研究者インタビュー

AIの社会実装を加速する
Fujitsu Kozuchi (code name) - Fujitsu AI Platform

開発に携わる富士通の研究員の想い
【購買行動分析編】

English

「POS情報のみでは購入・非購入の理由が十分把握できない」や「経験をもとにした施策しかできておらず店舗改善の効果が限定的」など、小売業界は、変化する消費者ニーズの把握、人手不足や経験不足などの課題に直面しています。これらを解決するため、富士通は、これまでブラックボックスであったリアル店舗の購買行動を詳細に見える化し、パーソナライズされた顧客体験の提供に向けて、スマートストアの実現を支援するAIイノベーションコンポーネントを発表しました。今回、Fujitsu Kozuchi (code name) - Fujitsu AI Platform(*1)に搭載する小売業へ向けた購買行動分析(*2)コンポーネントを担当する研究員にインタビューしました。コンポーネントとは、課題解決に必要なAI技術をパッケージ化したものです。リアル店舗での消費者行動を高精度で検知する行動分析技術Actlyzer(*3)を活用する購買行動分析コンポーネントは、どのように消費者の購買体験の向上や業務効率化を実現するのか、その詳細についてお伝えします。

2023年10月24日 掲載

RESEARCHER

  • 竹内 駿

    竹内 駿

    Takeuchi Shun

    富士通株式会社
    富士通研究所
    人工知能研究所
    人リーズニングCPJ
    シニアリサーチマネージャー

店舗運営の課題をデータ活用で解決し、変革を実現

スマートストア化に対し、どのような思いがありお客様と実証実験を推進されたのでしょうか。

竹内:近年、リアル店舗は顧客体験を提供する場へとシフトしています。リアル店舗の強みは、実際に来店者の属性や、1人で来たのか家族で来たのかなどが分かることです。多くの経営者は、来店者の行動を詳細に見える化し店舗運営に利活用していくことが重要であると考えています。一方で、小売現場では人手不足の課題もあり、来店者行動の分析は十分には進んでいません。そこで、私たちが購買行動分析コンポーネントを提供することで、来店者の店内行動を明らかにし、店舗改善につなげ、顧客体験価値の向上を支援したいという思いがあります。

購買行動分析コンポーネントは小売現場のどのような課題を解決しますか。

竹内:購買行動分析コンポーネントは、行動分析技術Actlyzerを駆使することで映像から人やモノを認識・分析して、POSデータでは分からないリアル店舗の購買行動を詳細にデジタル化することができます。現在の小売業における店員不足は、近年まれに見るほど深刻になっていますが、我々は、店員の数を増やさずに、AI技術でより効率的な店舗運営ができないかと検討しました。その課題に対して購買行動分析コンポーネントができるのは、以下2つのことです。一つ目は、来店者の特徴的な購買行動を検知し、店員がその場に向かって接客することができます。来店時間と混雑度合により、適切に店員を配置できます。もう一つは、来店者の行動データに基づく店舗づくりが可能になります。これまでは担当者の勘や経験をもとに商品陳列がされてきました。購買行動分析コンポーネントは、来店者が商品棚のどこに手を伸ばしたのかという手伸ばし率や、場所の分布を可視化することで、棚割りの改善に役立てることができ、売上向上が期待できます。

購買行動分析コンポーネントで購入・非購入の来店者行動を確認

購買行動分析コンポーネントはどのように活用されていますか。

竹内:スーパーマーケットや無人店舗など、実際の店舗での実証実験を進めています(*4)(*5)。購買行動分析コンポーネントで来店者の滞在時間の長い商品棚や、複数商品を比較する行動を検知しています。その情報を元に店内に設置したデジタルサイネージを活用して商品を自動で薦める取り組みも行っています。このように、購買行動分析コンポーネントを用いて、販売の促進効果など現場を支援する実証実験を多くのお客様と進めています。

お客様のニーズと技術のシーズをマッチングした研究開発を推進

竹内:富士通では、高精度な技術と行動科学や心理学といった人文社会科学の知見を融合することによって、社会における複雑な課題解決に貢献できると考えています。購買行動分析コンポーネントに搭載されている行動分析技術Actlyzerは、カメラ映像から人の行動を認識することができます。約100種の基本動作を学習したモデルを使うことで、大量の学習データの準備や事前検証に時間をかけず、映像から人の様々な行動を認識できます。現在、マーケティングや警備などさまざまな領域に使われています。

購買行動分析コンポーネントの開発のきっかけを教えてください。

竹内:消費者のニーズを知るには、アンケートでどういう商品に興味があるかを調査することが一般的です。また、POSデータで、来店者が何を買ったかを分析することによって、売り上げ向上や在庫数管理のヒントが見つかります。ただし、それでは、来店者が買わなかった商品や、実際に手に取って比較した商品は分かりません。それを知ることが、効率的な店舗経営に役に立つのではないかと考えたことがコンポーネント開発のきっかけでした。

購買行動分析コンポーネントの研究開発で直面した技術的な課題は何ですか。

竹内:入店から退店までの、来店者の一連の行動が1台のカメラ映像に収まることは稀です。そこで複数カメラをまたいで同一人物を判別する技術、人物照合(ReID:Person Re-identification)が重要となってきます。ReIDは購買行動の詳細を分析する上で、重要な要素技術の一つといえます。ディープラーニング技術の進化や大規模な学習用データセットの公開に伴い、より効果的な人物特徴量の学習が可能になりました。こうして、ReID性能は年々向上しています。しかし、学習データと異なるドメイン(異なる店舗や照明の明るさの違いなど)に対しては性能が劣化することが知られています。これをドメインギャップと呼びます。ReIDデータセットは一般的な画像データセットと比較して収集コストが高く、ドメインギャップは大きな技術課題となっています。

その課題をどのようにして克服しましたか。

竹内:この課題を改善するために、教師ラベルのないデータを用いたドメイン適応型学習(UDA:Unsupervised Domain-adaptation)の新技術を考案しました。開発技術のポイントは店内の複数のカメラ映像を活用することで、学習用のラベルデータの取集が不要になることです。リアル店舗での購買行動分析では、来店者の回遊行動を追跡するために、大量のカメラが敷設されています。このような場面では複数カメラにおいて、撮影範囲の一部が重なる領域が生じます。そこで我々はこの重なる領域から同一人物の画像データを自動で取得でき、ニューラルネットワークの学習に数学的モデルを組み合わせることで高精度なUDA技術が構築できることを見出しました。本技術により、教師ラベルを手動で収集することなく、対象店舗に最適な人物特徴量を学習でき、ドメインギャップの課題を解決します。公開データセットと独自に取得したデータセット双方を用いたベンチマークテストを行い、提案手法が最高性能(SOTA)を達成することを確認しました。この成果の論文は、AI画像処理分野のトップカンファレンスであるIEEE ICIP 2022の口頭発表に採択されました(*6)。この開発技術を今後コンポーネントに実装する予定です。

研究課題に対してどのようにアプローチしていますか。

竹内:他組織との共創を大切にしています。事業部門や顧客と密に連携した実証実験や、大学との共同研究を進めています。現場実践を行うことで、技術課題を洗い出すことができます。さらにその解決の糸口も実践から見つかることが多いです。事業部門や小売・メーカー企業、アカデミアなどの異なる業界の方々と議論を交わすことで、理論と実践が有機的に結びつき、確かな価値が創出できると感じています。今回開発してきた購買行動分析コンポーネントは、まさにお客様のニーズと技術シーズをマッチングした結果になります。

他組織との共創の大切さについて語る竹内

顧客体験価値を高め、魅力的かつ持続可能なスマートストアの実現を目指す

スマートストアの実現へ向けた研究開発と今後の展望について教えてください。

竹内:リアル店舗は消費者行動を詳細に分析できる場として再認識され、店舗のあり方が変わりつつあります。近年は「売らない店舗(*7)」の登場や「RaaS(*8)」の提供も増えてきました。購買行動分析コンポーネントは、来店者の店内行動を可視化し知見を提供することで、体験価値の向上に貢献できると考えます。また、近年では生成AIを活用したマーケティング施策用のコンテンツ生成も容易となり、AIの利活用の幅はさらに広がっています。人文社会科学との融合による消費者心理の分析にも我々は挑戦しており、行動分析の研究は新たなパラダイムを迎えています。今後も、先端AI技術の開発とAI社会実装を通じて、魅力的かつ持続可能なスマートストアの実現を目指したいと思います。

当社のSDGsへの貢献について

2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)は、世界全体が2030年までに達成すべき共通の目標です。当社のパーパス(存在意義)である「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」は、SDGsへの貢献を約束するものです。

本件が貢献を目指す主なSDGs

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