デザインコンセプトは「導入しやすさ」と「先進性」(前編)~ エッジAIコンピューター

デザインコンセプトは「導入しやすさ」と
「先進性」(前編)~ エッジAIコンピューター



掲載日 2021年11月15日

大量の画像や音声の分析を、データセンターやクラウドに送信することなく、ローカル環境でのリアルタイムなAI処理を可能とするエッジAIコンピューターが、2020年度のグッドデザイン賞および2021年度のiF DESIGN AWARD を受賞しました。プロダクトデザインを担当したデザインセンター エクスペリエンスデザイン部 チーフデザイナーの森口 健二と朝本 翔太に、デザインする上で重視したことや、デザイン思考の重要性について聞きました。

前編のポイント

  • 新技術を社会に組み込んでいくための「ニーズ開発」と「製品開発」を並行して実施。
  • エッジAIコンピューターが導入される可能性のある現場を見て気づきを得る「オブザベーション」を実施。
  • 誰でも使えて導入しやすいパソコンライクなデザインと操作性を実現。


エッジAIという新コンセプトを、どうユーザーへ届けるか

デザインセンタ― 森口 健二

IoTやCPS(Cyber Physical System:サイバーフィジカルシステム)の進展で膨大なデータが流通する現在。エッジコンピューティングが注目されています。

エッジAIコンピューターは、スマートファクトリーや医療現場、大型店舗のバックヤードなどさまざまな環境やシーンで、AIを活用した新たなコンセプトのエッジコンピューティングを可能にする「エッジAIプラットフォーム」です。

公共・行政、健康サービス、店舗、インフラ、物流、製造などさまざまな分野でエッジコンピューティングの活用可能性が広がっている

エッジAIという新しい技術を、どう利用者に伝え、活用してもらうか、「利用者の新たなニーズを創り出し、この製品を社会に組み込んでいくための『ニーズ開発』と、製品化に向けた開発を並行して取り組みました」と森口は説明します。

業務用パソコン エッジAIコンピューター

エッジAIコンピューターは、角が丸みを帯びたデザインや前面を縁取るLEDが特徴的ですが、森口や朝本が手がけたのは、色や形を決めることだけではありません。利用者の新たなニーズを考えて製品企画やコンセプトを立案し、それらをデザインに展開し、「利用者に伝える」ところまでトータルで関わりました。

デザインセンタ― 朝本 翔太


「オブザベーション」で仮説を立てながら気づきを得る

エッジAIコンピューターは新製品ということもあり、対象となるお客様や使う場所が明確ではない状況からスタートしました。そのため、まずはデザインの切り口を探す目的で、自分たちの目でエッジAIコンピューターが導入される可能性のある現場を見て、気づきを得る「オブザベーション」の手法を実施しました。

街中のコンビニやスーパーマーケット、商業施設などを見て回り、仮にエッジAIコンピューターが導入されたらどういう場所に置かれてどんな人が何に使うのか。森口は、「例えば、店舗の防犯カメラに繋げてAIによる動画解析に活用できるのではないか、スマートファクトリーに導入したらどんな活用法があるのかなど、自分たちなりに仮説を立てながら気づきを集めていきました」と説明します。

そういった活動を進める中で、ITリテラシーが低い人でも使える機能とデザインであることが大事だと気づきました。その気づきとエッジAIコンピューターの特徴であるWindowsとLinuxのハイブリッドOSが機能面でシナジーを生み出しています。AIは一般的にLinuxを使って処理することが多く、その操作は難解です。しかし、ハイブリッドOSであれば、パソコンを立ち上げた時にまずWindowsが起動するため、普段から使い慣れた操作性をお客様に提供することができます。



「パソコンライク」なデザインで、導入のしやすさを目指す

また、デザイン面では、導入のしやすさからパソコンライクなものを目指しました。現在のAIの主流はクラウドAIで、収集したデータはネットワークを通じてデータセンターなどに送って解析しますが、同じ処理をローカル環境でやろうとすると高スペックなハードウェアが必要で、大きなサーバのような筐体になります。

そんな大きな装置をコンビニやスーパーのバックヤードに入れるにはハードルが高い。スペックに比例する大きさという壁を超えるため、エッジAIコンピューターでは、6枚のAI基板を用いた並列処理を行い、データを解析する新しい技術が開発されました。それによってパソコンと同程度のサイズになる可能性が見えてきたので、パソコンライクなデザインに方向性を定め、ローカル環境での高いリアルタイムAI処理性能を持ちながら、設置スペースではパソコンを1台入れるのと同様という導入のハードルの低さを実現できました。

導入構成イメージ(多動画解析/AI推論の並列処理):エッジAIコンピューターでは、6枚のAI基盤をフル回転して並行に処理し、データを解析する新しい構造が開発された

ただし、形状を考える際に課題もありました。というのも、エッジAIコンピューターは、導入のしやすさや操作性はパソコン的であっても、機能やテクノロジーはパソコンとは全く違うものだということを伝える必要があったからです。つまり、新規性と先進性を形状や見た目のデザインで表現することが求められていました。
では、エッジAIコンピューターにおいて、パソコンとは違う新規性や先進性をデザインでどのように表現したのでしょうか。後編では、森口と朝本が、何を重視したのか、どのような特長を盛り込んだのか紹介します。

デザインセンター森口 健二
 朝本 翔太


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