八木橋ゼミナール 第20回「令和最初の法改正」
前回に続き、「平成最後の法改正」のその後、令和最初の法改正として、後半を解説します。
内容は、デジタル手続法の個別施策、戸籍法等の改正について。
2019年8月23日掲載
デジタル手続法(個別施策)と戸籍法等の改正
第198回国会(2019年1月召集、6月終了)で、マイナンバー制度やデジタル・ガバメント等にかかわる法改正が成立しました。(ゼミナール第19回「平成最後の法改正」 参照)
今回は、デジタル手続法(令和元年法律第16号2019年5月31日公布)のうち、「行政のデジタル化を推進する個別施策」として改正された、3つの法(住民基本台帳法、公的個人認証法、マイナンバー法)と、戸籍法等の改正(令和元年法律第17号2019年5月31日公布)について解説します。
個別施策:住民基本台帳法、公的個人認証法、マイナンバー法の改正
行政のデジタル化を推進する個別施策(注1)として、次の内容が示されています。
- 第1)国外転出者に関する手続のオンライン化
- 国外転出者の本人確認情報の公証
(国外転出後も利用可能な「戸籍の附票」(以降、附票と略記)を認証基盤に活用)
- 国外転出者による公的個人認証(電子証明書)
- 個人番号カード(以降、マイナンバーカードと表記)の利用(国外転出者のマイナンバーカード・公的個人認証の発行等)
- 第2)マイナンバー制度等拡大への対応、土地所有問題等への対応
- 本人確認情報の長期かつ確実な保存及び公証(住民票等の除票の除票簿への保存等)
- 第3)オンライン本人確認手段の利便性向上
- 利用者証明用電子証明書の利用方法の拡大(暗証番号入力を要しない方式)(注2)
- 第4)マイナンバーカードへの移行の拡大(通知カードの廃止、市区町村窓口の負担軽減)
- 第5)個人番号利用事務及び情報連携対象の拡大
- 罹災証明書の交付事務等の個人番号利用事務への追加
- 社会保障分野の事務の処理のために、情報連携の対象の事務や情報を追加
順番に、解説していきましょう。
(注1)概要「デジタル手続法案の概要」
の2頁以降内閣官房 国会提出法案(第198回 通常国会)
(2019年3月15日)
(注2)第3項「利用者証明用電子証明書の利用方法の拡大(暗証番号入力を要しない方式)」については、前回、「健康保険法等の改正」、「オンライン資格確認」のところで解説しました(ゼミナール第19回「平成最後の法改正・その後」 参照)
附票を認証基盤とする方式について
第1項「国外転出者に関する手続のオンライン化」の国外転出者に関連して、在外邦人への対応課題について、以前、解説しました。(ゼミナール第18回「在外邦人」 参照)
この「国外転出後も利用可能な附票を認証基盤に」については、総務省の研究会の最終報告で、住民基本台帳法に基づいた、「附票を認証基盤とする方式」の採用理由が説明されています。(注3)
その概略は以下のようになります。
- 海外転出者の台帳は、「特例的な住民票の除票」という住民基本台帳の仕組みでは、困難が多い
- 附票を基盤とすることにより、住所履歴の検索や本人確認情報のバックアップ機能等に資する
- 戸籍事務の番号制度への参加にあたり、市区町村の分散管理である附票のシステムにより、戸籍情報の情報連携を行うための住民票コードとの紐づけが可能
- 多死社会を迎えた相続の負担増や所有者不明土地問題等に対応する、住所履歴の公証機能
今回の法改正により、附票に記載事項が追加され(4情報(氏名と住所に加え、生年月日と性別)と住民票コード)、市区町村の附票システムから、市区町村に既に設置されている、住民基本台帳ネットワークCS(コミュニケーションサーバ)を経由し、地方公共団体情報システム機構が、「附票本人確認情報」を国の機関等に提供します。
なお、この採用理由の4項目、「住所履歴の公証機能」に関連し、法改正の第2項「本人確認情報の長期かつ確実な保存及び公証」により、住民票等の除票を除票簿として法で規定するとともに、政令の改正により、「住民票又は附票を消除し、又は改製した日から150年間保存すること」とされました。(注4)
(注3)総務省「住民生活のグローバル化や家族形態の変化に対応する住民基本台帳制度等のあり方に関する研究会」において取りまとめられた最終報告の公表
(2018年8月22日)
(注4)総務省住民基本台帳法施行令等の一部を改正する政令(案)等の概要
(2019年6月12日公布)
国外転出者について
第1項「国外転出者に関する手続のオンライン化」で、マイナンバーカード、公的個人認証の利用について、住民基本台帳法、公的個人認証法、マイナンバー法が改正されました。
概略は、次のようになります。
- 国外転出者は、住民票のある市区町村での国外転出届で、住民票は消除
- 国外転出届で、マイナンバーカードの電子証明書は、失効せず、国外でも継続して有効
- 国外の電子証明書については、附票本人確認情報により、死亡等を覚知した場合に失効
- マイナンバーカードの住所には、国外転出者である旨(および転出予定日)が記載
- マイナンバーカードは、国外転出者に限り、附票を管理する市区町村が発行
これにより、国外転出者について、国内での手続きに関連しての整備がなされることになります。
施行の日は、前項の附票本人確認情報も含め、「公布の日から5年以内で政令の定める日」です。
国外転出の方、しばらくは従前のままです。
なお、マイナンバーカードの発行や更新(通常の有効期限は10年)、電子証明書の更新(同5年)は、国内の市区町村窓口での対面の本人確認での手続が必要です。
この点に関して、国会(198国会衆議院内閣委員会)で、次の附帯決議がされました。(注5)
「九 国外に転出した者が、円滑に個人番号カード及び電子証明書を取得し、及び利用し続けることができるよう、在外公館において個人番号カード及び電子証明書の交付及び更新の事務を行うことについて検討を行い、関係府省が連携して体制の整備に取り組むこと。」
この付帯決議の「在外公館においての事務」は、懸案の「在外邦人の情報管理業務」に続きます。
関係府省とは、内閣府、総務省、外務省が関連します。
次の課題は、「在外投票」も含め、旅券法や公職選挙法などの見直しになるでしょうか。
(ゼミナール第18回「在外邦人」 参照)
(注5)衆議院 内閣委員会議事録 第198回 第15号
(2019年4月26日)
マイナンバーカードについて
第4項「マイナンバーカードへの移行の拡大」、移行促進(通知カードの廃止、市区町村窓口の負担軽減)の関係について。
改正の背景として、以下が説明されています。
- 制度施行後、全国住民にマイナンバーを通知するほか、まず必要となる職場等へのマイナンバー提出時に証明書類として、役割を果たした
- 転居時等における住所などの記載事項変更の手続が、住民及び市区町村職員の双方に負担
- デジタル化推進の観点から、公的個人認証が搭載されたマイナンバーカードへの移行を早期に促していくべきとの議論
この結果、通知カードの廃止、通知カードの記載事項変更等の手続を廃止する改正となりました。
施行は公布の日から1年以内で、詳細はこれからです。
マイナンバー付番後の「通知」については、従前からの「住民票コードの通知」と併せ、住民と市区町村の双方に効率よく進めてほしいところです。
個人番号利用事務及び情報連携対象の拡大
第5項は、「個人番号利用事務及び情報連携対象の拡大」です。
- (1) マイナンバー利用事務の追加
- 証券保管振替機構による加入者情報の管理等に関する事務
(所得税法等の改正、前回の解説を参照)(ゼミナール第19回「平成最後の法改正・その後」)
- 罹災証明書の交付に関する事務(今回の「デジタル手続法による改正」)
- 新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく予防接種の実施に関する事務 など(同上)
- (2) 情報連携の対象となる事務の拡大(今回の「デジタル手続法による改正」)
- 母子保健法に基づく乳幼児の健康診査等に関する事務
- 新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく予防接種の実施に関する事務
- (3)情報連携の対象となる情報の拡大(今回の「デジタル手続法による改正」)
- 健康保険組合等の被扶養者の認定(特別障害給付金情報等の追加)
- 国民健康保険の被保険者の資格認定(生活保護関係情報等の追加) など
- (4)社会保障分野の事務で、新たに戸籍情報を情報連携の対象に(次項の戸籍法の改正)
- 健康保険の被扶養者の認定(続柄を確認)
- 奨学金の返還免除(死亡の事実を確認)
- 国民年金の第3号被保険者の資格取得の届出(婚姻歴を確認)
- 児童扶養手当の支給(続柄、死亡の事実、婚姻歴を確認) など
なお、情報連携を規定している、マイナンバー法の別表第二の主務省令については、2017年7月の情報連携の開始以来、随時、追加・変更されてきました。
今回の戸籍情報の追加が、最も大きい変更といえるでしょう。
戸籍法等の改正
戸籍法等の改正の概要は以下です。(注6)
- (1)法務大臣が、マイナンバー法に基づき、戸籍関係情報を提供する
- 磁気ディスクで調製された戸籍(除籍含む)の副本は、法務大臣が保存する
- 法務大臣が、戸籍の副本に記録されている情報を利用して、身分関係の存否、形成に関するものなど省令で定める情報を「戸籍関係情報」として作成(注7)
- 戸籍関係情報は、「情報提供用個人識別符号」を利用し、法務大臣が情報照会者等に提供
- 戸籍関係情報の作成及び提供にあたり、マイナンバー、住民票コードは利用しない
- (2)戸籍事務内での情報の利用
- 届書等情報(画像情報)の送信等(市町村長による送信、法務大臣による保存)
- 戸籍事務内における情報連携(副本又は届書等の副本記録等情報の提供)
- 戸籍の謄本の添付省略等(届書の数通提出の不要課、分籍・転籍の謄本の添付省略)
- 戸籍証明書の広域交付
- 電子的な戸籍証明情報(戸籍電子証明情報)の発行
- (3)法務大臣が保存する戸籍関係情報等の保護措置
- (4)その他の規定の見直し
- 市町村長の調査権の明確化、市町村長の職権による戸籍訂正手続の明確化
- 死亡届の提出資格者の拡大
- (5)関連するマイナンバー法の改正
- 戸籍関係情報では、マイナンバー、住民票コードのいずれでもない、「取得番号」を新たに規定
- 情報連携での機関別符号に相当する、「情報提供用個人識別符号」を明記(従前は、マイナンバー施行令で規定していたもの)
- 別表第二の情報連携の対象に戸籍関係情報(続柄、婚姻歴、死亡の事実等)を追加
(前項で紹介)
既定の見直しなどの一部は、公布から1年以内の施行です。
情報連携などのシステムの運用開始は公布から5年後と予定されています。
詳細については、順次提供されていきます。
(注6)戸籍法改正については、以下を参照
(補足の注)法改正の背景として、「戸籍関係情報では、マイナンバーは利用しない」などについて、以下を参照
- 法改正の全容:法制審議会 戸籍法部会「戸籍法の改正に関する要綱案」
(2019年2月1日決定)
- 要綱案の審議:法制審議会戸籍法部会第12回会議議事録
(2019年2月1日)
- 法改正の中間試案のパブコメへの一例:日本弁護士連合会「中間試案に関する意見」
(2018年6月14日)
- 法改正が法制審議会に諮問:ゼミナール第9回「アクションプランの個別項目第5」 (注6) 参照 (2017年9月)
(注7)法務省令で定める情報(令和元年法務省令第三号
、2019年6月20日施行)
- 1)親子関係の存否及び形成に関する情報
- 2)婚姻関係の存否及び形成に関する情報
- 3)未成年後見関係の存否及び形成に関する情報
- 4)死亡の事実に関する情報
- 5)国籍の存否に関する情報
情報提供ネットワークの拡充と市町村側の作業
これから、附票本人確認情報の整備、戸籍関係情報の連携などへ、市町村側の準備もはじまります。
- 既存システム(住民基本台帳システム、附票システム)の改修
- 市町村側でのデータ整備、附票データ(本籍地)と住民基本台帳データ(住所地)の突合
- 附票システムとの連携を含む、住基ネットワーク(住基CS)の改修
- 戸籍関係情報の情報連携のための「情報提供用個人識別符号」の取得
などなど
法務省の副本システムや情報提供ネットワークシステム側の作業とあわせ、順次、整備を進めていくことになります。
今後の展開へ
マイナンバー制度の施行後3年、利用拡大の準備が始まりました。
マイナンバーカードの普及やマイナポータルの拡充など、従来からの拡張施策も拡大しています。
デジタル手続法、デジタル・ガバメント実行計画も促進され、さらに先へと進んでいきます。
次回、スマート自治体やスマート公共サービスの動向について、解説していきましょう。
Human Centric Innovation Driving a Trusted Future
デジタル社会の変革、デジタルトランスフォーメーションDXが進んでいきます。
ひきつづき、注視していきましょう。
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