今年の富士通フォーラムは5月18日、東京国際フォーラムでスタートしました(2017年5月18~19日 東京会場、8月2~3日 大阪会場)。展示ホール内「Digital Co-creationによる新たなビジネス・社会」エリアでは製造、小売・物流、まちづくり、金融、都市インフラ、農業、スポーツをテーマにいくつもの展示デモが用意され、多くの来場者で賑わいました。
小売・物流ゾーンでひときわ衆目を集めたのが「共創の空間を演出する次世代の自動販売機」(通称・共創自販機)です。デザインセンター デザイナー安藤卓さんと志水新さんは、流通ビジネス本部流通ビジネス推進室デジタルビジネス推進部・木下恵一朗さんとのタッグにより、小売・物流ゾーンの戦略づくりからデモ機の開発・デザインまでを実践しました。ご担当の3名にお話を伺います。
(聞き手:デザインセンター 三柴加奈子)
営業×デザイナーで挑んだ
富士通フォーラムでの
展示戦略

掲載日 2017年12月1日
来場者の心をつかむ未来体験デモ【座談会】
デザイナーがあらゆる業種の商談を支援する
——— まずは、デザインセンターにおける安藤さんのお仕事についてご紹介いただけますか?
安藤: はい。プロジェクトにおける私のミッションは「業種系の商談支援」です。すなわち金融・流通・産業・公共・社会基盤という5業種に対する商談をデザイナーの立場から支援しており、なかでも「流通」をメイン領域としています。これまで個々の会社に対する商談の流れの中から何かかたちになるものをつくり、製品化までつなげていく——といったアプローチもありましたし、今回の木下さんとのプロジェクトのようにともに戦略を立ててから展示会のような場で広くお客様に拡げていく、といったアプローチもありました。特に今回のような展示会では個社レベルの商談にはない発信力が期待できますし、かつ、テストマーケティングの場としても機能しますからやり応えがありました。
——— 木下さんは、流通ビジネスの戦略企画部門として小売・物流領域をご担当され、そうしたお仕事を通じ安藤さんと関わるようになったと伺っています。
木下: 安藤さんと初めてお会いしたのは、たしか2014年度の富士通フォーラム(以下、FF)でしょうか。

木下: 当時FFの戦略を考えていた頃、営業部門の小売・物流領域でも「コト起点」「富士通の未来像」が求められつつありました。FFを富士通のビジョンを伝えられる展示会にするべく、最初はビジョンムービーなどを富士通内で自作していたのですが、2015年度からデザインセンターにもお声がけするようになり、安藤さんともお仕事をご一緒するようになりました。
——— 木下さんから見て、安藤さんはどのようなデザイナーでしょう?
木下: 事業部にしても営業にしてもいろいろな業種を担当してきた人は富士通グループ内にも少ない印象があります。安藤さんのようにあらゆる業種にまたがった知見・経験をお持ちのデザイナーが横にいるだけでとても安心しますよ。今のビジネスの世界は「業際連携」といいますが、1つの業種で完結させてものごとを考えていける時代ではなくなっているし、特に、私が担当する流通の世界はとても変化が早いんです。FFでも安藤さんにご意見をいただくことで、自分たちがチームとして進歩できた感覚がありました。
「体験」でビジョンを伝える展示に
——— 再び、展示会プロジェクトの話に戻ります。安藤さんが木下さんと初めてお会いになってから、どのようにプロジェクトが進められたのでしょう?
安藤: 当初は「サプライチェーンの将来像を描きたい」という案件と聞いて、担当になったことを覚えています。それまでのSCM(サプライチェーン・マネジメント)といえば生産・物流・販売……というシステマチックな一連の流れがあって、富士通はそれにソリューションを当てはめるということをやっていましたが、この頃、そのやり方が転換期を迎えていました。おのずと「消費者視点」という要素が加わりながら、木下さんとご一緒にFFの戦略づくりを実践しました。

——— 今年、2017年度のFFで特に意識したテーマは?
木下: 2015年度頃からの反省点の1つとしてあったのは、FFでいくら富士通のビジョンだけを訴えても不完全燃焼のまま終わってしまっていたことでした。すなわち、個々の展示を——来場者の心にささるような——もっと体験的なものにしていかなければ……という課題がかねてより残っていたのです。そこで、2017年度はデモで魅せることに注力しました。
——— 2017年度のFFは2つの展示エリアに分かれており、「Digital Co-creation による新たなビジネス・社会」をテーマにしたエリアでは製造、小売・物流、まちづくり、金融、都市インフラ、農業、スポーツの各領域が、独自にテーマを定めて展示会を企画しました。木下さんたちが担当された「小売・物流」はどのようなテーマを設定したのですか?
木下: いま、AI、ロボット、IoTなどが様々なシーンで活用され始めていますよね。それは流通業界も同様なので「(小売でも)例えばこういうふうに使われたらおもしろいよね」という、いわば“近未来的なシーン”をいくつも打ち出すことを意識しました。
安藤: いまビジネス全般で言われていることとして顕著なのは「労働力不足になる」ということですよね。無人化、セルフ化、人を介さない物販購入——。そのときに「残った店員(人間)の側はどうあるべきか」がよく論じられていますが、日本企業はまだその答えを見出していません。FFという場のあり方を考えたときに、その課題に対する富士通の答えをいくつか示すことができればと思いました。
すなわち、シェアリングエコノミーやブロックチェーンなどが台頭していることからもわかる通り、B to C to Cといわれるような——お客様同士がつながって新しいビジネスやコミュニケーションが生まれていくシーンを示せるのではないか、と。すでに富士通のビジネスで実証を進めているプロジェクトもありますし、FFでの展示もそうした一連の流れに乗じるものができると考えました。
ワークプレイスの価値をがらりと変える自動販売機
——— そうした個々の展示のうちの1つが「共創の空間を演出する次世代の自動販売機」、通称・共創自販機ですね。これはどういった経緯から生まれたのでしょう?
木下: かねてより富士通と協業関係にあった、各種自動販売機のトップシェアを有する富士電機株式会社様(本社:東京、代表取締役社長:北澤通宏、以下、富士電機)との関係から生まれました。富士電機は駅のホームでよく見るデジタルサイネージ自販機なども製造されています。富士通としても富士電機との協業関係の中で、先ほど安藤さんが言っていたようなB to C to Cビジネスの可能性を模索していきたいと考えていましたので、自販機を使った展示会デモの試作へとつながり、後にそれが「共創自販機」へと発展しました。

——— 既存マーケットの拡大などを画策しているメーカーは、富士電機以外にも多いのでしょうか?
木下: 多いですね。誇るべき自社製品を持っているけれど、どう発展させればいいかわからない……。そうしたところに富士通のビジネスを加速させる余地がありますし、またそこに、富士通が掲げている共創の意義があるのだと思います。
——— 共創自販機は具体的にどのようなプロダクトなのでしょう? 共創自販機を担当された志水さんからご説明いただけますか?
志水: 共創自販機は、中央の大型液晶ディスプレイと左右の縦型液晶ディスプレイで成り立つ自販機です。中央の自販機は、みなさんもよくお使いになるであろう(駅のホームなどの)デジタルサイネージ自動販売機を思い浮かべていただければよいと思います。インテルコーポレーション(本社:米国カリフォルニア州サンタクララ、CEO:ブライアン・クルザニッチ、以下、インテル)の「インテル® RealSense™ テクノロジー」が内蔵されていて、利用者の性別、年齢、表情、ジェスチャーを検知することもできます。自販機の左右には1枚ずつ大型サイネージが付帯しています。左面のサイネージにはニュースやトレンド情報が、右面のサイネージでは社内のコミュニケーションツールと連携させることで社内ネットワーキングの支援が行えます。

志水: ポイントは飲み物などの購入目的で共創自販機まわりのスペースにやってきた人たちが、自販機に現れる情報をもとに交流し、職場のコミュニケーションを活性化できるという点です。そうして「共創空間を演出する」という点が、共創自販機に込めたストーリーです。
——— 開発にあたり、何から始めましたか?
志水: すでに富士電機の方で海外の展示会向けに、参考出展として次世代自販機のプロトタイプが開発されていましたので、われわれはまず木下さんと「どのようなシーンで活用できるか」を考え、活用できる領域を絞っていきました。

戦略づくりからデザイナーが加わることの意義
——— 安藤さんはデザインセンターにおいて主に、流通系の商談支援を担当されています。こうした不特定多数のお客様が対象となる「展示会の戦略づくり」というのは、普段のお仕事とはまた違ったものでしたか?
安藤: それはありますね。共創自販機の場合は、インテル、富士電機、そして富士通としてのビジョンを不特定多数の方に示すことはもちろんですが、例えばこれが「リテールテックJAPAN」(毎年行われる流通業向け展示会)なんかだと同じ業界の方が集まるわけですよね。FFは多種多様な業界の方が大勢来場されますから、他の業種に訴求することも意識せざるを得ませんでした。共創自販機は、小売・物流の世界単体だけで見れば新しい販売のタッチポイントとして見せることができるのですが、他業種でも「こういうものがオフィスにあるといいよね」「ワークスタイルが変えられるかも」という波及のさせ方ができたと思います。

安藤: もう1つ思うことは、実はFFの戦略づくりは(普段やっている)営業のみなさんの商談支援という部分にもつながるんじゃないか、という点です。実際にFFでコンセプトを定め、テストマーケティングまで行った成果は、その後1年間、営業のみなさんの商談にも活用できると思うんです。そうしたことを富士通全体に浸透させていくこともこれからの重要なテーマだと思います。
木下: そうですね。これからの営業はお客様に仮説提案しながら新しいビジネスを創っていかなければならないと思うし、安藤さんのような思いを持ったデザイナーさんと、様々なプロジェクトを通じ、これからもタッグを組んでいくでしょう。今回のFFのプロジェクトはまさしくそれ。これからのパートナーとして、安藤さんや志水さんのような存在が、われわれにとっても欠かせなくなっていくと思います。
——— 本日はありがとうございました。
(注)部署名・肩書は取材当時のものになります。
