実は「arrows 5G F-51A」には0.1mmの差以外にもさまざまな課題がありました。益山は、今回のデザインで難しかったのは、本体を囲むフレームだったと説明します。
通常、スマートフォンにはアンテナスリットという1mmほどの樹脂の黒い線が入っていますが、「arrows 5G F-51A」にはアンテナスリットがありません。ミリ波は非常に繊細なために大きなアンテナブロックが必要で、かつ、それを覆うフレームには樹脂素材を使うほうが効率よく電波を伝えることができます。
しかし、「日本で初めて出すミリ波のフラッグシップ端末を樹脂のようなチープな素材で表現するのは違うんじゃないか、ふさわしい装いをもたせてユーザーにメッセージとして伝えるべきではないかという思いがあったので、私たちが使いたいマテリアルと技術的な課題のすり合わせが非常に難航しました」と益山は語ります。
デザインする過程では、このように金属フレームを使いたいというデザイナーの思いと、金属フレームだとミリ波を効率よく使えない、そんなCMFと技術のせめぎあいがありました。
最終的に「arrows 5G F-51A」には、金属とプラスチックのハイブリッド成形をしたフレームを使い、さらに各工程において少しずつ厚みを削ることで約7.7mmを実現しました。
「フレーム上には10コート以上の塗装をしています。一般的な塗装というのは3~4コートなのですが、この端末では10層以上重ねています。その理由は継ぎ目を消したかったこと、そして、アルマイトのような金属調のギラッとした質感を出したかったからです。塗装にも限界があるので、それをカバーするために強めのグラデーションを入れ、10層以上塗って平滑に磨くという複雑な工程を踏んでいます。
また、ミリ波を使うためには大きなアンテナブロックが必要であり、それを見せるのか見せないのか、どうすれば効率的に電波を飛ばすことができるかといった課題にも応えるためには、デザインのセンスだけで乗り越えることは困難です。CMFは技術とも密接に関わっているので、デザインだけでなく技術的な知識も必要とされる種類のデザイナーだと思います」と益山は話します。