「こそだてベース」が実現した、当事者とそれを取り巻く人たちとのやわらかなコミュニケーション

「こそだてベース」が実現した、当事者とそれを取り巻く人たちとのやわらかなコミュニケーション



掲載日 2023年8月17日

「Fujitsu版 こそだてベース」は2023年春にローンチした社内限定のオンラインでのつながりの場です。社内のパパママ同士が困りごとを共有したり無理のない範囲で相談に乗ったり、tipsを共有するなど、出産・産休/育休・子育てなどをテーマに、情報交換やコミュニケーションを重ねています。
デザインセンターの有志と人事部門(両立支援チーム)メンバーによるこのプロジェクトは、互いの部署での取り組みを持ち寄り大きく育てたものです。
なぜ始まり、どのように広まったのか、発起人であるデザインセンターのあべ木、田中に話を聞きました。

インタビュイープロフィール
デザインセンター ビジネスデザイン部 デザイナー

  • あべ木 緑
  • 田中 真依

部署名・肩書は取材当時のものになります。


コロナ禍で変わった、働き方と生き方

育児と仕事の両立には、様々な困りごとや苦労がつきもの(イメージ)

富士通では、コロナ禍以前からテレワークやフレックス勤務などの制度があり「女性が働きやすい会社 第1位」(2017年 東洋経済オンライン)に選ばれるなど外部から高い評価を受けていました。
一方、そういった社内制度の認知や利用が十分ではないという指摘もあり、更に2020年に始まったコロナ禍をきっかけに、会社全体がテレワーク勤務に移行、それまでの働き方がダイナミックに変わりました。Teams(チャットツール)やViva Engage(社内SNS)といったオンラインのコミュニケーションツールが奨励され、遠隔勤務も認められます。働き方と生き方の自由度がぐっと高まり、介護や子育てなど家族へのケアが必要な従業員にとっては、おおむね歓迎すべき制度変更でした。

一方、テレワーク下のコミュニケーション、チーミングの難しさが指摘され始めたのもこの時期です。
とりわけ時短勤務で忙しい従業員にとって、雑談やコミュニケーションの機会の減少により孤立しやすい状況となっていました。富士通社内では社内SNSであるViva Engageの利用が活発で、すでに子育てに関するコミュニティもありましたが、Viva Engageは実名利用が原則です。妊娠・出産や育休といったプライベートな、かつ場合によってはセンシティブな相談や雑談の場としては心理的なハードルを感じる人もいたかもしれません。


育児当事者と周囲の人に橋を架けて、互いに理解しあう場所を作りたい

こうした状況の中、デザインセンターでも自主的な育児コミュニティの運営が始まりました。きっかけは約2年前。ビジネスデザイン部のあべ木の研究活動です。当時の研究テーマは「時短勤務の働きやすさの向上」でした。

「学生のころから、子育てとキャリア形成のバランスについて興味がありました。また、富士通では子育て中のメンバーと一緒に仕事をすることも多いのですが、彼らが育児を理由に仕事を調整したときなど、しばしば申し訳なさを感じながら仕事をしていることに気づいたこともありました。
私には子どもがいませんが、自分の状況はひとまず置いておいて、子育て中のパパやママとその周りのメンバーが互いに理解しあってより気持ちよく働ける環境を作りたいと思ったのが立ち上げのきっかけです。
加えて『子育ては自分の選択でしていること』という見方があるため、困りごとや悩みを当事者から積極的に発信しづらいことがある、という話を聞いたことがあります。当事者ではない私の立場だからこそ、子育てしている人とそうでない人をつなぐ活動ができるのではと考えた点もきっかけとしては大きかったです」(あべ木)

育児当事者ではない自分だからできることがある、と考えたあべ木は、まず実態を知るために育児中の同僚やその上司にヒアリングを実施しました。そこから、育児当事者は初めての育児と仕事の両立に苦労していること、一方、上司や同僚など周囲のメンバーは、育児中のメンバーの苦労が想像できないためフォローが難しい、というそれぞれの状況が分かってきました。また、オフィスワークの頃にはあった、ランチでの会話や隙間時間の雑談がテレワーク環境でなくなってしまい、互いの状況が把握しづらくなっているということも影響しているようでした。
そこから、子育ての当事者同士で気軽に情報共有できること、その情報が後からでも見られること、かつ子育て中ではない人も子育て中の人にどんな悩みがあるのか理解できる場所があること、この3つが必要だとあべ木は考えました。

「テレワークでみんなの考えていることや困りごとをお互いに言い出しにくい状況がある中で、お互いに相談しあうことで少しだけでも肩の荷を下ろせるような場があったり、つながりやコミュニティが広がっていく機会があるといいなと思いました」(あべ木)

次にあべ木は育児コミュニティを展開するにあたり、デザインセンター内のTeamsで子育て当事者の参加を呼びかけました。同じビジネスデザイン部の田中があべ木の呼びかけに応えましたが、田中もまた、育休から復帰した当時はメンバーとのコミュニケーションに悩んだ時期があったと言います。

「富士通のリモートワークやフレックス制は子育て世帯には嬉しい制度です。一方その分コミュニケーションの機会が限られるという側面もありました。『こそだてベース』のような気軽に情報交換したり、ゆるやかに支え合う場ができることで、安心感や雑談できる空気感が生まれていくといいなと思います」(田中)

オンラインホワイトボード上に作成された、『こそだてベース全体図』。主に4つの島からできている。1,育児情報ポート:育児に関する相談先・社内リンクなど、2.こそだてTIPSアイランド:子育てと仕事の両立に関するTIPSを集めたエリア、3.パパママヴィレッジ:自分と近い立場のパパママとのコミュニケーションを生むエリア、4.救いの秘境:「みんなどうしているか気になる!」そんな質問を匿名で投げかけできるエリアオンラインホワイトボード上に作成された「こそだてベース全体図」、主に4つの島からできている

デザインセンターから全社へひろがる「こそだてベース」の輪

デザインセンターの有志で小さく始めた育児コミュニティ。当初は3つの施策を実施しました。

1:デザインセンター内のTeamsに「育児チャンネル」を開設。雑談チャットで子育てtips、悩み、時事ネタなどを気軽に話せる場を作りました。
2:デザインセンターのMiro(オンラインホワイトボード)に「Design Center こそだてベース」を開設し、時間にとらわれない情報交換が可能になりました。
3:2か月に1度、オンラインの情報交換会を実施。2.の「Design Center こそだてベース」を見ながらテーマを持ち寄り情報交換をしたり、フリーテーマで雑談をするなど、テレワーク環境で難しくなった「ちょっとした交流の場」を作りました。

当初は参加メンバーをデザインセンター内に限定していましたが、活動開始から1年経過したころから、あべ木と田中はこの取り組みを富士通全体に拡大したいと考えます。

「育児コミュニティの取り組みを社内全体に広めたいと考え、まず人事部門に相談を持ち掛けました。すると、人事部門でも育休に関する情報提供や制度の認知拡大に課題感を持っていて、すでに育休プランアドバイザーなど実験的な取り組みも始まっていました。この育休プランアドバイザーについては利用者の評価も高かったのですが、相談者が欲しいアドバイスのニーズとアドバイザーの知見や経験にミスマッチが生じることから、人事部門での対応に閉じずに、社内の経験者に広く相談できる場にできないかと考えていたと伺いました。

私たちデザインセンターの取り組みは『当事者同士がやりとりして不安や悩みを解決する』ものです。人事部門の方にこの仕組みを紹介したところ評価いただいて、デザインセンターと人事部門(両立支援チーム)が協力して、『こそだてベース』を全社版に拡大することになりました。

人事部門発の情報も、社員が持つ育児のtipsも同じように『こそだてベース』に掲載・共有ができます。情報の発信者、利用者の両方にとって使い勝手のいい場所になりそうだという判断です」(あべ木)

「Design Center こそだてベース」はプラットフォームを全社員が利用できるMicrosoft Whiteboardに移し「Fujitsu版 こそだてベース」として2023年5月にオープンしました。この「Fujitsu版 こそだてベース」はViva Engage(社内SNS)の育児コミュニティでも紹介され(ちなみにこの育児コミュニティも943人(2023年6月現在)が参加しており、人気コミュニティの一つとなっています)活動の輪は徐々に広がり始めています。
積極的なキャンペーンは行わず、ユーザーの自主的な流れに任せていますが、徐々に利用者も増え登録者同士の交流も始まっています。

登録者同士の交流。付箋を使って匿名で、先輩ママパパに質問ができる

富士通社内には、Viva EngageやTeamsなどオンラインでのさまざまなコミュニティが存在し、それぞれ自分たちのペースで成長しています。
「こそだてベース」もひとりの社員のアイデアをきっかけに1年余りの実践を重ねた後、会社全体にフィールドを移し、部署を超えたより多くの人をつなぐ場になりました。
子育て世代が育児と仕事の両立で悩む期間は、きっとそれほど長くはありません。しかし、こういったつながりの温かさや嬉しさを重ねていくことは、互いの生き方を尊重する文化、多様性や自主性を重んじる社内風土をはぐくむ一助になるのではないでしょうか。


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