モノづくりのプロ3社のコラボレーションで「想い」をカタチに!エキマトペ制作で広がったプロダクトデザインの可能性

モノづくりのプロ3社のコラボレーションで「想い」をカタチに!
エキマトペ制作で広がったプロダクトデザインの可能性



掲載日 2024年2月14日

駅のアナウンスや電車の音を、文字や手話、あるいはオノマトペとしてモニターに表現する装置「エキマトペ」。聴覚障がいがある方の鉄道利用が楽しくなるような体験を目指して、川崎市立聾学校の子どもたちとアイデアを出し合って開発しました。実証実験の第一弾は、JR巣鴨駅ホームにエキマトペの大型モニターを3日間設置。第二弾では、より多くの駅への設置を目的に第一弾を小型化し、JR上野駅ホームの自販機の上に半年間設置して反響を得ました。ハードウェア制作にあたっては、オウル・クラフトさん、浜野製作所さんに協力を仰ぎ、デザインセンター含め3社が連携。「生き物っぽい」をコンセプトに目を引くようなデザインを作り上げ、グッドデザイン賞をはじめ多くの賞を獲得しました。今回は第二弾エキマトペの制作秘話を3社に聞きました。

インタビュイープロフィール

  • 中島 秀樹さん
    FRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)で外枠の造形を担当。
    株式会社オウル・クラフト
  • 村井 佑綺さん
    基礎筐体の設計を担当。株式会社浜野製作所
  • 千崎 雄大
    エキマトペのデザインを担当。
    富士通デザインセンター エクスペリエンスデザイン部所属

部署名・肩書は取材当時のものになります。


「人にやさしいモノづくり」に共感、各社の専門を活かして協業スタート

——— 「エキマトペ」第二弾の目指す姿はどのように決めていったのですか?

千崎: まず、第一弾の実証実験の結果から、大画面で情報を大きく表示する有効性が確認でき、今回もぜひ大画面で表示したいとなりました。ただ、画面の設置場所を低くすると、視界に入りづらくなるというデメリットがあります。遠くからでもみんなの視界に入り、かつ情報を大きく表示したいと考えたときに、自販機の上のスペースが候補に挙がり、最終的に「駅のホームの自販機の上に55インチのモニターを置く」という条件で第二弾のデザインがスタートしました。試しにCG(AR)で自販機の上にそのサイズの筐体を置いてみたら、人によっては恐怖を感じるほどボリュームがあることがわかり…。「人にやさしいモノづくり」がこのプロジェクトのポイントなので、危険な印象は払拭したかった。また、エキマトペをより広く知ってもらうには第一弾を超えるインパクトが必要だと思ったので、フレンドリーで目に留まるようなデザインを目指しました。

さまざまな環境を想定しARで筐体のボリュームを把握

——— 浜野製作所さん、オウル・クラフトさんとの協業の経緯を教えてください。

千崎: 富士通社内で方向性が決まった段階で、筐体の基本構造を作っていただける会社を探し、関係会社の紹介で浜野製作所さんを知りました。訪問した際に、豊富な知見やスタートアップ企業への真摯なサポートを目の当たりにし、自分自身が学ぶことが多かったのを覚えています。ここなら安心してお任せできると思いました。

デザインセンター 千崎

村井: お話を伺った時は安全面から「できるかな?」と懸念しましたが、自分たちでもエキマトペを調べるうちに興味が膨らんでいきました。こういったプロジェクトのお話をいただくことは多々ありますが、実際に動き出すケースは稀です。しっかり予算を付け、完成まで持っていこうとする富士通さんの熱意に打たれました。

株式会社浜野製作所 村井さん

千崎: また、基本構造の機械的な印象を和らげるために、軽くて丈夫なFRPで作ったカバーを付けようと検討していました。以前からお付き合いがあったオウル・クラフトさんは自由度の高い造形が得意で、アミューズメント関連でのFRPの知見があることも伺っていたので、適任だと考えてお声掛けしました。

中島: 当社の仕事は、一般の方の目には触れないモックアップ制作がメインです。けれど、エキマトペは駅のホームに置かれるので多くの人に見ていただけて、かつ社会貢献度も非常に高い。こんなに喜ばれる仕事はまずないとモチベーションが上がり、「ぜひやらせてほしい」と二つ返事で引き受けました。

株式会社オウル・クラフト 中島さん

次第に芽生えた互いへのリスペクト、細部までこだわって世界観を表現

——— 3社がどのように連携し、デザインを形にしていったのですか?

千崎: 浜野製作所さんにお声がけした段階では、「生き物っぽい」というコンセプトは決まっていませんでした。基本構造の設計の際に安全面のアドバイスをいただきながら、デザインの実現可能性を探っていきました。構造やデザインが固まるまでは、かなりの回数をやり取りしましたね。

村井: 耐震性や耐風性などJRさんの規格を守りつつ、デザインを損ねない構造を作ることが重要でした。安全面とデザインが両立するよう案を出し合って、歩み寄りながら最適な形にたどり着けたと感じています。

千崎: デザインが固まり、オウル・クラフトさんも含めてFRPで成り立つ形状を詰める段階になり、ユーザーに見せたくない部分をどう隠すかといった細かい部分まで相談しました。エキマトペの外観にフレンドリーな要素は欠かせなかったので、結果的に空気が膨らんでいくような「生き物っぽい」造形になりました。

中島: 一番綿密にすり合わせたのは、金属でできた基本構造と外枠のFRPをどう合体させるかですね。FRPで基本構造をはさむために、設計段階で基本構造に穴を開けておいてもらうなど、事前にいくつかお願いしました。浜野製作所さんとはやり取りするようになってから阿吽の呼吸ができ、「今画像送るので見てください!」とメールしてその場で対応していただくなど、臨機応変かつスピーディーに詰めていきました。

プロ同士のタッグにより実現した安定構造と柔らかい造形

村井: ここまでモノづくりにこだわる会社は他にないと思うほど、オウル・クラフトさんの仕事振りは丁寧で、次第にリスペクトが生まれていきました。どちらも普段からスピードが求められる仕事をしており、慣れている2社だから対応できたんだと思います。

——— こだわった点・苦労した点はどのような部分ですか?

千崎: デザイン面でこだわったのは「良い意味での違和感」。「なんだコレ?」と人が足を止めてくれる外観です。景観に溶け込ませる方向性もありますが、今はまずこの取り組みに気づいていただき、認知度を上げることが必要な段階です。認知されることで次の活動につながると思うので、より社会に拡がるようなイメージを持ってデザインしました。また、エキマトペの世界観を表現するため細部までこだわっています。例えば、丸みのある筐体が載る前面の支柱は柔らかい印象の丸パイプ、収音機などの機器が載る後面は角パイプと、使い分けています。

生き物?ロボット?と思わず見てしまう不思議な物体デザインが完成

村井: 苦労した点は、やはり安全性の担保ですね。重さ40kgの物体を高い場所に設置するので、重心がどうしても前に偏ってしまう。無骨にならないようにデザイン性を大事にしつつ、重量のバランスをとることが大きな課題でした。支柱も、安全性を保つのに必要な太さを提案しています。

中島: エキマトペは頭上に設置されるので、下から見た時にどう見えるかを意識して、納品ギリギリまでカーブをきれいに磨き上げました。また、背面の光る「エキマトペ」の文字は試作を2パターン作成して検討いただきました。光を強くするとFRPの繊維が見えてしまうので、最終的に文字の部分だけFRPの繊維を変え、上から乳白色の塗装をしています。

背面に浮かび上がる「エキマトペ」の文字

多くの反響にエキマトペの価値が伝わったことを実感

——— 設置されたエキマトペを見た時の感想を教えてください。また、社内外の反響はいかがでしたか?

村井: 駅のホームで始発直前まで組付け作業をし、終わった時は「やっと完成した!」と感慨深い気持ちになりました。丸いフォルムが駅のホーム上で異質な存在感を放っていて、かなりインパクトがありましたね。通勤時に目にした社員からの反響は良く、社外の方からも「面白い取り組みですね」とお声がけいただきました。

中島: 自販機の上に置いてある様は「壮観」の一言でしたね。写真を撮ってすぐ社内に共有したら、制作担当者もとても喜んでいました。後日、ニュースで一般の方のインタビューを聞いて、「やってよかった」という思いがより強くなりました。

千崎: 実際のインパクトは想像以上で「すごいものを生み出してしまった・・・!」と改めて実感しました。また、実際に設置するまで、このデザインが受け入れてもらえるのかずっとドキドキしていましたが、カメラを向けている人を見て「間違っていなかった」とホッとしたのと同時に、「狙い通り!」と嬉しかったです。恐らくただモニターが載っているだけでは、ここまで話題にはならず、デザインとそれを実装する技術力があったからこそだと思います。社外的な評価として、多くの賞をいただけたことも大きな励みになりました。

  • 筐体だけでなくUXも徹底してこだわったエキマトペはホームで存在感を放った

——— プロジェクトで得た気づきや、今後の展望について教えてください。

千崎: 手探り状態のデザイン開発でしたが、各社のアイデアや知見がミックスされて化学反応が起き、モノづくりを突き詰められました。本当にこの2社でなければ実現できなかった。同じ目線でモノづくりに向き合ってくれたことに感謝していますし、心強いパートナーを得られたことが嬉しいです。さらに、エキマトペの後も、量子コンピュータのモックアップ制作など別の案件で2社が連携している姿を後から知りました。このプロジェクトを機会に新しい関係が続いていること大変うれしく思っています。

中島: 文字の配列一つとっても意味があり、“デザイン”の奥深さに感動しました。富士通さんの仕事は幅広く、人の役に立つ重要なものが多くあります。今回その一部でも携われて貴重な機会でした。自分にとっても会社にとっても大きなモチベーションになるので、今後もぜひ共に仕事をしたいです。

「富士通テクノロジーホール」に展示中の
量子コンピュータのモックアップ
※見学には富士通社員経由での予約が必要です)

村井: 日本の製造業の発展には、ただモノを作るだけでなくデザイン性を持たせることが重要になると以前から感じていました。今回のように、それぞれの得意分野を融合させることで、日本のモノづくりを一緒に盛り上げていけたら嬉しいですね。

モノづくりのエキスパートが集結した本プロジェクト。それぞれの専門性とモノづくりへの情熱が混ざり合ってシナジーが生まれ、最後の最後まで表現と作り込みをやりきったからこそ、多くの人に価値が伝わるエキマトペが完成しました。さらに、グッドデザイン賞、IAUD国際デザイン賞、デジタルサイネージアワード2023、キッズデザイン賞を受賞するなど、対外的にも大きく評価されました。第二弾が終わっても3社の連携は続いています。次はどんな化学反応が起きるのか、今後の展開に期待が高まります。

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