日本たばこ産業株式会社医薬総合研究所 様

迅速、効率的な研究開発を実現し、
創薬を強力にバックアップ

日本たばこ産業株式会社医薬総合研究所 様 外観写真

日本たばこ産業株式会社(JT)は、たばこだけでなく、医薬、加工食品を事業として展開しています。医薬事業では1993年に大阪・高槻に設立した医薬総合研究所(以下医総研)を中心拠点として、主に「糖・脂質代謝」、「ウイルス」、「免疫・炎症」の3領域で研究開発を行っています。開発のためには膨大な化合物の中から有望な候補化合物を探索、検証する必要があり、コンピュータシステムはそれに欠かせません。医総研の既存システムが更新の時期を迎えたのに際し、富士通は、より医薬開発ニーズに適合するシステムを提案、採用されました。これは医総研の研究開発能力を高め、強力に支援するツールとなりつつあります。

導入システム概要

ハードウェア PRIMERGY RX300 S8
ソフトウェア JChemシステム(2016年8月本格稼働)
化学物質管理システム(2017年4月本格稼働)
電子実験ノートシステム(2016年11月本格稼働)

JTにおける医薬事業

世界に通用する独創的な新薬開発をめざす

JTが医薬事業に進出したのは1987年。以来、着実に蓄積した技術やノウハウを結実させ、急速に存在感を増しています。1998年には鳥居薬品をグループ会社に迎え、主にJTが研究開発機能を、鳥居薬品が製造、販売及びプロモーション機能を担っています。また、海外大手製薬企業へ自社化合物を導出することや、他社化合物を導入する機会を積極的に追及することにも取り組んでいます。

「世界に通用する今までになかった新薬を提供し、JTの医薬があって良かったと患者様に喜んでいただきたい、そうした思いで研究開発に取り組んでいます」と医総研/化学研究所・グループリーダーの前田公也さん。患者様の目線で真のアンメットメディカルニーズ(注1)を探り、有効性や安全性で明確に差別化された独創的な「First in Class」創薬に注力しています。
実際、医総研は、抗HIV薬スタリビルド配合錠の有効成分の一つであるHIVインテグラーゼ阻害薬エルビテグラビル、世界初のMEK阻害メラノーマ治療薬メキニストの有効成分であるトラメチニブなど、画期的な新薬を世に送っています。「化合物を創るところから、患者さんの元に届くまで大体10年は必要ですから、2000年代の初頭にここで開発された化合物が2010年代以降、医薬品に結実していったと言えるでしょう」(前田さん)。

  • 注1:
    アンメットメディカルニーズ
    いまだ有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズ
前田 公也 氏 前田 公也 氏
日本たばこ産業株式会社
化学研究所
グループリーダー
薬学博士
川上 浩 氏 川上 浩 氏
日本たばこ産業株式会社
医薬総合研究所 研究企画部
グループリーダー
理学博士
安江 克尚 氏 安江 克尚 氏
日本たばこ産業株式会社
化学研究所
主任研究員
工学博士

導入の背景

システム更新を機に化学の研究開発を強力支援するITツール導入へ

医総研が創薬研究の業務にシステムを本格導入したのは1998年。「この頃からようやく研究者一人にパソコン一台を貸与するなど、さまざまな面で研究所にIT活用が浸透してきました」と、医総研/研究企画部・グループリーダーの川上浩さんは振り返ります。

創薬でシステムの果たす主な役割は、データ解析と、データベースに蓄積された情報の抽出の二つ。「創薬には非常に多くの化合物を合成しなくてはなりません。そこで以前に作ったことがあるか、過去文献に掲載されたかなどを調べる必要があります。これらの業務がシステムによって大幅に効率化されるようになりました」(川上さん)。
しかし、1998年以来利用してきた旧システムは2018年にサポート終了予定が通知されたのを機会に、2014年から後継システムの検討を始めました。
「新しいシステムは、従来のシステムの機能を引き継ぐとともに、化学系の研究開発をこれまで以上に強力支援できるツールにしたいと考えました」(川上さん)。
医総研では今後あるべきシステムを多角的に検討するため、10人ほどからなる検討委員会を組織しました。そのメンバーの一人で、現場の研究者のニーズをすくいあげる使命を担った、医総研/化学研究所・主任研究員の安江克尚さんはこう語ります。「従来は、ITに非常に詳しい人間がそばにいないと必要な情報を集めるだけでも大変でした。また、一人ひとりの研究者が旧システムのデータベースを使って自分のパソコンに個人用のデータベースを作って管理している状態でした。ですから元のデータベースが更新されると再度システムにアクセスし、自分のパソコンのデータベースを作り直していたのです。そうした労力の解消も懸案でした」。
またパッケージソフトも利用していましたが、研究者から見ると、化学構造式に弱い点があり、これも解決したい点でした。
さらに、研究では新規に合成する化合物が規制に抵触しない物質かどうかなどのチェックが欠かせませんが、そうした業務を新たなシステムで効率化したいという期待もありました。

現場の評価が圧倒的なJChemシステム

富士通は医総研にハードウェアのリプレースと合わせ、化合物登録システム(以降、JChemシステム)、電子実験ノートシステム、試薬管理システム(以降、化合物管理システム)の3つのソフトウェアを提案しました。
医総研には、個々の研究者の意思を尊重する、自由度が高い風土があり、システムもそれに合うことが一つのポイントでした。「JChemシステムは、個人ベースで思い通りにカスタマイズして使うことができるのに対し、他社が提案したシステムは、全体的なデータ管理に重点が置かれて、それが難しそうな印象を受けました。これは設計思想の違いに起因すると思われますが、現場の評価は圧倒的に前者の方が高かったですね」(安江さん)。
また、旧システムにはない、化学構造式に強い特性をJChemシステムは持っていました。「画期的なのが併せて提案いただいた「JChem for Excel」。これは化学構造式を使ってデータベースを検索できる機能があり、化学研究者の“化学構造式で考える”という特質にぴったりでした」(安江さん)。加えてこうしたシステムを富士通というトップクラスのICT企業が正式サポートするという点も大きな安心感につながったそうです。
導入期間はスケジュール通り、JChemシステム、電子実験ノートシステム、化合物管理システムが、それぞれ2015年7月~2016年7月、2015年7月~2016年10月、2016年7月~2017年3月でした。

導入と効果

研究開発という業務の質を向上

こうして富士通の提案が採用され、医総研は新システムの導入に着手します。スムーズな導入をめざして心がけた点は大きく二つ。「一つはデータベースの画面デザインで、以前のシステムとのギャップをなるべく少なくすること、もう一つはスケジュールをしっかり管理することです」(前田さん)。
説明会もきめ細かく行いました。JChemシステムのユーザーは主たるユーザーである化学系研究員に加え、生物系と薬物動態系の研究員がいますが、説明会は主なユーザーである化学系研究員に集中的に行い、生物系と薬物動態系では代表者を集めて説明しました。
導入後の効果は期待通りでした。
まず、JChemシステムではデータ収集が大幅に効率化されました。「これまでは合成した化合物のデータを収集するとき各研究者が作業しなければならなかったし、グループを横断するプロジェクトでは、データベースの共有だけでも一苦労。それが今は一人の研究者が代表してデータを収集し、他のメンバーはIDとパスワードで中央のシステムにアクセスすることで、希望のデータを利用できるようになりました」(安江さん)。
電子実験ノートシステムも好評を得ました。「実験データはそれまで紙のノートに記録していたため、必要な情報を探すのに手間がかかりましたが、このシステムによって電子化されたことで楽に検索できるようになりました。他のメンバーと実験情報を共有することもすぐにできます」(前田さん)。
また化合物への法規制チェックが自動化されたため、業務が大幅に効率化されました。
「無駄な作業が削減され、本来、研究者がすべき考察と創造により多くの時間を割けるようになりました。システムは、目に見えない業務の“質の向上”に貢献できると期待しています」(川上さん)。

富士通への評価と期待

富士通の迅速なレスポンスを高く評価

システム導入に際して富士通のサポートには、医総研から高い評価をいただいています。メールでの情報交換のほか、情報共有のための質問票をエクセルで作り、両社がアクセスできる共有サイトに保存、医総研がそれに質問を書き込んで、富士通がそこに回答をするしくみも作って問題点・疑問点の解消に役立てました。また双方が参加する定例会議の他、「分科会」と称する会議を設け、担当者間で細かい部分の確認を行いました。対面での打ち合わせだけでなく、ウェブ会議もフル活用して、大阪と東京という地理的な距離にも関わらず密接なコミュニケーションを図ることができました。

「最初は『要件定義』の意味すらよく知らなかった集団が予定通りに1年半でシステムを刷新できたのは驚異的なことで、これも富士通のサポートあってのことだと感じています」(安江さん)。
導入後も、問い合わせなどに対する迅速なレスポンスに満足されています。「新しいシステムはこれまで不可能だったことを可能にしてくれました。これからも富士通には最新のITについて教えてほしいと期待しています」(安江さん)。
今、新薬開発が難易度を高め、ゲノム解析、AIなどさまざまな手段を駆使しての開発が必要になってきています。そうした中、新しいシステムは医総研の次のステップにもつながると言えるでしょう。

安江 克尚 氏、前田 公也 氏、川上 浩 氏

富士通担当者のコメント

本プロジェクトは既存化合物情報システムのリプレースと電子実験ノートシステムの新規導入を並行して実施しましたが、当時富士通にとって初めての経験であり、高いモチベーションを持って取り組みました。
そして、その意気に応えてくださり、日本たばこ産業様も高いエナジーを持って、富士通と協同して取り組んでいただけました。
このことが、本プロジェクトの成功の要因に尽きると思います。今後、日本たばこ産業様は蓄積した研究データの利活用に本格的に取り組まれます。
富士通が日本たばこ産業様の本当の期待に正に応えるのはこれからであり、変わらぬモチベーションで取り組んでまいります。

富士通株式会社 小松 昂太、テクノプロエンジニアリング株式会社 杉本 直隆 氏、テクノプロエンジニアリング株式会社 林 智裕 氏、富士通株式会社 久保木 俊彦、テクノプロエンジニアリング株式会社 松田 朋子 氏、富士通株式会社 原田 明彦、テクノプロエンジニアリング株式会社 米谷 恵美 氏、富士通株式会社 幡上 誠一 写真左後から
富士通株式会社 小松 昂太、テクノプロエンジニアリング株式会社 杉本 直隆 氏、
テクノプロエンジニアリング株式会社 林 智裕 氏、富士通株式会社 久保木 俊彦

写真左前から
テクノプロエンジニアリング株式会社 松田 朋子 氏、富士通株式会社 原田 明彦、
テクノプロエンジニアリング株式会社 米谷 恵美 氏、富士通株式会社 幡上 誠一

日本たばこ産業株式会社医薬総合研究所 様

創立 1993年
所長 大川 滋紀
所在地 大阪府高槻市紫町1-1
ホームページ https://www.jti.co.jp/pharma/新しいウィンドウで表示

[2019年2月掲載]

本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は取材日時点のものであり、このページの閲覧時には変更されている可能性があることをご了承ください。

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