LIFEBOOK UHシリーズ

掲載日 2019年7月29日



究極のモビリティを追求した世界最軽量ノートパソコン

モバイルノートパソコンには、時間と場所にとらわれないワークスタイルを実現するツールとしてのニーズが高まっています。常に持ち歩き、様々な場所で使用されるため、頑丈さと持ち運びやすさ、そして使い勝手がこれまで以上に求められるようになってきました。

そのような背景の中で登場したモバイルノートLIFEBOOK UHシリーズ。圧倒的な軽さと薄さに加え、フルスペックのノートパソコンと同様の使い勝手の良さをデザイナーとエンジニアの協力で実現し、洗練されたツールとして高い完成度でまとめています。発売後の評判は良く、歴代のモバイル機の中でも販売は好調です。

デザインセンター 益山、森口、黒澤の3名のデザイナーにお話を伺いました。
(聞き手:デザインセンター 池田 潔彦)

「Minimum & Maximum」というコンセプト


——— どのような経緯で世界最軽量を目指すプロジェクトが始まったのですか?

益山: 初めから世界最軽量を目指すという依頼が来た訳ではありません。LIFEBOOKのフラッグシップとしてふさわしいモデルを出すことがこのプロジェクトの発端です。開発中に常に意識したのは「Minimum & Maximum」。余分なものはそぎ落とす、だけれども使い勝手の良いパソコンをつくろう、みたいなところから検討がはじまりました。

初代・2代目のデザインプロデューサー:益山 宜治

何をもってMinimumとするか、何をもってMaximumとするか、どこを落としどころにするかの要件定義がなかなかまとまらず苦労しました。13.3インチのディスプレイとフルキーボード以外にコネクタ類をほとんど省いた構成から、バッテリやCDなど拡張性をすべて含んだフルサイズのノートパソコンまで含めて検討しました。

ハードウェア構成の検討マップ

——— 折り返してタブレットスタイルになるものや、ディスプレイとキーボードが分離するタイプのPCは検討されなかったのですか?

益山: 高性能なWindowsタブレットやサバ折りタイプもあるけれど、長時間の文章入力や資料作成には適さないし、膝上での作業や持ち運びに不便です。タブレット型は画面を他の人に見せるような場面では有効ですが、我々が想定しているのは個人が仕事やプライベートで快適に作業できる場面であって、それぞれの本質的なニーズは異なります。私たちが目指したのは、スタンダードであるがゆえに多くの人が慣れ親しんだ作法で使える道具を、さらに研ぎ澄ませ、磨き上げることです。ですから最も使いやすく、洗練されたクラムシェル構成、この中で究極のかたちを目指すことにブレは無かったです。

一般的なノートパソコンのデザインではエンジニア、マーケティングとのやり合いが長く続くのですが、今回は「世界最軽量で使いやすい」の目標がすごく明確なので、お互いに反論している隙はなく、どうやって目標を達成しようかという同じ目的意識に立てました。結果として方針が決まるまでに異例の半年以上がかかりましたが、決まってから製品化までの時間が本当に短く、駆け足で進めました。

エンジニアとの一体目線から生まれた強さと美しさ


——— コンセプトを実際にデザインに落とし込むためのプロセスについてお聞かせください。

森口: まず設計方針と並行して外観に大きく影響してくるコネクタ類やヒンジなどについて検討しました。
実物大のボリュームモックを比較することでメリット、デメリットが明確になります。そこで厚み、重さの違いや、フットプリント(基盤サイズ)の異なるものを何度も作成し、エンジニアとの間に意識にズレが生じないようにしました。

軽くなると外で使う機会がどんどん増え、タフな環境で使用する場合もあると思います。そんな場合でもお客さまに不安を与えないように、「軽さと堅牢」を大切にしてデザインを進めました。

初代・2代目のデザイナー:森口 健二

——— 特にこだわったこと、苦労されたのはどの部分でしょうか?

森口: 外観で特にこだわったのがノートパソコンのデザインの命ともいえるヒンジ周りの仕立てです。当初の設計図では、ディスプレイを開閉するヒンジがパソコン本体上面(キーボード面)にありました。その方が軽く小さく作るのに効率が良く、設計し易かったのですが、機械的で無骨な印象を与えてしまい、様々な場所で違和感なく使ってもらいたいという狙いから逸脱してしまうと考えました。

そこで妥協せず、エンジニアにデザインの意図や効果を伝え、大幅な見直しを実施してもらうことで商品性を高めるように働きかけました。

エンジニアと同じ土俵に立ち、「こうすれば実現出来るのでは?」「商品性と合っているか?」など、目標を共有するレベルの高い開発を行っていくことが必要です。あとエンジニアとどれだけ仲良くなれるかも大切ですね。

こうして実現したのがこのデザインです。巻き形状のフォルムは一番負荷のかかるヒンジ部に強度を持たせ、排気口をディスプレイ面でうまく隠し、目立たなくすることで、見た目の美しさと捻じれ強度の向上を図っています。発売され、実際にオープンカフェなどで使っている人を見かけるようになり、自分達が目指したものが受け入れられたのだなと実感しました。

カフェでの使用シーン

さらなる軽量化のためにケース構造と造形を刷新

2017年に初代機UH90/B1が、同年10月にはさらなる軽量化を果たした2代目UH90/B3が発表。そして2018年末に、さらに50g軽い新デザインの3代目UH-X/C3が登場しました。

— —どのような工夫によって、デザイン性を損なわずに更なる軽量化が達成できたのですか?

黒澤: 私が担当したUH-X/C3は3代目になります。アスリートが厳しいトレーニングによって0.1秒の速さを追求するように、今回の開発は軽量モデルとして好評の前機種からさらに50g軽くするという難しい課題への挑戦でした。

3代目のデザインプロデューサー:黒澤 悠

最初に多くの関係者に軽量化したモックアップを実際に鞄に入れて持ち歩いてもらう評価実験を行い、荷物と一緒に運んでも苦にならない重さとして700gを切ることが必要であることを確かめ、目標数値として決定しました。

ケースの素材や作りを一から見直し軽さを追求しましたが、全体強度の低下が課題でした。そこでエンジニアとともに強度を上げる造形を検討し、新たなケースのデザインが生まれました。

前機種ではキーボード面と底面のそれぞれ浅いケースを側面中央で合わせた作りでしたが、新機種ではケースを深くし、底面で蓋をする構造とし、軽量化と同時に強度を確保することが出来ました。結果的にキーボード面から側面にかけて一体感が生まれ、すっきりとした見た目を実現しています。

ちなみに底面は薄い金属のシートプレス成型という新製法で作られており、造形的な制約がありましたが、プレスと相性の良い柔らかい形状をうまく取り入れることで、モビリティ時の手当たりの良さと、鞄に入れたときの出し入れがしやすい形になっています。また側面の造形によって、薄い本体がゆがまないために通常は必要になる凹凸やリブなどを追加することなく軽量化でき、武骨に見えないスタイリッシュで軽快な仕立てにしました。

プロフェショナルツールに相応しい質感


——— デザインへのこだわりは構成、素材だけでなく多岐にわたっていますね。もう少し詳しく教えていただけませんか?

益山: LIFEBOOK UHシリーズでは梨地(梨の表面のようにザラザラした質感)のシボ(細かな凹凸をつける)塗装を採用しました。この製品は、ビジネスとコンシューマの双方が使用するモデルなので、どちらの層からも受け入れられるテクスチャーです。プロ仕様のカメラなどで多く使われ、キズがつきにくく生産性が高いだけでなく、金属素材やクリアな塗装の多い他社のパソコンと店頭で並んだ時に、シックな質感が逆に目立つといった差別化が図れるので、この塗装に決めました。

キーボード面は輝度感のある塗装表現に変え、コントラスト差をつけることで、側面から見ると上下の梨地層に挟まれた3層構造に見えるよう調整し、薄さを表現しています。

黒澤: UH-X/C3は成熟した3代目のモデルとして、プロフェッショナルツールとしての極まりを表現するために落ち着いた黒一色に統一しました。サイドに印刷したアイコンの視認性も良くなり、操作性にも妥協のないデザインにしています。

デザインの描いたユーザー体験価値を発信する


——— web、カタログ、ビデオなどプロモーションにもデザイナーが深く関わっているとお聞きしましたが、どのように関わられたのでしょうか?

森口: この機種に限らずプロモーション部隊とは常に対話しながら活動を進めています。今回は「軽く、堅牢で、どこでも持ち運べる」ことが売りになります。POPなどで使用するビジュアルひとつ取っても、このPCをどこで、どのように使うのか、といったイメージを具体的に示しながら店頭での見せ方を検討しました。

益山: 開発の初期段階では様々なレイアウト、ユニットの組合せ方を変えたデザイン案を出し合っていたのですが、「このデザインだったら、こういうプロモーションが出来ます」という社内向けポスターを同時に提示していました。実は webページに掲載されている分解図と重量を一緒にした画像は、この初期段階のポスターから来ています。

カタログの基になった図

——— 今後に向けてお聞かせください。

黒澤: おかげさまで、3世代共に市場での評判はとても高いものになっています。このシリーズを今後どう発展させていくか、どう変えていくかは、今はまだお伝えできませんが、新しい製品を作る上で「もの」だけでなく「体験」を作ることが大事だと思っています。

プロダクトに関わるデザイナーは、ユーザーの利用シーンや新たな体験価値を創造するスキルを持っていますが、実際にそれを製品として世に出すことは簡単ではありません。新しい体験は誰も体験したことが無いだけに、まず社内関係者にイメージし理解してもらうための工夫が必要です。そこでアイデアをポスターやムービーにして繰り返し伝えることで徐々に関係者の共感を得、早い段階での合意形成を図り、具体的な商品企画から開発へと繋げていくのです。新しい価値体験の追求をこれからも続けていきます。


——— 本日はみなさん、ありがとうございました。

(注)部署名・肩書は取材当時のものになります。

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