最新技術を“茶室”で演出 デザインに込めたもの

掲載日 2020年9月24日

お茶を楽しみながら富士通の最新技術を体験。富士通研究所(川崎市中原区)のエントランスホールから階段を上がると、高級旅館の一室のような空間がお客さまを出迎える。靴を脱いで進むとテーブルを備えたサロンに茶室。お客さまを茶席に導くのは最新技術を駆使した映像。お茶が差し出されると壁には春夏秋冬の風景が映し出される。この空間をどんな思いでデザインしたのか。プロジェクトリーダーを務めたデザイナーの思いに迫った。

富士通研究所「岡田記念ライブラリー」の紹介

社長の思いを形に

「日本文化を伝える富士通らしいおもてなしの場を作りたい」。2018年1月、富士通研究所の佐々木繁社長(当時)の思いからプロジェクトが動き出した。リーダーとして白羽の矢が立ったのは、研究所オフィスやショールームのデザインに関わってきた富士通デザインセンターの堀江武史。同センターの平田昌大、大江萌美、鈴木祐太朗をメンバーに加え、プロジェクトが動き出した。

おもてなしの場は、日本文化を象徴する「茶室」に決まり、研究所の「岡田記念ライブラリー」(注1)をリニューアルする形で整備されることになった。さらに途中から、研究員同士がデジタル技術を駆使し新たな発想を生み出す「共創」の場とすることもミッションに加わった。おもてなしの茶室と研究員が交流するサロン、岡田記念ライブラリーの3つをどう融合させるか。堀江らが頭を悩ませた末、2019年1月、「岡田記念ライブラリー」は生まれ変わった。

  • (注1)岡田記念ライブラリー:
    富士通の第5代社長で富士通研究所を創設した岡田完二郎所蔵の書籍を閲覧できるスペース(一般には公開されていません)。


日本文化と新技術の融合

堀江らがデザインした新たな空間は、お客さまが小上がりの茶室に向かうと、その動きを感知してセンシング技術が作動し、さまざまなおもてなしが演出される。
畳面の座る位置にはお客さまの名前が表示され、茶道の心得のないお客さまのために「席入り」「お点前」と茶道の流れに沿って作法も表示。安心してお茶を楽しむことができる。そしてお茶が差し出されると、壁には四季折々の風景が映し出され、お茶の体験に彩りを添えるといった、デジタルとリアルの融合である。

茶室の壁には四季の映像が映し出される


研究員の「共創」の場にも

こうした演出には、富士通研究所が開発した最新技術「Izumina(イズミナ)」(注2)が使われた。この茶室とサロンを融合させた空間は、研究員が気持ちを切り替えて新しい発想を生み出す「共創」の場、研究員同士が交流し知識を深める場としても利用されている。

研究員らが「共創」の場として活用

「Izumina」の技術は、この共創の場で本格的に活用されている。参加者はテーブルや壁に自由に電子ペンを使って写真や資料を共有したり、アイデアやコメントを書くデジタル付箋を使ったりと、さまざまなツールを使ってグループ作業を行うことができる。空間全体がまるで1つのディスプレーのようだ。
リニューアルから1年半余り。新たな空間は、社内ミーティングや研究員の自主的活動に積極的に利用されている。

  • (注2)Izumina:
    富士通研究所が開発したUI技術。ICT技術でスマホの画面などをプロジェクターと連携させて机や壁に投影するなど部屋全体をデジタル化して情報を共有して共同活動ができる。オンラインによる遠隔からの参加もできる。
ワークショップの場としての活用イメージ

新しいものをデザインするやりがい

堀江は最初に社長へのヒアリングで「日本文化がないところにイノベーションはない」と言われたといい、「こうした思いをどう可視化して空間をデザインしていくか頭を悩ませた」と当時を振り返る。「茶室」のおもてなしと最新のデジタル技術の体験、さらに「共創の場」づくり。複数の機能を同じ空間にどうデザインするか。とりわけお茶の文化に詳しくない海外からのお客さまなどにどう楽しんでもらうかディテールにこだわった。

一連のお茶の作法のうちどの場面でセンシング技術を活用するか、毎週1回、平田、大江、鈴木らと顔を突き合わせポストイットなどを使ってブレーンストーミングしながら構想を練り上げた。コンセプトが決まると、空間設計を手掛けるパートナー会社(株)丹青社の野村一樹氏も加わり、実現に向けて一緒にデザイン作業を行った。

「お茶のお点前の流れの様々な要素から、茶碗の回し方や掛け軸などをピックアップしながら、茶道に精通したメンバーと一緒にデザインを進めました」。お客さまの動線に沿ったお茶体験のシナリオを練り、最終的に茶道家からもチェックを受けた。
さらに日常から非日常へと気持ちを切り替える動線にもこだわり、入り口には、照度を落とし木漏れ日を表現した照明や灯篭なども配置した。

木漏れ日を表現した入り口の照明

プロジェクトを振り返って堀江は「最新技術と茶室の融合した空間デザインというこれまで経験したことのない新しいデザインを任せられ、特にデザイナーとして空間設計からコンテンツ制作、コンセプトムービー制作まで関わることができた、やりがいのあるプロジェクトでした」と語る。



「こんなスペースが!」社内でも驚き

リニューアル後、来客のおもてなしや研究員の利用に立ち会い、堀江は「こんな場所があったのか」との驚きの声を何度も耳にした。
「今後も研究員らにビジネス交流の場として活用してほしい」と話す。また、この空間は「Izumina」を体験できる場であり、将来的には、こうした空間をデザインできることも積極的にPRし、富士通の新しいビジネスにつなげていきたいと夢を語った。

チームメンバーデザインセンター堀江武史
  平田昌大
  大江萌美
  鈴木祐太朗
 株式会社 丹青社野村一樹
プロジェクトリーダーを務めた堀江武史
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