富士通デザインセンター×日本盛×無印良品が異色のコラボ?!
日本酒の‟新しい楽しみ方“に出合うワークショップイベントを開催
掲載日 2023年10月12日
掲載日 2023年10月12日
「若者の日本酒離れを解決したい」と、デザインの力で日本酒の新たな体験を創造するプロジェクトに取り組む、富士通デザインセンターの※日本酒部。Z世代をターゲットとした日本酒のエントリーエクスペリエンスを目指し、日本盛株式会社様との共同研究で新しい日本酒体験ワークショップを企画しました。2023年5月20日には、無印良品 阪急西宮ガーデンズ店でそのワークショップを活用したイベントを開催し、大盛況。日本酒に馴染みのない人たちに対して、自分好みの日本酒との出合いと新たな楽しみ方を提供するこのイベントは、どのように生み出されたのか。プロジェクトの主要メンバーに、イベントのこだわりや手応えを聞きました。
インタビュイープロフィール
ビジネスデザイン部
戦略企画部部
フロントデザイン部
——— 今回のイベントを実施することになった経緯を教えてください。
廣澤: 今後あらゆる市場の中心になるであろうZ世代について、彼らが求めるデザインの特徴やトレンドを調査しようとリサーチチームを発足したのが始まりです。その調査結果を形にしてアウトプットすることで、Z世代にフィードバックをもらいたいと思っていたところ、社内から「日本酒が抱えている問題を解決できないか」という声がかかりました。調査過程で「そういえば彼らはお酒を飲まないと言っていたな」と思い出し、日本酒とZ世代を組み合わせて問題解決できたら面白いのではないかと考えたのです。
飯嶋: 一部のZ世代には紙パックの日本酒が受けているので、第一歩としてZ世代向けにグラフィックデザインした紙パックの日本酒を作り、社内イベントで配ってみようということになりました。それで数社にOEMの相談をすると、日本盛様から「なぜ富士通が日本酒を?」とお問い合わせをいただきました。活動の趣旨を話したところ、日本盛様も若者向け製品開発で課題を抱えており、共同研究しようということになりました。
早川: 仮説検証を進めZ世代にささりそうなアイデアがいろいろと出来てきたタイミングで、無印良品様の西宮市内の店舗から日本盛様に、「感じ良い暮らしと社会」の実現を目指した‟地域に巻き込まれる取組み”の一環としてのワークショップの依頼があって。実践と検証の場にできると考え、3社でタッグを組んでワークショップイベントを実施することになりました。
——— 具体的なワークショップの内容はどのように決めていったのですか?
早川: 3社でアイデアを出し合いながら、ですね。我々が特に意識したのが、プロジェクトのWhy設定や、リサーチ、仮説の設定・検証、アイデアブラッシュアップ、プロトタイピングといった「デザイン思考のプロセス」を大切にすることでした。あと、実際にZ世代をメンバーに入れたんですよ。
坂井: はい、僕はそれでジョインしました(笑)。自分や周りの同じ世代の人たちが、日本酒を軸としたアクティビティで楽しめるかを考えながら、体験の構築をしていきました。
早川: そうして出たアイデアを5つの案にまとめ、さらにブラッシュアップして2案に絞り込み、最終的に「PerShume(パシューム)」という案に決定したんです。
廣澤: 「PerShume」は元々、香水の瓶のように日本酒のボトルをセルフカスタマイズして可愛くしようというアイデアでした。リサーチの結果、全てがデジタルで完結する便利な生活が当たり前のデジタルネイティブだからこそ、少し手間をかける「0.5手間」を好むことが分かったので、そのトレンドを取り入れました。 自分でカスタムしたボトルなら目に留まるところに置いてくれるはずだし、それがお酒なら大切な人と過ごす時にちょっとずつでも飲むかもしれない。そうやって日本酒と触れ合う機会を増やすことができれば…という意味を込めて、Perfumeに酒(しゅ)の音を加えて「PerShume」と名付けました。実際に社内のZ世代にインタビューやプロトタイプをして高評価だったことも決め手になりました。
飯嶋: ただ今回、意識しなければならなかったのが、無印良品様の主な客層は30〜40代が中心で、我々の狙う層とは異なっている点です。そのため、Z世代と似た感覚を持つ「お酒に興味はあるがよくわからない、たくさんは飲めない」という「日本酒初心者」をターゲットに据えて、中身をブラッシュアップしていきました。
——— ワークショップの内容を教えてください。
廣澤: 参加者はまず炭酸入り日本酒「JAPAN SODA」と3種類の日本酒を試飲し、それぞれのお酒の味にぴったりなワードカードを選びます。ワードカードは16枚あって「青春の」「サウナで整うような」など、日本酒の説明ではあまり使わない言葉が書いてあります。「辛口」「大吟醸」など従来の日本酒の表現から解放するため、炭酸水で日本酒を割ったり、綿あめを入れたり、意外なおつまみを合わせたりと「自分らしい新しい飲み方」の体験ができるようにしました。
飯嶋: 日本盛様はプロジェクトを進めていく中で「何で割ってもいい。日本酒を根絶やしにしないためにも若い人たちに飲んでほしい」と、ある種、プライドを捨てる覚悟の発言をされていました。そしてその想いを製品化したのが「JAPAN SODA」です。実はイベント開催以前から、日本盛様は従来の枠にとらわれない日本酒の楽しみ方を提示していました。
廣澤: ワークショップの最後には、気に入ったお酒のボトルに好きなデザインのラベルを貼って持ち帰ってもらいました。先述の「日本酒を身近に置いてもらう」という狙いですね。
飯嶋: ターゲットとなる方々は、日本酒ラベルの商品名が漢字というだけで「わかりづらい」「まずそう」といったネガティブな印象を持つことが調査結果から分かっていました。そうしたイメージを変えてもらうためにできることを追求し、その中から今回行ったのが「自分の好きな言葉で日本酒を表現する」というワークです。
日本酒のイメージとはかけ離れた「飾っておきたくなる」デザインラベル、制作したデザインバリエーションは30種!
櫻井: ペアリングする食べ物は無印良品様にご用意いただいたのですが、会話のきっかけになるような意外性のあるものを選んでもらうようお願いしました。
——— 参加者や関係者の反応はいかがでしたか?
坂井: 我々は各テーブルについてファシリテーションしていたのですが、参加者は新しい飲み方や選んだカードをきっかけとした会話などを楽しんでいる様子でした。
早川: 2回の枠で計33名にご参加いただいたのですが、開始前に定員がいっぱいになるほど大盛況で、多くの人が興味を持ってくれたようです。西宮観光協会の方や無印良品様も「こんなに満員になるイベントはそうない」と驚いていました。
飯嶋: 「新しい飲み方を通して日本酒の良さを伝えるイベントにしたい」という日本盛様の希望が叶い、すごく喜んでいただきました。別の地域でも同じようなワークショップをやりたいと言っていただけて嬉しかったですね。
——— 今回のイベントを通して、どのような気づきがありましたか?
飯嶋: 仮説を立てて検証するデザイン思考のプロセスに則って進めることで、予想を超える成果や効果を出せたと実感しています。当初はグラフィックデザインを手掛ける程度で完結すると思っていたんです。それが、仮説検証を繰り返すうちに「体験」が重要だというところにたどり着きました。そのようにデザイン思考を重ねる過程があったからこそ、イベントも成功できたのだと思います。
早川: 一方で、無印良品様の客層を想定していたとはいえ、イベントにZ世代がなかなか集まらなかったのは課題です。ターゲットである彼らの声をしっかり聞くためにも、「Z世代と常に意見交換できるコミュニティ」のようなコミュニケーション方法を確立していく必要があると感じました。
飯嶋: また、コストがかかりすぎたのも事実です。もう少し時間と手間をかけずにたくさんの人が同じ体験をできるように改善が必要だと思いました。
またBtoBの案件が多い富士通において、ユーザーから直接フィードバックを得られるのは貴重な機会です。お酒は世代や性別を問わず愛される可能性があるものなので、今の時代とターゲットに合わせた飲み方をうまくデザインできればより多くの人を繋ぐことができると感じました。
——— 最後に、今後の展望をお聞かせください。
飯嶋: Z世代の社会課題に対する関心は高いと言われています。なので、興味がある社会課題や彼らの悩みを日本酒で解決できれば、日本酒に興味を持ち受け入れてくれるのではないか。まずは彼らの悩みを日本酒で解決しよう、と考えています。Z世代の人たちはもちろん、一緒に取り組む企業様もハッピーになるようなデザインや体験を、これからも作っていきたいです。
日本盛様よりコメント
今回のイベントの目的は、Z世代に向けた「日本酒の新しい楽しみ方」を創出することでした。実施に至るまで、Z世代の思考や傾向を知るために様々な角度からアプローチを重ねましたが、それを1つの形にできたのは非常に良かったです。特に、事前調査での知見を生かした制作物の完成度は、細部まで徹底されていて感動しました。また、日本酒という商材の特性上、集客面で参加者の年齢が高くなる課題についても、あらためて認識することができました。
日本酒に限らず、伝統産業は新しい世代へのアプローチを模索している状況です。富士通デザインセンターの強みである「デザイン思考での問題解決力」を活かして、日本の文化を後世に伝えるための方法を見出してもらえることを期待しています。
日本盛株式会社 社長室広報グループ 森 望様