ビーコンやタグは不要!
ミリメートルレベルの精度を実現する映像を活用した位置測位技術と利活用例を徹底解説
今、あらゆるビジネスにおいて、従来の課題解決や新たな市場創造のためのデジタル活用が進んでいる。その手段の一つとして注目されているのが、人・モノの位置や動きを見える化する位置測位技術だ。製造現場なら作業工程の改善や最適な人員配置などによる業務の効率化に、ロボットや重機を扱う現場なら作業者の安全性向上に、また、現場内の作業危険区域への人の立ち入り検知などにも活用できる。本記事では、現場DXを実現する映像を活用した高精度な位置測位技術とそのユースケース例について解説する。
位置測位技術とは?―GPSからWi-Fi、UWB、BLE、超音波、映像(可視光)まで
人やモノの位置測位技術というと、まず身近に感じられる活用事例が、カーナビゲーションやスマートフォンの地図アプリでの道案内だ。これは、GPS(Global Positioning System)衛星からの電波を地上の端末が受信して、その位置を特定する技術が使われている。GPSのほかにも、Wi-Fi、UWB(Ultra-Wide Band:超広域無線)、BLE(Bluetooth Low Energy)、超音波、可視光通信などを用いた測位技術があり、それぞれ仕組みや特徴が異なる。
Wi-Fi やUWB、BLEなどは屋内で用いられる位置測位技術で、親機と子機(ビーコンなど)の間で電波を送受信することで子機の位置を推定する。電波なので遮蔽物があっても回り込んで送受信が可能だが、近隣の金属などの影響によって電波が反射もしくは吸収されてしまうため、高精度に位置を測位するのが難しい場合がある。
超音波の場合は、超音波を受信する親機があって、子機の発した超音波をとらえて位置を推定する。超音波は指向性が高く、金属の影響も受けないため、電波と比較すると位置推定の精度を高められるものの、遮蔽物や周辺の環境音などの影響を受ける弱点がある。
可視光通信による位置測位には、カメラで撮影した映像を解析して人やモノの動きをとらえるものがある。光は直進性が高いため、高精細なカメラを使えば高い精度で測位が可能だ。一方で、カメラがとらえられない範囲や遮蔽物には弱いという特性がある。
現場のDX推進のために利用する位置測位は、現場の特性やコストなどを考慮し、これらの手法から最適なものを選択していくこととなる。
富士通が提供する、映像を活用した高精度位置測位ソリューションとは?
富士通では、映像解析や映像伝送ソリューションなど映像を扱う技術やネットワーク、AI、コンピューティングといった技術に強みを持っている。現在では5Gなど無線通信の進化によって高精細な映像データの収集・活用が可能となってきており、多くの情報が得られる映像を活用した高精度な位置測位が現場のさまざまな課題の解決につながるのではないかと考え、研究・開発を続けてきた。
システムは、通信に対応した高精細カメラと高速通信環境、GPUを搭載したエッジサーバで構成される。天井に設置したカメラで撮影された映像データをローカル5GやWi-Fiなどによってサーバに伝送し、サーバでのAIによる映像解析や座標計算処理によって、人やモノの位置を割り出す仕組みだ。
複数のカメラからのデータを齟齬なく統合できるため、いつでもカメラを増設して測位エリアを拡大していくことができる。
映像による高精度位置測位の特長と、ほかの位置測位技術との違い
精度面:
人がビーコンを身に着け電波によって位置を測位する場合、前述のように金属が多い環境や障害物が多い場所では安定した測位が難しく、測位精度は数センチレベルが限界だ。
映像による位置測位は、金属の影響を受けることなく高精細カメラに映る実世界をリアルタイムにとらえるため、最小でミリメートルレベルの非常に高い精度を実現できるというメリットがある。「映像を残しておけば、位置情報や時刻情報からその映像をたどることで、あとからより詳しく分析して改善活動に役立てることもできます」(担当者)
なお、カメラと測位対象物の距離やカメラが映している範囲によって精度が変動する場合もあるため、前提条件や用途にあわせた設計・構築を映像解析の専門家が支援する。
運用面:
ビーコンを使う場合は、電波を送受信するセンサー、ビーコン自体のバッテリー充電、ビーコンを人に持たせるための管理・運用が必要となる。
一方、映像による位置測位は、AIが人やモノの見た目の特徴や形状を学習して自動的に認識するため、現場にいる人やモノには何も携帯させなくて良い。ただし、モノの位置測位においてAIの検知率が悪い場合は、ARマーカーをカメラから見える位置に貼ることで精度を高めることができる。なお、ネットワークは無線を使うことで、現場でのLANケーブルの複雑な配線は不要となるので、カメラへの電源供給のための配線があれば良い。
映像を活用した高精度位置測位ソリューションのユースケース
富士通が取り組む、映像による高精度位置測位のユースケース例をいくつか紹介する。
工場など屋内での活用例:
まず、需要が高い「工場」でのユースケースだ。ここでは生産効率や現場の安全性を高めるために、人やモノの稼働/滞留状況や動線の可視化が求められる。
ある企業では、作業実績の可視化とその実績からの業務改善のため、工場内の作業員の動線をデータ化する際にビーコンを使用していたが、作業机単位での位置測位が難しいことや、作業員がビーコンを常時保持する手間が課題であった。そこで、富士通の映像による高精度位置測位を導入。ビーコン不要で測位精度が高く、動線の正確な可視化と、あとからでも映像による振り返りによって問題となっている動線を深掘りできるという点が導入の決め手だった。本ソリューションの導入で、作業員に負担をかけることなく、各工程における作業実績の可視化や改善活動のためのデータ収集・分析ができる環境を実現した。
最近では、人手不足解消のためロボットや無人搬送車を導入する企業も増えてきている。現場の安全を確保しながら人とロボットが協調する未来の働き方を実現するために、位置測位の高精度化は必須になってくるだろう。

港湾や建設現場など屋外での活用例:
工場や倉庫などの屋内だけでなく、屋外において、たとえばクレーンなどの重機を扱う環境での安全確保に役立てるユースケースも考えられる。
クレーンでコンテナなどを吊り上げて運搬作業を行う場合、吊荷の下や周辺に人がいないかどうかの安全確認をしなければならない。高所に設置された操縦席からは地上にいる人が見えにくく、吊り上げている荷物の下に人が立ち入ってしまった場合には人が隠れてしまい、見逃しの可能性が生じる。そこで、本ソリューションを活用して作業危険区域への人の立ち入りを検知しモニターで可視化、さらにアラートを出す仕組みを構築することでより安全な作業現場を実現することができる。
「エリア内に映った作業員をAIが検知してモニター上に作業員の位置を矩形で示したり、エリア内の人数を表示したりします。また近年、ガントリークレーン熟練技能者の高齢化が進んでおり、若手技能者の早期育成が求められていますが、若手操作者による安全確認のサポートにも役立てることができると思います」(担当者)

富士通が目指す、映像を活用した位置測位ソリューションのこれから
映像を活用した高精度な位置測位は、ネットワークやAI、コンピューティングに長けた富士通が先行している分野だ。顧客のニーズをとらえ、機能を拡張して利用シーンを拡充したり、誰もが導入しやすいソリューションとして磨きをかけたりしていくのが次のステップだ。今後の展望について担当者は次のようにコメントした。
「映像による位置測位ソリューションをより使いやすくし、さらに精度も高めていきます。任意の形状のモノもARマーカーをつけずにリアルタイムに検出できるよう機能のエンハンスに取り組んでいく予定です。国内で実績を重ねたあとはグローバル展開を見据えており、ゆくゆくはパブリッククラウドのマーケットプレイスで、映像を活用した位置測位ライセンスを導入支援サービスとあわせて提供していきたいと考えています」
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