世界最高効率の省電力マイクロ波パワーアンプを開発

高効率GaN-HEMTにより電力の無駄を従来比25%低減、持続可能社会の実現

2021年3月2日

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様々な電波利用機器の消費電力を低減できる世界最高の電力変換効率を持つ窒化ガリウム(以下、GaN)高電子移動度トランジスタ(以下、HEMT)パワーアンプを開発しました。
今回、従来とは異なる高品質GaN基板の上にGaN-HEMT用の半導体結晶層を製作する技術開発に取り組みました。半導体結晶層中の欠陥および不純物混入を低減することでGaN-HEMTの効率改善を図り、無線LANや工業・科学・医療分野で広く使用される周波数2.45GHzで、世界最高の電力変換効率82.8%を実現しました。これにより、パワーアンプの損失を従来比で約25%低減させることに成功しました。この技術を適用することにより、将来のセンシングやネットワークなどに使用される電波利用機器の大幅な省電力化を実現することが期待されます。

なお、本技術の詳細は、論文誌「Applied Physics Express」に掲載されています。
https://iopscience.iop.org/article/10.35848/1882-0786/abc1cc/meta

GaN-HEMT測定の様子GaN-HEMT測定の様子

開発の背景

現代社会には様々な電波利用機器があまねく存在し、私たちは便利かつ豊かな生活を送っています。これらの機器の中には多くの電子部品が使われていますが、電力を100%有効に使うことは難しく、多くのエネルギー損失が生じています。この損失は電波の周波数が高くなるほど増える傾向にあり、例えばレーダーや無線通信などに用いられるマイクロ波やミリ波とよばれる電波は、ギガヘルツ(以下、GHz)という非常に高い周波数であり、その電気信号を増幅するパワーアンプの効率は30%から70%程度と決して高いものではありません。今後、無線通信のデータトラフィック量は2030年に現在の約80倍と急激な増加が見込まれており、通信大容量化のために更なる高周波化が進むと考えられます。また電波の高周波化はレーダーの高解像度化にも有効ですが、パワーアンプの効率低下により機器の消費電力は大きく増加することが予想されます。地球環境に配慮し持続可能な社会を実現するためには、これらの損失を低減することが必要であり、より高い電力変換効率を持つパワーアンプが求められています。

従来の課題

従来のGaN-HEMTパワーアンプは、炭化シリコン(以下、SiC)やシリコン(以下、Si)などのGaNとは異なる材料からなる基板の上に半導体結晶層(GaNエピタキシャル層)を成膜し作製されています。しかし、異なる基板上のGaNエピタキシャル層には多数の結晶欠陥が含まれてしまい、パワーアンプの高電圧動作時にこの結晶欠陥がGaNエピタキシャル層内を走行する電子を捕獲してHEMTの電流低下を招きます(図1)。その結果、GaNパワーアンプの出力や電力変換効率が低下するという問題がありました。

図 1 従来のGaN-HEMTの結晶欠陥による電子捕獲とその影響図 1 従来のGaN-HEMTの結晶欠陥による電子捕獲とその影響

開発した技術

今回、GaN-HEMTの製造用基板として基板にGaNエピタキシャル層と同じ材料である高品質GaN基板を採用し、かつ結晶のエピタキシャル成長前にGaN基板の表面に特殊な処理を施すことで、従来のトランジスタを凌駕する効率性能をもつGaN-HEMTの開発に成功しました。

高品質GaN基板上に成長したGaNエピタキシャル層では基板/エピタキシャル層間の結晶格子間隔が揃っているため、これが異なっていた従来の基板と比べて結晶欠陥を2桁以上低減することができます(図2)。

図 2 GaNパワーアンプ結晶の断面比較、および高品質基板におけるエピタキシャル層/GaN基板界面に存在するSi不純物濃度の比較図 2 GaNパワーアンプ結晶の断面比較、および高品質基板における
エピタキシャル層/GaN基板界面に存在するSi不純物濃度の比較

一方で、結晶欠陥が極めて少ない高品質な結晶であるが故に、GaN基板の表面に僅かに残留するSi不純物がエピタキシャル層の電気特性に影響を与えて問題となります。具体的にはSi不純物がエピタキシャル層中に取り込まれ活性化されることで、高周波動作時の漏れを引き起こす導電性の高い層が基板界面近くに形成されることが効率改善の妨げになることが判明しました。このSi不純物を不活性化してGaN-HEMTの効率改善を図るために、エピタキシャル成長前にGaN基板表面に特殊な処理を施し、GaN基板を不活性化するために添加されている鉄(以下、Fe)濃度(2-9×1018 cm-3)よりもSi濃度を低くする技術開発を行いました。図3に示すように、従来技術(未処理)のGaN-HEMTパワーアンプでは1GHz以下から10GHzへと周波数が高くなるにつれて高周波信号の漏れが大きくなっていますが、本技術の適用により周波数によらず、高周波信号の漏れを抑制することができます。

図 3 試作したGaN-HEMTの高周波信号の漏れ比較図 3 試作したGaN-HEMTの高周波信号の漏れ比較

今回開発したGaN-HEMTパワーアンプの2.45 GHzでの出力特性を評価した結果、2-3 GHz帯での出力電力密度と効率の性能指標(図4)において、世界最高効率82.8%を得ることに成功しました。

図 4 これまでの報告例と本発表の特性の比較図 4 これまでの報告例と本発表の特性の比較

本技術により、無線ネットワーク、センシングや工業用加熱などの電波利用機器の省電力化が期待でき、CO2排出量の削減により持続可能な社会の実現に貢献します。また、発熱の抑制により電波利用機器の冷却機構の小型化などの効果も見込まれます。今後は、高効率電力増幅器のさらなる高周波化を進めていき、将来の電波利用機器の省電力化に向けて開発を継続していきます。

本研究の一部は、環境省「未来のあるべき社会・ライフスタイルを創造する技術イノベーション事業」プロジェクトの支援を受けたものです。

開発チームからのコメント

デバイス&マテリアル研究センター 先端材料技術プロジェクト 熊﨑 祐介 研究員

「本研究を進めるにあたり、環境省様からの多大なるご支援や、研究グループの皆様からのご協力を賜り、パワーアンプの高効率化という高い目標を達成することができました。この場を借りて御礼申し上げます。今後は、本プロジェクトを通して開発した技術を融合することにより、システムレベルでの有用性を実証し、将来の脱炭素社会の実現に貢献していく所存です。」

開発チーム:左から、小谷 淳二 プロジェクトM、熊崎 祐介 研究員、尾崎 史朗 研究員

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