Fujitsu薬剤情報提供サービスが、2022年度キッズデザイン賞を受賞

Fujitsu薬剤情報提供サービスが、
2022年度キッズデザイン賞を受賞



掲載日 2023年1月23日

正確かつ最新の薬剤情報を医療現場に届けることは、医療の安全にとって大変重要です。しかし規制強化やコロナ禍により医療機関と製薬企業の接点は減少しており、医療従事者は以前より情報を入手しにくくなっています。
富士通は2021年12月に、富士通電子カルテシステム上で薬剤情報を提供するサービスを開始しました。医師をはじめ全職種の方が簡単な操作で利用でき、散在する薬剤情報を電子カルテからすぐに参照できます。特に小児科では、脳神経や皮膚、耳鼻咽喉など診療領域が多岐にわたり多様な薬剤を使用することに加え、年齢別や体重別に投与量が異なるため正確な薬剤の情報は非常に重要であり、当サービスを有益にご利用いただいています。
このサービスが「質の高い医療サービスと子どもの安全に貢献する」と評価され、2022年度(第16回)キッズデザイン賞を受賞しました。当サービスの企画、開発に携わった3人に話を聞きました。


インタビュイープロフィール

富士通株式会社 Digital Solution事業本部ラボラトリーイノベーション事業部
  • 井上 拓也(マネージャー)
    赤田 啓伍
    佐仲 杏美

部署名・肩書は取材当時のものになります。

ヘルスケアを越境するデザインへの期待

富士通では、40年以上にわたりヘルスケア領域において様々なソリューションをご提供してきました。近年では、従来のソリューションに加え、周辺産業も含めたサービスデザインが期待されています。プロジェクトに携わった3人が所属するラボラトリーイノベーション事業部は、創薬や情報提供、マーケティングをDX(デジタルトランスフォーメーション)する組織です。医療現場の情報を活用し、医療従事者、製薬企業、患者QOLへ貢献することをミッションとしています。
2017年から「医工連携」プロジェクトに携わる井上 拓也は、「医療現場と産業界が連携して、医療のニーズと医療機器を作る技術とを結ぶ取り組みを行ってきました。ヘルスケアと周辺産業との連携事例は少なく、大きな可能性があります。その想いをもとに、今回のサービスは製薬業界との連携をデザインしました」と説明します。

井上

医療現場と製薬企業を取り巻く状況は、ここ数年で大きく変わりました。数年前に厚生労働省が規制を強化したことで両者の接点が減り、医療従事者にとっては、必要な薬剤の情報を収集する負担が増大していました。 「一般的に、病院情報システムは個人情報保護の観点から専用の環境に構築しているため、電子カルテを扱う端末はインターネットにアクセスできません。医師がインターネット上の薬剤情報を収集したければ、タブレットやスマートフォンを利用するか、診療時間外に医局のパソコンを利用する必要がありました。また、必要な薬剤情報は各製薬企業のホームページや紙資料などに散在しています。これも情報収集に負担がかかる原因でした」(井上)。

また、赤田 啓伍は、「製薬企業も薬剤を使用する際の留意点などを病院に届けたいニーズがあり、新たな接点を模索していました」と説明します。
このような病院、製薬企業双方の要望に応えるための検討が2018年頃に始まりました。
「医療従事者が診療に使う、業界シェアNo.1の富士通電子カルテシステム上で薬剤情報を提供できれば、病院にとっても製薬企業にとってもメリットがあります。製薬企業とも意見交換を重ね、2020年3月に1回目の実証実験を行いました。ちょうどその頃新型コロナウィルス感染症が流行し始め、病院と製薬企業との接点はますます減少し、このサービスへのニーズが高まりました」(赤田)。

2021年3月に規模を拡大して行った2回目の実証実験を経て、2021年12月に本サービスを開始しました。現在、約30の病院がこのサービスを導入しています。


薬剤の情報を富士通のクラウド基盤上に集約し、電子カルテを通じて病院に無償提供

薬剤情報提供サービスは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)、くすりの適正使用協議会、製薬企業などから提供された薬剤情報を富士通のクラウド基盤上に集約・連携し、富士通電子カルテシステムを通じて病院に提供するサービスです。
佐仲 杏美は、「製薬企業の提供する薬剤情報は、例えば添付文書、インタビューフォーム、くすりのしおり、患者指導箋などです。病院では、富士通の電子カルテから最短2クリックという簡単な操作で、これらの最新情報を参照できます」と説明します。

佐仲

製薬企業は閲覧ログから情報提供に役立つ詳細なフィードバック情報が得られ、医療従事者は簡単な操作で薬剤情報を参照できます。また、病院はシステムの前提条件を満たせば無償で使用でき、導入時にシステムを停止する必要もありません。相互利益が生まれるビジネスモデルをデザインしています。

また、赤田は「製薬企業へのフィードバックには、医療機関の負荷にならないよう閲覧状況のログを取得しています。ポイントは個人情報の扱いです」と言います。
「個人情報を収集するとなると、事前承諾が必要です。また将来的に規制強化によって利用しづらくなる恐れがあるため、個人情報は収集しない設計にしました」(赤田)。
またシステムを利用する病院側では、医療機関名、診療科、職種、検索した薬剤名、日時等を収集、統計化しており、ここでも患者の個人情報は収集していません。

薬剤情報サービス beforeafter


新たな知見を得る製薬企業からは、今後のビジネス拡大へ期待の声

当初、主な利用者を医師と想定していましたが、医師からの問い合わせを受ける薬剤師や看護師のほか、療法士や栄養士にも利用されています。
「療法士や栄養士は、患者の服薬状況を把握し、より良いケアにつなげるためにシステムを活用しており、この点も評価されています」(赤田)。

赤田

医師からは、「患者様をお待たせすることなく、電子カルテ上で最新の薬剤詳細情報を閲覧できるので便利」と好評です。
また、井上は「製薬企業からは、薬や文書の種類によって閲覧される時間帯が異なることや、広く普及している薬も頻繁に検索されていることなど、これまで分からなかった知見が得られており、新たなカスタマージャーニーやドクタージャーニーを描けるのではないかという期待の声をいただいています」と話します。


小児科では薬剤情報は特に重要

薬剤情報提供サービスは特に小児科で活発に利用され、今回のキッズデザイン賞の受賞に至りました。
「小児科は小児の全身を診るため診療領域が多岐にわたり、多様な薬剤を使います。加えて、小児には使えない薬があったり、年齢別や体重別に投与量が異なったりと、小児科では正確な薬剤情報へのニーズが特に高いことが分かりました。例えば子どもが消化器科にかかったとき、消化器科の医師が小児科で処方された薬剤を検索することもあれば、逆に小児科の医師が消化器科で処方された薬剤を検索することもあります」(井上)。

このように、医師が自身の専門の診療科以外の薬剤情報を調べるのにも役立っています。また、病院の薬剤部では、小児科向けに体重別の薬の投与量の早見表を独自で作っているところもあります。
「しかし最新情報とはどうしてもタイムラグができてしまいます。薬剤情報提供サービスでは、添付文書の改訂に合わせて、常に最新の情報を参照できます」(井上)。

井上は今回の受賞について、「キッズデザイン賞には『子どもたちの安全・安心に貢献するデザイン部門』があり、本サービスが該当すると考え応募しました。このサービスは、『質の高い医療サービスと子どもの安全に貢献する』と評価されました。これを機にぜひ多くの病院で使って欲しいです」と語っています。



医療従事者の業務効率化と患者のウェルビーイングのために

現在は富士通電子カルテシステムの一部のシリーズに対応しており、他のシリーズをご利用の病院からも多数の問い合わせをいただいています。「今後、中小規模向けなどの他シリーズへの実装や、富士通の新しいヘルスケア専用ネットワークへの対応、機能強化を考えています。また新しい価値を届けるため、常に『世に問う』形で医療機関や製薬企業の声をいただいて進化を遂げていく予定です」(井上)。

最後に皆さんから一言ずつ所感を聞きました。
「私はこれまで公共政策領域を中心に担当してきましたが、民間企業へと視野を広げて当プロジェクトに関わることになりました。この薬剤情報提供サービスは縦割り組織を打破し、多くの組織と協力して作りました。今後このサービスをさらに拡充していきたいのはもちろんですが、これを端緒として多くの部署を巻き込んで新しい価値を提供する動きが広まると良いと思います」(赤田)。

「自分が病気になると医師を信用して病院にかかりますが、薬剤情報提供サービスは医師の信用をシステムでバックアップするサービスです。患者やその家族に、このサービスを通じてより安全な医療を提供するご支援ができればと考えています。将来的には、日本のみならず世界の医療に貢献したいという夢もあります」(佐仲)。

「このサービスを活用して効率的に情報収集することで、医療従事者の皆さんに少しでも時間的な余裕ができるようになれば、最終的には患者のQOL向上、ウェルビーイングの役に立つと考えています。今後も医療従事者とその先の患者のためになるサービスを創出していきます」(井上)。

  • 本サービスは医療従事者が無料で使えば使うほど製薬企業へのフィードバックが増え、結果として提供情報がブラッシュアップされるサービスです。医療機関の方は、ぜひお気軽にお問合せください。お問い合わせはこちら >

医薬品の適正使用を促進 薬剤情報提供サービス紹介動画

ページの先頭へ