「『実は…』で始まる本音を引き出すのがもっとも重要です」ユーザーの想いに向き合うデザイナーの考え方

「『実は…』で始まる本音を引き出すのがもっとも重要です」ユーザーの想いに向き合うデザイナーの考え方



掲載日 2021年9月13日

富士通株式会社(以下、富士通)のデザインセンターは、富士通が提供する多様なサービスやプロダクトのデザインを担い、また富士通全社に向けてデザイン思考を浸透させる活動を行う、富士通のデザイン部門です。そこではどのようなデザイナーが働いているのでしょうか。

棈木(あべき)緑氏は2018年に中途採用で富士通に入社。現在では、デザインセンターのビジネスデザイン部に所属し、システム開発におけるUI/UXのデザインや、富士通のMobilityソリューション事業本部(以下、Mob事業部)が今後目指すべき将来像のビジュアライズ等の業務に携わっています。その仕事内容は具体的にどのようなものか、仕事でこだわっているポイントは、などについてお話を聞きました。

記事のポイント

  • 事業部のありたい姿の提案では、ワークショップで意見を吸い上げビジュアライズを行う
  • 工場の作業管理システムのUI設計などのクライアントワークでは、相手の本音を聞き出すことが重要
  • デザイナーはただ役に立つものを作ればいいわけではなく、ユーザーの気持ちをどう動かすかまで考え抜くべき

ニーズとコンセプトから創り上げる自動車部品のデザイナーを経験

棈木(あべき) 緑氏
デザインセンター ビジネスデザイン部所属(2021年5月時点)

——— 前職での仕事内容や、経験されてきたことを教えてください。

棈木: 私の前職は自動車の内装部品サプライヤーで、自動車メーカーに対して内装部品の企画・提案業務を担当していました。私が担当した部品はたとえば、ダッシュボードやセンターコンソール、エアコンの通気口やカップホルダーなどです。

営業や開発、設計といった他部門の方々と日々やりとりをして、20点以上の部品を同時並行して提案できる状態にまとめ上げる必要があったため、とても大変でしたが有意義な仕事でした。ただ、車以外のデザイン業務にも幅広く携われる場を求め、富士通への転職 を決めました。



組織が掲げるビジョン実現のため、見るべき方向性の解像度を上げていく

——— デザインセンターにおける棈木さんのミッションや担当業務は何でしょうか。

棈木: 私はデザインセンターのビジネスデザイン部に所属しており、システム開発におけるUI/UXの制作を主に担当してきました。たとえば、工場での作業管理システム開発において、利用者のジャーニーマップを描いたり、画面UIデザインの作成を行ったり、といった仕事です。

他には、Mobilityソリューション事業本部(以下、Mob事業部)の方々と協働し、販売領域やデジタルエンジニアリングの領域が今後どのような姿を目指すべきか、将来像のビジュアライズや具体的な施策の提案も行っていました。Mob事業部は、自動車メーカーに対して富士通のソリューションを提供しています。ただ、最近では「MaaS(Mobility as a Service、さまざまな交通手段をひとつのサービス上に統合し、ユーザーにとってより便利な移動を実現する仕組み)」の実現を目指す自動車メーカーが増えています。これらの自動車を取り巻く社会やものづくりの変化の潮流を捉えた上で、Mob事業部内の販売領域やデジタルエンジニアリングの領域を担う部門が今後設定すべき組織のミッションなどについて、デザインの力を使いながら可視化しました。

その上では、自動車メーカー等のクライアントにとってMob事業部はどのような立ち位置で、何が求められているのか、あるいは何を大事に思っているのか…など、「Mob事業部のメンバーが向くべき方向性」を明確にし、提供するソリューションに一貫性や根拠を持たせることが大切だと思っています。

そのために、メンバー間のワークショップで意見の発散と吸い上げを行い、議論を重ね、方向性をまとめていきます。最終的にはビジュアライズとして1枚の絵に落とし込み、組織の方向性と立ち位置を鮮明にしたのち、具体的なサービス立案を行いました。

——— 担当している仕事領域で重要だと捉えていることは何ですか?

棈木: 業務で関わる相手の本音を引き出すことです。「実は…」という切り出しに続く本当の想いを知ってはじめて、必要とされているアウトプットの本質を捉えることができると考えています。

たとえば、先ほどの工場の作業管理システムのUI設計のプロジェクトにおいては、先方の担当者や現場のリーダーの方に粘り強くヒアリングを行い、ニーズを引き出す必要があります。これが曖昧なままだと、「プロのデザイナーが言うのであれば良いのでは?」とクライアントが感じてしまいがち。何が問題なのか本質を自覚できていない状態の関係者の方々がいれば、本来大切にすべき事項が流れてしまうこともあります。そして、出来上がったタイミングで使いづらい作業画面ができてしまうかもしれません。

そんなことが起きないように、「皆さんはどう考え、どうしたいですか?」という本音をやり取りし合える空気感を作って、一緒により良いプロダクトを作り上げられるよう働きかけています。



デザインで常に想定すべきは「相手にとってのベスト」

——— 仕事においてこだわっている点を教えてください。

棈木: 製品を使うユーザーや、次の制作工程を受け取る人にとってのベストを想定して、実現可能性を考慮したアウトプットを出すことです。たとえば工場の作業管理システムのUI設計においては、いくらデザイナーがかっこいいアウトプットを作ったとしても、それがシステム開発において実現が無理なら意味がありません。そうではなく、関係者全員のニーズも理解した上でデザインのアウトプットを出す必要があります。

デザイナーは役に立つものが作れればいい、とは自分は思いません。もっと広い視野で捉え、製品やソリューションが何を解決するのか、ユーザーの心情をどう動かすのかという気持ちの面まで考え抜くことを大事にしています。

——— デザインセンターのデザインワークにはどのような特徴がありますか?

棈木: 組織内の風通しが良いことに加え、デザインセンターに所属する多くの知識人と一緒に考えを深められることが良い点ですね。以前所属していた会社では、1人1人が個別で自分の仕事を進めており、お互いに相談をする機会はあまり多くありませんでした。その点、デザインセンターには様々な分野のデザイナーがいますし、初対面でも声をかければ快く相談に乗ってくれる人が多く、組織全体でより良いものを生み出そうとする企業文化があるように思います。

また、デザイナーの好きなことや得意なこと、やりたいことを汲んで仕事をさせてくれる環境もあります。実際に、私は前職の兼ね合いで自動車関連のデザイン経験がありますが、社内でそういった話をしたら、Mob事業部での業務にアサインされました。こういったことも日常的にあるので、それぞれの武器を活かして自由度が高く働けることにも大きなやりがいを感じます。

——— デザインセンターではどのようなスキルやキャリアを得られると思いますか。

棈木: 自社のソリューションをどのように発展させてお客様にプロモーションするべきか?といった戦略的視点や、基本的なUXやUIデザインのスキルが身に付くと思います。

私は主に富士通のソリューションを実際に作って、提供する事業部とともに働いていますが、ジャーニーマップを描くことから始まり、ロードマップやビジョンに落とし込んだり、実際に画面上でのUI設計に落とし込んだり、プロジェクトに応じて様々な着地点までを臨機応変に担当することで一連の流れを体験し、糧とできているように感じますね。加えて、プロジェクトの進め方やアウトプット手段など、案件全体をディレクションするスキルも培えています。

今後は各事業部の方と一緒に、新しいソリューションを一から創造する仕事をしてみたいです。これまでは既存のソリューションに対する改善施策の提案や、企画が固まった段階から参画してUI/UXを検討する業務を主としていましたが、さらに上流から携わりたいという気持ちがあります。

可能であれば、ソリューションの立ち上げからプロジェクトに参加し、生み出される背景や思想などを本質的に理解したうえで、良いサービスを提供できるよう尽力したいと思いますね。

■データ

  • 所 属 :デザインセンター ビジネスデザイン部(2021年5月時点)
  • 入 社 :2018年
  • 出身大学:首都大学東京大学院(現東京都立大学)システムデザイン研究科卒
    トランスポーテ―ションデザインや感性工学について学ぶ
  • 趣 味 :漫画、お酒、旅行
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