アイデアの“純度”が高いまま
製品を開発、ユーザーに届けるために(前編)

掲載日 2021年1月14日



富士通株式会社(以下、富士通)が経営方針として掲げるDXビジネスの推進。そこで求められる「デザイン思考」は、富士通の持続的成長を支える軸の一つとなるものです。そのため、デザインセンターが企画・製品開発・営業・プロモーションといった製品の開発から提供に至る工程に関わる機会が増えることは論を俟たず、デザイナーはもちろん、非デザイナーも仕事にデザイン思考を取り入れることが求められるでしょう。

デザインセンターでプロダクトデザイナーとして活躍する森口健二氏は、もともと出向で富士通に勤務し、携帯電話やパソコンのデザインに携わってきました。そこで、富士通が掲げる「Human Centric Experience Design」のもと、泥臭くとも真っ直ぐな姿勢で仕事を進めるカルチャーにはまって転職。富士通の社員となり現在に至ります。森口氏も、デザイナーが関わる機会が増えることで製品の価値を高めること、また、DXビジネスにより広がる領域に期待を寄せています。

前編のポイント

  • デザインセンターに所属する森口氏は、デザイナーとしてプロダクトデザインに携わっている。
  • 森口氏にとってのデザイン思考とは、ユーザーが製品に求める体験を突き詰め、いかに提供できるのかを考えること。
  • キッズケータイやLIFEBOOK TH Seriesで、そのデザイン思考を具現化した。


プロダクトデザイナーは、色や形状をデザインするだけではない

——— 森口さんはデザインセンターでプロダクトデザイナーとして活躍されていると伺いました。現在の業務についてお教えください。

森口: 所属は「デザインセンター プロダクトデザイン部」で、プロダクトデザイナーとして業務に携わっています。2003年頃から富士通に出向という形で勤務しており、携帯電話のデザインを長く担当していました。当初はNTTドコモの「FOMA」が全勢の時代で、女性向け、子ども向けとさまざまな種類の携帯電話を手掛けました。2017年に富士通に転職しています。

富士通に移ってからは、富士通クライアントコンピューティング(以下、FCCL)が開発するコンシューマー向けのパソコンを担当しています。たとえば、「LIFEBOOK UH Series」の世界最軽量モデルである初代機を担当しました。今は、A4サイズ(15~17インチ)のパソコンを主に担当し、チーフデザイナーとしてデザイン設計を行なっています。

また、FCCLではパソコン以外の分野の製品も作っていこうという動きがあり、平行して新規事業にも携わっています。パソコン分野同様に、色や形状といったデザイン工程だけでなく製品の企画(上流)からプロモーションまでの全工程に参加することが多いですね。具体的には、「UXリサーチに基づいた企画立案の支援」「それに基づいたデザインアウトプット」「製品を仕上げる量産化フェーズでの支援」、さらには「製品プロモーション」に至るまでです。新規事業に関わる皆と一緒に日々奮闘しています。



ユーザーはどんな体験を求めているのか、徹底したユーザー目線

——— 富士通は時田社長のメッセージにもある通り、全社員が自身の仕事にデザイン思考を取り入れることを目指しています。森口さんが考えるデザイン思考についてお聞かせください。

森口: 仕事においては、「人を中心に考えること」を大切にしています。取り扱う製品やサービスによりユーザーは異なりますが、“人”であるということにかわりはありません。それ故に、その人がどう使いたいのか、課題は何か、どう解決できるのか?つまり、ユーザーが製品やサービスにどのような「ユーザー体験」を求めているのかを突き詰めていく必要があります。

その体験をいかに提供できるのかを“考えること”が、私の仕事にとってのデザイン思考であり、それを“実現するための手法”がデザイン思考の具現化だと捉えています。

キッズケータイ

——— 森口さんが手掛けたキッズケータイや今担当しているパソコンを例にすると、どのようにデザイン思考が生かされたのでしょうか。

森口: キッズケータイというと、真っ先に「子ども向けのかわいいケータイ」が思い浮かぶかもしれません。もちろんそれも重要ですが、そのイメージはあくまで見た目に過ぎず、本質的な部分ではありません。そのため、まず本質的な部分を捉えるために、「どんな子どもが使っているのか?」「使っている時間帯は?」「どのような扱い方をしているの?」「使用に関する親の意向は?」といった観点で、オブザベーション(観察)やリサーチを行いました。

たとえば、子どもがアクティブに使って塗装が剥げてボロボロになったキッズケータイ。親が求めるかわいいデザインや色と、子どもが求める「青がいい」「ピンクがいい」といった、シンプルな欲求とのギャップなどの気づきなど。形状については、子どもに粘土を握ってもらって検証を続けました。

キッズケータイの開発・調査過程

そのような気づきを重ねていくと、求められている製品価値が見えてきます。そこから「6年間安心して使える」というコンセプトを導き出し、色は余計な要素を入れずに単色とし、小学校1年生から6年生ぐらいまでの手の成長を見据えた形をベースにしました。その要素を量産品に落とし込んで製品化したのが、塗装レスで傷がついても目立たないキッズケータイだったんです。

——ユーザーはあくまで「子ども」であり、子ども視点の体験を大切にされたのですね。パソコンではいかがでしょうか。

LIFEBOOK TH Series

森口: パソコンでは、「LIFEBOOK TH Series」ですね。これまでの家庭用パソコンは機能・スペックを重視していましたが、この製品は「パソコンの在り方・使い方」といった根本的な部分からユーザー目線で設計しています。まず、企画段階から開発メンバーと共に、本質的なニーズや求められる領域について、調査やオブザベーションの結果をベースに整理を行いました。その中で、「本当はリビングに出しておきたいが、大きくてずっと出しておくのは嫌」「片づける場所が無い」「毎回使うときにACアダプターを接続するのが手間」など、使い方の部分でのネガティブな部分が多く見えてきたんです。

LIFEBOOK TH Series

じゃあ、どんなPCがいいのか?そこで創出したコンセプトが「サッとパッと」です。いつでも好きな時にサッと使えて、生活の一部に自然と溶け込むようなパソコンを作ろうと。そこからはコンセプトを軸に、さまざまな使い方を想定したデザインアイデアや、技術部との構造検討など、製品化に向け一丸となって開発を進めました。さらに、プロモーションにおいても、キャッチコピーや店頭展示、WEB広告、カタログなどもデザインセンターで作成・支援を行っています。ユーザーのことを考えて創出したアイデアを軸に、ぶれることなくチーム一丸となって製品化、そしてそれをしっかりとユーザーに伝えることができました。そしてこれは、私の考える「デザイン思考」が体現されたプロジェクトだったと思います。


ページの先頭へ