伝えたいメッセージをCMF
(Color・Material・Finish)に込める(前編)
~ arrows 5G F-51A

掲載日 2021年8月10日

5G対応端末としては世界最薄となる約7.7mmの本体、金属を思わせる高級感のあるフレーム、未来やテクノロジーを予感させるような背面の意匠が特長の5G対応スマートフォン「arrows 5G F-51A」が2020年度のグッドデザイン賞を受賞しました。CMF(Color・Material・Finish)デザインを担当した益山 宜治に、差別化の難しいスマートフォンをデザインするうえで大切にしたことなどを聞きました。

前編のポイント

  • 差別化の難しいスマートフォンのデザインで最も大切にしたのは「メッセージ」。
  • プロダクトの背景にあるストーリーを「メッセージ」としてデザインにどう込めるかが重要。
  • 日本のメーカーとして日本のユーザーにマッチしたデザインを追求。


製品の持つストーリーを伝える メッセージ性のあるデザイン

近年のスマートフォンは「ボタンも何もついていない板状のもの」という、ある程度固定化されたが形状が主流です。こうした状況の中で、いかにデザインの独自性を出すか、それこそがプロダクトデザイナーの腕の見せどころと言えるでしょう。とくにスマートフォンのデザインでは、「Color(色)、Material(素材)、Finish(仕上げ)」の「CMF」が差別化の決め手になります。

「arrows 5G F-51A」のCMFデザインを担当したのが、デザインセンター プロダクトデザイン部のチーフデザイナー・益山 宜治です。「『arrows 5G F-51A』では、薄くて先進性があって、なおかつ5G端末という『新しい波』を予感させるようなデザインを目指しました」と益山は話します。

高画質カメラと高精細・高コントラストのディスプレイを搭載しながらも、ミリ波対応端末として世界トップクラスの7.7mmまで厚みを切り詰め、日常でのさまざまな持ち方にストレスなく対応できる滑らかな本体が特長の「arrows 5G F-51A」。CMFデザインをするにあたり、益山が最も大切にしたのは「メッセージ性」でした。

「私はもともとジュエリーやファッションのデザイナーをやっていて、実は今でもデザイナーとしての『立ち位置』はあまり変わっていません。例えば、ファッションのデザインには美しさをいかに表現で伝えるかというメッセージが必要ですし、インダストリアルデザインでは機能と装飾がマッチしていることが重要です。スマートフォンのように差別化が難しいプロダクトに関しては、いかに製品の背景にあるストーリーをメッセージとしてデザインに込めるかが重要でした」と益山は自身の思いを語ります。

過去のジュエリーやファッションのデザインで培った経験が現在のプロダクトデザインにも活かされているそうですが、今回の「arrows 5G F-51A」にはどのようなメッセージが込められているのでしょうか。

バックパネルに施された模様は5Gの波を予感させる

「薄くて先進性がある本体と5Gという先端技術、『新しい波』をデザインに落とし込んでいます。具体的には、背面に波のような細かい模様が重ねられ、干渉縞(モアレ)が発生しています。通常、印刷の世界などではネガティブな扱いをされることも多いモアレですが、それをわざと発生させて、5Gの波から新たなものが生まれることを予感させるようなデザインにしています。

また、色彩にグラデーションをつけて手に持つ部分が一番濃い色になるようにし、そこに高機能を支えるテクノロジーが詰まっている、そんなメタファーを込めています」と、益山はデザインに込められたメッセージを説明します。

さらに「実際にそのメッセージがユーザーに届いたときには、自分たちが考え、伝えたいと思ったことの10分の1程度になってしまうことが多いと感じています。だからこそ、デザインにはできるだけ多くのメッセージを込めるようにしています」と伝えるための工夫を語ります。

グローバルベンダーでは作れない 日本のユーザーにマッチしたデザインを

「arrows 5G F-51A」のデザインには、さまざまなメッセージが込められていますが、スマートフォンそのものは世の中にあふれているため、意匠性での差別化が 難しいのも事実です。そこで、益山はユーザーが目にする広告に着目したそうです。「人を惹きつける広告には『1行目に何と書いてあるべきか』、それをデザインでどう実現し、どう伝えるかに頭を悩ませました」と当時について話します。

「arrows 5G F-51A」は、「世界最薄のミリ波搭載端末」になることは確実でした。そこで、それが広告の1行目にくるようなスマートフォンを想定し、それをどういった形でユーザーに伝えることが正しいかを考え続けました 。

また、世界的なスマートフォンのシェアを見ると、米国Appleや韓国Samsung Electronics、中国のXiaomi、OPPO、Huaweiといった海外メーカーが上位を占めています。そのような現状を踏まえつつ、日本のメーカーならではのこだわりやメッセージといったユーザーへの訴求ポイントを多数盛り込んでいることも「arrows 5G F-51A」のCMFの特長です。

「いわゆるグローバルベンダーが出しているスマートフォンは、世界中のユーザーに向けてリリースしており、日本市場にそぐわない部分もあります。例えば、CMFの観点で言うと、カラー展開やギラギラとしたミラーフィニッシュ、日本人にとって持ちにくい形状などが挙げられます」と益山は説明します。

そして、日本人のユーザーにふさわしいデザインについて、日本人は、強くは主張しないが「きちんとした美しさ」を保っていることがポイントになると益山は考えています。そうした、日本市場の持つ背景を踏まえつつ、高スペックかつ先進的なユーザーにふさわしい高級感のある外観が「arrows 5G F-51A」には求められていました。

「arrows 5G F-51A」のカラー展開にも注目すべき点があります。色については熟考を重ね、洗練された今回の2色に絞り込みました。非常に濃いブルーの「ネイビーブラック」と少し温かみのある色合いの「チタニウムシルバー」です。今回の端末はarrowsの製品シリーズの最上位に位置するフラッグシップモデルということで、5Gのような先端技術に興味を持っている男性をメインターゲットとして考えられています。

「この2色はスーツやジャケットに用いられる色に近く、日本の男性が持っていてかっこいい色、非常に『映える色』です。このようなシックで落ち着いて芯のある色のスマートフォンは、グローバルベンダーではなかなか作れません。日本のメーカーのこだわりとして、日本のユーザーに向けたフィニッシュを徹底的に吟味し、カラー展開を決めました」と益山は説明します。

デザイナーからのさまざまなメッセージが込められた「arrows 5G F-51A」。後編では益山が「arrows 5G F-51A」のデザインで最もこだわった部分や苦労した点、そして、自身がデザイナーとして大切にしていることについて紹介します。

デザインセンター益山 宜治


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