現場観察で得た「気づき」からデザインした スクールタブレット(前編)~ ARROWS Tab Q5シリーズ

現場観察で得た「気づき」からデザインした
スクールタブレット(前編)
ARROWS Tab Q5シリーズ



掲載日 2021年9月28日

全国の小・中学校でパソコンやタブレット端末の導入・活用が進められている中、富士通でも「ARROWS Tab Q5シリーズ」を展開し、教育のICT化を支援しています。そのプロダクトデザインを担当したデザインセンター プロダクトデザイン部 チーフデザイナーの中島 公平は、全国の小・中学校を約30か所訪問し、「現場観察で得た『気づき』をもとにデザインに取り組んだ」と説明します。中島に、スクールタブレットのデザインに込めた思いを聞きました。

前編のポイント

  • プロダクトデザインの仕事は外観デザインだけでなく製造や販促など多岐にわたる。
  • タブレットがどう使われているのか、全国の学校を約30か所訪問し、現場観察を徹底。
  • 現場に足を運んでわかった「タブレットはIT機器として扱われない」。

「スクールタブレット」で教育現場向け新市場を切り拓く

全国の小・中学校の児童・生徒に「1人1台」のパソコンやタブレット端末を支給し、ICTを活用した教育を推進する「GIGAスクール構想」が本格的にスタートしたのが2020年4月。富士通ではそれよりも以前の、およそ10年前から学校教育へのICT導入・活用を目指し、学校市場向けタブレット端末の開発に取り組んできました。

評価試験などを経て2013年に学校市場向けの最初のタブレット端末となる「ARROWS Tab Q584」を投入。その後、2015年には「学校市場専用」にデザインされた「スクールタブレット」シリーズを発表。「ARROWS Tab Q5011」は、その第6世代にあたります。この「スクールタブレット」のプロダクトデザインを担当したのが、デザインセンター プロダクトデザイン部のチーフデザイナー 中島 公平です。

デザインセンタ― 中島 公平

中島はプロダクトデザインの仕事について、「色や形状、質感など外観にかかわるデザインをするだけではありません。まずは、ユーザーにとって使いやすいか、ユーザーの課題を解決するかを考えてから、製品としての作りやすさも含めて製造部門と検証したり、販促やブランディングにも関わったりと、外観のデザインから製造、広告宣伝や販売に関することまで多岐にわたります。それだけに、設計や製造、販促などさまざまな部署と密接な連携が求められる仕事です」と説明します。

スクールタブレット「ARROWS Tab Q5011」


学校でタブレットがどう使われているのか全国の学校を約30か所訪問し、現場観察を徹底

中島は、「ARROWS Tab Q5シリーズ」(以下、Q5シリーズ)のプロダクトデザインにおいては、「現場観察を重視しました」と振り返ります。その背景には、「Q5シリーズ」は「教育現場」で使用され、教室だけではなく校庭、体育館、プールサイドなど、さまざまな環境で使われるほか、使う人(利用者)も教職員をはじめ、小学校低学年の児童から中学・高校の生徒まで幅広いという特徴があるからです。

現在の教育の現場はどうなっているのかの観察が必要(イメージ)

ビジネスユースやホームユースのパソコンなどをデザインする場合には、ある程度ペルソナや利用シーンを想定できます。しかし、教育現場での使用となると、実際の授業でどう使われ、どんなトラブルや問題が起きているのか、デザイナーが目にする機会が少ないのが現状です。「頭の中だけで想定するのは困難だと感じ、まずは実情を正しく把握することから始めようと、現場を観察し得られた『気づき』を元に利用者にどういう価値を提供していけばいいのかを考えるところからスタートしました」と中島は説明します。

こうした「現場観察を重視」するスタイルは、「Q5010シリーズ」の前モデルのプロダクトデザインでも実践し踏襲してきたものです。当時の学校市場向けのタブレット端末は、ビジネス、ホームユースのタブレットをそのまま教育現場に投入したものだったので故障が多い傾向にありました。その理由を探っていくため、中島は北海道から九州まで、小・中学校を約30回訪問し、「教育現場でのタブレット端末の利用実態」の把握につとめました。「当初は富士通グループでIT導入の実証実験に協力してもらっている学校が中心でしたが、そのうちに他社製品の使用状況や先進的な事例などを研究する必要性を感じて、デザイン部門独自に訪問を申し込み、デザイナーだけで訪問することも増えていきました」と当時を振り返ります。



タブレットは「IT機器として扱われない」、 想定外の使われ方を新たな課題と受けとめてデザインに取り組む

教育の現場観察を実践する過程で明らかになったのは、多くの子供たちがタブレット端末をIT機器として扱わないという「想像していなかった光景」でした。多くの学校では、タブレット端末をパソコンルームなどで保管し、授業で使う時に先生や児童・生徒が教室に運んでいました。先生が運ぶ際は複数台をショッピングバッグに入れて運ぶことも多く、タブレットが擦れたりぶつかったりしますし、児童・生徒に運ばせると階段などで落としてしまうこともあります。

大型コンピュータからスマートフォンまでさまざまなハードウェアをデザインしてきた中島にとっても、「想定外の使われ方」がありうるスクールタブレットのデザインは「未知の領域」。新たなチャレンジだったのです。


こうしたデザイン思考は、ものづくりにおいて重要性が高まっていると同時に、デジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させる原動力になります。「プロダクトデザインとは、デザインする製品やサービスの先にあるユーザー起点でニーズや課題を捉え、仮説立案と検証を繰り返す作業です。プロダクトのデザインを通じて新たな体験価値を提供することが、DXの推進へと繋がっていくと考えています」。

現場観察を重視したことで、中島は「スクールタブレットのプロダクトデザインで『最も大切なコンセプト』に気がついた」と語ります。それは、「授業を止めない」ということです。「学校の現場観察でまず驚いたのは机が小さいことでした。小学校の机は旧JIS規格で奥行き40cmと決められ、そこに教科書、ノート、筆箱、副教材を置きます。そこにタブレット端末が加わると机上からはみ出し、最悪の場合は落下して破損してしまう可能性があります。そうなると授業が止まってしまうため、タブレット端末を導入・活用したことが授業の妨げとなってしまうようなことがあっては決してならない、そう考えてプロダクトデザインに臨みました」と当時の想いを話します。

小学校の机は大人が想像する以上に小さい(イメージ)ノートと教科書、筆箱を置いたらいっぱいになってしまう

「授業を止めない」機能をプロダクトデザインにいかに盛り込み、実現したのでしょうか。後編でご紹介します。

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