教育の現場観察を実践する過程で明らかになったのは、多くの子供たちがタブレット端末をIT機器として扱わないという「想像していなかった光景」でした。多くの学校では、タブレット端末をパソコンルームなどで保管し、授業で使う時に先生や児童・生徒が教室に運んでいました。先生が運ぶ際は複数台をショッピングバッグに入れて運ぶことも多く、タブレットが擦れたりぶつかったりしますし、児童・生徒に運ばせると階段などで落としてしまうこともあります。
大型コンピュータからスマートフォンまでさまざまなハードウェアをデザインしてきた中島にとっても、「想定外の使われ方」がありうるスクールタブレットのデザインは「未知の領域」。新たなチャレンジだったのです。
こうしたデザイン思考は、ものづくりにおいて重要性が高まっていると同時に、デジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させる原動力になります。「プロダクトデザインとは、デザインする製品やサービスの先にあるユーザー起点でニーズや課題を捉え、仮説立案と検証を繰り返す作業です。プロダクトのデザインを通じて新たな体験価値を提供することが、DXの推進へと繋がっていくと考えています」。
現場観察を重視したことで、中島は「スクールタブレットのプロダクトデザインで『最も大切なコンセプト』に気がついた」と語ります。それは、「授業を止めない」ということです。「学校の現場観察でまず驚いたのは机が小さいことでした。小学校の机は旧JIS規格で奥行き40cmと決められ、そこに教科書、ノート、筆箱、副教材を置きます。そこにタブレット端末が加わると机上からはみ出し、最悪の場合は落下して破損してしまう可能性があります。そうなると授業が止まってしまうため、タブレット端末を導入・活用したことが授業の妨げとなってしまうようなことがあっては決してならない、そう考えてプロダクトデザインに臨みました」と当時の想いを話します。