違いに気づき、寄り添う気持ちを広げたい ~エキマトペ制作メンバー鼎談~

違いに気づき、寄り添う気持ちを広げたい
~エキマトペ制作メンバー鼎談~



掲載日 2022年11月30日

2022年6月15日から12月14日までJR上野駅(東京都台東区)の1・2番線(京浜東北線と山手線)ホームにて実証実験を行った「エキマトペ」が、グッドデザイン賞を受賞しました。受賞を記念して、エキマトペの画面上で手話者を担当している東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の水庭さんと森田さん、開発・実装のプロジェクトリーダーを務めた富士通株式会社の本多が鼎談を行いました。動画収録時の話から実際に設置されてからの周りの反応やご自身の変化、3人が思い描く優しい社会や楽しい鉄道などについて語り合いました。

  • 写真撮影のため特別にマスクを外していただきました。本取材は、マスク着用や換気、十分な距離を保つなど、新型コロナウィルスの感染防止に配慮して行いました。

メンバープロフィール

  • 水庭 悦子さん
    東日本旅客鉄道株式会社 上野駅
  • 森田 耕平さん
    東日本旅客鉄道株式会社 上野駅
  • 本多 達也
    富士通株式会社 未来社会&テクノロジー本部

部署名・肩書は取材当時のものになります。

エキマトペとは?

エキマトペは、駅のアナウンスや電車の音といった環境音を、文字や手話、オノマトペとして視覚的に表現する装置です。富士通、JR東日本、大日本印刷株式会社(DNP)、株式会社JR東日本クロスステーションがプロジェクトチームとなり、誰もが使いやすく、毎日の鉄道利用が楽しくなるような体験を目指して、川崎市立聾学校の子どもたちと一緒にアイデアを考えました。

エキマトペが設置されているホームの様子
水庭さんと森田さんが手話を担当したディスプレイの表示イメージ


想いと想いが重なった

富士通がJR東日本とDNPとともに川崎市立聾学校で「通学が楽しくなる」ことを発想するワークショップを行い、そこで出てきたアイデアをもとにスタートしたエキマトペのプロジェクト。昨年行った巣鴨駅での3日間の実証実験を経て、改めて上野駅での約6か月間の実証実験を行う前のプレゼンで、本多と水庭さんは出会ったそうです。

——— 水庭さんは最初にエキマトペの話を聞いてどう思いましたか?

水庭: 上司から話を聞いてぜひ参加したいと自分から手をあげました。私は大学で社会福祉を専攻し社会福祉士の資格も持っていて、現在はその知識や経験を生かし、鉄道という分野で多くの人に寄り添いより良いサービスを提供したいと考えています。駅係員や車掌、運転士などの経験を経て、今は上野駅の中でのサービスを担当しており、日々お客さまや社員の困りごとや問題を解決しています。エキマトペは、鉄道をより幅広い方に楽しんでもらいたいと思っている私にとって、とても共感できるプロジェクトだと感じました。

JR東日本 上野駅 水庭さん

——— 森田さんは、どのような経緯で参加されたのですか?

森田: 巣鴨駅での実証実験のときからエキマトペのことは知っていて、自分の中にはない考えやアイデアが盛り込まれていて面白いなと興味を持っていました。水庭から声を掛けられ「そういうことなら、私がやるしかないだろう(笑)」という気持ちで引き受けました。

本多: 実は森田さんは、演劇をやっていたんですよね。その経験もあってか表情が豊かで、所作もとても美しく、撮影のときに監修で来ていた手話の先生にもとても褒められていました。

森田: ありがとうございます。中高の6年間演劇部にいました。今回改めて手話に触れたことで、以前改札の仕事をしていたときに、聴覚障がいの方と筆談した最後に手話で「ありがとう」と伝えたらとても喜ばれた経験を思い出しました。

本多: 手話を主な言語としている方に、あいさつの一言でも手話で話すと一気に距離がぐっと近づきますし、喜ばれますよね。今回、水庭さんと森田さんのお2人にお願いできて本当に良かったと思っています。ありがとうございました。



誰がやったかよりも、何ができるかが重要

——— 現在、上野駅の1番線と2番線のホームに設置されているエキマトペですが、実際に見た方の反応など、働いている現場で気づくことなどありますか?

森田: 現在、私は駅係員として複数の在来線のホームの安全管理やご案内の業務を担当しているので、1・2番線のホームで勤務している日もあります。エキマトペに気づいた人が「なんだろう」という感じで近づいていき、しばらく足を止めて見ているという光景をよく見かけますね。

水庭: 私は駅を巡回しているので、エキマトペの周囲にいる時間は少ないのですが、聴覚障がいのある方かもしれないなという方をお見掛けすることはあります。また、サラリーマンも子供連れの方もお年寄りも、年代や属性など関係なく、いろんな方が興味をもって見てくださっているなと感じています。あとはSNSやメディアなどでエキマトペについて言及されているのを時々見て、みなさんの意見を参考にしています。

本多: 私は引き寄せの力があるのか、聴覚障がいのある方と出会う場面が多くあります。エキマトペを見ている人に気が付いたら、よく自分から話しかけていますね。遠くの聾学校に通っている方がわざわざ見にきてくださったり、聾者の間でエキマトペが話題になっていると教えていただいたりすることもありました。YouTubeで動画を投稿しているうえまさんにも巣鴨の実証実験中に出会ってお話しすることができました。

未来社会&テクノロジー本部 本多

——— ご自身が出演されたことに対して、ご家族や友人、社内などでの反応はいかがですか?

水庭: 誰が出ているかよりも、何ができて誰の役に立つかが大事だと考えているので、周りには話しませんでした。社内でも特に言っていなかったので、メディアなどを通じて気づいた人に驚かれました。

本多: そんな水庭さんも、大学時代の恩師には報告したと伺いました。

水庭: そうですね。大学時代の地域福祉のゼミの教授に報告をして、現役のゼミ生の前でエキマトペの取り組みを紹介する時間をもらいました。その中から実際に上野駅まで見に来てくれた学生もいて嬉しかったですね。

森田: 私は事前に家族に話をしていたのですが、偶然ニュースでエキマトペの映像が流れたときに両親が気付いて録画をしてくれていました。自分が関わったことが周囲の人にエキマトペを知ってもらうきっかけになったのは嬉しいですね。

本多: お2人とも手話動画の収録ではほぼNGなしで決められていました。お2人ともすごく伝えるのが上手なので、俳優さんが演じているのかと思われることもあるようですが、本物の駅員さんが出演していることで利用者のみなさんにも喜ばれていると思います。



みんなに優しい鉄道、そして社会を目指して

——— 実際に駅で働いているお2人から見たエキマトペの良いところは?

森田: まずは「見ていて楽しい」というのがいいな、面白いなと思います。音にあふれている鉄道の駅という場所で、周囲の音をオノマトペ(文字)やイラストを使ったアニメーションで見えるようにしたことで、多くの反響をいただくことになったと思います。

JR東日本 上野駅 森田さん

水庭: 文字で音声情報を表示できるところがいいですよね。以前から駅の放送など、声の情報が文字で表示できるといいなと考えていました。聴覚障がいの有無に関わらず、多くの人にとって正確な情報が文字で見えることで便利になるのではないかと思います。お客さまのニーズは見えにくく把握しにくいところもありますが、今回のエキマトペというキャッチ―なプロジェクトで実験を行ったことで、TVやSNSでも多くの反応がありました。多くの人にとって使いやすい鉄道になるため、さらに鉄道に「楽しさ」をプラスしていく取り組みへの種まきになっているのかなと感じます。

——— 今回のエキマトペへの参加を通じて、ご自身の意識や行動に変化はありましたか?

森田: 今まで以上に、できるだけ多様な人にわかりやすいアナウンス、声の届け方について考えるようになりました。話す内容、タイミングや声のトーンなどに注意を払ってアナウンスをしています。また駅の中で何かを目にしたときに、「あ、これ変えた方がいいな」「変えなきゃ」という眼を持てるようになったと思います。

水庭: 改めて手話のニーズが多いことを実感しました。収録のときに決まったフレーズを覚えただけで、その後は主に本で学んでいるところですが、もっと手話を勉強していきたいと思っています。社内SNSを通じて、簡単な単語の手話動画を毎月配信しています。私が1人でやるだけではなかなか広まらないので、毎回違う社員に声を掛けて動画に出てもらい、それを編集して投稿しています。このような活動がみんなの意識を少しでも変えるきっかけになるといいなと思っています。また様々な企業が持っているデジタル技術を活用するなどして、今後もより良いサービスへの可能性を広げていきたいと考えています。

本多: 今日はお2人の話を聞いていて、とても嬉しくなりました。私はたまたま学生時代に聴覚障がいを持つ友人と出会ったことが現在の研究のきっかけになりましたが、エキマトペのようなプロジェクトを通じて、みなさんの想いや意識が変わるだけでも大きな変化になると思います。そして、そのようなムーブメントが日本や世界に広がっていくように、これからも活動を続けていきたいと思います。今日は本当にありがとうございました。

オノマトペが手書きフォントとアニメーションで表示される
専用マイクで話した音声が感情を表したフォントで表示される機能もある
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