環境を選ばずにデータベースの運用を自動化! ~Enterprise Postgres のオペレーター機能~ -富士通の技術者に聞く!PostgreSQLの技術-
PostgreSQLインサイド
前田 卓真
富士通株式会社
ソフトウェアプロダクト事業本部 データマネジメント事業部
入社以来、クラウドデータベースサービスの開発保守に従事。現在は「FUJITSU Software Enterprise Postgres」のコンテナ化と運用自動化を担うオペレーター開発を担当。
企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進によりオンプレミス環境で稼働する既存業務のクラウド移行が進んでいます。データベースもクラウド移行が進む中で、環境無依存のコンテナ型データベースが注目されています。また、一方で、セキュリティなどの問題からオンプレミスのままで稼働せざるを得ない業務も存在します。「クラウドでもオンプレミスでも、どのような環境においても同じデータベース運用ができないか?」、そのような要望を実現するのが、富士通のデータベース「FUJITSU Software Enterprise Postgres(以降、Enterprise Postgres)」が提供するオペレーター機能です。
本特集では、機能の開発担当である「前田 卓真」が、機能をわかりやすく解説するとともに、機能開発への思いや将来に向けた展望について語ります。
データベースのクラウド化が進む
変化の激しいビジネス環境において、その変化に柔軟に対応できるクラウドやコンテナ技術が注目されています。
前田
「2025年の崖(注1)」によりクラウド化が加速しており、ビジネス環境も激しく変化しています。これは、「安定性の確保」が重視されていた時代から、社会の変化に迅速に対応する「俊敏性」、ビジネスの状況変化に対応できる「柔軟性」、想定外のことが起きてもすぐ復旧できる「回復性」を重視する方向に変化しているということです。これらを実現するのがクラウド化であり、そのベースとなる技術がコンテナになります。
ただし、クラウドといってもさまざまなプラットフォームがあり、環境による差異もあります。それらの差異を吸収するためにコンテナ技術が利用されます。クラウドプラットフォームごとに異なる実装やサービスを隠ぺいすることで、どのような環境でも同じ運用が可能になります。
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注12018年に経済産業省より提言された、「複雑化・ブラックボックス化したレガシーシステムの刷新が行われない場合、2025年以降には年間で最大12兆円の経済損失を生じさせる可能性がある」という問題
システムのクラウド移行が増えているということですね。当然、このような環境下では、コンテナに対応したデータベースを利用する局面が増えてきますね。
前田
はい、システムのクラウド移行とともにデータベースもクラウドに移行するケースが増えています。データベースのクラウド移行には、例えば、マネージドサービスやコンテナといった選択肢があります。Enterprise Postgresは、マネージドにもコンテナにも対応したデータベースです。また、Enterprise PostgresはPostgreSQLをベースとして信頼性、性能、セキュリティを強化したデータべースであり、コンテナ上でもその能力を発揮することができます。
クラウド化が進んでいく一方で、依然として、セキュリティなどの要件からどうしてもオンプレミスで運用せざるを得ないシステムも存在すると思います。
前田
クラウド移行は増えていますが、一方で、オンプレミスも考慮が必要です。システム要件に応じて異なる環境を使い分ける、IT基盤のハイブリッド化がますます進んでいます。オンプレミスでは既存システムの維持や管理が必要です。さまざまな環境下でデータベースを運用することとなり、運用管理作業の効率化や管理作業の負荷低減は必須です。これを実現するのがオペレーターです。
データベース運用を自動化するオペレーター
オペレーターとはどのようなものなのでしょうか?
前田
オペレーターはコンテナ技術を活かしてデータベースの運用負荷を軽減する技術です。データベースを利用する場合、まずデータベースの運用要件を洗い出し、その要件に基づいてインストール、セットアップを行います。これらのデータベース構築作業は、通常、ある程度のスキルと時間が要求されるものですが、オペレーターでは、この作業があらかじめ型決めされており、GUI操作で簡単に構築できます。たとえば、高可用構成も5分で構築が可能です。
難しい設定をしなくても、簡単に高信頼なシステムが構築できるわけですね。運用面はどうでしょうか?
前田
データベースは、信頼性や可用性が非常に重要なわけですが、オペレーターでは、これらを担保するためのバックアップ / リストアやフェイルオーバーといった機能が自動化されていて、トラブルなどが発生した場合でも自動的に即時回復できるようになっています。もちろん、オペレーターを利用することで、オンプレミスでもクラウド上でも同じ操作で運用が可能です。
運用面でも自動化が実現されていてかなり運用が効率化できそうです。
前田
Enterprise Postgresのオペレーターは、「FUJITSU Enterprise Postgres for Kubernetes」という製品名で、すでにグローバルに向けて先行提供されており、Red Hat社のOperator認定を取得しています。今回は、そのオペレーターを富士通のデータベースであるEnterprise Postgresに実装し、クラウド上でのデータベース運用を強化したわけです。また、Enterprise Postgresで提供しているデータ暗号化や監査ログ、インメモリ機能といったミッションクリティカルな機能もコンテナで利用できます。
Enterprise Postgresのオペレーターは、Red Hat社が認定しているオペレーターなのですね?
前田
はい、そうです。先行提供した「FUJITSU Enterprise Postgres for Kubernetes」は、Red Hat MarketplaceやRed Hat Ecosystem Catalogから利用できるようになっています。また、オペレーターには、オペレーターフレームワークのコミュニティーが定義している成熟度モデルがあり、5つのレベルから構成されています。レベルが高くなるほどより高度な自律運用が可能になるわけですが、Enterprise Postgresのオペレーターは2021年9月に最高レベルの「Level 5」を取得しています。
従来より、クラウドでのデータベース構築は、ハードルが高いと思われていましたが、Enterprise Postgresのオペレーターを利用することで、オンプレミス同様の信頼性や性能を担保したシステムが簡単に実現できそうです。では、ここからはオペレーターの機能を解説していただきます。
オペレーターの機能を解説
オペレーターはデータベース運用を自動化するとのお話しがありました。実際には、どのような機能があるのでしょうか?
前田
オペレーターは前述したように、運用の自動化を示す成熟度モデルがあり、そのモデルに対応した機能を提供しています。Enterprise Postgresのオペレーターは、導入からバックアップ、リストア、フェイルオーバー、監視、オートスケールまでデータベース運用を自動化する機能を提供しています。
データベースの運用に不可欠な機能が提供されているということですね。オペレーターは富士通だけでなく、さまざまなベンダーから提供されていますが、Enterprise Postgresのオペレーターの特長とはどこでしょうか?
前田
データベースの運用管理や監視において、これまで富士通がSIを通して提供してきた知見を組み込んだうえでテンプレート化や自動化を実現しています。また、コンテナ環境やクラウド利用において最適なオープンソースソフトウェア(OSS)を組み合わせて提供しています。その中で、Level 5のオートスケールは、2021年9月に、富士通が他社に先駆けて提供した機能になります。
富士通が先行して提供した機能なんですね。オートスケールとは、どのような機能なのでしょうか?
前田
システムに対する負荷が増大した場合に、自動的にレプリカを増やす機能(スケールアウト)です。しきい値として、CPU使用率またはコネクション数が設定できます。急激なトランザクション数の増加などにより、CPU使用率またはコネクション数があらかじめ設定したしきい値を超えた場合にレプリカを自動的に拡張します。もちろん、トランザクションの減少により不要になったレプリカについては、簡単にスケールインすることもできます。イベントや季節変動など予測可能な業務変動だけでなく、トレンドの変化など予測不可能なビジネス変動があります。たとえば、通販サイトなど、予期しないアクセス数の急増に対しても、常にパフォーマンスを維持していくことが必要です。変動に応じて柔軟にデータ処理能力をスケールさせることが重要なのです。
システムの稼働状況に応じて、自動的に運用環境が最適化できるわけですね。その他、オペレーターを開発するにあたり、特にこだわったところなどありますか?
前田
クラウドやコンテナの活用でも安心・安全にお客様にご使用いただけるよう、データセキュリティには特にこだわって開発しました。データの暗号化や双方向の通信暗号化といった機能を盛り込むことで、ストレージに保存されたデータも通信経路上のデータも安心・安全なセキュリティを実現しています。
運用の自動化という点だけではなく、セキュリティも重視したということですね。それは導入・運用者にとってメリットが大きいと思います。オペレーターは、どのような場面での利用を想定されているのでしょう?
前田
これまでデータベースの導入や運用は、高可用構成の設計や予期しない変動への対応など、コストを要する作業でした。
しかし、クラウド移行とコンテナ活用によるオペレーターの自動化運用が、データベースの導入・運用コストを削減し、お客様のアプリケーション開発への注力を可能にします。また、コンテナの持つ可搬性により、コンテナプラットフォーム上であればどのクラウドプラットフォームでも同じ運用を実現できることでベンダーロックインを避けることができます。
こうした背景から、クラウド移行に伴い、データベースをコンテナ環境へ集約し運用コスト削減を狙うシステムや、基幹システムをベースとして、様々な拠点にサービスを展開し、データ連携させるようなシステムに最適だと考えています。
クラウド移行を検討しているお客様には、大変に有用な機能ですね。最後に、今後の取り組みなどあれば教えてください。
前田
今後、DXの加速に向けてアプリケーション開発の迅速化や品質向上が不可欠になります。そうした中で注目されているのがDevOpsとコンテナ技術です。オペレーターとコンテナデータベースにより、アプリケーションのみでなくデータベースも含めたコンテナシステム全体をパッケージングし、ステージング環境から本番環境への移行が容易になります。こうした仕組みを支えるCI/CDパイプライン(注2)の各種ツールとの連携性を高めていく機能を提供していきたいと考えています。
また、自律運用機能をさらに拡充し、障害検知と修復の自動化やオートチューニングといった機能により、さらにお客様のデータベース運用を支える機能を提供していきたいと思います。
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注2ソフトウェア開発を高速化するためのビルド、インテグレートやテストから、本番環境の構築や動作確認などリリースまでの一連のステップを自動化すること
DXの拡がりによりクラウドやコンテナの活用が加速する中で、環境や人を選ばずに安全にデータベースを運用できるEnterprise Postgresのオペレーターはますます注目されそうです。ありがとうございました。
2022年4月8日公開
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