現場観察で得た「気づき」からデザインした スクールタブレット(後編)~ ARROWS Tab Q5シリーズ

現場観察で得た「気づき」からデザインした
スクールタブレット(後編)
ARROWS Tab Q5シリーズ



掲載日 2021年10月4日

「授業を止めない」ことを目指したスクールタブレットで、最も大切にしたのは、堅牢さと授業での使いやすさの向上でした。後編では、中島 公平が現場観察からどのような気づきを得て、「授業を止めない」というコンセプトを実現していったのか、そして、中島のデザインスタイルの根底にある「三現主義」について紹介します。

後編のポイント

  • 「授業を止めない」を堅牢性と機能で実現。
  • デザインの根底には「現場・現物・現実」の「三現主義」がある。
  • これからのプロダクトデザイナーに求められるのはキュレーター(情報を収集・選別・編集して意味を与える役割)やプロデューサーの視点。

「授業を止めない」を実現する School Design 360°

前編で述べたように中島が「ARROWS Tab Q5シリーズ」(以下、Q5シリーズ)のプロダクトデザインで最も大切にしたコンセプトは「授業を止めない」ということでした。それでは、実際にデザインをしていく過程で、そのコンセプトをどう実現していったのでしょうか。

「小学生用の狭い机にもきちんと収まる省スペースと滑りにくく落としにくいことを実現した新たなデザインコンセプト『School Design 360°』を採用しました。

School Design 360°

具体的には四隅を『スクールグリップ』でカバーし、さらに背面には滑りにくい素材を使用して『滑りにくく、落としても壊れにくい』を実現しています」と中島はデザインの特長を説明します。

また、現場観察の過程で気づいたタブレット端末の使われ方が「想定とは全く異なる」ことも重視しました。学校では国語や算数だけではなく、理科や図工でも使われます。中島は「理科の実験では水道のそばに置かれたり、図工では絵筆を洗う水がかかったりしてタブレットが濡れてしまう場面も見られました。学校ではタブレットが故障すると授業そのものが止まってしまいますので、塩素水を含めた防水・防塵機能などを追加し、堅牢性をより高めました」と現場観察での気づきをデザインに反映させました。

School Face:画面のガラスの周囲をモールドのフレームで守るデザイン

こうしたさまざまな新機能を盛り込むにあたって、中島は「利用者である学校関係者の評価を受ける前に、客観的なデータを揃えて関連各部署の理解を得ることも留意しました。例えば、CMF(色・素材・加工)については、ただ『指が滑りにくい』という感覚的な評価ではなく、歴代のモデルと比べて摩擦係数がどれだけ向上しているのか測定機を用いて数値化することで性能を明確に示すとともに、傷や指紋の付きにくさとのバランスを考慮して決めています」と当時の実現までの道のりを説明します。

デザインセンタ― 中島


学校で安心して使える「実直さ」がスクールタブレットのデザインコンセプト

一方、「Q5シリーズ」には児童・生徒の「使いやすさ」を追求した機能も数多く盛り込まれています。鉛筆の正しい持ち方である「三点支持」が容易にできるように鉛筆と同じ六角形の断面形状とフェルト素材のペン先を採用した「えんぴつペン」もその一つで、どういう形状や素材なら鉛筆に近い感覚で文字を書けるのか、小学生の子供を持つ営業や企画部門の社員にも実験を依頼し検証しました。

えんぴつペン:ペン先の素材に工夫、画面シートで書き心地を向上、子どもたちが、正しい鉛筆の持ち方で入力できるように工夫し、実際に子どもたちに使ってもらい、正しい持ち方で入力できているかを確認しました

中島は、「『Q5シリーズ』では、まず授業を止めない『堅牢性』、あわせて授業中のどんな利用シーンでも使いやすいと感じてもらえる『機能性』を重視しました。さらに、自治体や学校の予算に見合う価格で提供するため、コストのかかる塗装を施さなくとも外観の品位が保てるシボを選定するなど、華美に仕立てることよりも学校で安心して使える『実直さ』を優先しました」と話します。



プロダクトデザインの根底には常に「三現主義」がある

中島のプロダクトデザインの根底には常に「現場・現物・現実」を大事にする「三現主義」があります。「今回は、約30か所の現場に足を運べたことで、デザインのコンセプトをきちんとまとめることができました。必ず現場に行けるとは限りませんが、行けない場合でも現物に近いプロトタイプを設計部門などと一緒に作り、想像を現実に落とし込んでいくことが大切です」と中島は語ります。

「三現主義を実践するためには、普段から商品をどういう人が、どういう場所で、どのように使っているのかを観察することが大切です。そういう観察はテーマが決まってから行う場合もありますが、むしろ普段の生活の中で観察力を養い、ストックを増やしておくことが重要です。例えば、街頭でスマートフォンを変わった持ち方で使っている人を見かけた時に、『なぜあの人はああいう持ち方をしているのか』と気づく好奇心を常に持つようにしないと、いきなり現場観察に行って何かを見つけることはできません。
優れたプロダクトとは、時代や技術の変化に配慮して過不足なく仕立てられた『モノ』や『コト』です。やりすぎても足りなくてもいけない、そのバランスをうまく取るのがデザイナーの仕事です」と、普段から観察のアンテナを張り巡らし、他社製品のデザイン研究にも熱心な中島は、優れたデザインの基準を「創意工夫」と考えていると話しました。

ARROWS Gripなどさまざまなデザインが創意工夫されている


これからのプロダクトデザイナーにはキュレーターやプロデューサーの視点が求められる

その一方で中島は、「プロダクトデザイナーには、デザインするだけにとどまらない新たな役割も求められていると感じています。その役割とは、より俯瞰的な視点でデザインを考えることです。現在は色や形状といった外観、機能だけではなかなか差別化が難しい時代です。今のプロダクトデザイナーに求められているのは、生活・ユーザー・技術・社会動向などの変化を総合的にとりまとめて『それならこうしませんか』とキュレーターやプロデューサーの視点で提案していくことです」と説明します。

同様の役割や視点は、今後デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していく上でも大切になります。「DXを推進するとき、人とデジタル技術のタッチポイントにはプロダクトが存在します。そのプロダクトのデザインにおいては、色や形状だけではなく、より俯瞰的な視点から『お客様が新たな価値を創造できるもの』を提案していくことが求められます。プロダクトデザイナーとして他部門の富士通社員と協働し、デザインを通じてお客様や社会に向けて新たな価値を創造し、提案していきたいと考えています」。そう語る中島の視線は、プロダクトデザインが切り拓く将来をしっかり見据えています。

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