hakarunoクラウドファンディング

掲載日 2018年6月11日



イノベーションは「発明」ではなく「普及」【座談会】

2018年2月6日、クラウドファンディングサービス「Makuake」においてIoTメジャー「hakaruno(ハカルノ)」のサポーター募集が始まりました。「フリマ、アパレル店舗の売上アップを支援する」というhakarunoは「測って記録する」という行動を自動化してくれるIoTサービス。デザインセンターが、株式会社プライムキャスト様(本社:東京、代表取締役:青木義行、以下、プライムキャスト)、富士通コンポーネント株式会社(本社:東京、代表取締役社長:近藤博昭、以下、富士通コンポーネント)と共同で開発し、普及に努めています。今回は開発メンバー4名に、Makuake出品までの経緯についてお話を伺いました。
(聞き手:デザインセンター 三柴加奈子)

この記事は、クラウドファンディングの実施期間中に行ったインタビューを元に作成しています。2018年5月7日に終了したクラウドファンディングの結果は無事目標金額を上回り、IoTメジャー「hakaruno」は製品化に向け新たなステップを踏み出しました。

「測る」は日常的な行為だからこそIoTでサービスにできる

——— 「hakaruno」開発チームの皆さんにお集まりいただきました。まずはプロジェクトリーダーである藤原さんからチームメンバーを紹介してください。

藤原: IoTメジャー「hakaruno」は、ハードにあたる「メジャーと計測部」、ソフトにあたる「スマホアプリ」で構成されます。チーム編成上の役割でいうと、ハード機構の設計を富士通コンポーネントさん、ソフト(アプリ)開発をプライムキャストさんに担当いただきました。デザインセンターはプロジェクト全体の牽引役と、ハード・ソフト両面のデザインを担当しています。

hakaruno開発メンバーの皆さん。左からデザインセンター 木内美菜子、藤原和博、プライムキャスト・最首睦さん、富士通コンポーネント・中村昭夫さん

——— そもそもなぜこのサービスが生まれたのでしょうか?

藤原: 2年くらい前、私がカスタムメイドやオーダーメイドのシーンにはIoTのニーズがありそうだなとぼんやりと思ったのが始まりです。ソリューションを考えるにあたり、当初は3次元スキャニングなどを考えました。メジャーを作るつもりなんてさらさらなかった。

でも実際にアパレル業界の方に話を聞くと「(3次元スキャニングは)あまりうれしくない」。人間の体は丸みを帯びていますから、3次元スキャニングなどではおおざっぱにしか測定できないらしいんです。そのとき「メジャーで測る」という日常的な行為が、いかに優れたものなのかを思い知らされました。それがhakarunoのスタートでした。

——— プライムキャストさんは唯一「富士通グループ外」からの参画ですね。

藤原: 大規模なシステム開発案件ならグループ内でもできると思いますが、今回のようにスマホアプリを最初から設計・開発するというような案件に対応できる部門は少ないのが実状で、過去の案件で関わりのあったプライムキャストさんにお声がけした次第です。

最首: 当社は1998年に設立したベンチャーで、主にはソフトウェア開発、スマートデバイスアプリ開発、ウェブサイト・デジタルコンテンツ制作を行う会社です。今回のプロジェクトでは、ハード(IoTメジャー)と連携するアプリ側の開発を担当させていただきました。

株式会社プライムキャストの最首睦さん

——— 開発したアプリについても少し解説いただけますか?

最首: hakarunoは、フリマやオークションサイトのユーザー、そしてアパレル店舗のスタッフさんをターゲットに想定したアプリです。IoTメジャーでの採寸データをスマホで撮影した画像に追記できる機能と、アパレル店舗でオーダーメイド等の伝票フォーマットに保存できる機能を備えます。

わりと初期の段階から、藤原さんが半田ごてを使って試作機を作ってくれていたので、計測したデータをアプリ側で受け取り、適正に画面表示できるよう、その場その場で小出しに開発していったプロジェクトでしたね。現行のアプリはまだ試作段階のもので、今後改善していくし、対応できるOSの幅も拡げていくつもりです。

試作段階のhakarunoスマホアプリ。写真はアパレル店舗の伝票記帳の利用シーンを想定したもの。
首・袖丈・胸囲・腹囲・腰回りなど、計測データを直ちにアプリ側で受信できる

自動化のキモは「3色6列」の配色パターン

——— 一方のハード側には富士通コンポネートさんが参画。そもそも、「hakaruno」がセンサーで数値を読み取ることができるのはなぜなのでしょう?

藤原: 実際にご覧いただくとわかると思いますが、(IoTメジャーを取り出し)裏側に青・黒・白の3色6列のパターンが印刷されていますよね(写真)。この配色パターンが、数値を読み取るときの肝なんです。

メジャー裏側に施された3色6列の配色パターン。ちなみに「Twitterなどで『(川崎)フロンターレカラー!』なんて言われているようですが、それはたまたまです」(藤原)とのこと

中村: 少し専門的な話をすると、本体計測器(写真・黒色の装置)には受信部・送信部を備えるフォトリフレクタ(光センサー)が内蔵されています。送信部からの光の反射を受信部が受け取り、電圧変化を読み取って数値に置き換え、Bluetoothでスマホアプリにその数値を転送するしくみです。アパレルで使われるテーラーメジャーと同じ「最長150cm」まで、同じ配色の組み合わせがありません。よって、「0.5ミリ単位の計測」が可能となります。

富士通コンポーネント株式会社の中村昭夫さん

——— 同じ配色パターンをつくらない!そこに行き着くまでにはなんだか途方もない検証が伴いそうです。

中村: 実際その通りでした(笑)。最初のうちは色と色の境目の部分で別の色を認識したりして、数値を読み間違えることが多かった。修正までにはひと苦労ありましたね。

藤原: 1年前の今頃は、本当に計測値が実際の数値と合わなかった。3〜4カ月はその検証期間だったんじゃないかな……。数値が正しく読み取れなければメジャーの価値を果たせません。とても地味だけど大変な検証作業でした。

最首: 読み違えが多かったときは、アプリ側でも検証が必要でした。なにしろハードとソフト、どこに問題があるのかわかりませんでしたから……。

黒板消しサイズがマッチ箱に!?——測りやすさを追求した小型化への道のり

——— メンバー全員の頭を悩ませる検証作業だったようですね(笑)

藤原: 最終的には、富士通研究所の研究員の力も借りながら厚木の研究所に缶詰めになって検証を重ね、やっと問題が解消されました。

デザインセンターの藤原和博

中村: 試行錯誤はあったにせよ、プロジェクト設計段階から描いていた藤原さんの“筋”がとてもよかったとつくづく感じています。この方式最大の利点は省電力化。レンズでデータをスキャンするような方法もあるにはあるのですが、かなりの電力が必要ですから。

——— 計測部の小型化にも成功されたようで……。

藤原: 試作段階では黒板消しくらいの大きさだったんですよ。

中村: 藤原さんから計測部をもっと小型化できないか、なかなか厳しい要求もいただきますが(笑)、やり応えはありました。

藤原: 今の大きさで、これだけの精度にまで持って行けたのは富士通コンポーネントさんのおかげ。グループ内でできたことは、富士通の強みだと思います。

——— 「Makuake」で公開されているモックアップ(下写真)を見ると、またユニークなデザインをしていますよね。

木内: 試作段階よりも計測部はより薄型になっていますし、より計測しやすい工夫を施しています。そのためにアパレル関係の方々にヒアリングを重ねました。先端の透明部分のパーツでメジャーを抑えられるので、目盛りが見やすいんです。

中村: 我々だけではとても思いつかないデザイン。さすがデザイナーだと思いましたね。

改良を重ねて導き出された計測部のデザイン。透明部分でメジャーを抑え、かつ、目盛りが見やすいよう、機能面からデザインされているのが特徴だ

クラウドファンディングからの「想定外のオーダー」が広げる可能性

——— 木内さんはアプリのUIデザインなどを主に担当していたそうですが、藤原さんのプロジェクトマネジメント全般をサポートするシーンも多かったと思います。プロジェクト全体を通してどんなことを感じましたか?

木内: メジャーってもともと簡単に使えるものですよね。だからこそ、アプリを介することで「測る」という一連の行動に手間が増えてはいけないと思いました。ユーザーさんが「むしろ不便になった」とならないためのお作法は熟慮しましたね。

——— それが計測部のデザインにも現れたようですね。

木内: それと、当初は民間企業と契約するような流れを想定していたなか、ターゲットをコンシューマーへとシフトし、結果的にクラウドファンディングに出品することになったのですが、いざ「Makuake」に出してみると、ちょっと想定外の企業からの問い合わせがあったのは素直な驚きでした。

デザインセンターの木内美菜子

——— 例えば、どんな業界からの問い合わせが?

藤原: 運送会社などです。たしかに計測を自動化してくれる配送サービスがあったら便利ですよね。そうして想定外のお客様からお声がけいただけるのも、クラウドファンディングの意外な利点。出してみると開発側の我々が気づかなかったことを気づかせてくれるといいますか。

目標額は1千万円!あえて高いハードルで資金調達に挑む意義

——— そのクラウドファンディング出品について、もう少し詳しく教えてください。いろいろな試行錯誤の末、2018年2月にクラウドファンディングサービス「Makuake」でのプロジェクトがスタートしました。なぜクラウドファンディングだったのでしょうか?

藤原: 試作を進めていくなかで行き着いたアプローチです。社内的な調整を経て、結果的に富士通ブランドとして、またお客様向けのソリューションとして世に出していこう、となったのですが、量産体制を整えてから世に出すのはちょっと難しい状況でした。

——— そこでクラウドファンディングの話が持ち上がった?

藤原: 基本的にはそうですね。富士通のような大企業がクラウドファンディングに出すとなればテストマーケティング的な狙いがある場合が多いと思うのですが、今回に限れば資金調達が目的です。

——— 本来あるべきクラウドファンディングの目的ですね。そこに富士通が乗るのは珍しい事例かもしれません。今後、同様のアプローチが採られる可能性はあると思いますが、実際クラウドファンディングに出すにあたって注意しておいた方がよいことなどはありますか?

藤原: 1つには運営側である株式会社マクアケ様(以下、マクアケ)から要求されるそれなりの注文に応えていかなければならないという点でしょうか。こちらが想定もしていないような短期間で対応を求められることがあるので、それは覚悟しておいたほうがいい。

木内: 夜中にMessengerなんかでメッセージが飛んでくることもあって、結構あせりましたね(笑)。

藤原: ただ運営側のマクアケさんとしても、掲載したプロジェクト案件を成功させるためにそれだけ真剣になってくれているということです。サポーター(資金提供者)をより多く集めるため「こうしたほうがいい!」とさまざまな要望をいただくので、それに応える作業が思っている以上に出てくることは、覚悟しておいたほうがよいでしょうね。

——— そのあたり、デザインセンター外の2人はどのように感じましたか?

中村: 当社の場合はまったく初めての体験で、最初は「何かだまされているんじゃないか」と訝しがられる気配も感じましたが(笑)、デザインセンターのトップである上田さん(当時)がクラウドファンディング出品の意義を当社上層部にも説いてくださったので、それからはスムーズに進められました。

最首: うちもスマホアプリ開発は過去にもあったにせよ、クラウドファンディングに出すのは初めての経験でした。当社は代表を含めてすごく「アタラシモノ好き」なので、今回のプロジェクトもわりあい自分の裁量のなかで進められました。

デザインセンターが協業することになったプライムキャスト、富士通コンポーネントの2社も「クラウドファンディングは初めての経験」。得られた知見も多かったという

「8割くらいの具体性」——不完全なものを市場に問いかける利点とは

——— オーダーを受けてから開発を進めるのとは別のアプローチとして、クラウドファンディングを活用した意義は小さくないと思います。これからの富士通のビジネスの文脈で、プロジェクトの意義を総括いただけますか。

藤原: たしかにオーダーがあっての試作なのか、試作があってこそのオーダーなのか——そんな「ニワトリが先か、卵が先か」みたいな論点に行き着きがちですが、私は「どちらかを作ってしまえばビジネスは成り立つ」という考えです。今回の場合は、チームで試作を先にやってから、クラウドファンディングに行き着いた。そしてそこでオーダーを募っている、そんな流れです。実際、試作そのものはまだ「完璧」とはいえない状態です。

——— 一般的なビジネスと違う点もそこですし、開発者が躊躇しがちな点もそこです。

藤原: ファンディングや、製造・量産化の期間、デリバリー等々も考慮すると、サポーターのお手元に届くまでだいたい半年くらいの期間を要するでしょう。それを勘案すれば、現時点では「8割くらいの具体性」という感じ。でもそれでいい、と思っています。

——— 「8割」というのは気になる数値ですね。

藤原: 1割とか5割とかだと「本気度」が伝わらない。感覚的に8割はないと伝わらないと思います。いずれにせよ「完成度を高めてから世に出す」という既存のアプローチではなく、「不完全な状態でも市場に出してみる」というアプローチの利点は、それにより市場へ問いかけることができる点です。

クラウドファンディングがスタートする2月6日には記者発表会も開催された。
メディアからの注目を集めやすい点も、クラウドファンディングの利点といえる

——— でも、それこそが今のトレンドに合っているのかもしれませんね。

藤原: もう1点、それに関連して強調しておきたいのは、イノベーションは「発明」することはではないということです。「普及」させ、ユーザーに使っていただき、ちょっとでも社会が変わってこそのイノベーションではないでしょうか。

その点からいうと、クラウドファンディングというアプローチは時代の要請に沿っていると思いますし、富士通としてもクラウドファンディングとはもう無関係ではいられないと感じています。

——— 最後に、藤原さんから読者に向け、メッセージをお願いします。

藤原: クラウドファンディングを通して私たちが想像もしていなかったような企業から問い合わせいただくこともあります。ぜひともさまざまな方へhakarunoをご紹介いただいて、私たちの耳にそんな情報を届けてくれたらうれしいです。

まだまだ活用シーンは広がると思っていますので、新たなビジネスとして大きく成長させたいと思います!

——— 本日は皆さん、ありがとうございました。

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