変光栄です。本技術は、実際に臨床現場で活躍されている医師との複数回にわたる議論によって得られました。医学知見を融合した研究開発では世界初の成果です。長年にわたる地道な研究と試行錯誤を重ね、開発を進めてきた結果、その成果が医学界でも認められ、実用化までたどり着くことができました。これまで、様々な場面で一緒に研究開発を進めてきた多くのメンバーの協力があってこその成果です。今後も、医療に限らず様々な分野の現場課題の解決に向けて励んで参ります。