6G高速通信に向けた世界最高効率の
J帯パワーアンプを開発

電子が高速に移動できるInP系HEMTでMOS構造を実現し高出力と省電力を両立

2023年2月27日

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J帯アンプ回路およびInP系HEMT断面

社会のデジタル化は今後さらに加速し、スマートフォンだけでなく自動車やロボットなどあらゆる機器がインターネットを介してつながると予想されます。また扱うデータも4K/8K映像など大容量化が進み全体の通信量は増加の一途をたどっています。これらの膨大な情報をストレスなくやり取りするためには、無線通信の高速化が必要となります。さらに、地球環境を守り持続可能な社会を実現するには電力消費量の増加も抑制しなければなりません。そのため、第6世代移動通信システム(以下、6G)では現行の5Gを大きく超えた高速無線通信を省電力で実現することが求められており、広い帯域幅を利用できるサブテラヘルツ領域の活用が注目されています。

今回、高速無線通信の候補であるサブテラヘルツ領域で、基地局の消費電力を低減可能な、世界最高の電力変換効率を有する送信用パワーアンプを開発しました。電子移動度が非常に高いインジウムりん(以下、InP)材料系を用いた高電子移動度トランジスタ(以下、HEMT)にて、これまで動作が難しかった絶縁ゲート構造を有するMOS構造の技術開発に取り組みました。その結果、絶縁膜の高品質化によりJ帯(220-325GHz)と呼ばれる極めて高い周波数の信号増幅に成功しました。
さらに、このトランジスタを用いたパワーアンプにおいて、世界最高*となる7%の電力効率を得ることができました。これにより、6G通信を実現する候補としてInP材料を用いたHEMTの活用が期待されます。

本技術の詳細は、応用物理学分野の学術論文誌「Applied Physics Express」に掲載されています。

また、国際会議APMC2022 (Asia-Pacific Microwave Conference) にて発表を行い、Young Industrial Engineer Awardを受賞しました。

さらに、2月27日から3月2日までスペインのバルセロナで開催される世界最大のモバイル関連展示会MWC2023(Mobile World Congress)にて本パワーアンプを出展いたします。

本研究開発は、総務省の「電波資源拡大のための研究開発(JPJ000254)」によって実施した成果を含みます。

* 当社調査に基づく

従来の課題

Beyond 5Gや6Gと呼ばれる新しい通信方式では、現行の5Gを大きく超える高速無線通信を実現することが求められています。このため周波数を広く使えるサブテラヘルツ波と呼ばれる100GHz以上の電波の利用が検討されており、その中で特に広い周波数割り当てが期待される300GHz帯の電波活用に着目しました。

しかし、サブテラヘルツ波などの超高周波では電波の到達距離が短いことが課題です。これは大気中の減衰が大きいことに加え、電子デバイスの動作限界に近づき信号増幅が困難になることによります。また、周波数が高くなるほど、与えた電力を信号の増幅に変換する効率が悪くなるため、消費電力が増加するという問題もあります。従って、サブテラヘルツ波の活用のためには、パワーアンプの高出力化と高効率化を両立させることが必要です。

開発した技術

今回InP系HEMTを用いたJ帯パワーアンプのデバイスおよび集積回路の開発を行いました。
HEMTのデバイス開発としては、不純物の低減と緻密化を可能にする「スチームアニール**」と呼ぶ手法により、酸化アルミニウム絶縁膜の品質を向上させることができました。その膜を2nm(ナノメートル)という極薄膜でゲート絶縁膜として挿入することにより、漏れ電流を低減させ、広いゲート電圧範囲にて良好な高周波特性を得ることができました(図1,2)。

  • 図1.InP系MOS-HEMT断面構造
  • 図2.HEMTの高周波特性

またこのHEMTを6段接続した集積回路を開発し(図3)、出力電力11mW、電力付加効率7%という世界一の特性を得ることに成功しました(図4)。

  • 図3.InP系MOS-HEMTを用いた
    J帯パワーアンプのチップ写真
  • 図4.従来発表との比較

** 特許出願中

今後について

今後は6Gの実用化を目指し、さらなる高出力化および高効率化を進めるとともに、本アンプを用いた伝送実験を進めてまいります。

本件に関するお問い合わせ

contact-wp@cs.jp.fujitsu.com

モバイルシステム事業本部 ワイヤレスプロダクト開発統括部
研究本部 デバイス&マテリアル研究センター

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