デザイン×エンタメの力で社会課題をやわらかく!“伝え方”のデザインで人の気持ちを動かした大人の社会見学「目的地は鬼ヶ島」【前編】

デザイン×エンタメの力で社会課題をやわらかく!
“伝え方”のデザインで人の気持ちを動かした
大人の社会見学「目的地は鬼ヶ島」【前編】



掲載日 2022年11月16日

富士通グループの変革をミッションとするデザイン部門から、一風変わった名前の社内イベントが生まれました。その名も、「目的地は鬼ヶ島」。
タイトルを聞いただけでは、どんな内容なのか想像もつかないこのイベントは、重く硬いイメージが先行しがちな「社会課題」というテーマを、「デザイン」と「エンタメ」の力で、わかりやすく発信し、楽しみながら理解を深めてもらおうというもの。毎回、さまざまな社会課題に挑む社会起業家・活動家を「桃太郎」に見立ててゲストに招き、Zoomの背景で作った移動中のタクシーというシチュエーションの中で話を聞いていくバラエティ番組風のオンラインイベントです。2021年5月から7月まで全9回開催され、富士通グループの社員を中心にのべ約2,000人が参加しました。
予想以上の広がりを見せたという、この前例のない社内イベントはどのように作られたのか。プロジェクトの中心にいた、富士通デザインセンター 加藤正義、桃太郎研究家/エンターテイナー 神木 優さん、NPO法人ハナラボ代表 角 めぐみさんに話を伺いました。

オンラインイベントの様子:角めぐみさん(右上)、神木優さん(左下)、初回のゲストである小濱 晋さん(左上)

インタビュイープロフィール

  • 角 めぐみ 氏
    NPO法人ハナラボ代表。武蔵野美術大学非常勤講師。MC役としてゲストとのトークを進行。通称「メグさん」。
  • 神木 優 氏
    桃太郎研究家/エンターテイナー。タクシーの運転手に扮しトークの盛り上げ役として出演。
  • 加藤 正義
    富士通デザインセンター 経営デザイン部所属

部署名・肩書は取材当時のものになります。

社会課題の「敷居の高さ」を解消したかった

——— この企画は、どのようなきっかけで生まれたのですか?

加藤: 約10年前に、社会課題に関わる仕事を少し経験したんです。その時は、それ以上広がることはなかったのですが、5年前に自分で考えた3つの探求テーマの1つが社会課題でした。社会課題についてより深く知るため、さまざまな活動を社内外でやっていくうちに、「社会課題ってこんなにたくさんあるんだ」と驚いたんです。社会課題と一言では括れないくらい、顕在化していないものが細かく多様に存在していて、さらにそれらはバラバラではなく複雑に絡み合いながら繋がっているという実感が自分の中で大きくなっていきました。
そんな中、2021年に富士通としてもよりいっそう社会課題に注目しようという機運が高まり、自分がこれまでインプットしてきたことを会社にフィードバックするタイミングが来たのではないかと。すぐにビジネスにつながらならなくとも、自分自身がそうであったように、社会課題について知ることで世の中に対する見方が変わったり、発想や視点が広がったり、というきっかけを作れたら、富士通グループの変革にも貢献できるのではないかと思いました。

富士通デザインセンター 加藤 正義

角: 私は加藤さんと以前からの知り合いで、富士通さんとも2013年頃から「女子学生のリーダーシップ・創造力を育む活動」の一環で新規事業開発など、一緒にお仕事をさせていただいていました。その流れで、加藤さんから「ソーシャル×デザインで何かイベントをやりたいんだよね」という話があって、まだ企画も全く形になっていない状態から、2人でブレストを始めたんです。「社内イベントも飽和状態でなかなか集客が難しい」であるとか、「社会課題に興味がない人にも来てもらえるように敷居を下げたい」という想いを聞いて、私もかなり、いろいろアイデアを出したんですけど……「それだと人が集まらない」とか「似たようなイベントがすでにある」とか、こだわりがものすごく強くて…(笑)
それで、思い切って「お笑い芸人でも入れてやったら面白いんじゃない?」と言ったら、加藤さんが「なるほど!それはいいかも。そういえば、良い人がいる」って。

NPO法人ハナラボ代表 角 めぐみ 氏

加藤: 神木さんとは、2018年ごろに知り合いました。共通の知人である富士通社員から紹介され、何度かイベントをご一緒しました。角さんの一言がきっかけとなり、「これは」と思ってすぐに彼にメッセージを送りました。



パズルのピースが繋がるように今までの集大成のような企画に

神木: 連絡をもらって、「また加藤さんと一緒に面白いことができるんだ」という感じでウェルカムでした。僕がずっとテーマにしている『桃太郎』は、なんでも組み合わせることができる無敵のツールなので、どこからどう切り取っても柔らかくなる。そして僕はエンターテイナーですから、もう「どうやっても面白く表現するぞ」というのが基本的なスタンスなので、加藤さんの「カタいと思われている社会課題を柔らかく見せたい」というお話に、「お任せください」と言い切りました。

桃太郎研究家/エンターテイナー 神木 優 氏

加藤: 私は神木さんの本を読んでいたため、桃太郎の話と社会起業家の話をかけ併せたらどんな風になるのか、ある程度想像できたので、「いける!」と。そう考えると、ポッと出た企画というよりは、今までのお付き合いとか、インプットの集大成というか、何かパズルのピースが繋がるように全部が繋がっていったというイメージですね。

——— 番組には加藤さんは出演されていないのですね。タクシーの中で、運転手とゲストともうひとり、という組み合わせで番組が進行していくスタイルはどう思いついたんですか?

加藤: 神木さんは、俳優としてだけではなく「桃太郎研究家」として活躍されているので、「桃太郎」をモチーフにしました。社会課題を「鬼」「鬼ヶ島」、それを解決する社会起業家を「桃太郎」と見立てて、毎回異なるテーマでゲストを招き、お話を聞いていくことにしました。最初に3人でブレストしたときには、タクシーの形にはなっていなくて、路上で紙芝居をやる人、というようなアイデアなどが出ていたんです。でもなかなかまとまらなくて、私が一人で悶々と考えていたときに「降ってきた」のが、タクシーというアイデアでした。

——— なぜタクシーだったんですか?

加藤: 幅広い方に面白そうだと思ってもらうため、テレビのバラエティ番組を参考にしました。毎回違うゲストが登場している点も似ています。いろいろアイデアを探しているときに、ふと「移動しながら、車の中での会話を見せる」というイメージが浮かんで。バラエティ番組で車を運転しながらゲストと会話をしている車内カメラの映像、あのイメージですね。それが「桃太郎マニアで、癖の強いタクシー運転手」が、乗客となるゲストの話を聞く、という構成に繋がりました。コロナ禍ということもありオンライン開催だったので、別々のカメラで撮った画像で成立するという点もピッタリはまりました。タクシーの車内ならば、運転手とゲストのほかにもう1人乗客がいる方が画面のレイアウト的にも良いので、企画から一緒にやっていただていた角さんに出演もお願いしたんです。

企画コンセプトを表現するビジュアルにはとことんこだわった
イラストレーター もりい くすお氏のアイデアで誕生した桃をモチーフにした近未来タクシー。架空のタクシー会社「どんぶらこタクシー」という設定に


富士通は自由にやりたいことにチャレンジできる!?

——— 富士通がここまでエンタメ性を追求した斬新なイベントやるということについて、どのように思いましたか?

神木: 富士通というと、技術の会社で硬い人が多いイメージでしたが、最初に出会ったのが加藤さんで、「この人本当に仕事しているのかな?」というくらい社外で色々な活動をしていて、自由な会社なんだなと思ってました(笑)。だから、この企画も意外ではないというか…。

角: 私もデザイン思考を使った色々なプロジェクトでデザインセンターの方と仕事をすることが多かったので、自由でチャレンジさせてくれる会社だなというイメージはすごくありましたね。

加藤: クライアント案件などもやってますよ(笑)。ただ、10年くらい前から、過去の延長線上でない新たな価値を生むための取り組みが身の回りで広がり始め、今は富士通グループのカルチャー変革も組織のミッションになって。やりたいことをよりやりやすくなったというのはあります。

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