富士通のデザイナーが取り組むまちづくりのコミュニティデザイン活動【前編】

富士通のデザイナーが取り組む
まちづくりのコミュニティデザイン活動【前編】



掲載日 2022年9月16日

東京都港区では、麻布地区を「みんな」で「よく」するコミュニティデザイン活動、「ミナヨク」を推進しています。平成27(2015)年度から富士通が受託事業として支援しており、昨年度はデザインセンターや未来社会&テクノロジー本部に在籍する社員が、プロジェクトリーダーやメンバーとしてミナヨクの活動に参画。今回は富士通社員3名と、サポーターのまちびと会社ビジョナリアルのおきな まさひと氏の計4名に集まってもらい、座談会を開催しました。和気藹々とした雰囲気の中、ミナヨクの活動やまちづくりに対するそれぞれの想いについて語ってもらいました。前編では、ミナヨクの活動を中心にご紹介します。

インタビュイープロフィール

  • おきな まさひと氏 :
    まちびと会社ビジョナリアル 共同代表 facebookサイト >
  • 岩田 尚子 :
    未来社会&テクノロジー本部
  • 湯浅 基 :
    デザインセンター フロントデザイン部所属 デザイナー
  • 境 薫 :
    デザインセンター フロントデザイン部所属 デザイナー

部署名・肩書は取材当時のものになります。

地域活動に関心のある社員と、まちづくりの専門家がミナヨクの活動をサポート

——— 自己紹介をお願いします。

湯浅

湯浅: 私はデザインセンター フロントデザイン部に所属し、普段は人間中心設計専門家のデザイナーとして営業部門と一緒に企業・自治体等への提案活動などを行っています。ミナヨクでは、プロジェクトリーダーとして全体のプログラム設計や運営を担当しています。

境: 私も湯浅さんと同じフロントデザイン部に所属しています。人間中心設計専門家で長くハードウェアのデザインに関わってきましたが、最近は公共系サービスのUXリサーチや、Web、アプリ、SNSといったユーザーとサービスのタッチポイント(接点)のデザインに主に関わっています。

岩田: 私は未来社会&テクノロジー本部に所属しています。昨年4月にできた部署で、ビジネスプロデューサーやエンジニア、デザイナー、アーキテクト等、多種多様な職種のメンバーが総勢400名以上在籍しており、私はデザインチームに所属しています。同じプロジェクトのメンバーからミナヨクの話を聞き、昨年度のプロジェクトに参画しました。ミナヨクでは、参加者のサポートなどを担当しました。

岩田

おきな: まちびと会社ビジョナリアルのおきなです。湯浅さんと九州の地域活動が縁で知り合い、一昨年ミナヨクでセミナーのゲスト講師をして、昨年度からはサポーターとして参加しています。

おきな氏

湯浅: 一昨年、ゲスト講師を依頼した際に伺ったおきなさんの考え方に共感し、昨年度は全ての回に関わってもらえるサポーターをお願いしました。我々はプロジェクト運営や企画、デザインの知識はありますが、地域活動、まちづくりについてはどうしても本業の方とは経験の差があります。その部分の知見をおきなさんにサポートしてもらっています。

おきな: 私は、参加者の住民のみなさん、運営する富士通、事業主体の港区、この三者の真ん中にいる位置づけだと捉えています。非常に面白い立場ですね。
いくらミナヨクのような取り組みを行っても、最終的には、地元の住民自らが活動しないとまちづくりは進みません。外部の団体は、プロジェクトが終了するといなくなってしまうからです。地元の方だけになったときにも運営が回るようにサポートするのが、我々の役割だと思っています。



昨年度のまちづくり企画は会期終了後も継続中

——— ミナヨクでは具体的にどのような活動をしているのですか。

湯浅: ミナヨクは、「半年程度の限られた期間で企画を生み実証実験をする場」です。7回ほどのワークショップを開催し、麻布を良くする企画を考え、チームを作り、企画推進方法を検討し、実際にまちで試すところまでを伴走します。富士通や港区が主導するのではなく、多様なバックグランドを持つ参加者が、それぞれの視点で力を合わせる共創型のプロジェクトで、富士通デザインセンターがその運営を行っています。
デザインというと目に見えるもの、形のあるものが対象だと思われがちですが、近年デザインの領域は、モノからコトへ、コトからサービスや社会へと広がりを見せています。このプロジェクトには、社会のデザインに関心のあるデザイナーが集まりました。プロジェクト運営にはデザイン思考を取り入れており、UXデザインの一種だと捉えることもできます。

おきな: どこの自治体でも、住民自らの手でまちづくりや地域を盛り上げるプロジェクトをやってほしいと考えていますが、かといって行政側が依頼してやってもらうことも難しいというジレンマを抱えています。ミナヨクのようにデザインという手法を取り入れて、住民の自主的な活動をサポートするという取り組みはとても重要だと思います。

——— ミナヨクに参加されているのはどんな方ですか。

境: 港区の麻布地区にお住まいの方が多いですが、「住民であること」という参加規程はありません。昨年度は現役で仕事をされている方が多く参加されていました。ですから期間中、ワークショップで終わらなかった課題を夜や休日に、オンラインで話し合ったりしました。

岩田: おきなさんは、参加者に1対1でサポートするなど、参加者の懐に入るのがとてもうまく、仲良くなるのが早いんです。経験に基づくアドバイスに重みがあって参加者からの信頼も厚く、我々も頼りにしていました。

——— このメンバーで臨まれた昨年度の活動について教えてください。

湯浅: 昨年は、過去のミナヨクの修了生が再度活動をするという初の企画で進められ、参加者は2つのチームに分かれて活動しました。1つ目のチームでは、まちあるきや修了生の同窓会「みなゆかば」を企画したり、LINEのオープンチャットで交流したりしています。月1回程度のまちあるきは現在も活動を継続しています。ミナヨクの会期終了後も活動が続いているのは大きな成果で、サポーターのおきなさんがチームをうまくまとめてくれた功績も大きいと思います。

岩田: 大学生を中心とした2つ目のチームは、アートやデザインを通じてこどもたちがストレスを発散し楽しめるイベント「みないろ」を企画しました。学生さん、お子さん、親御さん、みなさんとても楽しそうに参加されていて、私もこどもに戻って参加したいなと思ったくらいです。

参加した子どもたちと学生スタッフ

市民活動のワークショップ運営では、参加者の自主性を尊重することが大切

——— ミナヨクに参加されているのはどんな方ですか。

境: 業務でワークショップを行う場合は、マイルストーンやスケジュールを定め、成果物をきちんと出すことが重要だと思います。でもミナヨクのような住民の共創の場では、組織や目標が緩やかで、同じ運営はできません。ファシリテートする富士通は、スケジュールを細かく立て過ぎず、参加者のペースに合わせながら柔軟に都度計画を見直すようにしています。

おきな: 小さなまちでこういった市民活動をすると、行政主導になることが多いのですが、港区には信頼して任せてもらっていると感じています。港区は、ミナヨクの活動を見守り、寄り添ってくれている感じです。 富士通も、活動に対して決まった枠を作らず、参加者に自由に考えて動いてもらう広場を提供するような、ゆるやかなファシリテーションをしていると感じます。よく、「コミュニティデザインをしましょう」と言いながら、結局自分たちが持って行きたい方向に誘導してしまうことがあるのですが、富士通は「行政が喜ぶ報告書」を考えずに運営しているのが、とても良いと思います。

境: 我々が手を出し過ぎると、参加者の方が「教えてもらえる」「デザイナーがいるのだからやってくれる」と頼ってしまうことがあると思います。それでは市民主体のデザイン、市民活動の本来の目的からずれてしまうので、見守る姿勢を意識しました。

湯浅: ワークショップを通じて地域活動の取り組み姿勢やノウハウを学び、富士通のサポートがなくても、自主的に地域活動ができるようにするのが目標です。時には方向性がなかなか決まらないこともありますが、あえて口を挟まず、ヒントやアドバイスだけをお伝えするようにしています。
参加者の方が「まちづくりの活動は面白いな」と感じ、継続的に、あるいは何年か後にでもまた同じようにやってみたいと思ってもらえれば成功ではないでしょうか。

  • 本稿は前後編になります。後編では、みなさんのプライベートでのまちづくり活動や、コミュニティデザインに対する想いについてお聞きします。後編はこちら >
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