体操競技の新時代に
ふさわしいデザインを追求
「AI採点支援システム」

掲載日 2020年12月15日

難易度の高い技に挑み続ける体操競技の選手たち。一方で、高度化する技を目で追うことが難しくなり、審判の負担が増している。こうした課題に応えようと開発されたのが「AI採点支援システム」だ。すでに国際大会で採用されているこのシステムには、最先端技術に加え、選手や審判の目線に立ったデザイナーの思いも詰まっている。



体操国際大会で導入されたAI採点支援システム

富士通が国際体操連盟と提携して開発した「AI採点支援システム」。高難易度の技を繰り出す選手に3Dセンサーを使って毎秒200万回以上のレーザーを照射し、手足の位置やひねりの回数などを把握して技の難度や点数をアウトプットする。
技の難易度が高まり、審判の負担が重くなっている状況を受けて、テクノロジーで採点を支援できないかという声が高まり、開発がスタート。2018年には国際体操連盟が正式に採用を決定し、2019年にドイツで開かれた世界体操競技選手権大会で導入された。



審判の視認性を意識して独自にピクトグラム作成

このシステムのデザインを担当したのは、富士通デザインセンターのデザイナー、城愛美や有馬和宏たち。城は主にハードを、有馬は審判が確認する画面のUI/UXを担当した。有馬は初めて扱う審判でも理解しやすいよう視認性や操作のしやすさを強く意識してUI/UXを考え抜いた。審判が採点の際に確認するモニター画面の右側に、選手の一連の動きを角度や距離で解析して示すピクトグラムを独自に開発。国や言語にかかわらず直感的に扱えるよう配慮した。さらに審判が採点中に演技内容を書き込むシートと同じ構成のモニター画面も作成した。



機器の形状は「圧迫感与えぬよう選手第一に」

一方、機器の形状のデザインにあたった城は、まず選手を第一に考えた。
「厳しい練習を積んできた選手が、新しい機器が気になって本領を発揮できなくなったら本末転倒です。選手に向ける機器のレンズが圧迫感などを与えないデザインを心がけました」
その結果、色は黒を基調とし、レンズは筐体の表面から奥まった形状にして目立たないように配慮。自然に会場に溶け込むデザインとした。一方で、「目立たない中でも富士通のセンシング技術の存在感をアピールしたい」との思いもあり、体操選手の華麗な動きなどもイメージして長円のスマートなフォルムとした。

また、体操競技は期間限定で会場を借りるため、機器の迅速な設置や撤収も求められる。そのために専用でデザインしたスタンドは、設置や撤収がしやすいようラベリングを見やすくしたほか、会場に合わせて色を変えやすくするといった工夫も重ねた。

「選手と審判、それとシステム運用者。この3者にとって馴染みやすく、使いやすいデザインを目指しました」と振り返る。このシステムは、2019年度のグッドデザイン賞で躯体設計になされた細かな配慮などが高く評価され金賞を受賞、2020年10月には中国のデザイン賞「Design Intelligence Award(DIA)」で銀賞を受賞した。

トレーニングやリハビリの活用に広がる可能性

2020年現在、このシステムは体操競技のうち、あん馬やつり輪、跳馬など5種目に対応でき、2024年には体操競技の全10種目での運用を目指し開発が続いている。
一方で、今後は選手のトレーニングや体操のエンターテイメント性を高めるコンテンツなどにも活用できないか期待されている。さらに同じように技の高度化が進むフィギュアスケートの採点などへの応用も考えられる。

城は「スポーツの枠を超えて骨格の動きを分析する技術を活用して医療やリハビリといったほかの産業への広がりも期待できると思います。いろいろな分野で役立ってもらえると携わったデザイナーとしてうれしいですね」と話している。

デザインセンター城 愛美
 滝澤 友洋
 加藤 励
富士通エフ・オー・エム株式会社有馬 和宏
(左から)滝澤、有馬、城、加藤
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