デザイン×エンタメの力で社会課題をやわらかく!“伝え方”のデザインで人の気持ちを動かした大人の社会見学「目的地は鬼ヶ島」【後編】

デザイン×エンタメの力で社会課題をやわらかく!
“伝え方”のデザインで人の気持ちを動かした
大人の社会見学「目的地は鬼ヶ島」【後編】



掲載日 2022年11月21日

富士通グループの変革をミッションとするデザイン部門から、一風変わった名前の社内イベントが生まれました。その名も、「目的地は鬼ヶ島」。
タイトルを聞いただけでは、どんな内容なのか想像もつかないこのイベントは、重く硬いイメージが先行しがちな「社会課題」というテーマを、「デザイン」と「エンタメ」の力で、わかりやすく発信し、楽しみながら理解を深めてもらおうというもの。毎回、さまざまな社会課題に挑む社会起業家・活動家を「桃太郎」に見立ててゲストに招き、移動中のタクシーの中で話を聞いていくというバラエティ番組風のオンラインイベントです。2021年5月から7月まで全9回開催され、富士通グループの社員を中心にのべ約2000人が参加しました。
予想以上の広がりを見せたという、このプロジェクトの中心にいた、富士通デザインセンター 加藤正義、桃太郎研究家/エンターテイナー 神木 優さん、NPO法人ハナラボ代表 角 めぐみさんによる鼎談の後編をお届けします。

インタビュイープロフィール

  • 角 めぐみ 氏
    NPO法人ハナラボ代表。武蔵野美術大学非常勤講師。MC役としてゲストとのトークを進行。通称「メグさん」。
  • 神木 優 氏
    桃太郎研究家/エンターテイナー。タクシーの運転手に扮しトークの盛り上げ役として出演。
  • 加藤 正義
    富士通デザインセンター 経営デザイン部所属

部署名・肩書は取材当時のものになります。

社会課題に興味がない人をいかに惹きつけるか

——— 毎回、本当に興味深いテーマ設定とゲストでしたが、どうやって決めていったのですか?

加藤: テーマが先にあって、それに合う人を探したというパターンと、どうしてもこの人に出てほしいという思いがあって、そこからテーマを決めるという、両方ありましたね。あえて最初から9回分のゲストを決めるのではなく、視聴者の反応を見ながら決めていく形にしました。

角: 毎回、タイトルにはこだわりましたよね。社会課題に興味のあるなしに関わらずどうすれば興味を持ってもらえるか、というのを。加藤さんがまたすごくこだわって(笑)

イベントはデザイナーが毎回グラフィックレコーディングした

神木: テーマとゲストが決まったら、僕が脚本を書くのですが、出演してくださった皆さんは、伝えたいことや経験をたくさんお持ちだし、たぶん5時間インタビューしてもずっと話せるような方たちだと思うんですよ。話せる内容がたくさんある方たちの、本当に伝えたい部分をどう引き出していくか、そこが大変でした。あとは、エンタメ性を出すために時に運転手が茶々を入れたりするのですが、ゲストの話の「内容を茶化さない」ことは決めていました。社会課題という真剣なテーマである以上、これは絶対でした。

桃太郎研究家/エンターテイナー 神木 優 氏

角: 私はゲストの方と同じように社会課題の解決に取り組む仲間でもあるので、深く話を聞くことはできるんですが、視聴者から見てどうかというのはわからない部分もある。そういった「よくわからない」点を、視聴者目線で神木さんから聞いてもらうこともありましたね。

神木: やっぱりゲストの方は「知ってほしい」「伝えたい」気持ちが強いから、自然と深い話になっていきがちなんです。でも素人からすると、前提となる知識がないから、そこまでわからない。表面も知らないのに深い話をされてもついていけないので、深くなりすぎないように、というのは気を付けました。

加藤: 子どもみたいな立場で「なに、それ?」って聞くような。これは「運転手」という立ち位置だったからできたんですよね。お客さんとはまた会うかわからない、その場限りの関係だから。タクシーの中というシチュエーションが活きてきます。

角: 視聴者の反応を見ても、神木さんの存在は大きかったですよね。イベントの時に、コミュニケーションツールのSli.do にコメントを書き込んでもらったんですけど、それがものすごい量だった。キャラが立っていて、参加者が一気に世界観に引き込まれて…プロの役者ってすごいと思いました。

NPO法人ハナラボ代表 角 めぐみ氏


どんなテーマでもエンタメにした桃太郎の力

——— イベントの反響や手応えはいかがでしたか?

加藤: この「目的地は鬼ヶ島」は、多くの方に社会課題を知るきっかけになってほしい、と思って企画しましたが、今まで社会課題についてあまり意識していなかったような方に、大勢観ていただけたのが一番良かった点ですね。多様なゲストの話を通じてたくさんの社会課題と、そこに関わっている人々の思いや価値観を知ってほしくて、どんなテーマでも面白く仕立てられるコンテンツを作り込みました。その狙い通りリピーターも増えましたし、さらに新規の方も毎回観てくださって。「こんな社会課題があったんだ」とか「初めて知りました」という声も多くいただきました。

富士通デザインセンター 加藤 正義

角: 全9回を通して、各団体について「知っているつもりだったけれども、知らないことがたくさんあったな」ととても勉強になりました。私自身もNPOを運営しているので、活動のヒントになる話が多く大きな刺激をいただきました。またゲストの皆さんの真摯な活動に改めて感動しました!

神木: 視聴者の皆さんのコメントに手応えは感じていたので、脚本を作った者として、演者として、「きちんと伝えられた」という素直な喜びがありました。また、僕自身一つ一つの話が初めて知ったことなので、すべて面白かったし、個々の課題が独立しているのではなく、それらが繋がっているのを発見したことも大きかったですね。そして、桃太郎はやっぱり無敵のツールだと再確認しました!



社会課題の解決は新時代のデザイン

——— 「デザイン」という観点ではいかがでしたか?

角: エンタメに加えて「社会課題×デザイン」というコンセプトということもあり、番組で私は「デザインオタク」という設定でトークをしていました。社会起業家の皆さんは、世の中の「常識」を見直し、そこにある問題を捉え直して「本当はこっちに課題があるんじゃないか」と新たに課題を発見していく。それがとてもデザイン的だと思うんです。社会課題の解決方法が今までにないアプローチである点も創造的で、イノベーティブですよね。自分がストーリーを語ってリーダーシップを取り、色々な人に協力してもらいながら課題解決につなげていく。まさに「新たな時代のデザイナー」なのではと思いました。こういう切り口を「目的地は鬼ヶ島」に入れられたのはよかったですね。

加藤: 富士通グループの中でデザイン思考を広め実践する人を増やしていこうというのが私たちデザインセンターのミッションでもあるんですが、角さんから「社会起業家の方は皆デザイン思考をやっているんだよね」と言われた時に、「そうか」と気付かされました。社会課題を広く知ってもらうだけじゃなく、同時にデザイン思考についても新しい切り口で理解を深めることができるコンテンツになるのでは、と考えた企画だったんです。エンタメ要素のコアが神木さんであるとするならば、デザイン要素のコアは角さん。「デザインオタク」役で登場していただくことによって、いやみなく「今の“デザイン”ってこういうふうにも捉えられているんだよ」ということが伝えられたのではないかと思います。

——— 最後に、今後の展望をお聞かせください。

神木: なかなか「桃太郎」という切り口で物事を考えることってないと思うんですよ。なので、例えば、企業の研修などで「目標に対するアプローチを桃太郎的に考えたらどうなるか」というようなワークショップをしても面白いんじゃないかな、と。どの職種に対しても当てはめられると思うので、やってみたいですね。

角: 今回お話を聞いた起業家の皆さん揃って「自分たちだけで社会を変えていくのは難しいから色々な団体とコラボレーションしている」とおっしゃっていて、ハナラボでは今までできていなかったなと再認識しました。これからは積極的にコラボレーションして社会を変えていくことにコミットしていきたいと思っています。

加藤: 富士通グループには、まだまだカタい部分がカルチャーとしてあるので、カルチャー変革を通じて富士通をよりクリエイティブな企業にしていきたいですね。デザイナーとしては、今までも普通にやってきたことではあるのですが、楽しく働いたことがない社員からすると「遊んでいる」「それは仕事じゃない」と考えてしまう人も一定数います。そういう古い価値観をアップデートしていきたいんですよね。特に、富士通として社会課題を解決するという目標を掲げている今、そもそも自分たちが楽しく働いて、仕事に対するやりがいや意義を感じられていないと、社会を良くすることなんてできないのではないか、と。デザイナーが当たり前にやっていることやデザイン組織のカルチャーを富士通グループに広めることで、会社を変え、社会を変える力にしていきたいと思っています。

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