事例

自動車エンジニアが直面する、コネクテッドカー開発時の課題とは?

~壁を打ち破るポイントはモバイル通信の「評価」にあり!~

コネクテッドカー開発のむずかしさは、無線という見えない世界であるモバイル環境をいかに「見える化」することにあります。
なかでも、その検証・評価は自動車エンジニアが直面しやすい課題です。
コネクテッドカー開発におけるフィールド試験などの事例をあげながら、モバイル通信における課題とその解決策をご紹介します。

コネクテッドカー開発で自動車エンジニアが直面する課題とは?

いま自動車の世界はかつてない変革期を迎えています。その変化を象徴するキーワードのひとつにCASEがあげられます。このCASEとは、C(Connected:コネクテッド)、A(Autonomous:自動運転)、S(Shared & Service:シェアリング/サービス)、E(Electric:電動化)の頭文字をとったものです。

この4つの中でも、これからの自動車に欠かせないキーテクノロジーとして重要視されているのがC(コネクテッド)、つまり自動車をつなぐ技術です。
今後、デジタル技術の進歩とともに、自動車とネットワーク(V2N)ばかりでなく、自動車と自動車(V2V)、歩行者(V2P)、交通インフラ(V2I)など、自動車とあらゆるものをつなぐV2X(Vehicle to Everything)に向けた開発が加速していくはずです。

このようなコネクテッドカーを実現するためには、モバイル機能の実装が不可欠となります。最近、通信モジュールも多機能化し、無線通信を可能にするTCUといったユニットを組み込むことも比較的容易になってきました。
しかし、モバイル機能を実装することはできても、そこから実用化に向けて開発をステップアップしていくことは容易ではありません。なかでも、自動車エンジニアが直面する課題としてよく耳にするのが「評価」のむずかしさです。

アプリケーションレベルの検証はできても、その先が……

たとえば、TCUを実装したモバイル通信のフィールド試験をクローズアップしてみましょう。テスト車両を都心や高速道路などさまざまなシチュエーションで走らせてログデータを収集していくケースです。
この場合、動画配信のアプリケーションなどを利用し、その通信状況をリアルタイムで収集するという手法が多いのではないでしょうか。収集するログデータも、下りリンクの通信速度をはじめ種類も限られる場合が多いようです。

しかし、このようなアプリケーション観点のみのフィールド試験だけでは、発生している現象の本質をとらえることができず壁にぶつかってしまうことがよくあります。アプリケーションレベルの検証はできても、その背景にあるフィールドでのモバイル環境の現象が見えていないため、次の開発ステップへの糸口をつかむことができないのです。

モバイル通信の評価では、ユーザーレベルの検証だけでなく、そこからさらに踏み込んで、刻々と変化する通信環境を把握することが欠かせません。それは無線通信の世界だけに、自動車エンジニアにとって経験値が少ない、まさに「見えにくい」領域となっているのではないでしょうか。

時々刻々と変化するモバイル環境をいかに評価するか

我が国におけるモバイル通信のサービスエリアは人口カバー率で99%以上に広がり、どこでもつながる身近な機能となっています。
このようなモバイル通信は、各所に設置された基地局ネットワークによって実現されています。

このような基地局ネットワークに対応し、現在のモバイル通信は、基地局からの直接波や反射波など複数の電波によって受信が乱れるマルチパス環境、あるいはこれらの電波が干渉しあうフェージング環境などに対応する最新の機能を実現しています。また、移動中に通信を切断することなく基地局を切り替えるハンドオーバーなどもそのひとつです。これらの無線技術は、コネクテッドカーを実現するためのベースとなるものです。

一方、我が国では現在、3G、LTE(4G)、5Gという3世代の規格があります。音声とパケット通信などサービス種目も複数あり、これら規格などの違いによって通信容量や遅延時間、接続される基地局がそれぞれ異なります。また、そのエリアの電波状況や基地局によって、周波数も変わってきます。

さらに、コネクテッドカー開発における評価を困難にしているのは、自動車は高速で移動するモバイル端末であるということです。
街中で人が利用する携帯端末などによる通信エリアの混雑状況、あるいは周囲の自動車同士での干渉など、モバイル通信の環境は時々刻々と変化します。その検証パターンはまさに無限にあります。

このように複雑極まるモバイル環境において、最適なログを選択して収集し、評価を進めていくことは容易ではありません。これまで培ってきた自動車エンジニアの知見だけでは限界があります。コネクテッドカーの開発を効率よくスピーディーに進めるためには、無線技術のスペシャリストとのパートナーシップが重要な選択肢になるといってよいでしょう。

モバイル通信におけるプロフェッショナルのサポート

富士通グループのMTC(モバイルテクノ)では、モバイル通信のスペシャリスト企業として、自動車メーカーをはじめ国内の自動車関連企業に先進のノウハウや技術を提供しています。

たとえば先ほど、フィールド試験におけるモバイル環境は時々刻々と変化すると紹介しました。その要素の1つに、基地局におけるMCS(Modulation and Coding Scheme)の切り替えがあげられます。
このMCSとは、変調方式や符号化率などを組み合わせてインデックス化したものです。基地局では、受信した電波の状況に応じて最適なMCSを選択します。通信品質が悪い環境では低いMCSを選択し、通信接続は維持されるものの、通信速度が低下する場合があります。
また、基地局では、回線の混み具合やユーザーのデータ量などに応じて、各帯域のリソース(リソースブロック)の割当て数を制御しています。この割当て数が多いほど、一般にスループットも高くなります。逆に都市中心部など回線が混雑するようなエリアではリソースブロックの割当て数が少なく、スループットは低下する傾向があります。
このようにモバイル環境における通信容量や遅延時間の変化には、じつに多様な要素が複合されます。当然、その評価は多岐にわたります。

加えて、有意性の高いログデータを収集するためには、V2Xなどコネクテッドカーとモバイル通信の双方に精通した知識が重要となります。
たとえば通信速度を例にあげると、これまでの一般的に利用する回線では、データをダウンロードする下りリンクの通信速度が重視されています。しかし、今後、自動車があらゆるものとつながるようになると、自動車から各種センサーなどのデータをアップロードする上りリンクの重要性が高まってきます。
このようなモバイル通信でおさえるべき検証内容、いうならば「勘所」を熟知した知識がないと、効率的な評価を行うことはできません。

MTCでは、このようなモバイル通信における豊富な経験と知識を生かして、コネクテッドカーにおける試験や評価のサポートを提供し、お客様から高い評価を得ています。

開発を加速するシミュレーションモデルによる検証・評価

モバイル通信における評価の効率を高めていくためには、フィールドで収集したログデータを活用した机上での検証も欠かせません。
このような検証モデルやシミュレーションモデルの構築も、MTCが得意とする分野です。お客様それぞれのユースケースにあわせて、フィールドと同様の検証系を構築し、モジュールの開発や品質保証のための多様な情報を提供します。

下のシステム図は、その一例です。右上にあるモジュールが基地局シミュレーターです。干渉やフェージングなどのシミュレーターを介して、下の検証用端末と接続されています。PCによって検証シナリオなどを設定し、自動でログを収集して解析します。
このような検証モデルは、モバイル通信における標準仕様である3GPPに基づいており、お客様の開発環境にあわせて最適なシミュレーションモデルを実現しています。

回路の設計から品質保証の仕組みづくりまで幅広いサポート

MTCでは、このほかにもコネクテッドカー開発におけるさまざまなサポートを提供しています。TCUなど回路設計も、高い評価を獲得しているMTCの技術の1つです。

最近では、通信モジュールの多機能化によってTCUの実装も容易になってきました。しかし、たとえ実装はできても、その性能をフルに発揮させるためには、やはり専門的な知識と技術が求められます。
よくあるケースとしては、他のECUとの干渉などがあげられます。また、設置環境などによってはアンテナ性能の検討などが必要になる場合もあります。
さらに、今後拡大が予想される5G環境では、周波数もはるかに高くなり、そのため回路も極小化し、実装や評価にも高い技術が求められるようになってきます。
MTCでは、このような回路の設計から、デバイスの製造段階における評価や品質保証のための仕組みづくりまで、モバイル通信のプロフェッショナルとして多様なサポートを提供します。

コネクテッドカー開発のポイントは、最良のパートナー選びにあり

人の命を乗せて走る自動車のモバイル通信には高次元の信頼性が要求されます。自動車エンジニアにとって、そのキーデバイスとなる通信モジュールの開発を外部に委託してブラックボックス化させてしまうことは、その先の大きな困難とリスクを伴います。その一方で、開発を加速していくためには、専門的な知識と技術が不可欠であることも事実です。それらをあわせて考えるなら、信頼できる最良のパートナー選びがコネクテッドカー開発の重要な要件といえるのではないでしょうか。

MTCは、モバイル通信の領域で培ってきた豊富な知見を生かし、お客様から信頼されるパートナーとして、コネクテッドカーの開発に貢献していきます。

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