ひろしまデジタルイノベーションセンター 様
革新的なモノづくりを核とした地域イノベーションを、ハイパフォーマンスな計算環境で支える
広島県では、産学官が連携し、「イノベーション立県」をめざしてさまざまな取り組みを行なっています。その取り組みの一つが2017年10月に東広島市に開設された「ひろしまデジタルイノベーションセンター」(以下HDIセンター)です。高性能計算環境を整備し、デジタル時代のモノづくりに不可欠なモデルベース開発(MBD/Model Based Development)のためのツールを備えるとともに人材育成サービスも実施しています。このセンターに富士通は、クラウドサービスでスーパーコンピューター(スパコン)環境や解析ソフトウェアを提供し、その活動を支えています。同センターを訪ね、事業の実際や富士通との関係、今後の期待などをうかがいました。
導入システム概要
センター内設備 | PCサーバ FUJITSU Server PRIMERGY ×8台 PCワークステーション CELSIUS R940 ×7台 構造解析ソリューション FUJITSU Technical Computing Solution LS-DYNA ×16CPU Coreライセンス |
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クラウドサービス | FUJITSU Technical Computing Solution TCクラウド |
HDIセンター設立の意義
MBDを軸にモノづくりを強化、人材を育成
広島県が地域活性化をはかりイノベーションを推進する背景にはモノづくりの伝統があります。県内には大企業から中堅・中小企業まで数多くの製造業があり、日本の競争力の一翼を担ってきました。そのモノづくりは今、デジタル化という潮流の中で、進化しつつあります。
HDIセンター所長(兼 技術統括部長)の安藤誠一氏はデジタル化の特性を大きく二つ挙げます。「ひとつは業務を大幅に効率化できること。もうひとつは複数の企業が関わる開発を、同一のモデルや情報を共有することでよりスムーズに進められることです」。現在の技術は、製品(モノ)だけではなく、モノを利用する人、モノを取り巻く環境を含めて開発する必要があり、さまざまな分野の複数の企業が関わってきます。そのときデジタル的手法を活用できれば、誰もが共通の数値モデルを使ってモノがない早い段階から開発に参画できます。その開発手法がMBDです。「MBDの定義には幅があり、制御システム開発に限定される場合もありますが、HDIセンターではMBDをモノづくりにおける全体最適実現のツール全体と捉えています。 デジタルツールをフル活用して効率的な開発・研究ができる企業・研究機関・エンジニアになっていただくことが目標です」(安藤氏)。
MBDはマツダ株式会社のスカイアクティブ技術の開発においても重要な役割を果たしました。「MBDはこれからの日本のモノづくりの切り札と考えています。MBDを展開することで、この地域のさまざまな企業の競争力を強化できます。そして将来的には広島をMBDの開発者が集う聖地にしたいと考えています」(安藤氏)。
こうした発想に立って広島県(ひろしま産業振興機構)では、HDIセンターを開設、MBDを支える計算機環境の整備と人材育成をめざすことになりました。
導入の背景
クラウド利用に着目し、富士通のクラウドサービスを採用
MBDは膨大な数値の処理を伴うため、スパコンなどハイパフォーマンスな計算機環境が必要です。しかしこれまで中国・四国地方には公的スパコン環境がありませんでした。そこでHDIセンターでは、スパコンやシミュレーション解析ソフトウェアを整備し、多数の企業が共同利用できる体制をめざしました。
長谷川達也氏(HDIセンター/事務部長)は、「当初はスパコンをセンター内に設置することを考えました。しかしコストの高さ、保守・運用の負担から言って現実的ではありません。そこで発想を切り替え、クラウドで利用することに決めました」と語ります。
クラウドサービスを提供できる企業を複数社検討し、最終的に決定したのが、富士通のTCクラウドです。これは解析シミュレーションのための並列計算環境をクラウドで利用できるサービスです。
「TCクラウドを選んだ大きな理由は、スパコンと共にソフトが最初から使える環境になっていて、主な利用対象である中堅・中小企業にとって非常に使いやすいことです。現状ではスパコンをベアメタル(ソフトをインストールしていない素のままの状態)で提供し、開発技術者が自分でコマンドを打ち込んでセッティングしなければならないサービスを提供している会社も多くあります。それに対しTCクラウドなら、Windowsパソコンのように画面からの問いに対応して操作するだけで使えます。また、従量課金制のサービスなので、必要な時、必要な分だけ利用できるのも便利です」(長谷川氏)。
もう一つ、重要な要素はセキュリティでした。「クラウドでは、スパコンがセンターとは別の場所にあるため、高レベルなセキュリティが確保されていることが絶対条件でした。このサービスでは、国内に富士通が厳重管理するデータセンターがあり、これまでの富士通の実績も信頼できることから採用に至りました」(長谷川氏)。
利用の実際
多彩な解析ソフトウェアを用意し、地域企業を支援
HDIセンターでは、富士通が約20年の開発・サポート実績を持つ非線形構造解析ソフトウェアLS-DYNAを始め、多数の解析ソフトウェア(CAEソフトウェア)を用意し、多様なニーズに応えています。
現在、サービスの利用者は自動車関連企業が多く、LS-DYNAを使った例では、株式会社HIVECが新型車のボディ衝突解析に、ダイキョーニシカワ株式会社が大容量の解析モデルを用いたCAE解析のリードタイム短縮による車種開発の効率化に挑戦しています。他の解析ソフトウェアでは、株式会社ヒロテックがプレス成形業務支援ソフトウェアAuto Formを利用し、プレス機で金型成形加工する製品の成形解析や形状評価をめざしています。また企業以外のユーザーとして松江高専(島根県)があります。この学校は熱流体解析ソフトウェアSCRYU/Tetraを使い、再生可能エネルギー利用技術に関する研究を行っています。
HDIセンターの事業のもう一つの柱であるMBDを担う人材の育成も動き出しました。具体的には「MBDプロセス研修」(6日コース)、「MBD/CAE詳細設計研修」(線形構造解析、振動解析、樹脂射出成形解析など各5~6日コース)などの研修プログラムを用意し、幅広く募集をかけています。「従来、広島でできたのはMBD/CAEの入門レベルの教育でした。しかしここには設備、ライセンス、研修用のノートパソコンなどがそろい、実際に手を動かせる高度なレベルの教育が可能になりました」(安藤氏)。
富士通への評価と期待
共に運用の手法から開発するパートナー
HDIセンターは、富士通による保守・運用について高く評価しています。「最初はこちらの運用方針が目まぐるしく変わり、ファイアウォールの設定について相談に乗っていただくなど、頼ることが多かったですね。トラブルなどのとき、すぐ駆けつけていただけることも非常に助けになっています」と佐藤氏は語ります。
HDIセンターは新しい施策を具現化した施設だけに、運用方法も手本がなく、試行錯誤しながら決めていく必要がありました。「ライセンスを細かく分割して提供することで利便性を高めたいなど、実現手法に迷うこともありました。そうした要望に対応し、一緒に運用を考えてもらえるのはありがたいと感じています」(安藤氏)。
HDIセンターの今後について安藤氏はこう語ります。「まずはセンターに多くの人が集い、そこから新しい発想が生まれることが大切です。私が“MBDの聖地”というのは、ここを、さまざまな技術者が課題や悩みを共有し、議論できる場にしたいからです。しかしMBDやCAEは成果が出るまでに時間がかかるもの。人材が育ち、この地域全体の企業が技術を使いこなせるようになるまでは一定の年月が必要です。ですから、富士通には、ぜひ長い目で見てスパコン環境を支えていただければと思っています」。
富士通担当のコメント
本件は、サービスプロバイダ向け提供という位置づけから、TCクラウドの運用形態が従来のものと異なる新しい取組みでしたが、富士通グループや関係会社で協力し、中国・四国地方初の公的スパコン環境整備の一翼を担うことができました。
今後も最終的な利用者様にとって利用しやすいサービス運用を目指し、HDIセンター様と一緒に改善を続けたいと考えております。
ひろしまデジタルイノベーションセンター 様
運用開始 | 2017年10月2日 |
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所長 | 安藤 誠一 |
所在地 | 〒739-0046 広島県東広島市鏡山3丁目10-32 |
ホームページ | https://www.hiwave.or.jp/hdic/ |
[2018年2月16日掲載]
本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は取材日時点のものであり、このページの閲覧時には変更されている可能性があることをご了承ください。
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