ローカル5GとWi-Fi、どう違う? どう棲み分ける?
疑問を担当者に直撃

無線通信には様々な技術がある。その中でも、現在最先端の技術であり、導入が進み始めているのが「5G」だ。特に、利用する企業や団体が独自にインフラを構築し、自社だけのために利用する「ローカル5G」には注目が集まっている。
産業用メタバース 一方、「高速通信ができる技術」は5Gだけではない。我々がPCやスマートフォンで日常的に使っている「Wi-Fi」も、そうした特性を備えている。
では、ローカル5GとWi-Fiはどう違うのだろうか? どちらかがあればもう一方は不要、という話でもないようだ。
今回は、富士通 5G Vertical Service室の三木敏司氏に、企業が導入する上での違いと棲み分けについて聞いてみた。

5GとWi-Fiの違いをまずは確認

十分な通信速度が必要な業務向けに、現在広く使われている無線通信技術は、大きく分けて3つある。

企業の無線通信インフラに使われる方式

1つ目は「Wi-Fi」。PCからデジタルカメラまで多くの機器に搭載されている、もっともメジャーな技術といって良い。
2つ目は「4G」。我々が日々、携帯電話で使っている規格だ。日本中あらゆる場所に普及しており、広く使えるという利点がある。これをエリア限定とし、「企業内だけで使う」方法はすでにある。
そして3つ目が「5G」だ。通信速度や遅延など、4Gの課題の多くを解決した規格である。企業インフラとして使う場合、エリアを絞って専用の周波数帯を用意する「ローカル5G」が注目されている。エリア限定という意味では4Gと同じ部分があるが、特に今は、通信速度の速さに注目が集まっている。
現状、企業のインフラとして導入する場合には、やはり5GとWi-Fiが注目だ。富士通でも、ローカル5Gの導入に関する問い合わせなどが増えている状況だ。
その理由を理解するには、5GとWi-Fiの違いについて、もう少し深掘りする必要がある。
三木氏は以下のような表を提示して解説する。

ローカル5G(4.7GHz帯) Wi-Fi
通信速度 (下り)1Gbps前後
(上り)100~200Mbps
Wi-Fi 5 Wi-Fi 6
(上り+下り)
数百Mbps
(上り+下り)
1Gbps前後
通信安定性
  • 電波を占有するため干渉なし
  • 移動で切れにくい
  • 電波干渉による通信不安定性あり
  • 移動で切れやすい
免許 必要 不要
セキュリティ 高い(SIM認証) 低い(SSID/パスワード、電波漏洩あり)
接続端末 制限可能 制限が困難
通信距離 屋内アンテナ:数十メートル
屋外アンテナ:数百メートル
20~30メートル
コスト 初期費 1,000万円~ 数万円~
運営費 数十万円~ 不要

ローカル5GとWi-Fiの技術上の差異。通信安定性やセキュリティなどに違いがある。

三木

ローカル5GとWi-Fiはどちらも高速通信が可能ですが、データ通信の「上り」と「下り」の速度をどう考えるかが違います。Wi-Fiは上り・下りの速度を切り分けることができませんが、ローカル5Gは切り分けられているので、それぞれの通信効率を計算できます。

速度以外にも大きな違いがあるという。それが「通信の安定性」だ。

三木

具体的には「ハンドオーバー機能」です。データ通信する端末が移動する場合、基地局をまたいで通信が行われることがあります。ローカル5Gは携帯電話を発端とした規格・技術であり移動が前提とされていますが、Wi-Fiは端末の移動における通信が得意ではありません。例えば、工場内を端末が移動しつつ情報を発信するような用途では、ローカル5Gの方が有利と言えます。
また、電波を遮る遮蔽物が多いエリアでも、ローカル5Gの方が有利です。敷地内に頻繁に大きなトラックが出入りし、基地局と端末の間を遮ることが多い場合には、トラックに通信が遮られて速度が低下する場合があります。4.7GHz帯のローカル5Gの場合には、周囲の材質やエリアの性質にもよりますが、電波の反射・回り込みにより、通信が安定しやすい傾向です。ですから、端末のみでなく多様なものが移動や出入りするような環境で使うなら、ローカル5Gの方が有利かと思います。

そして、もう1つ大きな違いとして強調するのが「セキュリティ」だ。

三木

Wi-Fiの場合、非常に多くの機器が使える一方、無線通信に接続する機器を制限するのは難しく、ネットワーク内のサービス側で制限をかけることになります。
一方ローカル5Gの場合、端末に入っているSIMカードを使って認証する「SIM認証」が使えます。接続できる端末を制限し、セキュリティを高めやすい、という利点があります。

ローカル5GとWi-Fiを
「両方つかいわけることが必要」な理由

多くの点で、ローカル5Gの方が有利にみえるが、では、ローカル5Gがあればすべて解決なのか?との問いに三木氏は即答する。

「そうではなく、ローカル5GとWi-Fiは両方必要です。」

前述の通り技術的な違いはあるが、単純にローカル5GでWi-Fiが代替できる、という話ではない。

三木

ローカル5Gに大きな期待を抱いているお客様は多いのですが、メリットもデメリットもあります。また、言ってみればどの通信手段もそれぞれメリットデメリットはありますので、それをしっかりと把握したうえで、うまくバランスをとりながら導入することが重要だと考えます。単に監視カメラを導入するだけなら、Wi-Fiもしくは、有線で接続しても良いでしょう。
また、セキュリティ的にそこまで厳密でない用途もあります。例えば、オフィスのPCを接続しビーコン機能を使って人のいる場所を把握したい……といったニーズならば、Wi-Fiでも問題ありません。
しかし、Wi-Fiは機器自体は安価ですが、工事費まで含めるとローカル5G環境を構築するよりもコストが高くなる可能性もあります。例えば、大型プラントなど、広大なエリアをカバーしようとすると、多くのアクセスポイントが必要となり、配線工事も大掛かりなものとなります。ロケーションや用途に応じてローカル5Gが適しているのか、Wi-Fiが適しているのかを判断することが重要だと考えます。

導入は「目的優先」で、
Wi-Fiを活かしての「スモールスタート」も

その上で三木氏は、基本的な考え方として「目的が優先」であることを強調する。

三木

よくある誤解なのですが、ローカル5Gを導入するからといって、企業の敷地すべてを、いきなりローカル5Gでエリア構築する必要はありません。企業にとっては「回線」が重要なのではなく、その結果として解決したいことがなんなのかの方が重要です。必要な部分ではローカル5Gを使い、そうでない部分では別の無線技術を使っても良いのです。

ワイヤレスの効果を最大化する利用パターン例

説明で挙げられたように、ローカル5GとWi-Fiには、通信安定性やセキュリティなどに違いがある。例えば狭小な工場内で設備を動かさずに固定して生産する現場の場合、ローカル5Gである必然性は薄いが、工場を動き回る機器からのモニタリングや、屋外を移動しながらのモニタリングのような用途ではローカル5Gが向いている。

三木

中長期視点も含めてどういうデータを、どういう容量で流したいかが重要です。ローカル5GとWi-Fi、同じような容量のデータを流せますが、安定性の観点を考えると、ローカル5Gの方が有利です。
一方で、データ量が少ない用途は、別の通信手段を使いつつ、バックホール(背後を支える回線)として、ローカル5Gの利用を検討するのが良いでしょう。

この辺は、同時に示された図を見ると、どのような用途でどう使うのか、というイメージが把握しやすくなると感じる。では実際、導入はどう進めていくのが良いのか?

三木

どのインフラが良いか、基準がはっきりしない場合には「まずWi-Fiを導入してみましょう」とご提案しています。通信手段にコストをかけるのではなく、解決すべき課題に注力することが重要です。
その上で、より大きな規模に拡大したい場合や、Wi-Fiでは問題があるとわかってきた時に、ローカル5Gへと切り替えていくのが、うまいやり方です。

インフラや設備を導入することは、企業の課題解決と直結している。課題解決という成果を求める場合には、まずアジャイルにテストし、そこから改善した上で全体に広げるやり方が重要になる。ローカル5GなのかWi-Fiなのか、という話も例外ではない。そして、Wi-Fiはコストが安いからこそ、「テスト」にも向いている。ローカル5GとWi-Fiを共存して開発を進めるという意味では、この提案はとてもわかりやすく、納得のいくものだ。
富士通は、今後もお客様の課題解決に合ったシステム構築を支援していく。

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