「PRIMEHPC FX1000」の外観デザインで
意識したのは富士通と社会との
タッチポイントとしての役割【前編】



掲載日 2022年2月28日

スーパーコンピュータ「富岳」の商用機であり、富士通のコンピュータ製品の最上位機種ともいえる「Fujitsu Supercomputer PRIMEHPC FX1000」が、2020年度のグッドデザイン賞BEST100に選定されました。高性能かつ汎用性のある技術により、幅広い社会貢献を期待されての受賞となりました。そんな富士通を代表するプロダクトの外観デザインを担当した諸岡 寿夫と岡本 浩平に、そのポイントや苦労した点などについて聞きました。

前編のポイント

  • 「見た目が良いから買う」という商品ではないが、スパコンにも外観デザインは重要。
  • 製品はタッチポイント、お客様が製品を通じて得た体感が、そのまま富士通ブランドの印象に。
  • 社会の価値観の変化に合わせて、今までとは違ったアプローチで「ブランドの顔」づくりに挑戦。


製品を通じて、お客様に安心と信頼を感じて欲しい

「PRIMEHPC FX1000」は、スーパーコンピュータ「富岳」の商用機です。「富岳」はスーパーコンピュータの性能ランキング「TOP500」「HPCG」「HPL-AI」「Graph500」の4部門において、2020年6月より四期連続で世界第1位を獲得しています。それによりPRIMEHPC FX1000にも注目が集まっています。

「富岳」で開発したシステムを商品化した「PRIMEHPC FX1000」

「富岳」は432台のラックから構成されるシステムの名称です。PRIMEHPC FX1000は基本的には「富岳」と同じハードウェアを用いて、大学や民間企業などが導入・活用できるようにした商用機となります。その外観のデザインを担当したのが、デザインセンター エクスペリエンスデザイン部 チーフデザイナーの諸岡 寿夫と岡本 浩平です。諸岡は、PRIMEHPC FX1000の外観の方向性を決め、プロジェクトの全体を統括しました。岡本は、おもにPRIMEHPC FX1000の外観を印象づける重要な要素である「外装パネル」のデザインを担当しました。

諸岡は、「『スパコンって見た目で工夫する箇所あるの?』と思われる方も多いかもしれません。当然、性能が一番で、『見た目が良いから買う』という商品ではありません。だからと言って外観のデザインが不要な訳ではありません。このようなシステムプラットフォーム製品は、ビジネスや社会のために活用されるものなので、お客様に安心と信頼を感じてもらうためのデザインをします。例えば、長期にわたる安定稼働を実現するための保守性の高さなど、内部のユーザビリティデザイン。外観デザインは、関連したシステム全体で導入されるお客様が多いので、製品カテゴリーを超えて一貫性のある操作性や統一感を重視します。スパコンからPCまで一貫したコンセプトでデザインをしています。『世界最高レベルのスパコンを作っている会社のPCなら、絶対ちゃんとしている』と安心して使って欲しいですね(笑)。」と説明します。

スパコンからPCまで一貫したコンセプトの基でデザイン

「製品は、お客様と富士通の直接的なタッチポイントです。お客様が製品を通じて得た体感が、そのまま富士通ブランドについての印象になると言っても過言ではありません。
『PRIMEHPC FX1000』外観デザイン検討のペルソナとしては、幅広い人々がターゲットに成り得ました。直接使用する方や関連する方々はもちろん、「富岳」の商用機としてメディアなどで紹介された時、それを目にされる一般の方々にも富士通のスパコンと世界最高レベルを作れる会社を印象付けてもらえると嬉しいし、そんなブランドの顔を作っているのだという気持ちで取り組みました。」と諸岡は説明します。

幅広いターゲットに向けて外観をデザインするならば、社会の価値観に合わせ変化させていくのは当然です。スパコンとはいえ、性能と同じくらいに、省電力など環境負荷の低減が求められています。また、「モノよりコト」というか、立派な装置の存在感よりも「スパコンが生み出す価値」の方が本当の価値だと誰もが知っています。さらに、「ブランドの顔」なら、コーポレートブランドが発信しているメッセージを体現できると良いだろうなとも考えました。環境を配慮したものづくりとプロモーション的メッセージ表現・・・、今までとは違うアプローチで挑戦する必要がありました。

デザインセンタ― 諸岡


スマホなどのデザインで培った技術をスパコンのデザインに活かすことを期待

こうしたデザインの方向性のもと、諸岡は「富士通のスパコン」を印象づける重要な要素となる「外装パネル」のデザイナーとして岡本とタッグを組みました。岡本はこれまで、スマートフォンやタブレット、ノートパソコンなど、いわば「手の中に収まるプロダクト」のデザインを手がけてきました。ところが、PRIMEHPC FX1000の外装パネルは、「2メートル×1.4メートル」もの大きさがあります。岡本にとっては、スパコンの外観デザインはもちろん、これほど大きなプロダクトの外観をデザインすることも初めてでした。あえて「未知の領域への挑戦」となる岡本をタッグパートナーに選んだのには理由がありました。

前機種「PRIMEHPC FX100」の外装パネルでは、富士通のコンピュータ製品の最上位機種らしい「威厳」や「重厚感」を表現した立体的なデザインでした。しかし、今回は、製造時や運搬時などの「環境負荷軽減」を考慮すると、「軽量で平面的な外装パネル」が当然の条件でした(諸岡)。
「あえてスマートフォンやタブレットなどサイズや重さに制約がある製品で、いかに『世界観』を表現するかに頭を悩ませ続けてきたデザイナーの力を活かそうと考えたのです」と諸岡は理由を明かします。



単なる外観デザインではなく社会とのタッチポイントとなるデザインを

このように、自身にとっては「未知なる領域のデザイン」を任された岡本は、「ブランドの顔となる外観を、平面的な外装パネルでどう表現するかに悩みました」と話します。

諸岡も「『アイデアのネタ』集めに一緒になって奔走しました」と当時の状況を振り返ります。

そんなとき、チームメンバーの一人が、2メートルを超える大きなアクリル板にもグラフィックスを自由度高く印刷できる超大型のインクジェットプリンターを持っているメーカーを見つけてきました。

 菅原前機種の外装パネルは立体的で、重さも2倍あり、組み立ても運搬も大変でした

岡本は「外装パネルにグラフィックスを印刷できるできる可能性が開けたことで、自分がスマートフォンやタブレットの背面パネルのデザインで培ってきた知見やノウハウを十分に活かせると直感しました」と振り返ります。さらに、インクジェットプリンターなら、オリジナルデザインの外装パネルを作りたいと言うお客様の要望にも対応が可能になります。

デザインセンタ― 岡本

「外装パネルの印刷効果をどうリッチに表現するのかという部分に、スマートフォンの背面パネルのデザインで使われている最新技術を応用しました。外装パネルには、細かい幾何学模様が徐々に遷移していくようなグラフィックスが施されています。その緻密なグラフィックスを構成する面や線を何層にも重ねて印刷し、金属層を挟むことであえてリフレクションを起こし、見る角度によって豊かな表情を作り上げることに成功しました」(岡本)。

「模様がダイナミックに代わって行く様が、全社で推進している「デジタルトランスフォーメーション」を連想させ、富士通の思いを製品の外観でも語れるのが良いなと感じました。まさに印刷ならではの表現ですね」(諸岡)。

PRIMEHPC FX1000の外装パネルのグラフィックス表現は「黒と赤にウェッジシェイプ(くさび形)」で、これが富士通の製品であることを示す共通なアイデンティティの役割も果たしています。岡本は、「このウェッジシェイプがWebの背景になったりイベントの壁面グラフィックに使われたりすることで、様々なメディアにブランドを代表するスパコンのエッセンスをちりばめられるようになります。それによって、スパコンと利用者との関わり方までも変えてしまうような、プロモーション戦略の展開も想定しながら外観デザインしました。外装パネルのグラフィックを目にしただけで、多くの人は『富士通のスパコン』とわかるようになるでしょう。単なる外観デザインではなく、社会とのタッチポイントとしての役割も果たします。そのことをデザインに込めました」(岡本)。

スーパーコンピュータ「PRIMEHPC FX1000」

PRIMEHPC FX1000のデザインでは、「ブランドの顔」となり、「富士通と社会とのタッチポイントとしての役割を果たすこと」を重視した諸岡と岡本。
後編では、外装パネルの素材の選定など実際のデザインで苦労した点について、さらに詳しく紹介します。


  • (注)
    本稿は前後編になります。後編は近日公開予定です。
デザインセンターエクスペリエンスデザイン部諸岡 寿夫
 エクスペリエンスデザイン部岡本 浩平
ページの先頭へ