諸岡はパーソナルなプロダクトをデザインする上で重要なのは、ユーザー(お客様)の体験価値(UX)や生活様式から考えていくことだと言います。ただしPRIMEHPC FX1000については、パーソナルなプロダクトと事情が異なります。というのも、商用機が実際に購入・利用されるまでには、購入を検討する立場の人、決裁する人、実際に使う人、保守管理をする人など、お客様と呼べる方が大勢がいるからです。
ユーザー体験(UX)を知ろうにも、スパコンを実際に使っている人に直接会う機会は、なかなか得られません。諸岡は、「今回できるだけ多くの関係者にヒアリングをして仮説を立て、デザインしました」と説明します。
岡本はデザインの価値について、「UXで価値判断される機会が増えている」と指摘します。体験価値がどれだけ向上したか測る尺度として、『心地いい』『嬉しい』『楽しい』などの感情表現がありますが、「コンシューマプロダクトをやっていると、1年ないしはもっと早いタームで快適性が変わってきていると感じます。技術の進展の速さとともに、人の感性のアップデートも速いと感じているので、常に時代に合った快適性とは何かを考えてデザインに取り組んでいます」と岡本は話します。今回のスパコンのように、1度購入すると何年も使われるものと、パーソナルなプロダクトは比較できないとしながらも、岡本は「デザインにおいては、常に時代に合った価値観にフィットさせることが重要」と強調します。
このように、スパコンであるPRIMEHPC FX1000の外観デザインでは、パーソナルなプロダクトとは異なる点が、いくつもありました。「買う人」と「使う人」と「管理する人」が異なる等、多岐にわたることから、それぞれの立場のユーザー(お客様)とPRIMEHPC FX1000との関わり方を考えながら、要望や意見を集約していくことが必要でした。諸岡は、「立場の違う様々な人の意見を見える化して合意を取り、ベストな形に落とし込んでいくのはモノづくりにおいてとても重要で、それができるのがデザイナーの力だと思います。自分たちの役割も重要ではないかと思っています」と話します。
岡本も「プロダクトの開発からリリースまでには、多くの人が関係します。さまざまな意見や考え、思いをひとつに束ねていくのもデザインの役割です。優れたデザインを生み出すには、多様なメンバーが目的を共有すること、共通のマインドを持って協力することが必要です」と語ります。そこでも、今後、デザイン思考の重要性がますます高まっていきます。