「オンライン営業では稼げない」という誤解、課題の本質と解決策は?

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ビジネスのオンラインシフトによって業務における時間と場所の制約が取り払われ、効率的な営業活動が可能になった。しかし、従来の対面コミュニケーションによる営業活動よりもパフォーマンスが落ちてしまうケースがある。それはなぜか。

営業部門のデジタルシフトが難しい理由

コロナ禍をきっかけにビジネス環境が一変した。特に大きな変化を求められたのは営業部門だ。客先に通って対面によるコミュニケーションで関係性を深める手法からオンラインへのシフトが進み、時間と場所に制限されない営業活動が可能になった。便利になった一方で、従来の「足で稼ぎ、お客さまの懐に入り込む」スタイルが強みだった営業担当者の中には、オンラインで力を発揮できていない人員がいる。

オンラインシフト後もパフォーマンスを上げ続ける営業部門の在り方とはどのようなものか。日本マイクロソフトのエバンジェリスト西脇 資哲氏(以下敬称略)に「営業担当者」と「組織」の2つの視点から話を聞いた。

「本質的な営業力」だけで勝負する時代

西脇氏は「営業活動のオンラインシフトによって『課題が増えた』という考えは捨ててください。新しいツールの普及によって『営業活動そのものが変わった』と考えるべきです」と強調する。

日本マイクロソフト
西脇 資哲氏

コロナ禍以前、一般的に営業活動とは「足しげく顧客の下に通って関係性を築き、受注につなげる」というものだった。アポイントを取って時間を調整し、コストをかけて「会いに行く」こと自体に価値があるとされた。

一方、オンライン型の営業では「Microsoft Teams」や「Zoom Meetings」などのツールからURLを送るだけで済む。時間をかけて移動しなくても商談ができるため、人と会話するハードルは格段に下がった。

「オンラインシフトによって物理的な移動が不要になりました。移動にかかっていた時間をもっと有効に使えるようになったのですから、パフォーマンスは上がらなければいけません」と西脇氏は語る。

しかし、環境の変化に追い付けずパフォーマンスが落ちてしまう営業担当者もいる。西脇氏によれば、物理的な接触や偶発的なコミュニケーションの機会が減ってしまったためだという。

「これまでの『近くに来たのでちょっと様子をうかがいに寄りました』とアポを取らずに訪問して何げない会話をしたり、ゴルフや飲食の機会など仕事以外のつながりを作ったりして関係性を深め、そこから仕事を受注する営業活動において、パフォーマンスとは『物理的に接触すること』でした。利便性とはトレードオフの関係になるため、従来のスタイルを続けている営業担当者にとってオンラインシフトは苦しい変化です」

一方で西脇氏は、偶発的な会話や仕事以外の接触から商談の機会を得たり関係性を構築したりといった営業活動ができなくなることについて「そもそも従来の営業活動が本質的ではなかった」と強調する。

「営業活動の本質とは、商品のプレゼンテーションや差別化による勝負です。これからは偶発的なコミュニケーションに頼らない『本質的な営業力』で勝負する時代が来ます」

本質的な営業力は組織とプロセスの変革も必要とする

本質的な営業力による勝負において必要なのは、個人の力に依存しない組織力だ。西脇氏は「足で稼ぐ営業から『オンラインで稼ぐ営業』に変わるためには、部門やチームなど、組織全体でプロセスを変革する必要があります」と語る。

2020年の前半はコロナ禍の混乱期に当たり「ビジネスを止めないためのテレワーク対応」が優先課題だった。2020年後半からは「新しい働き方でいかに効率を上げられるか」に課題がシフトした。ユーザー企業から日本マイクロソフトに寄せられる相談も「デジタルツールを導入したい」というものから「それらを使っていかに効率を上げるか」に変わったという。

西脇氏によれば、デジタルツールを導入してもなかなか生産性が上がらない組織は、共通して「暗黙知に頼ったアナログな営業プロセス」を継続しているという。

「例えば、契約の決め手が『部長が出向いて顧客を口説く』というプロセスになっている場合、いくらデジタルツールを駆使しても生産性は上がりません」

オンラインシフトによって生産性を上げる組織は、パフォーマンスの評価をKPIなどの数値に落とし込み、営業活動のパターンを定型化している。本質的な営業力のためには、アナログな営業活動をデジタル化してチームで情報を共有しながら「個人の知」を「組織の知」に変えていかなければならない。

営業活動のデジタル化を目指すべく、SFA(営業支援システム)を積極的に活用する企業も多い。しかしプロセスがアナログのままでは、営業担当者はSFAを「個人の日報を登録するツール」と捉えてしまう。入力を強制されて手間が増え、そのデータが生かされていないと思えば入力データも正確性を欠くようになり、結果的に「使えない」データが蓄積されてしまう。

この状況を変えるための方法として、西脇氏は次のように提言する。

「デジタルネイティブな営業部門に変わるためには、営業部門内部にデジタル化推進チームを設ける必要があります。デジタル化推進チームが軸となって『デジタルを使った営業プロセスとはこういうものだ』と定義し、どのように顧客を発掘するのか、どう営業機会をつくっていつ誰がアプローチするのかといった筋道を、クロージングまで立てます。それによって組織全体を巻き込んだ体制づくりが可能となるのです」

西脇氏は日本マイクロソフトの例を挙げながら、体制構築のあるべき姿について説明した。

日本マイクロソフトは2020年3月以降、全てのマーケティングと営業活動をオンラインにシフトし、顧客の行動をデータで管理している。データからAIが見込み客を発掘し、どの顧客にどの製品やサービスを提案すべきかを提案するという。フィールド営業が担当するのは、絞り込まれた顧客に対するアプローチとクロージングのみだ。

営業DXに取り組むとき

西脇氏は日本マイクロソフトが構築した体制を「これこそが営業プロセスの変革」と強調しつつ、同時に「こうした取り組みは一朝一夕で実現できるものではない」とも語る。

「できることから始めましょう。まずは、個人が持つ顧客データを精査して組織で共有できる体制の整備から始めます。そのデータを基に営業活動に取り組めば、環境が変わっても生産性を落とすことはないでしょう」

従来の「足で稼ぐ」スタイルで勝負してきた営業担当者の中には、情報の共有に抵抗を示す人員もいる。自分で集めた顧客情報が、自分にとっての武器になるためだ。しかしそこは営業担当者がマインドチェンジすべきで、そのためには組織が「情報を共有するメリット」を提示する必要がある。

「デジタルツールを用いて営業スタイルを少し変えただけでは、営業DX(デジタルトランスフォーメーション)とは言えません。小さな改善で満足するのではなく、営業DXを経営戦略に盛り込み、経営層も交えた変革が必要なのです」(西脇氏)

コロナ禍が落ち着いても、ビジネスが完全にオフラインに回帰することはない。今後はオフラインとオンラインのハイブリッド型の働き方が中心となり、その中で生産性を上げることが求められる。それに応えるためには、組織全体のマインドチェンジも必要だ。

最後に、西脇氏は次のように語って今の状況に警鐘を鳴らした。

「グローバルでビジネスを展開するのであれば、早々にアナログ営業から脱してデジタル化を進めなければなりません。それができない企業は、今後生き残ることは難しいでしょう。日本企業は、今こそ危機感を持って営業DXに取り組むべきです」

  • 本記事は「TechTargetジャパン」サイト掲載内容を再録したものです。

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