福祉と教育の垣根をなくし切れ目のない発達・教育支援をサポートするINCLSS®がIAUD国際デザイン賞銀賞を受賞

福祉と教育の垣根をなくし切れ目のない発達・教育支援を
サポートするINCLSS®がIAUD国際デザイン賞銀賞を受賞



掲載日 2022年4月18日

2005(平成17)年に発達障害者支援法が施行され、全国の自治体が発達障がい者を支援するため様々な取り組みを行っています。中でも先進的に取り組んでいる東京都日野市と、株式会社ワイ・シー・シー、富士通が開発したのが、「発達・教育支援システム」です。これを整備してパッケージ化した「INCLSS(インクルス)発達・教育支援システム」(以下、INCLSS®)*注1 が、一般財団法人 国際ユニヴァーサルデザイン協議会(以下、IAUD)*注2 が実施するIAUD国際デザイン賞2021において、銀賞を受賞しました。このプロジェクトに携わった3人に話を聞きました。


  • *注1:INCLSS
    障がいのある人もない人も共に学んでいく『インクルーシブ教育(英語: Inclusive Education)』のInclusiveとライフステージを通じた切れ目ない支援(Continuous Life Stage Support)から造語として『INCLSS』(インクルス)と名前付けられた、株式会社ワイ・シー・シーの商標です。
  • *注2:IAUD
    「ユニヴァーサルデザイン(UD)のさらなる普及と実現を通して、社会の健全な発展に貢献し、人類全体の福祉向上に寄与すること」を基本理念として活動しています。その活動の一環として、民族、文化、慣習、国籍、性別、年齢、能力等の違いによって、生活に不便さを感じることなく、“一人でも多くの人が快適で暮らしやすい”UD社会の実現に向けて、特に顕著な活動の実践や提案を行なっている団体・個人を表彰する「IAUD国際デザイン賞」を実施しています。

インタビュイープロフィール

  • 深沢 賢 氏 : 株式会社ワイ・シー・シー 営業グループ 営業部
  • 一條 秀司 : 富士通株式会社 ソフトウェアプロダクト事業本部 パートナーソフトウェア統括部
  • 葛島 健司 : 富士通コワーコ株式会社 営業推進統括部 営業推進部

部署名・肩書は取材当時のものになります。

福祉と教育の垣根をなくした切れ目のない支援を目指して

発達障がいとは、広汎性発達障がい(自閉症、アスペルガー症候群などを含む総称)、学習障がい(LD)、注意欠陥多動性障がい(AD/HD)等を指し、コミュニケーションがうまく取れないなど支援を必要とすることがあります。文部科学省の調査によると、全国の公立小学校の通常学級に在籍する児童生徒のうち、発達障がいの可能性のある小中学生は6.5%に上ります。

これまで、保育園・幼稚園、小学校、中学校、高校と支援対象者の所属が変わる際、支援の履歴や情報が途切れてしまうことがあり、課題となっていました。また、出生から就学までは市長部局(児童課、福祉課など)、小中学生の間は教育委員会(文部科学省)、公立高校に進学すると都道府県というように、ライフステージによって管轄が福祉と教育の2つの組織で変わり、情報共有や一貫した支援がスムーズにできないことも課題でした。

これを解消するため、東京都日野市では「かしのきシート」を導入。「かしのきシート」とは、子どもの出生時から18歳までの成長の様子や支援内容を1年ごとにシート化し、進学・就労先に引き継いでいく支援計画書です。これにより、関係機関が連携して切れ目なく一貫した支援方針で子どもをサポートすることができるようになりました。

日野市「かしのきシート」の導入例

2014(平成26)年4月には、支援を必要とする子どもとその保護者の総合的な相談・支援機関、「日野市発達・教育支援センター エール」(以下、エール)が開設されました。窓口を一本化し、福祉と教育が一体となって継続的に支援する仕組みは、先進的な取り組みとして全国で注目されています。このエール開設にあたり、かしのきシートの電子化が検討されました。

株式会社ワイ・シー・シー(以下、YCC)の深沢 賢 氏は、「富士通パートナーである当社は、日野市でネットワークインフラの構築、富士通のパッケージシステムの導入などに携わっており、日野市とお取引がありました。かしのきシート電子化の相談をいただき、入札を経て当社と富士通が発達・教育支援システムを開発することが決定しました」と当時を振り返ります。
それまでは、小学校や中学校に入学する際に、保護者が紙のかしのきシートを次の学校に持って行き説明する必要があり、保護者の負担が課題でした。また同じシートを利用していた市では、様々な様式の大量の紙の管理に手間がかかっており、電子化が急務でした。

当時、株式会社富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ(以下、富士通SSL)で開発に携わった葛島 健司は、「富士通SSLがYCCとともに市の職員にインタビューをして要件定義を行い、プロトタイプを確認してもらいながら構築を進めました。これは、文部科学省の補助金をうけた研究事業プロジェクトです」と説明します。

特に苦労したのはセキュリティです。葛島と同じく当時富士通SSLで開発や商品化に携わった一條 秀司はこう振り返ります。「日野市と教育委員会という別の組織を接続するため、また市内の私立幼稚園・保育園と接続するために、専用回線ではなくインターネット(公衆通信網)を利用することになりました。当然、個人情報を扱うためセキュリティには万全を期さなければなりません。要件を満たすために当社が取り扱いをしていなかった製品を探して、実装しました。調査、確認、テストなどは大変でしたが、疑問や不具合を一つずつ解決しながら構築しました」

「データ基盤にはFUJITSU Hybrid IT Service FJcloudを採用し、VDN(仮想デバイスネットワーク)とVDI(仮想デスクトップ)の環境を構築して、パソコンには一切情報を残さない仕組みを作りました。USBメモリなどへのコピーもできないよう保護されています」(深沢氏)

このような対策を講じ、エール開設から約半年後に、発達・教育支援システムが本稼働しました。



発達・教育支援システムをベースにINCLSS®としてパッケージ化

日野市の発達・教育支援システムには、対象者ごとのカルテのような個別支援計画、教育支援計画を管理する機能、および「心理相談」「言語相談」「就学相談」「各種個別指導」など各種相談をカテゴリーごとに管理する機能があります。現在は、エールと全ての市立幼稚園・保育園、市立小中学校だけでなく、私立の幼稚園・保育園も含む72拠点と接続し、どこからログインしてもリアルタイムで最新のデータを確認できます。紙のシートは廃止され完全なペーパーレス化を実現しました。

保護者にも好評で、「何度も同じ説明をする必要がなくなりありがたい」、「関連部署で適切に情報共有をして支援に役立てて欲しい」といった声が挙がっています。また、職員からも、「福祉と教育の垣根をなくすことができた」、「瞬時に検索できるので負荷が減り、紙の保管場所も不要になった」など高い評価を得ています。

日野市のエールを視察した千葉県市川市の「こども発達センター」でも、同システムを導入しました。「手作業による負荷が今までの半分に減った」などの評価を得ており、児童相談所のシステムとの連携も実現しています。

発達・教育支援システム INCLSS®のイメージ

「日野市、市川市のシステムをベースに、1年ほど前にINCLSSとしてパッケージ化しました。紙の個別支援シートで管理している自治体は多いのですが、電子化できずに困っているという話をあちこちで伺いました。INCLSSは、発達・教育支援システムの初のパッケージ製品だと思います」(深沢氏)



INCLSS®の機能拡張により、さらに効率的な支援が可能に

深沢氏は「多くの自治体からINCLSSの問い合わせをいただいており、2022(令和4)年度には導入実績も増える見込みです。今後は、相談のスケジュール管理、相談室などの施設予約管理の機能を拡張予定です。またさらにきめ細かい統計が取れるように改善し、レポート作成業務の省力化やより効果的な支援・指導に役立てていただければと考えています」と今後の展望を語っています。

最後に皆さんから受賞の感想を聞きました。
「数年前、聴覚障がい者の方と健常者のコミュニケーションツールであるLiveTalkのデモをしたことがあります。その時、聴覚障がい者の方が非常に興奮されて、とても速い手話で感想を述べていらっしゃったのが強く印象に残っています。『ITはこんなふうに役に立てるんだ』と実感した瞬間で、この体験は今回のシステム開発の原動力の一つです。INCLSSは、富士通のパーパス『イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと』にも通じるシステムではないでしょうか。INCLSSがさらに発展し、多くの方の役に立てることを期待しています」(一條)

「私は富士通SSLに入社以来、30年近くITで社会に貢献できる仕事がしたいと取り組んできました。今回、福祉分野のフロントデザインを担当している富士通デザインセンターの社員の助言で、IAUDに応募しました。INCLSSが銀賞を受賞し、このシステムだけでなく当社の社会貢献の活動も認めてもらえたようで嬉しく思います。またこの受賞が、これからのYCCさんの活動の弾みになると良いですね。私も何か別の形でも、社会貢献に取り組んでいきたいと考えています」(葛島)

「YCCとしても、社会貢献は会社の理念の一つです。引き続きINCLSSを通して、インクルーシブなシステムで社会に貢献できるよう取り組んでまいります」(深沢氏)

現在は、中学を卒業した対象者が高校に進学する際には、必要な書類を印刷して進学先に引継ぎをしています。引っ越しなどで転校する場合も同様です。深沢氏は、「将来的には、都道府県内で所属が変わってもシームレスな支援が続くように、都道府県全体でデータ連携ができる仕組みも検討していきたい」と語っています。今後もINCLSSは進化を続けながら、全国の子どもたちにより良い支援が届くようサポートを続けていきます。

INCLSS®発達・教育支援システム
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