デザイナーと開発部一体の開発プロセスが生んだ
「Systemwalker Cloud Business Service Management」

デザイナーと開発部一体の開発プロセスが生んだ「Systemwalker Cloud Business Service Managementイメージ

掲載日 2021年2月2日



ITサービスの運用管理を効率化しサービスの品質や対応スピードの向上を実現、運用保守の現場でのDX化を目指して開発された「Systemwalker Cloud Business Service Management(以下CBSMと表記)」。一見、デザイナーの存在が見えづらいこのソフトウェアは、開発部とデザイナーが一体となった開発プロセスから生み出された。
「CBSM」は、2017年8月にリリースされ、その後もバージョンアップを続けている。2020年12月18日に公表された2020年度の「IAUD国際デザイン賞」で銅賞を受賞した。

AIのサポートで経験が浅い運用者も熟練者並みに

CBSMは、ITサービスの運用保守業務に携わる人に向けた働き方改革のソリューションとして開発された。富士通のAI技術「Zinrai(ジンライ)」により、問い合わせの対応履歴や大量のドキュメントをデジタル化し、関係する部署全体でデータを効率よく活用する。
インシデント(問い合わせやトラブル)の履歴、作業タスクの管理、ダッシュボード機能(インシデント分析と運用データの見える化)を備え、問い合わせの回答候補を自動提示したり、トラブル発生時の作業手順をナビゲートする機能なども搭載している。
作業手順のフローに従い確実に対処できるようにサポートするため、経験の浅い運用者でも運用保守業務が滞ることはない。

開発プロセスを改善し、開発部とデザイナーが同じ目線でプロジェクトに取り組む

デザインセンターから開発に参加したのは、ソフトウェアのデザイン業務のうちUI設計などを担当する加藤淳一と中村夏子の2人。2015年にITサービスの問い合わせ対応を管理するソフトウェアの改良に取り組んだ成果を基に、2017年から本格的な製品開発のプロジェクトが動き出した。
開発にあたって加藤と中村が開発部に提案したのが「開発プロセスへのユーザー視点の導入」だった。富士通のソフトウェア開発では使いやすさの向上や使用法誤解の防止の観点からUI開発プロセスが策定されている。このプロセスに基づいてUI開発はスタートしたが、2人はさらにユーザーヒアリングや利用シーンのシナリオ作りを積極的に取り入れることを提案した。実際にユーザーにもなりうる富士通社内の製品サポート部門にもヒアリングを実施し、30万件以上(ヒアリング当時)の膨大なインシデント履歴があることや、集まったFAQの整理が進んでいないなど現場の問題点を洗い出した。
これがCBSMの特徴の一つである「FAQ作成機能」の実装につながる。開発途中で、問い合わせ担当者、特に初心者の負担を軽減するためには、FAQの充実が必要だという意見が挙がった。そこでFAQを作成する機能が検討されたが、そこにはこのヒアリング結果が生かされている。
CBSMの「FAQ作成機能」では、従来は問い合わせ対応の熟練者が対応履歴を手作業で抽出・分析しFAQ化していたものを、システムのクラスタリング技術(注1)により対応履歴の自動抽出を実現した。FAQ作成の工数が大幅に削減され、また熟練者からの初心者へのノウハウの継承が効率的に行われる。

過去のインシデントを分析しなくてもナレッジを作成できるイメージ図

開発部が提示したこの一連のシナリオ(FAQ作成作業の効率化)に対して、2人はデザイナーとして、画面のUI検討(候補の一覧、FAQ作成と編集)、レイアウト・デザイン検討、実装案の提示の他、対応記録抽出からFAQ作成に至る一連の業務のフローも検討した。
デザイナーは通常、業務フローの検討段階から入ることは少ない。しかし本件では開発プロセスを充実させたことにより、デザイナーは機能に踏み込んだ提案をし、開発者はデザイナーとともにUIを検討している。デザイナーが実施したこれらの検討項目についても、「デザイナーの提案と開発部の承認」を繰り返したというより、一緒に作り上げていったという側面が大きい。

加藤は「プロセスを整えて開発部と密な関係をつくって作業を進めたことで、開発部もユーザー目線で考えてくれるようになりました」と振り返った。

  • (注1)
    クラスタリング技術:与えられたデータ同士の類似度にもとづいて、データをグループ化する技術

「実装のたびに新しいアイデアが浮かんだ」

中村がエンジニア出身で、HTMLやCSS、JavaScriptのコーディングができることもプロジェクトの追い風となった。
画面イメージと仕様書で開発部にデザインを伝えるそれまで主流だったやり方では、アジャイル開発サイクルの中で素早く開発、検証、改善を繰り返していくことが難しいという事情があったため、コードベースで画面の修正方法を伝えることにしたのだ。
中村は「そこに今回のプロジェクトの特徴がありました。デザイン案がすぐに実装されるので動作検証が容易になり、さらに別のアイデアが浮かんでフィードバックするなど、いい形で作業を進めることができました」と語る。

インシデント対応ダッシュボード展開イメージ図「運用分析ダッシュボード」の画面


「運用管理の枠を超えた応用を一緒に考えたい」

中村はCBSMの開発を振り返り、「ソフトウェア製品は直接エンドユーザーの目に触れる機会が少なく地味な印象がありますが、ITサービスの基盤に関わる重要な部分で富士通らしい仕事と考えています。こうした部分にデザイナーが関わっていることは非常に大事だと思います」と語る。
一連の作業で開発部とのチームワークは深まり、雑談レベルで様々なアイデアを話し合える関係になったという。
加藤は「CBSMはもともとITサービスの運用保守担当をサポートするソフトウェアですが、開発部は別の分野でもこの技術を活用しようとしていますし、このソリューションは今後も成長を続けていきます。運用管理の枠を超えた応用について一緒に考えていきたいと思います」と話している。

デザインセンター加藤 淳一
 中村 夏子
左より 中村、加藤(左より)中村、加藤
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