伝えたいメッセージをCMF
(Color・Material・Finish)に込める(後編)
~ arrows 5G F-51A

掲載日 2021年8月18日

約7.7mmという超薄型の本体や金属のように滑らかなフレーム、未来やテクノロジーを予感させるような背面の意匠が特長の5G対応スマートフォン「arrows 5G F-51A」。5Gミリ波という新しいテクノロジーに最適な素材と技術のせめぎあいや、デザインを考える上で重視している点などについて、CMFデザインを担当した益山 宜治に聞きました。

後編のポイント

  • CMFデザイナーにはデザインセンスだけでなく技術や素材の知識も必要。
  • 技術と素材、デザインの間にある障壁をいかに取り除くかが重要。
  • ひと目でその製品が何を伝えたいかが分かるものが優れたデザイン。


0.1mmの差へのこだわり 意匠性と世界最薄の両方を実現するには

5Gミリ波対応スマートフォンのフラッグシップモデルとして設計された「arrows 5G F-51A」。約7.7mmという超薄型の本体、スマートな佇まいを追求したデザインは、同時期に発売されるほかの5Gスマートフォンとの大きな差別化が図られています。この先進的なデザインで益山が大切にしたのは「日本初のミリ波に対応したarrowsのシリーズ最上位に位置するフラッグシップモデルであることをひと目で表現できること」でした。

随所にこだわりを見せる「arrows 5G F-51A」

金属の質感を感じさせる何層ものコーティングと緻密なテクスチャを組み合わせ、5Gの波を予感させるバックパネル、高機能を支えるテクノロジーのメタファーとなっている本体下部に施されたグラデーション、大画面ながらも手に馴染む本体の自然なカーブなど、随所にこだわりの見られる「arrows 5G F-51A」。中でも最もこだわったのがその薄さだったと益山は振り返ります。

「実は5Gの波を表現する背面のパネルを使うことで、厚みが7.8mmになってしまったことがありました。薄さを優先するために、一時期は全て塗装の表現で進めようという話もあったのですが、最終的に当初の表現に戻しつつ約7.7mmを実現する方向で落ち着きました」と益山は当時を振り返ります。

超薄型の本体とデザイン性を両立

約7.7mmと7.8mm、ほんの0.1mmの差はユーザーが手に取ってもほとんど分からないほどの微妙な差だと言えます。なぜこの0.1mmの差にこだわったのでしょうか。

「実はこの5G端末が日本でリリースされるときに、世界最薄と言えるかどうかの瀬戸際だったのです。そこで極端にいうと、世界最薄の看板を外して意匠性を取るか、見た目を捨てて世界最薄というスペックを取るか、ものすごい議論になりました。最終的には約7.7mmの薄さをキープできるフィニッシュが決まり、皆でホッと胸をなでおろしました」と益山は当時の苦労を話します。



デザインセンスだけでない 技術的な知識も求められるCMFデザイナー

実は「arrows 5G F-51A」には0.1mmの差以外にもさまざまな課題がありました。益山は、今回のデザインで難しかったのは、本体を囲むフレームだったと説明します。

通常、スマートフォンにはアンテナスリットという1mmほどの樹脂の黒い線が入っていますが、「arrows 5G F-51A」にはアンテナスリットがありません。ミリ波は非常に繊細なために大きなアンテナブロックが必要で、かつ、それを覆うフレームには樹脂素材を使うほうが効率よく電波を伝えることができます。

しかし、「日本で初めて出すミリ波のフラッグシップ端末を樹脂のようなチープな素材で表現するのは違うんじゃないか、ふさわしい装いをもたせてユーザーにメッセージとして伝えるべきではないかという思いがあったので、私たちが使いたいマテリアルと技術的な課題のすり合わせが非常に難航しました」と益山は語ります。

デザインする過程では、このように金属フレームを使いたいというデザイナーの思いと、金属フレームだとミリ波を効率よく使えない、そんなCMFと技術のせめぎあいがありました。

最終的に「arrows 5G F-51A」には、金属とプラスチックのハイブリッド成形をしたフレームを使い、さらに各工程において少しずつ厚みを削ることで約7.7mmを実現しました。

「フレーム上には10コート以上の塗装をしています。一般的な塗装というのは3~4コートなのですが、この端末では10層以上重ねています。その理由は継ぎ目を消したかったこと、そして、アルマイトのような金属調のギラッとした質感を出したかったからです。塗装にも限界があるので、それをカバーするために強めのグラデーションを入れ、10層以上塗って平滑に磨くという複雑な工程を踏んでいます。

また、ミリ波を使うためには大きなアンテナブロックが必要であり、それを見せるのか見せないのか、どうすれば効率的に電波を飛ばすことができるかといった課題にも応えるためには、デザインのセンスだけで乗り越えることは困難です。CMFは技術とも密接に関わっているので、デザインだけでなく技術的な知識も必要とされる種類のデザイナーだと思います」と益山は話します。



メッセージとして何を伝えたいか 常にそれを念頭においてデザインを考える

プロダクトデザインをするときには何を重視しているのでしょうか。

益山は次のように語ります。「メッセージとして何を伝えたいかを念頭においてデザインを考えるというのが私のスタイルです。メッセージやストーリーをどうやって伝えるか、どうしたらユーザーにそれを心地よいものとして捉えてもらえるか、それを常に念頭におくようにしています」。

こうして誕生した「arrows 5G F-51A」は、2020年度のグッドデザイン賞を受賞しました。このことについて益山は「今回グッドデザイン賞を受賞できたのは、5Gの波が来るタイミングであったということも理由の一つだと思いますが、スマートフォンという製品自体がどれも似通ってきている中で、独自のデザインやUIが高く評価されたのではないかと思っています」とコメントしました。

金属感を感じさせる蒸着処理による未来を感じさせるデザイン

そんな益山は「ひと目で、このデザイン・この製品は何を伝えたいかが分かる、どう使ったら良いかが分かる、それが優れたデザインだと思います。一方で、何をするものなのか全然わからないけど、ものすごく心が動くもの。これも良いデザインだと考えています」と自身の考える優れたデザインについて話しました。

今後もコンシューマーメインのデザイナーという専門性を活かしていきたいと話す益山は、最後に「先にもお話しした通り、『arrows 5G F-51A』にはたくさんのメッセージを込めましたので、ぜひ実際に手に取ってみてください。デザインに込めたメッセージがみなさんにも伝わるといいな思います」と締めくくりました。

一つひとつの言葉から物語が紡がれていくように、デザインも小さな積み重ねによってストーリーができていくものだと語る益山。プロダクトに込められたストーリーにどのような背景が込められているかを語る口調から、熱い想いと自信が感じられました。

デザインセンター益山 宜治


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