私たちはデザイナーを正しく評価できているか?2022年「あつまるデザナレ」イベントレポート

私たちはデザイナーを正しく評価できているか?
~2022年「あつまるデザナレ」イベントレポート~



掲載日 2022年11月07日

デザインの実践知があつまるカンファレンス「あつまるデザナレ 2022」(主催:株式会社ビビビット)が2022年9月9日~11日にオンラインにて開催されました。

デザインの領域が「モノ」から「体験」「ビジョン」「組織」と拡大を続け、デザインに期待される成果も「美しく心地よい」といった感覚的なことだけでなく、「ユーザー中心の機能」「ビジネス貢献」「人材育成」と、広がりを見せています。
デザインが果たす役割の深化と拡大は、これからも続いていくでしょう。

このようにデザインを取り巻く状況が複雑化する中、「あつまるデザナレ 2022」はデザインの実践知を集め、すべてのデザイナーにその知見をつなぎ、デザイナーたちの明日からのしごとを前進させることを目的としたイベントです。

富士通デザインセンターからはプリンシパルデザイナー内田弘樹が登壇しました。「私たちはデザイナーを正しく評価できているか?」と題し、他社のパネラー2名と共に自組織におけるデザイナーの評価方法や制度について紹介しました。(デザイナーとしごとのマッチングプラットフォーム「ViViViT」に会員登録をすることでアーカイブ動画を視聴できます)ここでは、内田の登壇内容をご紹介します。



セッション概要

  • 日程
    2022年9月10日(土)
  • セッション名
    私たちはデザイナーを正しく評価できているか?
  • パネラー
    株式会社マネーフォワード 執行役員 CDO 伊藤 セルジオ 大輔
    株式会社Sun Asterisk ビジネスプロモーションユニット デザイナー 南 慶隆
    富士通株式会社 デザインセンター プリンシパルデザイナー 内田 弘樹

部署名・肩書はイベント時のものになります。



登壇内容

総合ITベンダーからDX企業へと変革を続ける富士通。その変革は社内外のあらゆる領域に及んでいます。例えば、社内変革プロジェクト「フジトラ」では278ものDXテーマが設けられていますが、このテーマも常に入れ替わっており、富士通は内からも外からも常に変化の中にいます。
また、富士通の変革の特徴として「組織のパーパス」に加え「個人のパーパス」も重視していることが挙げられます。会社の成長と個人の成長の合力が、社内のイノベーティブな組織風土を作るために必要だからです。人事評価や組織作りにもパーパスが生かされています。

次にデザイン組織の話に移ります。現在、富士通デザインセンターは本社直轄組織として180名(うち正社員が150名)が在籍、うち14%はノンデザイナー(狭義のデザイン以外の専門性を持つ人材)です。また従業員アンケートによると、デザインセンターの従業員のうち85%は「月1回以下の出社」と回答しています。テレワーク主体の働き方は全社方針によるものですが、我々は現状、互いが見えづらい環境の中で働き、評価が行われています。

互いの状況が見えづらい中で、コミュニケーションやプロセス管理と言ったアウトプットに直接反映しない貢献度をどのように評価するのか、これは大変に難しい問題です。
こういったKPIやアウトプット以外の評価についてお話しすると、富士通には「Fujitsu Level」という職責のレベルが全社で設定されており、各レベルで求められるビヘイビア(行動様式)が定義されています。ここで言うビヘイビアとは、リーダーシップや、他部署との円滑なコミュニケーション、プロジェクトのプロセス管理などが該当します。

われわれデザインセンターもこの「Fujitsu Level」に基づき、各デザイナーごとに、求めるビヘイビアを評価項目として細かく設定しています。そして期初に上司と部下で1on1を実施し、情報を共有する。この1on1は期中も継続的に実施するなど、評価に関する情報の共有・期待値のすり合わせは丁寧に行うようにしています。
組織が社員に期待するテーマはレベルによって異なりますし、各デザイナーのキャリア意識もそれぞれ違います。ですので、ニュアンスも含めた意識合わせ、コミュニケーションによる齟齬の解消が重要だと考えています。

また、評価される側として陥りやすい考えは「評価者がノンデザイナーのとき、デザイナーを正しく評価できるのか」「そもそも、好き嫌いで判断しているのでは」ではないでしょうか。 しかし、昔からある「アーティストとパトロンの関係」と基本は変わってないのではないでしょうか。

上の図を見てください。パトロンはアーティストに対し、経済的支援を始めとした制作の援助を行い、その見返りとして、アーティストは作品を提供し、パトロンの生活や人生を豊かにします。
ここから分かるのは、アーティストの活動に「パトロンに認められること」も必要でした。
これを現在の「デザイナーと評価者」の関係に置き換えると「デザイナーの納得」「デザイナーの好き」だけでは不十分だとわかります。評価者が期待していることは何かを考えることも必要なのです。

最後に「評価」というものを俯瞰して考えます。我々「デザイン組織」が「会社(富士通本体)」にどう評価されるのかという問題です。元来、デザインは売上・利益といった定量的な評価に向いていないとされていました。
そこで、我々は「デザイン効果の定量化」に取り組んでいます。デザインのビジネスに対する定量効果を明瞭に語ることで、デザイン投資の納得性を上げ、経営層から更なる投資を引き出すためです。この「定量化」の対象は「財務」「非財務(デザインセンター/富士通社内)」「社会貢献」の4つの領域です。特に社会貢献、社会課題の解決を通じたビジネス貢献は、予測しづらい時代だからこそデザインの力が生かせる領域だと考えていますが、デザイナーが社会課題によりコミットしていくためには、活動資金を確保する必要があるため今まで以上に経営層からの投資を引き出したい、という想いがあります。そういった面からインハウスデザイン組織がデザイン効果を定量化するチャレンジは必須である、と我々は考えています。

富士通デザインセンターは富士通という会社の枠を飛び出し、他社との協働(エコシステム)により社会課題を解決する取り組みを始めました。社会課題の解決を通じて、あらゆる職種・業種の方がデザインの価値を真に理解すること、デザインの力が日本を良くすることを目指しています。


この取り組みに賛同、参加してくださるデザイン組織があれば、ぜひ一緒に頑張っていきましょう。
ご清聴ありがとうございました。

最後に質疑応答が行われました。ここでは、そのうちのいくつかをご紹介します。

Q:デザイナーの定性評価について工夫していることを教えてください。
A:定性評価は設計が難しいですね。評価者が見ていることは「チャレンジ」でしょうか。プロジェクトにおいて難しい局面になったときに、どんなチャレンジをしたか、そのチャレンジ精神を見ています。

Q:マネージャーを目指さないデザイナーをどのように評価していますか?
A:リーダーになりたくない理由の一つに「マネージャーの仕事を理解していない」ということがあると思っています。そこで、富士通デザインセンターでは新卒入社2年目の社員を最近マネージャーに登用しました。これをきっかけにマネージャー職に対する理解が深まることを期待しています。

Q:マネージャークラスの人材が不足しています。皆さんはどのように人材不足を補っていますか?
A:現場への権限移譲を積極的に進めています。極端に言うと、現場からクレームが出なければOKです。ただ、上流工程に関わる機会が増えたことで、デザイナーのスキルセットを見直す必要が出ています。このスキルセットはマネージャーが関わる必要があり、この部分は課題として残っています。

登壇を終えて

今回「評価」というテーマで登壇しましたが、所属する組織では「デザインの価値を向上させること」が私のミッションです。しかし今回、登壇の準備をしながら「デザインの価値=デザインがどう評価されるか」だと気づきました。富士通はデザイナーの立場が弱い会社です。その中で、デザイン組織、そしてデザイナーはどう見られて評価されているのか、今回の登壇は、改めてそのことを考えるいい機会になりました。

今回の登壇内容は、大きく3つに分かれています。 ひとつめは、富士通の評価制度について。これは評価をするマネージャーに向けた内容です。
ふたつめは、アーティストとパトロンの話。これは評価される現場のデザイナーに向けてです。
最後は、富士通デザインセンターが目指すデザインエコシステムの構想。これは経営層に向けてのメッセージです。
ふたつめのアーティストとパトロンの話は、今回の参加者の多くが該当すると思います。評価されることについて、みなさんの参考になれば嬉しいですね。

他のパネラーの方の話や質疑応答の中で印象的だったのは、マネージャーの評価業務について困っている人が意外に多いことです。一般的に、マネージャーは現場よりも持っている情報が多くて視野も広い。そのため、マネージャーの立場からは、現場の人間は視野が狭く未熟に見えやすい傾向があります。ですから、自分の知っていることは当たり前ではない、という姿勢でコミュニケーションすることが大事です。マネージャーと現場では、そもそも見ている世界が自分と違いますから。

いずれにせよ、このVUCAの時代において、デザイナーは世の中に求められている職業です。登壇内容とは少し矛盾するかもしれませんが、デザイナーは組織の評価だけを気にするのではなく、自分が社会に対して感じていること、自分自身の信念を大事にしてほしい。最初はその「信念」と組織の方針がマッチしなくても、活動を続けるうちに合致することもあります。なにより自分自身の信念に基づいた行動は人生を豊かにします。信念や強い気持ちは忘れないでほしいですね。

デザインセンター プリンシパルデザイナー 内田 弘樹


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