不確実な時代に未来を予測する

企業の将来の成功を決めるシグナルとトレンド

次の時代のシグナルやトレンドを読み取り、自組織の未来の姿を深く理解することがこれまで以上に重要になっています。世界的なベストセラーの著者、データを駆使する未来学者であり、ビジネススクールで教鞭を執るエイミー・ウェブ氏がビジネスリーダーがいかにビジネスを再構想すべきかについて語ります。

※本記事は、i-CxOのエイミー・ウェブ氏インタビュー記事を和訳したものです。

この図はこの記事ページのイメージ写真です。

昨年突如として始まった大きな変化は企業や社会に厳しい現実を突きつけています。この後、世界がどのように変化していくのか誰も予測できません。しかし、先行きを示す手がかりはあり、ビジネスリーダーはそれをもとにより好ましい未来への舵取りをすることができます。

ビジネススクールで教鞭を執り、データを駆使する未来学者として破壊的トレンドを予測する方法について大企業や政府機関にコンサルティングを行なっているエイミー・ウェブ氏によると、「今日ほど未来予測の価値が高まっている時代はない」とのことです。「世界を襲うパンデミックや気候変動、全産業で進行するデジタル破壊、社会的平等や多様性に対する意識の高まりなどは、未来洞察の重要性を伝える大きな変化の表れです」とウェブ氏は言います。

しかし、未来洞察を武器に時代の流れを捉え、事業を成長させていくには、予測機能をビジネスモデルにしっかり組み込んでいく必要があります。さらに経営陣は未来学者のように物事を見ながら未来を好機に変えるよう予測ツールを使いこなしていかなければなりません。

「未来はある日突然、完璧な形で立ち現れるわけではない」と、ウェブ氏はその著書『シグナル:未来学者が教える予測の技術』で語っています。「少しずつ、姿を見せる。最初は社会の端っこに、ぽつぽつと出現する。初めから主流であることは決してない。」しかし、周辺にあったシグナルは徐々に方向性を示すトレンドに収斂し、「何らかの人間のニーズと、それを実現する新たなテクノロジーを組み合わせ、未来を形づくる力となる。」

未来を拓く先駆的企業:永続的な事業成長のブループリント

企業が正確な未来洞察の力をつけるにはどうすれば良いのでしょうか。それを知るには、実際に未来洞察をもとに長期的成長のプランを策定している企業を見習うことが有益です。そうした企業をウェブ氏は先駆的企業(pathfinders)と呼んでいます。

「先駆的企業は市場が破壊されたときにも事業を伸ばします。というのもそうした企業は戦略的に未来洞察を行なうスタッフを備えているからです」とウェブ氏は話します。「その専門家たちは常に変化の要因、シグナル、トレンドに目を凝らし、データに基づいてその変化のタイミングや方向性を探っているのです。そして意思決定や戦略決定に活かすため、変化の後のことを考えています。」

そうした企業には共通の特徴やアプローチがあるとウェブ氏は言います。

「先駆的企業は未来の姿を視野に計画を立てていく方法論や枠組みを持っています。ただ単に情報を集めているだけではなく、そうした実証的なデータに基づく未来洞察をモデル化しているため、戦略を立案できるのです。」

ウェブ氏は、Amazonや任天堂、通信インフラ事業のクラウンキャッスルなどをその例に挙げています。そうした企業にはたいてい未来洞察を行う担当部門があります。その仕事を戦略企画部門が行なう場合もあれば、リスク管理や研究開発、イノベーションの部隊が担う場合もあると話します。

未来洞察のデータ収集やモデリングをどこの部門で行なうとしても、独断的であったり近視眼的であったりしてはなりません。「壁の内側で未来洞察をしないようにしなければなりません。未来洞察を行う部門は情報や戦略的思考や事業活動を連結させる存在でなければなりません。」

また、そこには多様なスキルやものの見方が求められます。「未来洞察が最もうまく行えるのは部門横断的なチームです。企業内のあらゆる仕事や戦略的決定を理解し、無数の視点を持っていなければならないからです」と話します。

その結果、企業の成長力や競争力が高まっていくとウェブ氏は言います。「データをもとに綿密に変化のシグナル(予兆)を追跡し、次なるトレンドの出現時期と方向性を捉え、それがもたらす影響を予想できる枠組みがあれば、事業成長のシナリオや戦略、アクションプランの策定ができます。一回限りではなく、継続的にそうすることができるのです。そうなれば大きな変化を前にしても動じることはありません。」

未来学者の目を持つ経営者

それはすなわち経営者は皆、ビジネススキルとともに未来学者の素養を持つ必要があるということです。

「重大な経営判断を行う方々のことを考えてみてください。彼らはビジネスを理解し、財務諸表を読みこなします。他にも経営者として多くのスキルを持っていることでしょう。同じように未来洞察のスキルも求められます。彼らはシグナルとトレンドの違いを見分けられなければなりません。また、長期的トレンドの重要性も知っている必要があります。さらに時代が変化した後のことを考える思考法も身に付けておかなければなりません。」

物事が大きく変化する時代に「経営陣は誰もが未来洞察のスキルを持つ必要がある」とウェブ氏は話します。

「事業を伸ばして収益を上げている企業、そしてその経営陣は、継続的に未来洞察を行なっていく方法を既に知っています」

それは必ずしも経営陣が未来洞察の仕事をするという意味ではないと彼女は言います。「未来洞察は時間を要し、その予測モデルは複雑で、データ量も膨大になります。そのため、その仕事は専門部隊に任せるべきです。」

しかし、最終的に、未来シナリオに基づく重要な経営判断を行うのは経営陣の仕事です。「事業を伸ばすための未来像を描き、そのシナリオに向けてのシグナルの追跡とその影響予測は経営陣の仕事になる」とウェブ氏は話します。

「その助言を私に求める必要はありません。事業を伸ばして収益を上げている企業、そしてその経営陣は、継続的に未来洞察を行なっていく方法を既に知っています。」

鍵となるシグナルと『ノイズ』を見分ける

経営判断で鍵となるシグナルやトレンドを単なる『ノイズ』と識別する仕組みを持っていれば、未来への舵取りに迷うことがなくなります。

「どんなときも未来の姿を示すシグナルは数百、または数千という数で存在しています。弱いシグナルと強いシグナルを区別することやトレンドを見分けること、そして無視しても構わない『ノイズ』を判別することは簡単ではありません」とウェブ氏は話します。

「企業はそうした枠組みのほかに未来洞察のため、全ての関係者が使える共通辞書を持たなければならない」と言います。ウェブ氏が立ち上げたフューチャー・トゥデイ・インスティテュートが提供する未来洞察の図式ではテクノロジーが中心部分に配置され、それを取り囲むようにシグナルとトレンドを探すための11のマクロ的要因が並んでいます。

「見つけたいのは変化を起こす外部要因、つまり変化が生じつつある領域です。例えば、それには環境、地政学的状況、経済などがあります。そうした領域に現れたシグナルを自分たちのビジネスに関連づけて、その目でテクノロジーを眺めると、世界が違って見えてきます」とウェブ氏は話します。

大事なのは予兆となるシグナルを集め見つけること。そこにはなにかの新しいやり方を示すだけの弱いシグナルもあれば、「事業領域、競合、市場、テクノロジーの明らかな変化を伝える強いシグナルもある」とウェブ氏は言います。シグナルのデータが蓄積され、そこにパターンが浮かび上がってくるにつれ、業界を変える大きなトレンドが見えてきます。その波に乗るにせよその影響を回避するにせよ、企業はそこで事業転換を求められると指摘します。

「外部要因、シグナル、トレンドに目を凝らすことが習慣となれば、鍵となる正確な情報を掴む事ができるようになります」とウェブ氏は言います。

2021年、影響力の大きなトレンド

しかし、この先10年の成長を左右する新たなテクノロジー、革新的ビジネスモデル、産業構造の変化とはどのようなものなのでしょうか?

注目すべき最も明確なシグナルやトレンドはAIに繋がっているとウェブ氏は話します。「AI とは第3世代のコンピューティングに他なりません。AIに関する様々な技術や要素はパンデミックによって加速しています。そう遠くない未来、自然言語生成や自然言語処理の領域で大きな革新が起こるでしょう。」

これに関連して、最近普及しはじめている画像認識や生体認証にも進化が見られると指摘します。「いまこそ、こうした技術の進展にもっと目を向けていくべきです。」

5Gもまた注目すべき技術でそこには多くの興味深い事例があると話します。「物流や工場などでIoTや協働ロボットを活用する際に5Gの役割が大きくなっていきます。」

「これからは様々な業界のパートナーと関係を築いていく必要があります。それにより未来の姿をより明確に捉えることができます」

大きな変化を前にして、未来洞察の枠組みを検討するテクノロジーパートナーと手を組むことも有意義です。

「社外や業界の外にある変化に目を向けなければ、現れつつある未来の姿を捉えることはできません」とウェブ氏は言います。

「それはつまり5GやAI、IoTやメタデータの専門家と付き合っていかなければならないということです。やるべきことは山ほどありますが、とにかく未来の姿を明確に捉えるために、多くの業界のパートナーと関係を築いていかなければなりません。」

『シグナル: 未来学者が教える予測の技術』のなかでウェブ氏は、「来るべき事態を予測するだけでなく、自らの望む未来を創り出す能力」を生み出す枠組みが欠かせないと語っています。また、その著書の終わりにはこう書いています。「テクノロジーがより広範な分野でイノベーションを誘発し、端っこから生まれたトレンドが主流へと移行するなか、自らが身を置く分野や産業の方向性を決めるような行動を自ら起こしていきます。もたもたしている余裕はありません。」

未来学者 エイミー・ウェブについて

エイミー・ウェブ氏

ニューヨーク大学スターンスクール・オブ・ビジネスで戦略的未来洞察の教鞭を執る。

ゲーム理論、経済学、コンピューターサイエンス、クラリネット、合気道、SFなど多彩な領域に造詣の深い未来学者。フューチャー・トゥデイ・インスティテュートのヘッドとして、企業、行政機関、社会団体などを対象に、大変革の予兆を捉え、それを理論づけ、対策を立てる助言を行なう。

『シグナル:未来学者が教える予測の技術』などベストセラーとなったビジネス書を複数執筆し、講演者としても人気が高い。

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