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研究者の夢

トランジスタの特性を最大限に活かした回路で、新しい技術の先駆者を目指す

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2024年3月26日 掲載

宇宙の秘密を覗いてみたい

四歳のときに、両親から図鑑をプレゼントしてもらいました。花、昆虫、星など、一冊一冊がテーマごとにまとめられた図鑑でした。その中で一番気に入ったのは星の図鑑でした。美しい惑星が描かれていて、夢中になって何度も繰り返し読みました。

子供の頃に読んだ本の影響で、大学では超高圧下での物質の挙動に関する基礎研究を専攻しました。地球の中心部で起こる現象をシミュレーションして、物質の特性や圧力による変化を調査することで、将来的に地震のメカニズムなどを解明することに役立つ研究です。研究の一環で地球上において最も硬い物質のダイヤモンドのサンプルを2つの揃え、上側と下側から超高圧力をかけて挙動を観察するという実験も行いました。

社会に役立つ実用的な技術に興味を持ち始めたのは、大学院の頃からです。放射光施設SPring-8 加速器を用いて、将来的にUSBメモリースティックに使用される誘電体の性能を向上させる研究に携わりました。この研究はすぐに実用的な成果を生むものではありませんでしたが、社会に貢献する技術を開発したいという自分の想いを確認するきっかけとなりました。

窒化アルミニウムを用いた高出力パワーアンプの開発に参加

富士通へ入社後、多くのプロジェクトに携わってきましたが、特に印象に残っているものは、窒化アルミニウム(AlN)を用いた高出力パワーアンプの開発(*1)です。AlNは、無線通信距離やレーダー探知距離を飛躍的に伸ばすことができると期待されていた技術です。特に島が多い地域では、それぞれの島に無線通信の基地局を建てることは環境的な制約もあり困難です。この技術を使えば、1つの基地局で周りの島々へ通信を提供できるようになります。

当時、作製したトランジスタのリーク電流と呼ばれる、電子回路上で本来抑制されている電流が発生し、その値がなかなか下げられない課題に直面しました。リーク電流が下がらないと、正常に動作させることができずトランジスタのパワー特性を発揮できません。その結果、無線通信の送信距離やレーダーの探知距離が、期待される距離に達することができなくなります。

原因を突き止めるために調査や検証を重ね、悪戦苦闘の日々が続きました。ある日、電子顕微鏡で電流の経路を観察していた時、リーク電流が下がらない原因が見つかりました。トランジスタは複数の電極から構成され、通常はソース電極、ゲート電極、ドレイン電極の3つがあり、構造としては分離されているはずのものが電気的に接続されてしまっていたのです。この現象が発生すると、問題が生じます。

ナノメートル単位の細部を確認したところ、酸素が原因でゲート電極とドレイン電極が繋がってしまうことが分かりました。そこで、膜中に窒素を含ませることにより、リーク電流を下げることを試みました。窒素を適切に含ませてリーク電流を抑えるためには、最適な窒素の割合を見つける必要があります。1%以下の割合が最適解だと見つけ出すまで、何度も試行錯誤を繰り返し、リーク電流を下げることができました。このように、あきらめなかったことが課題解決につながり、無線通信距離やレーダーの探知距離を飛躍的に拡大できるAlN技術開発に貢献できたのだと思います。

トランジスタ特性を最大限に活かした回路設計

研究開発は、自ら手を動かすことが大切だと考えています。現在取り組んでいる研究では、材料のサンプルを作成し、それを自ら評価する必要があります。在籍している厚木研究所は、材料を作る装置と評価する装置が充実しているため、研究開発のプロセスが非常にスムーズに進んでいます。

GaN-HEMT(窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ)のサンプル評価時の状況
GaN-HEMT(窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ)のサンプル評価時の状況
富士通厚木研究所のクリーンルームにてGaN-HEMTのサンプル評価を行っている
富士通厚木研究所のクリーンルームにてGaN-HEMTのサンプル評価を行っている

私は、トランジスタの持っている特性を最大限に活かした回路で、新しい技術の先駆者になりたいと考えています。トランジスタ単体でいかに性能を伸ばしても、通信機器や信号処理装置などに合わなかったら性能が発揮できないので、それらの装置に合うために必要な回路を設計して、システム全体を最適化して動かすことが重要になります。そのため、回路設計を通信の応用に焦点を当てたいと考えています。

現在の無線通信では、主に複数の基地局を建てて複数の周波数帯をカバーしています。特に、2GHzから4GHzの周波数帯域全体を一つの基地局でカバーするのは難しい状況です。トランジスタの特性を最大化する技術をアップデートし、1つの基地局でより広い周波数帯域をカバーできるようなソリューションを模索しています(*2)。富士通が広範な周波数帯域に対応できる製品を提供し、市場を牽引することを目指したいと考えています。

未来の研究者へのメッセージ

私は静かな早朝に起床し、ゆっくりと朝食を摂ることが日課となっています。その日課のおかげで一日を気持ちよく始めることができます。健康を保つために、週に一度のランニングで心身をリフレッシュすることも欠かせません。定期的にランニングイベントも参加し、完走できた時は達成感を感じます。

現在私は、研究テーマに沿ってある程度自由に研究開発を行っています。自由ということは、自分で選択や決定を行う必要があり責任も伴いますが、それは必要なことであり、やりがいも感じます。もし我々の研究に興味をお持ちの方がいれば、ぜひ富士通で共に議論し、共に成長できたらと考えます。

鎌田 陽一
Kamada Yoichi
デバイス&マテリアル研究センター
大学院 理学研究科卒
2006年入社
私のパーパス
「トランジスタの持っている特性を最大限に活かした回路で、新しい技術の先駆的役割を果たす」
趣味はランニングです。家族と過ごす時間を大切にし、子供の学校イベントはほぼ欠かさず出席します。

編集後記

編集担当:コミュニケーション戦略統括部 白 湘一

トランジスタ回路の読解き方と設計から、彼は経験を積み重ねたと語った。また、彼は論文を読むことを通して、世界中の研究者たちが研鑽を積んでいる姿に触発され、もっと努力しなければならないと感じている。そして、周りの研究者と協力し、技術の向上を目指している。子供の頃に憧れていた宇宙でも活用できるような技術を実現すべく、今の仕事にとてもやりがいを感じているようだった。

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