人とクルマの未来へ、コネクテッドカーが加速し始めた。
自動運転やスマートシティなどの進展とともに、自動車をつなぐ技術であるコネクテッドカーへの注目度が高まっています。
そこで、自動車とあらゆるモノをつなぐV2Xの最前線や、その開発を加速する通信インフラ、5Gネットワークの特徴など、最新情報をわかりやすくまとめてみました。
2021年、コネクテッドカーが加速する!?
近い未来、我が国のコネクテッドカーの歩みを振り返ったとき、2021年は1つのエポックとなる年として記憶されることになるかもしれません。
2021年2月、大手自動車メーカーが計画を進めるスマートシティの建設がいよいよスタートしました。この日から約1年前、世界最大のエレクトロニクス見本市、CES 2020で発表されて以来、このプロジェクトはあらゆるモノやサービスがつながる実証都市として世界の注目を集めてきました。
その未来都市のモビリティを支える技術がコネクテッドカーです。地上に自動運転モビリティ専用、歩行者専用、歩行者とパーソナルモビリティが共存する3本の道が網の目のように巡らされ、地下にもモノの移動用の道がつくられます。将来的には2千人以上の人々が暮らすというこの街で、自動運転やAIをはじめ多様な先進技術が実証されていくことになります。
また、3月には同じく日本の自動車メーカーから、自動運転「レベル3」としては世界初となる市販車が発売されました。この新型車では、3次元の高精度地図や衛星測位システム、多様なセンサーによるさまざまな情報をもとにECUが認知・予測・判断を行い、アクセル、ブレーキ、ステアリングを制御して運転操作を支援します。
高速道路渋滞時など一定の条件下ではあるものの、ドライバーがハンドルから手を離した状態でも、自動で運転操作が行われます。つまり、システムがドライバーに代わって運転することが実現されたのです。コネクテッドカーの開発において、画期的な一歩といってよいはずです。
パラダイムシフトとなる自動運転「レベル3」
この自動運転のレベルについてはいくつかの定義がありますが、現在、国土交通省が採用している定義では5つのレベルに分けられています。
これまでのように人がすべての運転を行うのがレベル0であり、そこからステップアップしていくにしたがって運転支援のレベルが高まり、レベル5で完全な自動運転が実現されます。
このステップにおいて、パラダイムシフトともいえる大きな転換点になるのがレベル3なのです。すでに述べているとおり、レベル2までは運転操作の主体がドライバーであったものが、レベル3からはシステムになります。
出典:国土交通省
この進化を成し遂げるための要素にはいくつかのものがありますが、鍵を握るのは情報の量と質でしょう。これまで人の頭脳で行ってきた認知・予測・判断をシステムに置換するのですから、当然、膨大な情報が、しかもリアルタイムで必要になります。具体的にいうなら、ネットワークからダウンロードする情報であり、人の視覚などに代わる多様なセンサーからの情報などです。
自動車とあらゆるモノをつなぐV2X
そしてこの命題をさらに掘り下げていくと、自動車をつなぐ技術、つまり、モバイル通信がキーテクノロジーとなることに気づくはずです。実際、コネクテッドカー開発の最前線では、自動車をあらゆるモノとつなぐV2X(Vehicle to Everything)をめぐる議論が活発化しています。
このV2Xには、自動車とネットワーク(V2N)ばかりでなく、自動車と自動車(V2V)、歩行者(V2P)、交通インフラ(V2I)など、多様なモバイル通信があげられます。
たとえばV2Vならば、自動車同士が情報をやりとりすることで、より高度な隊列走行を実現したり、死角から接近する自動車を検知したりして衝突を避けることができます。さらに、障害物の存在や緊急車両の接近など自車のセンサーで検知した情報を周辺の自動車に伝えることで、交通システム全体としての安全性を高めることも可能になります。
このような膨大な情報をやりとりするとなると、コネクテッドカーの未来にはセンサーやTCUといったモジュールの高機能化とともに、インフラとなる通信ネットワークの革新が欠かせなくなってくるはずです。速度や容量、遅延など、これまでと桁違いともいえる性能が求められてきます。
また、性能面ばかりでなく、その内容についても吟味が必要になりそうです。たとえばネットワークの通信速度を例にあげるなら、これまで一般的なインターネットへの接続などではデータをダウンロードする下りリンクの速度が重要視されてきました。しかし、これからのコネクテッドカーでは、自動車そのものが情報を発信する、上りリンクの通信も同様に重要になってくるはずです。
5Gがもたらすコネクテッドカーの革新
こうしたコネクテッドカー開発を加速させる通信ネットワークとして期待が高まっているのが5Gです。我が国でも2020年から5Gの商用サービスが始まり、モバイル通信はまた新しい世代へとバージョンアップしようとしています。
この5Gは、従来の4Gと比較して「高速大容量」「超低遅延」「多数同時接続」という大きく3つの特長があります。通信速度で比較すると、4Gでは1Gbpsだったピークレートが5Gでは20Gbpsと超高速化。また、遅延速度も1msと、4Gに比べ10分の1と飛躍的に低減されています。
ネットワークの性能というと、速度や容量に目がいきがちですが、この超低遅延もコネクテッドカーにとって非常に魅力的な性能といえます。というのも、人の命を乗せて走る自動車のモバイル通信には、はるかに高い次元の信頼性が求められるからです。
自動運転レベル3からは、運転操作の主体がドライバーからシステムへと代わります。今後、そのレベルをステップアップさせていくためには、システムによる遠隔からの監視や管理、さらに遠隔操作が必要になります。そこで課題としてクローズアップされてくるのが通信のタイムラグであり、5Gを用いることでその遅延を軽減することが可能になるはずです。
「走る」と「つなぐ」のコラボレーション
このような通信ネットワークの進展とともに、自動車に搭載するTCUやセンサーなど通信モジュールの開発も新たなフェイズを迎えることになりそうです。
最近、通信モジュールが多機能化され、モバイル通信の経験が少ない自動車エンジニアでも容易に実装できるようになってきました。しかし、たとえ実装が容易になっても、その性能をフルに発揮させるとなるとやはり専門的なノウハウが必要となります。
その困難度は、5G環境によってさらに高まっていくはずです。今後、コネクテッドカーで利用する5Gネットワークでは、ミリ波の周波数帯が主流になると予想されます。このミリ波では、従来の4Gが3.6GHz以下であるのに対し、30?300GHzと周波数がはるかに高くなります。
また、ミリ波は波長がきわめて短く伝送ロスが大きいため、回路設計に高度なノウハウが求められます。回路のサイズも極小となり、実装技術にはμm単位の精度が要求されます。
さらに手作業での調整がむずかしいため、シミュレーションモデルの構築など検証・評価というプロセスでも同様に専門的なノウハウが必要になります。
最後になって、回路という微小な世界にまで入り込んでしまいましたが、改めて視野を広げると、この「評価」のむずかしさは、V2Xのモバイル通信における共通の課題といってもよいのではないでしょうか?
モバイル通信の環境は、時々刻々と変化します。加えて、自動車は高速で移動するという非常に特殊なモバイル端末です。その現象を的確に検証・評価して「見える化」し、開発をステップアップしていくためには、やはりモバイル通信に精通したスペシャリストのノウハウが欠かせません。
これからコネクテッドカー開発を加速させていくためには、自動車を「走らせる」自動車エンジニアと、「つなぐ」無線エンジニアが連携したイノベーションが鍵を握ることになってくるでしょう。