日本たばこ産業株式会社 R&Dグループ
迅速、的確な試薬管理で、
これからのたばこ事業の研究開発を支援
たばこの開発・販売は、日本たばこ産業株式会社(以下JT)の主要事業の一つ。JTは20近くのブランド数を有し、世界130カ国以上で販売しています。近年ではRRP(Reduced Risk Products)と呼ばれる加熱式たばこも業績を伸ばしています。こうした製品の味や香り、デバイスの研究開発を担うのが、たばこ事業本部のR&Dグループです。ここではさまざまな試薬を利用するため、正確で効率的な試薬管理が欠かせません。同グループでは既存の試薬管理システムが更新期を迎えるのを機にシステムを刷新し、利便性の向上、法令遵守、労力の削減などを的確に実現しました。それはまたJTの将来の試薬管理体制に向けた第一歩にもなりました。
導入システム概要
ソフトウェア | 試薬管理システムCRAIS Reagent(version3) /法規制チェックシステムCRAIS Checker (version4)
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導入の背景
保守や将来性を勘案し、システムを更新
スクラッチで開発した旧システムをパッケージの新システムへ
JTのR&Dグループが、研究・開発に用いる試薬管理システムの更新を検討し始めたのは2016年頃。直接のきっかけは、既存の試薬管理システム(以下SKシステム)導入から10年近くが経ち、サポート契約の修了期限が近づいたことです。
システム更新の旗振り役を担ったのは宮川太治氏(R&Dグループ/R&D企画部)。宮川氏はこのプロジェクトにおいて現場の視点を重視し、小林朗志氏(たばこ中央研究所/業務部)に協力を仰ぎました。小林氏はSKシステムの開発時から関わり、ユーザーでもあるからです。さらに葉たばこ研究所(栃木・小山)、製品開発センター(東京・墨田)のメンバー、そしてIT部のメンバーも集めました。IT部から参加した森氏は以前R&Dグループに所属し、SKシステム導入を提案した経験を持ちます。
森氏は、たまたま同じJTの医薬事業部が、同様のシステム導入を検討していることを耳にし、情報共有をしようと連絡をとりました。すると化学物質管理を担当する門脇詳氏(医薬事業部 医薬総合研究所 研究管理部)が協力を申し出てくれました。
SKシステムの課題としては以下があげられます。
安全・衛生・環境保全の観点から化学物質管理に対する法令が年々強化される中、旧システムの入力作業の労力は増え、業務の負荷が大きくなっています。またフルスクラッチで開発したため、システムに関する知識やノウハウが属人化しています。「時間の経過とともに、人員が異動するので、初期段階からシステムを理解している人がいなくなり、保守がむずかしくなります」(小林氏)。機能面では、拠点(システムを利用しているのは製品開発センター/東京都墨田区、たばこ中央研究所/神奈川県横浜市、葉たばこ研究所/栃木県小山の3拠点)によってはレスポンスが遅いといった課題もありました。「たばこ事業の研究開発に適したカスタマイズがしやすいことも重要。 さらに今後10年は利用するため、将来を見すえたシステムにすることも大切だと考えました」(門脇氏)。
こうして、頻繁な法令改正に対応できる、パッケージ製品、JTのインフラ基盤に無理なく搭載でき、これまでのSKシステムでの機能をすべてカバーしている、10年後にも安定的、発展的に使える、などを念頭にシステム候補を探しました。
試薬管理の要諦は法令
約10社から資料を取り寄せ、デモなどを参考に、最終的に2、3社に絞り込みました。その中に同じJTの医薬総合研究所(以下医総研)で利用されているシステム、つまり富士通の提供するCRAIS Reagentがあり、このシステムに決定しました。
その理由は、総合的に標準機能が多く、特に法令遵守のための利便性に優れていたこと。「SKシステムでは利用者が資料を見て法令情報を入力する必要がありましたが、新システムには日本の試薬業者のカタログ情報が搭載され、試薬の品番を入力するだけで関連の法令情報が即座に出てきます。化学物質の構造式に対応した国内法令情報を持つデータベースを搭載しているため、法的な登録が正確に負担なくできます。これは大きな魅力でした」(小林氏)。
加えて人材戦略面のメリットもありました。「現在のシステムに携わっている人材はベテランが多く、近い将来、人材が手薄になる可能性がある。医総研と同じシステムを導入すれば、共通の知見を持つ人材を確保できると判断しました」(宮川氏)。
CRAIS Reagentの導入がほぼ決まり、メンバーがシステム開発会社と医総研に視察に行った折、宮川氏や門脇氏は富士通担当者から、「たばこ事業本部と医薬事業部は同じシステムを使うだけで満足し、なぜ、構築、運用、保守まで含めたシステムの完全な共有をめざさないのでしょうか」と尋ねられます。どちらの事業部にも、完全一本化の発想はなく、これはまさに目から鱗が落ちる一言でした。
この一言をきっかけに議論した二人は、システムを統合し、化学物質管理を一元的に行うべきだと考えるようになりました。「試薬管理の要諦は法令です。部署や研究内容が違っても、化学物質管理に関する法的範囲や義務は変わりません。ですから一元管理すれば、無駄がなくなり、工数や人的コストの削減にもつながります」(門脇氏)。二人は、それこそが“将来を見すえたシステム”という認識で一致しました。
導入の経緯
医総研のシステムの知見を活用
厳しいスケジュールをクリアして導入
システム導入にも医総研での経験が活用されました。「システム選定時は、医総研の実物を動かして確認し、要件定義にも医総研での知見を活かすことができました」(森氏)。
ただ医薬事業部とたばこ事業本部の研究開発の違いも大きく、医総研の扱う試薬の数は、R&Dグループ全体の数倍近く多く、また連携する外部システムにも違いがあります。
実際に導入したシステムは、CRAIS Reagentのパッケージに、医総研にカスタマイズした機能を入れ、さらにR&Dグループにカスタマイズした機能を入れたものです。
まずSKシステムをCRAIS Reagentのversion2に入れ替え、その後にversion3に移行しました。最初の入れ替えは2019年2月から2020年1月まで1年近くかけて行いましたが、version3への移行は極めて短期間に行いました。これは医総研のバージョンアップとの兼ね合いがあったからです。
予定では、医総研は2020年の1月から9月にかけ、試薬管理システムをversion3へ移行します。R&Dグループはその経験を活かしてversion3への移行作業をするため、9月に要件定義を始めます。ところがversion2の特定機能のサポート が終了するのが12月末であるため、それまでのわずか3カ月で移行を完了させなくてはなりません。しかもversion3への移行は、大規模なものでした。
「スケジュールは絶対で延期は不可能。しかも新型コロナの影響で安定的なシステム構築は困難です。そこで医総研のシステムテストを通常の4倍ほどに増やし、出てきそうな問題を徹底的に潰しました」(門脇氏)。この方法は奏功し、version3への移行を後押しました。さらに医総研でのシステム移行に携わったメンバーがR&Dグループのシステム移行に参加し、JTの関係部署も協力、ベンダーである富士通の担当者もつきっきりで対応しました。
「コロナ禍対策としてはリモートでの打ち合わせを浸透させました。以前からリモートワークは懸案でしたが、このプロジェクトを機に一気に実践段階に入りましたね」(宮川氏)。最終工程の本番作業は効率的に進めるために、JTネットワークの環境が整った墨田ビルで進めました。
こうしてR&Dグループの利用する試薬管理システムCRAIS Reagent/version3は予定通り、2020年12月末に導入されました。
導入と効果
将来のシステムを意識しつつ現状を改善
利用者の習熟をはかる
最初のシステム更新から約1年が経ち、現在はどのような状況にあるのでしょうか。
「新しいシステムの見え方や作業の順番が多少変わり、まだ多くのユーザーは慣れるのに精一杯。もっと早く習熟してもらう予定でしたが、コロナ禍のため、より慎重に、時間をかけて進めました」(小林氏)。
小林氏はシステムの管理委員会の事務局的な役割も果たしているため、今後、富士通と協力してデータの持ち方、例えば入力制限など、運用方法を改良できると感じています。「現在、これまでのユーザーの誤操作や寄せられた質問を集約しています。これを活用していきたいですね」。
「各拠点の担当者が何もかも答えられるわけではないですし、担当者が頻繁に代わることもあって、システムについての疑問をチャットツールに投げ、答えることのできる人が答えるという形にしました」(門脇氏)。医総研、R&Dグループ双方のシステムを理解している門脇氏はこの役割を担うことが多く、結果的に新システムの保守を支える立場になりました。
JTでの試薬管理システム一元化への期待
JTとして一体化したシステムはあるべき姿として意識されています。「現在のシステムが完成形ではなく、将来のシステム一元化に向けての布石になることを願っています。医薬事業部にいる門脇氏を引き込むことで現体制ができ、無事にシステムを更新できましたが、人のつながりだけに依存せず、今後は医薬事業部と一体化した試薬管理体制を作らなければと考えています」(宮川氏)。
もちろんこれは一朝一夕にできることではありません。製薬業界の規制では、製薬関連データに、製薬分野以外の人間が触れることを嫌いますし、サーバのセキュリティも他業界とは異なるなど、難関は数々あります。「それでも将来、JTのたばこ、医薬、食品の各事業部が共通して使える統合システムを構築するのが理想でしょうし、コスト的にも有利になると思います」(森氏)。
富士通への評価と期待
富士通のメンバーとの会話自体が安心材料
人間的つながりを継続し、今後につなげたい
富士通が提供したシステムの機能は十分と考えています。しかしR&Dグループのためにカスタマイズした機能でも、まだ利用していないものがあり、「これから運用の方法を定め、徐々に使っていきたいと思います」(門脇氏)。
今後への要望と言えばコスト面。CRAIS Reagentのランニングコストは少し高いという印象で、「同一企業が同一システムを購入しているわけですから、なんらかの特典があるとうれしいですね」(宮川氏)。
富士通のサポートには満足していただいています。「富士通さんにはこれからもよろしくお願いします、とお伝えしたい。というのは、富士通が提供するソリューションを導入することは、富士通の担当者や技術者と対話できることでもあって、それが一つの安心材料だからです。今後もそうした対話の場を設けていただければと思います」(小林氏)。
その対話が単にビジネスライクなものでなく、人間関係に裏づけられたものであることを、門脇氏は価値として評価しています。「ホワイトボードにメモが飛び交い、白熱した議論をしながら富士通さんと一緒に仕事をしてきました。コロナ禍の中でもそうした関係を続けられればうれしいし、それがさらに大きな成果にもつながると信じています」。
富士通担当者のコメント
本プロジェクトは既存試薬管理システムのリプレースと日本たばこ産業様の事業部の垣根を超えた運用ノウハウの継承を目標に実施しましたが、富士通にとってチャレンジングな経験であり、高いモチベーションを持って取り組みました。
そして、その意気に応えてくださり、日本たばこ産業様も一丸となって、富士通と協同して取り組んでいただけました。
このことが、本プロジェクトの成功の要因に尽きると思います。今後、日本たばこ産業様はシステム一元化に向けて運用面とシステム面の集約に本格的に取り組まれます。
富士通が日本たばこ産業様の本当の期待に正に応えるのはこれからであり、変わらぬモチベーションで取り組んでまいります。
日本たばこ産業株式会社 様
所在地 | 東京都港区虎ノ門4-1-1 |
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設立 | 1985年4月1日 |
ホームページ | https://www.jti.co.jp |
[2021年8月掲載]
本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は取材日時点のものであり、このページの閲覧時には変更されている可能性があることをご了承ください。
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