「PRIMEHPC FX1000」の外観デザインで意識したのは富士通と社会とのタッチポイントとしての役割【後編】

「PRIMEHPC FX1000」の外観デザインで意識したのは
富士通と社会とのタッチポイントとしての役割【後編】



掲載日 2022年3月7日

世界一の処理解析能力を持つスーパーコンピュータ「富岳」の商用機である「PRIMEHPC FX1000」。ブランドの「顔」としての役割も担う同製品の外観をデザインするにあたって、重視したことや大切にしたことなど、プロダクトの外観デザインを担当した諸岡 寿夫と岡本 浩平に聞きました。

後編のポイント

  • 「富士通のスパコンであること」がひと目でわかる外観デザインにしてそれを伝播させる。
  • 「赤」を印象的に使って、富士通のブランドや技術力をアピールした。
  • DXを推進する「これからの富士通らしさ」を表現することをデザインで目指した。


富士通のスパコンであることがひと目でわかる外観にする

デザインセンタ― 岡本

432台のラックから構成されるスーパーコンピュータ「富岳」と基本的には同じハードウェアを用い、商用機として提供するのがPRIMEHPC FX1000です。その外観デザインにおいて岡本は、「素材の設定から始まり、試行錯誤の繰り返しでした」と話します。

前機種のPRIMEHPC FX1000は光沢のある素材を使用していましたが、光沢がある素材は少しでも歪みがあるとリフレクション(反射)に歪みがでてしまいます。そこで、綺麗な平滑面を出せるアクリル板を使いましたが、今度は厚みが問題でした。「大きいものなので、薄いと自重により歪んでしまい波打ったような表面になってしまうし、厚すぎると外装パネルが重くなってしまいます。とことん、厚みの研究をしました」と諸岡は説明します。結果的に、厚みを限界まで抑えてコンパクト化、軽量化することに成功しました。

  • 初期のデザインレビューは、VRと部分試作で再現
  • 量産と同じ方法で作成したサンプルでCMFを確認

また、側板が大きいので、実物大となったときにどのように人の目に映るのか、「デザインを確認するのもひと苦労でした」(岡本)。モックアップを作って確認するにも大きなコストがかかってしまうため、外観の確認は必要に応じてVR(バーチャルリアリティ)と現物を使い分けました。初期段階では、VRで実物サイズでのデザインの見え方を再現。CMF(Color、Material、Finish)の状態の詳細は、実際の量産方法で製造した現物で確認しました。

今回の取り組みで岡本は「富士通のスパコンだとひと目でわかる」外観に仕上げ、それを伝播させていくことが狙いでした。スーパーコンピュータと聞くと、『京』の真っ赤なラックが並んでいるところを思い浮かべる一般の方も多いでしょう。メディアにも数多く紹介されたことで、いつの間にかスーパーコンピュータ=『京』のイメージが多くの人たちの意識に刷り込まれていると思います」と語ります。

その効果をうまく利用することで、岡本は、「スパコンと言えば『京』、『京』と言えば赤、赤と言えば富士通を思い描いていただけるのではないかと考えました。さらに、メディアに取り上げられたときにもブランドや技術力をアピールできるよう、赤を印象的に使って富士通らしい外観に仕上げました」と説明します。

また岡本は、「すでに認知されている『富士通らしさ』に加えて、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している、これからの『富士通らしさ』も表現することを目指した」と言います。そして、DXが起きているということを製品の外観を通じても見せられるようにするため、これまで角形として表現されていたブランドのアイデンティティを細かいパターンが変化してゆくグラフィックによって、トランスフォーメーションと、より集積率の高いCPU能力などを表現しました。

スーパーコンピュータ「PRIMEHPC FX1000」

また、PRIMEHPC FX1000の赤には、もうひとつの思いも込められています。諸岡は、「世界におけるスパコンの開発では、アメリカや中国が優位を占め、日本の復権が待たれていました。PRIMEHPC FX1000の赤は『富士通の赤』であると同時に、『JAPANの赤』でもあります。日本のモノづくりへの思い、スパコンで世界一を奪還するという技術者たちの思いも込めているのです」と語ります。



スパコンである「PRIMEHPC FX1000」の外観デザインではさまざまな立場のユーザーを想定した

デザインセンタ― 諸岡

諸岡はパーソナルなプロダクトをデザインする上で重要なのは、ユーザー(お客様)の体験価値(UX)や生活様式から考えていくことだと言います。ただしPRIMEHPC FX1000については、パーソナルなプロダクトと事情が異なります。というのも、商用機が実際に購入・利用されるまでには、購入を検討する立場の人、決裁する人、実際に使う人、保守管理をする人など、お客様と呼べる方が大勢がいるからです。

ユーザー体験(UX)を知ろうにも、スパコンを実際に使っている人に直接会う機会は、なかなか得られません。諸岡は、「今回できるだけ多くの関係者にヒアリングをして仮説を立て、デザインしました」と説明します。

岡本はデザインの価値について、「UXで価値判断される機会が増えている」と指摘します。体験価値がどれだけ向上したか測る尺度として、『心地いい』『嬉しい』『楽しい』などの感情表現がありますが、「コンシューマプロダクトをやっていると、1年ないしはもっと早いタームで快適性が変わってきていると感じます。技術の進展の速さとともに、人の感性のアップデートも速いと感じているので、常に時代に合った快適性とは何かを考えてデザインに取り組んでいます」と岡本は話します。今回のスパコンのように、1度購入すると何年も使われるものと、パーソナルなプロダクトは比較できないとしながらも、岡本は「デザインにおいては、常に時代に合った価値観にフィットさせることが重要」と強調します。

このように、スパコンであるPRIMEHPC FX1000の外観デザインでは、パーソナルなプロダクトとは異なる点が、いくつもありました。「買う人」と「使う人」と「管理する人」が異なる等、多岐にわたることから、それぞれの立場のユーザー(お客様)とPRIMEHPC FX1000との関わり方を考えながら、要望や意見を集約していくことが必要でした。諸岡は、「立場の違う様々な人の意見を見える化して合意を取り、ベストな形に落とし込んでいくのはモノづくりにおいてとても重要で、それができるのがデザイナーの力だと思います。自分たちの役割も重要ではないかと思っています」と話します。

岡本も「プロダクトの開発からリリースまでには、多くの人が関係します。さまざまな意見や考え、思いをひとつに束ねていくのもデザインの役割です。優れたデザインを生み出すには、多様なメンバーが目的を共有すること、共通のマインドを持って協力することが必要です」と語ります。そこでも、今後、デザイン思考の重要性がますます高まっていきます。

デザインセンターエクスペリエンスデザイン部諸岡 寿夫
 エクスペリエンスデザイン部岡本 浩平
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