「いつまでも自分に満足はしないかもしれない」富士通の若手デザイナーが見据える未来

「いつまでも自分に満足はしないかもしれない」富士通の若手デザイナーが見据える未来



掲載日 2021年9月27日

富士通株式会社(以下、富士通)のデザインセンターは、富士通が提供する多様なサービスやプロダクトのデザインを担い、また富士通全社に向けてデザイン思考を浸透させる活動を行う、富士通のデザイン部門です。そこではどのようなデザイナーが働いているのでしょうか。

岩井宗一郎氏は2018年に新卒でIT系の企業に就職し、2020年に富士通に転職。移動にためらいのある方々のためのアプリデザインなどさまざまなプロジェクトに携わっています。前職での業務や、現在の仕事内容、仕事へのこだわりは…などの点について聞きました。

記事のポイント

  • 車いすユーザーなど移動にためらいのある方々向けアプリの画面デザインを行う
  • UIデザインにおいて重要なのは「実装可能なデザインを提案すること」
  • 扱えるスキルが増えれば視座も上がり、その分新たな課題も見つかるので、デザイナーとしての自分に満足することはない

どんな障がいを抱えている方でもわかるUIをデザインする

岩井 宗一郎氏
デザインセンター フロントデザイン部所属(2021年5月時点)

——— 岩井さんは前職ではどんな仕事をされていたのですか?

岩井: 新卒でWebやアプリの制作を行う小規模な制作会社に入り、2年半ほど働いていました。担当は主にUIデザインでしたが、ロゴデザイン・プロモーションビデオ作成や、コーディングなどにも携わっていました。

富士通への転職のきっかけは色々あるのですが、富士通で働くインハウスデザイナーの想いや人となりを紹介する「FACE」はその中でも大きかったです。私は、良い作物は良い土壌でないと育たないように、良いクリエイティブには良い組織が必要だと考えています。良い組織というのは、メンバーのひとりひとりが精神的な余裕を持っていて、気兼ねなくお互いのことを話せます。「FACE」からはそんな良い組織の雰囲気が感じ取れ、富士通に強く惹かれました。

——— 岩井さんの具体的な仕事内容について教えていただけますか?

岩井: 私はデザインセンターのフロントデザイン部に所属し、アプリやサービスのUI/UXデザインの仕事に携わっています。たとえば最近は、何らかの理由で移動にためらいのある方々(移動躊躇層)が快適にストレスなく移動を楽しめるサービス「Universal MaaS~誰もが移動をあきらめない世界へ~」(以下、「ユニバーサルMaaS」)のスマートフォン用アプリのUI設計を行いました。これは、全日本空輸株式会社(以下 ANA)、京浜急行電鉄株式会社、横須賀市、横浜国立大学が共同で開発を行っているもので、デザインセンターはANA様から当アプリのデザインについてご相談いただき、プロジェクトに参画しました。

移動にためらいのある方々の中でも、主に車いすユーザーの方は街中にいろんなバリアがあります。特に、公共交通機関での移動。彼らは外出の際、乗り換えのために「何時に行くから手伝ってほしい」と自ら補助を手配する必要があります。その煩雑さは彼らに外出を躊躇させる大きな要因の1つです。

こうしたユーザーの課題に対し、「ユニバーサルMaaS」は移動とそれに関する手配情報を一元化して表示し、移動にためらいのある方々が街に楽しく出られるようにするアプリです。UIデザインでは、ユーザーが乗り継ぎ等のスケジュールを組む過程を、まるで「旅のしおり」を作るように楽しめることを心がけました。また、背景色とボタンやテキストなど各要素とのコントラストを大きく取るなどのカラーユニバーサルデザインを意識し、様々な方が使いやすいデザインを設計しました。



デザインをデザイナーの夢物語にしない

——— 岩井さんが所属しているフロントデザイン部はどのような部署なのでしょうか。

岩井: フロントデザイン部は、主に富士通の営業とともに社外のクライアントのサポートをする部署です。サービスデザインやビジョンづくりをメインに、UIデザインやプロダクトデザインも行います。チーム内にはいろいろなプロジェクトが走っているので、アウトプットは案件によってさまざまです。フロントデザイン部が扱う多くのプロジェクトは、実装の部分で参加するというよりはむしろ、価値ベースで「ユーザーの体験」を提案しています。

——— 岩井さんが担当されている仕事領域で重要だと思っていることを教えてください。

岩井: これは当たり前なことなのですが、UIデザイナーの仕事で重要なのは「実装可能なUIデザインを提案する」ことだと思います。実装知識が少ないデザイナーは実現しないデザインを作ることがありますが、それでは夢物語になってしまいます。きちんと実装知識がある人とコミュニケーションを取って、実現可能なものを作ることが大事だと思っていますね。一見、実現不可能なデザインが革新を生むこともあるのですが、ことUIに関してはそういったケースは少ないと思います。これまでの技術の延長線上にあるものを作ることが、まずは基本です。

また、実装知識を付けることは、コストを下げることにも繋がります。たとえばHTMLを装飾する技術であるCSSでは、「複数の子要素の中で、n番目の子要素だけスタイルを変える」という指示が出せるセレクタがあったりします。このような細かい技術面の話をデザイナーが知っていれば、逐一実現できるかを確認したりする工程はなくなっていき、コミュニケーションコストも削減できます。実装知識を付けていくとルールが一貫され、UIも洗練されていく印象がありますね。



ユーザーを第一に考えたデザイン

——— 岩井さんが仕事の上でこだわっていることは何でしょうか?

岩井: ユーザーにメリットがないデザインはしたくないと思っています。あくまでデザインは使う人のものであり、ビジネス都合や実装都合で悪い体験を提供したくはないですね。納期が短いとか、予算が不足しているとか、制作側にもいろいろな事情はありますが、アプリはあくまでユーザーさんが使って幸せになるためのものです。制作側の都合でユーザーに価値を提供できないのは良くないな、という気持ちでいます。

たとえば、「ユニバーサルMaaS」のプロジェクトでも、「本当に車いすユーザーの方々のためになるのは何なのか」を何度もディスカッションしました。限られた時間と予算の中ですが、機能的にも既存の乗り換えアプリと同じにしたくない、楽しい体験を提供したいと取り組んだ結果、それが実現したと思っています。これからもデザイン思考を以ってユーザーへのメリットを追求していきたいです。

——— 最後に、岩井さんがデザイナーとしてこれから挑戦したいことを教えてください。

岩井: 私は社会人4年目でまだまだ未熟なので、早く一人前になることが目標です。ただ、デザイナーとしての自分に満足するタイミングは、ひょっとしたら来ないかもしれませんね。いつまでも自分はまだまだと思い続けるんじゃないでしょうか。

今はUIデザインというレイヤーで仕事をしていますが、スキルや経験を得るとともに今後、視座も高まっていくと思うんです。視座が高まると、デザインチームの枠を超えて組織やビジネス全体に意識が向いていきます。そうなると今見えているものとは違う、さらに大きな課題が見えていくと思います。ということはいつまでも挑戦し続けなきゃいけないということだし、苦しいことも楽しいことも尽きないんじゃないかなと思います。

■データ

  • 所 属 :デザインセンター フロントデザイン部(2021年5月時点)
  • 入 社 :2020年
  • 出身大学:千葉大学工学部デザイン学科
    同大学では、サービス・グラフィック・UI・プロダクトなど、様々な分野のデザインを学ぶ
  • 趣 味 :お笑い、バンド、散歩、銭湯
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