5Gの速さを体感できるUIを
いかに実現するか(後編)
~ arrows 5G F-51A

掲載日 2021年9月01日

2020年度のグッドデザイン賞を受賞した5G対応スマートフォン「arrows 5G F-51A」は、5G対応端末としては世界最薄となる7.7mmの本体とその本体を囲むフレームや背面の意匠に高級感を持たせたこと、さらに5Gの「速さ」をイメージしたUIが特長です。UIデザイナーの三澤 建人に、本端末のデザインで苦労した点、そして、デザインの考え方やデザイナーのあり方について聞きました。

後編のポイント

  • 便利機能と、それによる体験を利用者にわかりやすく伝えることが求められた。
  • デザインの第一歩はユーザーの利用シーンをイメージすることから。
  • デザイナーとは目標達成に必要な工夫を考え実現できる人のこと。


便利機能と、もたらされる体験を 利用者にわかりやすく伝える

近年、増加しているスマートフォンでのキャッシュレス決済や動画視聴、大容量のゲームプレイに求められるのが、ユーザーにストレスを感じさせない動作の速さです。このニーズに応えるために、前編で紹介した「FASTフィンガーランチャー」や「FAST Appドライブ」をはじめ、高画質な写真や画像を素早くシェアできる「FAST シェア」など、さまざまな便利機能が「arrows 5G F-51A」には盛り込まれています。

「時流やニーズに応える『Smart FAST🄬』を実現すること、UIとしては新しい機能や体験を分かりやすく伝えることが『arrows 5G F-51A』のデザインに求められました」と三澤は説明します。

スマホのカメラで撮影した写真を「さっと共有したい」というニーズに応える「FAST シェア」

「FASTフィンガーランチャー」をはじめとする各機能を実現する際に、さまざまな課題や苦労があったと三澤は振り返ります。ユーザーが直感的に理解し迷うことなく操作できることは、理想的なUIの要素ですが、『arrows 5G F-51A』では登録したアプリをいつでもさっと起動できる「スライドイン機能」などで、その要素を実現しています。さらに三澤は「便利な機能や品質を実現しつつ、使いやすいものにしていくためにはまだまだ課題が多いですが、理想は追い続けなければならないと思っています」と話します。

スマートフォンをもっと素早く使いこなしたいというニーズに応えた「スライドイン機能」


優れたデザインとは複雑な課題を鮮やかに解決し一体感のある状態を作り出すこと

UIデザインにおける理想と、開発コストやリソースといった現実とのギャップを抱えながらも優れたデザインを追求しようとする三澤は、デザインを手掛けるときにどんなことを考えているのでしょうか。

「ユーザーの業務や課題を解決することを起点に、ユーザーが価値を実感できるコンセプト、つまりそのプロダクトが何を解決するものなのかをクリアにすることから始めます。それを考えることによって、ユーザーがプロダクトを使っている場所や時間をイメージできるようになり、そのシーンにあったものを作るようになります。UIの画面を作りながら、視覚的に何をするものなのかがひと目でわかるものを作るということを考えています」と三澤は話します。

ユーザーの利用シーンをイメージすることが、デザインの第一歩と話す三澤は「優れたデザインとは、まずクリアで強いコンセプトを持っていること。そして、複雑な課題を鮮やかに解決することができるアイデアだと思います。

例えば、ユーザーが抱えている問題や開発における制約など、さまざまな課題が複雑に絡み合っているのがものづくりの現場です。これらを一つひとつ解決していこうとすると、最終的に解決したソリューションの寄せ集めになってしまい、『取り繕ったような』ものができあがってしまいます。そうではなくて、最終的に一体感のある状態、有機的に生み出された一つのプロダクトになっていることが優れたデザインだと考えています」と想いを語りました。



デザインは誰もがやっていること、デザイナーは工夫を考え実現できる人

この度「arrows 5G F-51A」が2020年度のグッドデザイン賞を受賞しました。このことについて「今回の製品はコンセプトが伝わりやすいものでした。キャッシュレスや素早い動作などのニーズに対し、キャッチーな機能で応えることができましたし、そこが認められたことは嬉しく思います。UIデザインは製品を構成する一部ですが、良い企画に携わることができました」と感想を話す三澤は、デザインという言葉に込められる意味について考えていることを次のように述べました。

「デザインとは意匠のことだけではなく、ものづくりの活動そのものであったり、目的を達成するときに必要な工夫であったり、これらの過程が全てデザインだと考えています。ですから、『ものづくりにデザインを付加する』とか『ものづくりにおけるデザインの重要性』という表現には違和感があります。デザインの一部がものづくりであって、目的を達成しようとする工夫の一部がものやUIに現れてくる、それが私の感覚です」。

達成したい目的を実現するときには常にデザインが発生していると話す三澤は、「ものづくりにおけるデザイナーは、思想を構築し、方向性を示し、それを視覚化する存在です。デザインという活動自体は、デザイナーだけができる仕事ではなく、誰もがやっていることであり、当たり前に存在するもの、そのように認識しています」と続けました。

デザインはデザイナーだけでなく誰もがやっていることだとすると、デザイナーとは一体どのような存在なのでしょうか。

その問いに対し、「ものづくりにおいてユーザー視点を重視し、さまざまなアプローチ手段を持っている人のことだと思います。達成したい目的に対してどんな工夫のセオリーを持っているか、例えば、国語の文法とか数学の公式のようなものをたくさん知っていて、それをうまく組み合わせて役立てる、そういった知恵を持っているのがデザイナーです。ですから、何か目的にたどり着きたいときにデザイナーは大事な存在になる、そう考えています」と三澤は自身の考えを述べました。

今後もスマートデバイスを中心としたものづくりを専門領域としながらも、ものだけに閉じない、広い視野を持ってサービス作りに携わっていきたいと話す三澤。最後に「良いものを作るというのは誇れる仕事です。そのためにはデザイナーや開発部隊の一人ひとりが頑張る以上に、組織全体がいい形になっていくことが大事だと思います。一つひとつ変えていくよりも根本的な考え方を変えていく、変えていこうとする勇気が必要だと考えています」という言葉で締めくくりました。

新しいテクノロジーが登場するスマートデバイスの世界。テクノロジーと人をマッチさせるのがUIデザインであると話す三澤の口調には、次の技術への期待が溢れています。

デザインセンター三澤 建人


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