八木橋ゼミナール 第21回「スマート自治体」
今回のテーマは、「スマート」。「スマート自治体」をはじめとする、「スマート」を冠した自治体・行政関連の公共サービス系の動向について解説します。
2019年10月31日掲載
スマート自治体とは
「スマート自治体」は、総務省の「自治体戦略2040構想 研究会」で登場しました。(注1)
報告書のなかで、「AI・ロボティクスが処理できる事務作業は全てAI・ロボティクスによって自動処理することにより、職員は企画立案業務や住民への直接的なサービス提供など 職員でなければできない業務に注力する スマート自治体 へと転換する必要がある。」(注2)
(注1)ゼミナール第14回「自治体をめぐる近未来への展望」参照
(注2)総務省「自治体戦略2040構想研究会 第二次報告」P31「Ⅲ新たな自治体行政の基本的考え方1スマート自治体への転換」より)(2018年7月)
スマート自治体研究会
この「2040構想研究会」の報告(2018年7月)を受け、総務省が「実務上の課題を整理する」研究会を開催しました。(注3)
研究会の趣旨に、「今後の労働力の供給制約の中、地方自治体が住民生活に不可欠な行政サービスを提供し続けるためには、職員が、企画立案業務や住民への直接的なサービス提供など 職員でなければできない業務に注力できるような環境を作る必要がある。」と記しています。
研究会名称は、「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化 及び 地方自治体におけるAI・ロボティクスの活用に関する研究会(スマート自治体研究会)」です。(注4)
スマート自治体研究会の報告書(2019年5月)がまとめられました。(注5)
以下に、この報告のポイントを紹介します。
- 「スマート自治体」 の定義(報告書の用語集より)
「システムやAI等の技術を駆使して、効果的・効率的に行政サービスを提供する自治体」
- 目指すべき 「スマート自治体」の実現(報告書 概要より)
- (1)人口減少が深刻化しても、自治体が持続可能な形で行政サービスを提供し続け、住民福祉の水準を維持
- (2)職員を事務作業から解放⇒職員は、職員でなければできない、より価値のある業務に注力
- (3)ベテランの経験をAI等に蓄積・代替⇒団体の規模・能力や経験年数に関わらず、ミスなく事務処理
- 「スマート自治体」推進の目的(注6)
- (1)住民・企業等にとっての利便性向上(行政サービスの需要サイド)
- (2)自治体の人的・財政的負担の軽減(行政サービスの供給サイド)
- 「スマート自治体」推進の手段
行政内部の手続や外部とのやり取り(申請手続・証明手続等)について、
- (1)不要にできる手続は不要に(住民・企業等にとって便利、職員にとっても負担の軽減)
- (2)直ちに不要にできない手続は、前項を常に念頭に置きながら、システムやAI等の技術を活用
- (作業精度の向上や所要時間の短縮によりサービス向上、職員の負担も軽減)
そのために、業務プロセス・システムの標準化・共同化、AI・ロボティクスの共同導入等を推進
- 実現すべき具体的方策として7項目(報告書の第5章)
- (1)業務プロセスの標準化
- (2)システムの標準化
- (3)AI・RPA等のICT活用普及促進
- (4)電子化・ペーパーレス化、データ形式の標準化
- (5)データ項目・記載項目、様式・帳票の標準化
- (6)セキュリティ等を考慮したシステム・AI等のサービス利用
- (7)人材面の方策、都道府県等による支援
(注3)総務省「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会」の開催(2018年9月10日)
(注4)総務省「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会」(2018年9月から2019年5月)
(注5)研究会 報告書 概要、本体(2019年5月24日公表)
(注6)研究会(第6回)資料1事務局提出資料1(業務プロセス・システムの標準化)P2-4より(2019年1月28日)
自治体システム等標準化検討会
このスマート自治体研究会の報告(2019年5月)を受け、「標準化」に関して、「自治体システム等標準化検討会」が開催されています。(注7)
検討会開催の趣旨の要旨は以下です。
- 自治体の情報システムは、その発注・維持管理や制度改正対応などについて各自治体が個別に対応しており、人的・財政的負担が生じている
- 特に人口規模が一定以上の自治体については、システムの内容が異なることから、共通プラットフォーム上のサービスを利用する方式への移行の妨げとなっている
- 自治体ごとに様式・帳票が異なることが、それを作成・利用する住民・企業・自治体等の負担に繋がっている
- 中長期的な人口構造の変化に対応した自治体行政に変革していくためにも、自治体の情報システムに係る標準化・共同化を推進し、自治体行政のデジタル化に向けた基盤を整備していく必要がある
- こうした状況を踏まえ、自治体行政のデジタル化に向け、自治体の情報システムや様式・帳票の標準化等について、自治体、事業者及び国が協力して具体的な検討を行う
検討会のスケジュールが示され、3つの検討項目が示されています。(注8)
- (1)標準仕様書作成に向けた検討
- (2)広域クラウド化について
- (3)安全・安価な住民情報のバックアップについて
(注7)総務省「自治体システム等標準化検討会」の開催(2019年8月22日)
(注8)総務省自治体システム等標準化検討会(第1回)資料3事務局提出資料2(スケジュール(案))(2019年8月26日)
2040年頃を見据えた地方行政体制の構築
総務省の来年度に重点分野として取り組む施策を公表した 重点施策2020「Society5.0時代の持続可能な地域社会の構築」重点施策集(20項)のなかで、第12項「2040年頃を見据えた地方行政体制の構築」のところで、次の4つの施策が示されています。(注9)
- 自治体の情報システムの標準化
- 自治体行政スマートプロジェクト(次項を参照)
- 自治体クラウドの推進(注10)
- 地方公共団体の情報セキュリティ対策の推進(注11)
ここで、「自治体の情報システムの標準化」について、「自治体行政のデジタル化に向け、自治体システムや様式・帳票の標準化を具体的に検討する「自治体システム等標準化検討会」 を開催し、自治体の情報システムに係る標準仕様書を作成する。」としています。
(注9)総務省Society 5.0時代の持続可能な地域社会の構築(総務省重点施策2020) 重点施策集P77-79(2019年8月30日)
なお、この第12項の4施策は、第8項「デジタル・ガバメントによる行政の高度化・効率化」でも再掲されています。
(注10)「自治体クラウド」とは、自治体が情報システムのハードウェア、ソフトウェア、データなどを自庁舎で管理・運用することに代えて、外部のデータセンターにおいて管理・運用し、ネットワーク経由で利用することができるようにする取組(いわゆる「クラウド化」)であって、かつ、複数の自治体の情報システムの集約と共同利用を行っているものをいう。(注5報告書の用語集より)
(注11)ゼミナール第1回「自治体の情報セキュリティ強化」
自治体行政スマートプロジェクト
前述の「自治体行政スマートプロジェクト」は、次のように説明されています。(注9再掲、注12)
システムやAI等の技術を駆使して、効果的・効率的に行政サービスを提供する「スマート自治体」への転換を図るため、自治体の基幹的な業務(住基・税・福祉など)について、人口規模ごとに複数自治体による検討グループを組み、そのグループ内で、業務プロセスの団体間比較を実施することで、AI・RPA等のICTを活用した業務プロセスの標準モデルを構築、事業終了後、AI・RPA等のICTの具体的活用方法も含めた業務プロセスの標準化モデルを全国展開
このプロジェクトの募集要領で、「本事業への取組及び報告書作成にあたっては、以下の研究会、先進自治体の取組等を参考とすること」として、「スマート自治体研究会」があげられています。
このプロジェクトは、総務省が2016年度より、「地方行政サービス改革の推進」、「業務改革モデルプロジェクト」として、選定した団体において、モデル的にICT化・オープン化・アウトソーシングを一体的に実施、その改革の手法の確立と横展開を図っているものです。
以下、簡潔に各年度の内容を列記します。(注13より)
- 2016年度:総合窓口化、電子申請・郵送申請の拡大、本庁と支所の窓口業務の同時改革等
- 2017年度:広域による窓口業務改革、ICTを用いた窓口業務改革等
- 2018年度:AIやRPA等の新技術による業務改革、地方独法制度を活用した窓口業務改革等
- 2019年度:スマート自治体への転換を図るため、自治体行政の様々な分野で、複数団体による団体間比較を行いつつ、AI・ロボティクス等を活用した標準的かつ効率的な業務プロセスを構築する「自治体行政スマートプロジェクト」
(注12)総務省自治体行政スマートプロジェクト及び革新的ビッグデータ処理技術導入推進事業(都道府県補完モデル事業)に係る提案書の募集(2019年4月17日)
総務省「自治体行政スマートプロジェクト」及び「革新的ビッグデータ処理技術導入推進事業(都道府県補完モデル事業)」の採択団体一覧を公表(2019年5月29日)
(注13)総務省「業務改革モデルプロジェクトから自治体行政スマートプロジェクトへ」平成31年版 地方財政白書「第3部6地方行政サービス改革の推進等」(2019年3月15日公表)
自治体システムデータ連携標準検討会
スマート自治体研究会報告書「第5章 実現すべき方策」の「システムの標準化」のなかで、「地域情報プラットフォーム標準仕様・中間標準レイアウト仕様の有効性向上」について、次のことが記されています。(注14)
総務省において検討会を立ち上げ、地域情報プラットフォーム標準仕様及び中間標準レイアウト仕様の有効性向上に向け、主に以下の点について課題整理を行う。
- 策定から15年経過したことを踏まえた全体的な見直し
- データ項目に関する自治体ニーズの洗い出し
- 地域情報プラットフォーム標準仕様等の役割の拡充の検討
これを受け、総務省で、「自治体システムデータ連携標準検討会」が開催されています。(注15)
「自治体業務システムのデータ連携標準に係る課題を明らかにし、コスト削減、行政事務の効率化等に資することを目的に、今後の改正方針について検討する」 としています。
第2回の検討会で、論点を整理し、以降の検討会では、「新技術・サービス活用に向けた課題」を検討することになりました。(注16)
(注14)注5報告書P48参照。なお、各仕様とは、以下のとおり(報告書の用語集より)
「地域情報プラットフォーム標準仕様」とは、様々なシステム間の連携(電子情報のやりとり等)を可能にするために定めた、各システムが準拠すべき業務面や技術面のルール(標準仕様)
「中間標準レイアウト仕様」とは、市区町村の情報システム更改においてデータ移行を円滑に行うため、移行データの項目名称及びデータ型、桁、数、その他の属性情報等を標準的な形式として定めた移行ファイルのレイアウト仕様
(注15)総務省「自治体システムデータ連携標準検討会」の開催(2019年6月18日)
(注16)総務省自治体システムデータ連携標準検討会 第2回資料1事務局説明資料「自治体システムデータ連携標準検討会の今後の進め方」より
スマート公共サービス、スマート行政、スマートシティ
「スマート」がキーワードとなる用語(「スマートフォン」が最も知られている用語でしょうか)で行政系に関連するものについて、その一部を列記してみます。それぞれについては、次回に説明しましょう。
- 「スマート公共サービス」は、「成長戦略の方向性」「Society5.0の実現」の中で登場しました。(注17)
- 「スマート税務行政」と言っているのは国税庁です。(注18)
- 「スマートシティ」は、エネルギーをはじめとした「個別分野特化型」の取組からはじまり、現在は、官民データ、ICT、AIを活用し、交通、観光、防災、健康・医療、エネルギー・環境等、複数分野にわたる「分野横断型」の取組みへと拡大し、「スーパーシティ」に進化してきています。
- 「スーパーシティ」とは、「AIやビッグデータなどを活用し、世界に先駆けて未来の生活を先行実現する「丸ごと未来都市」を目指す「スーパーシティ」構想」(注19)
「スーパーシティ」の命名について、「メーターから電気、家電、ハウス、シティとあらゆる分野にスマート化が広がってきたが、第4次産業革命で、AIやビッグデータを使って、革命的に社会のあり方が変わるような都市設計や住民生活設計ができるようになってからの新たな呼び名がなかった。これを通称スーパーシティとした。」(注20)
「スマート自治体」も、次の段階の呼び名は、「スーパー自治体」なのでしょうか。
(注17)ゼミナール第17回「新たなIT政策」
(注18)国税庁「税務行政の将来像」に関する最近の取組状況~スマート税務行政の実現に向けて~」(2019年6月21日)
(注19)成長戦略実行計画「第4章人口減少下での地方施策の強化5国家戦略特区」より
(注20)地方創生推進事務局 第41回 国家戦略特別区域諮問会議 参考資料2 「スーパーシティ スマートシティフォーラム2019」報告書主催者挨拶より
スマート自治体へ向けた取組
富士通グループは、地方公共団体情報システム機構主催「地方自治情報化推進フェア2019」に出展しました。(地方自治情報化推進フェア2019 出展レポート)
「スマート自治体」にかかわる内容を紹介しておきます。
- ベンダープレゼンテーション「スマート自治体へ向けた富士通の取組と最新技術の活用」
- 展示:「スマート行政ソリューション」
- スマート窓口ソリューション:住民サービス向上と職員負荷軽減を実現する窓口改善のソリューション
- 手のひら静脈キャッシュレス決済:生体認証技術(手のひら静脈認証)を活用した決済サービス
- 展示:新技術(AI・RPA)
次回、スマート自治体につづく、スマート公共サービスなどの動向について、解説していきます。
Human Centric Innovation Driving a Trusted Future
デジタル社会の変革、デジタルトランスフォーメーションDXが進んでいきます。
ひきつづき、注視していきましょう。
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